拝み屋が綴る人気シリーズ第9弾!台湾の最凶呪術が女性霊能者を襲う!『拝み屋備忘録 赫怒の刻印』(郷内心瞳/著)著者コメント+収録話「テルコちゃん」全文公開
拝み屋が綴る人気シリーズ第9弾!
呪術が女性霊能者を襲う!
あらすじ・内容
鮮血に塗れた異形の男が、白い眼球をぎょろりと剝き…
(収録話「赫怒の刻印 破」より)
加持祈祷、悪霊払いなどを請け負う「拝み屋」郷内心瞳。怪異に触れることで感覚に異変をきたす、そういった体に焼き付く不穏な「印」に纏わる話の数々を収録した人気シリーズ第9弾。
・引っ越した先の家に住み着いていたのは…「夫婦のいる家」
・悪魔召喚の儀式を遊びでやってしまった男「巣にされる」他。
そして今作には様々な既刊シリーズにも登場している霊能者・小橋美琴が登場。彼女の身に起きた凄まじい怪異とその顛末を描く「赫怒の刻印」をはじめとする圧巻の連作も。
一度焼き付いた「印」はもう元には戻らない。怪奇と恐怖に満ちた非日常はいまや貴方の世界そのものに……。
著者コメント
試し読み1話
テルコちゃん
会社員の篠美さんは小学三年生の頃、喋るテルテル坊主と友達だった。
梅雨時になんとなく作った小さなテルテル坊主が、思いのほか可愛らしい仕上がりで、梅雨が明けてからも大事に部屋に飾っていた。
するとそのうちテルテル坊主は、篠美さんに語りかけるようになってきた。
当時、篠美さんは学校で仲間外れにされていたので、一緒に楽しい時が過ごせるなら、相手は別に生身の子でなくても構わなかった。
テルテル坊主は女の子の声で喋ったので、テルコちゃんと名付けた。
マジックで描いた口はぴくりとも動かず、声は耳にではなく、頭の中に聞こえてくる。
好きな漫画やアニメのこと、気になる玩具や服のこと。他愛もないことを主に話した。
時には学校であった嫌なことや辛いことも打ち明けた。
そのたびにテルコちゃんは、優しい言葉を選んで慰めてくれた。両親は仕事が忙しく、じっくり話を聞いてくれなかったし、時には邪険にされることもあった。
だから篠美ちゃんは、ますますテルコちゃんとの会話にのめりこんでいった。
テルコちゃんと話せることは家族を含め、誰にも知られないように気をつけていた。
けれどもある日の夕暮れ時、部屋で話をしているところを母親に見られてしまう。
「小っちゃい子供じゃないんだから」
母は呆れた顔で笑い、「空想遊びなんかしていると、頭が変になる」などとも言った。
「つまらないことはやめなさい」と念も押される。
母が去ったあと、篠美さんは泣きながらテルコちゃんに「悔しい」と言った。
するとテルコちゃんは、短い沈黙を挟んで「じゃあ、殺そう」と応えた。
いつもの優しい女の子の声ではなく、大人の女の声だった。
ぞっとするほど、冷たく鋭い声だった。
すかさずテルコちゃんを引っ掴み、窓から外へ放り投げる。
翌日は大雨が降ったので、庭へ投げられたテルコちゃんは泥水でぐずぐずになった。
以来、篠美さんがテルテル坊主を作ることは二度となかったそうである。
―了―
著者紹介
郷内心瞳 (ごうない・しんどう)
宮城県出身・在住。郷里の先達に師事し、2002年に拝み屋を開業。憑き物落としや魔祓いを主軸に、各種加持祈祷、悩み相談などを手掛けている。2014年『拝み屋郷内 怪談始末』で単著デビュー。「拝み屋備忘録」シリーズ『怪談双子宿』『怪談首なし御殿』『ゆきこの化け物』『怪談腹切り仏』『怪談火だるま乙女』『鬼念の黒巫女』『怪談死人帰り』『人喰い墓場』(小社刊)のほか「拝み屋怪談」「拝み屋異聞」各シリーズなどを執筆。共著に『黄泉つなぎ百物語』『怪談四十九夜 地獄蝶』『予言怪談』『たらちね怪談』など。