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2021年9月3日

1日1話、実話怪談お届け中!
【今日は何の日】9月3日:ベッドの日

さて、本日の1話は――

「訴え」

〈わっ!〉
 伊豆野は驚いて跳ね起きた。
「……わ? わわわ? な、なんだなんだ?」
 時計を見ると、ベッドに入ってからまだ一時間も経っていない。
 が、確かに、何やら大声が聞こえた。
「落ち着け自分、落ち着け」
 辺りを見回してみるが誰もいない。
 当然だ。伊豆野はひとり暮らしだし、昨夜は彼女は泊まらなかった。
 この部屋には自分だけしかいない。
 だから、気のせいだということにして再び布団を被った。

〈たっ!〉
 伊豆野は驚いて跳ね起きた。
 まだ十分と経っていない。
 しかし、室内には誰もいない。
「なんなんだ、一体……」
 再び布団を被る。
〈しっ!〉
 跳ね起きる。
 窓を開け、外を見るが人の気配はない。当たり前だ。夜中だぞ。
 布団を被る。
〈つっ!〉
 寝るに寝られなくなってきた。
 しっかり目を覚ましていると聞こえない。
 が、ウトウトするたびに、室内から大声で叫ぶ声が聞こえる。
〈らっ!〉
 起きている間は聞こえなくても、気を抜くと〈いっ!〉と叫ばれ、再び目が覚める。
 何度も何度も、ひと言だけの元気のいい叫び声が繰り返された。
〈のっ!〉
 声はよどみなく、そしてハッキリと聞き取ることができた。
 そして、夜が明けた。
 結局、ほとんど眠れなかった。

「全部つなげるとさあ〈わたしつらいの〉、わかる?〈私、辛いの〉。こう言ってるわけよ。でもなあ……説得力はねえわな。あんだけ元気よく言われても」

――「訴え」加藤一『禍禍―プチ怪談の詰め合わせ』より

☜2021年9月2日 ◆ 2021年9月4日☞

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