見出し画像

大ヒットシリーズ「闇塗怪談」の営業のKによる新たな恐怖伝説が始動!『怪談禁事録』著者コメント&丸ごと1話試し読み

金沢に実在する塗料会社のブログに綴られた実話怪談が話題を呼んで書籍化、大人気シリーズとなった『闇塗怪談』の著者がさらなる禁忌に挑む新作実話怪談。

あらすじ・内容

群がる首無しっ子が私の首をもぎ取ろうと
ぐりぐり捻り回す……。
「供養塚」より

行ってはならぬ村
聞いてはならぬ声
禁忌に縛られた恐怖実話27!

●山陰の村で川に近づいてはならぬとされる日。破ると船がお迎えに来るというのだが…「船が来る」
●等身大の幼児人形を抱いてカラオケ店に来た老婆。漏れ聞こえる歌声をよく聞くと…「まーくん」
●北アルプスの断崖絶壁に立つ不気味な母娘。登山中に彼らから囁かれた言葉の意味とは…「二歩目より三歩めがいいです」
●雪の峠で身動きできなくなった車。夜半、握り飯を差し出してくる男らに車を囲まれ…「車中で夜を明かした」
●近所の空き家に忍び込もうとした少年らが見た存在しないはずの家族。恐怖は20年後に…「いつから呪われてた?」
●出張から帰宅して感じた家族の異変。夕飯に出された一枚の冷えた食パンは…「付きっきり」
●一人っ子なのになぜか姉がいた記憶のある女性。神社でお祓いを受けてから見えなくなった姉の正体は…「姉」
●屋敷の床下から見つかった古い塚。工事を続行しようとすると、作業員の子供達が次々と死んで…「供養塚」

他、禁断の27話収録!

著者コメント

怪談禁事録というタイトルで新たにスタートする事になった。
ただ、せっかく新しいタイトルになるのならばそれまでと中身が変わらないのでは意味が無いと担当編集者さんと話し合い、覚悟を決めた。
だからこの本にはそれまで自ら禁じていた話、つまり少しばかり、いやかなり危険な話もあえて収録されている。
だからこの本を読まれる方にはそれなりの覚悟を以ってそれを感じながらお読みいただきたい。
そして、新しい営業のKの世界を感じて頂けたならまさに作家冥利に尽きるというものだ。
是非、怪談禁事録もシリーズとして継続させ、巻を増す毎にリアルでどす黒い恐怖を読み手の脳に植え付けていけるようにと願っている。

営業のK

試し読み

「出会いがしら」

 戸田さんがその日、仕事から帰宅したのは午前〇時を回っていた。
 決算も近いということで会議が長引き、それが終わってから事務処理。タイムカードを押せたのは日付が変わるまであと三〇分もない頃だった。そこから車で二〇分ほどの道のりを走れば、容易にそんな時刻になってしまう。
 家は真っ暗だった。リビングに入った際、一瞬線香のような香りが鼻先を掠めたが、もともとその手のことには無頓着な彼は、さして気にも留めず忘れてしまった。
 家族はもう眠ってしまっているようで、彼はできるだけ音を立てないようシャワーを浴びると、風呂上がりの缶ビールを一本だけ楽しみ、二階の寝室へと階段を上っていった。
 いつもなら平気で午前一時か二時頃まで起きている子供たちも既に寝ており、こんなに静かな家は久しぶりだった。
 階段の七段目にあたる踊り場を曲がり、そこからさらに八段続く階段を上ろうと視線をあげた時、彼の視界にあり得ないモノが映った。
 小柄な人影。
 背の低い老婆が階段を上り切った場所に立っていた。
 彼は、驚きと恐怖で悲鳴をあげてしまいそうになったが、実際には声すら出せなかった。
 体がまったく動かない。
 本来ならそんな場所にいるはずのない老婆から少しでいいから目をそらすか、つぶるかしたかったが、それすら叶わない。
 ただ凍りついたように、その老婆の顔を凝視しつづけるほかなかった。
 老婆は白い着物を着て、目を閉じていた。
 真っ白な髪は後ろで束ねられており、乱れた感じはしなかった。
 だが、白い着物はどう見ても死に装束にしか見えなかった。
 どうしてそんな恰好をした老婆が、我が家の階段の上に立っているのか?
 どれだけ考えても答えが出ない。
 頭の中は混乱し、何をどうすればいいのかすら考えられなかった。
 上ってきた階段をゆっくりと後ずさりするように下りていければ良かったのかもしれないが、なにせ体の自由がきかない。
 やがて、彼が最も恐れていたことが起きてしまった。
 階段の上の老婆がゆっくりと目を開いたのだ。
(えっ?)
 目の中には何もなかった。
 いや、違う。開かれた瞼の中にはうずらの卵のような白目しか存在しておらず、黒目の部分が見えなかった。
 さらに恐怖で固まる彼の眼前で、老婆はニタリと笑った。
 広がった口角がより一層顔のしわを際立たせていく。

「であいがしら……だねぇ。しかたないよねぇ……」
 
 老婆は確かにそう言ったという。
 何が「であいがしら」なのか、彼にはわからなかった。
 その後に続いた「しかたない」という言葉の意味も……。
 ただ、老婆の声を聞いたと同時にほんの少し体の呪縛が解かれた。
 彼は訳もわからないまま必死に手を合わせ、早く消えてくれと祈った。
 お経も念仏も正式なものは何ひとつ知らなかったが、唯一頭に浮かんだ言葉を一心不乱に唱え続けた。
 南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……と。
 それが通じたのか、しばらくして目を開けると先ほどの老婆は既に姿を消していた。
 結局、寝室に行くことは諦め、一睡もできぬままリビングのソファーで震えていた。
 朝になり、起きてきた家族に彼は昨夜の恐怖体験を必死で訴えた。
 しかし、彼以外に老婆を見た者はおらず、なかなか信じてもらうことはできなかった。
「でも確かに見た。絶対に夢なんかじゃないんだ……」
 彼はもどかしそうに、後にこの話を俺に教えてくれた友人に吐露していたそうだ。

 彼が亡くなったのはそれから間もなくのこと。
 出会い頭で大型車と正面衝突し車は炎上。
 身元を確認するのにもかなりの時間を要したという。
 老婆は何者だったのか?
 何のために彼の前に現れたのか?
 事故に遭う前触れ、或いは予言としてその老婆が現れたのか?
 それとも、老婆と出会ったから事故に遭ったのか?
「仕方ない」のひと言で済ませることなど到底できない彼の死であるが、その意味を改めて思う。すなわち、彼の死は元より決まっていたから「仕方ない」のか、或いは、見てはいけない存在を見てしまったから「仕方ない」結末になったのか。

 それは誰にもわからない。
 

ー了ー

◎著者紹介

営業のK

石川県金沢市出身。
高校までを金沢市で過ごし、大学4年間は関西にて過ごす。
職業は会社員(営業職)。
趣味は、バンド活動とバイクでの一人旅。
幼少期から数多の怪奇現象に遭遇し、そこから現在に至るまでに体験した恐怖事件、及び、周囲で発生した怪奇現象をメモにとり、それを文に綴ることをライフワークとしている。
勤務先のブログに実話怪談を執筆したことがYahoo!ニュースで話題となり、2017年『闇塗怪談』(竹書房)でデビュー。主な著書に「闇塗怪談」シリーズ、共著に『呪物怪談』『呪術怪談』『黄泉つなぎ百物語』『実録怪談 最恐事故物件』など。
好きな言葉は、「他力本願」「果報は寝て待て」。

好評既刊

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!