2021年9月1日
1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日】9月1日:防災の日
さて、本日の1話は――
「交通誘導員」
「夜起きると、部屋に交通誘導員がいたんです」
齋藤さんは当時のことを振り返って言った。
すぐにこの世のものではないと分かったが、何故突然現れるようになったかについては、まるで心当たりがなかった。
交通誘導員は齋藤さんのことを完全に無視して、部屋の隅で赤い誘導灯を横に構えてじっとしていた。
最初は怖かった。いつ動きだして何をされるか分からなかったからだ。
しかし、毎晩のように現れても、ただじっとしているだけなので、次第に慣れてきた。
一週間ほど経つと、交通誘導員は手に持った誘導灯を振り始めた。齋藤さんを無視して、ただずっと遠くの一点を見つめて誘導灯を振り続けるばかりだった。
これにもすぐ慣れた。
さらに一週間が過ぎた。
夜、齋藤さんが目覚めると、交通誘導員は相変わらず誘導灯を振っていた。
普段と違うのは部屋が揺れ始めたことだった。振動で棚の小物がカタカタ揺れた。
――地震か?
起き上がろうかと迷っていると、部屋の壁から巨大な重機が現れ、部屋を横切っていった。
重機が通り過ぎると、交通誘導員は深々とお辞儀をした。
翌日からもう交通誘導員は出なくなったという。
★
――「交通誘導員」神沼三平太『恐怖箱 百舌』より