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拝み屋が綴る人気シリーズ第9弾!台湾の最凶呪術が女性霊能者を襲う!『拝み屋備忘録 赫怒の刻印』(郷内心瞳/著)著者コメント+収録話「テルコちゃん」全文公開

拝み屋が綴る人気シリーズ第9弾!
呪術が女性霊能者を襲う!

あらすじ・内容

鮮血に塗れた異形の男が、白い眼球をぎょろりと剝き…
(収録話「赫怒の刻印 破」より)

加持祈祷、悪霊払いなどを請け負う「拝み屋」郷内心瞳。怪異に触れることで感覚に異変をきたす、そういった体に焼き付く不穏な「印」に纏わる話の数々を収録した人気シリーズ第9弾。
・引っ越した先の家に住み着いていたのは…「夫婦のいる家」
・悪魔召喚の儀式を遊びでやってしまった男「巣にされる」他。
そして今作には様々な既刊シリーズにも登場している霊能者・小橋美琴が登場。彼女の身に起きた凄まじい怪異とその顛末を描く「赫怒の刻印」をはじめとする圧巻の連作も。
一度焼き付いた「印」はもう元には戻らない。怪奇と恐怖に満ちた非日常はいまや貴方の世界そのものに……。

著者コメント

 もうだいぶ昔の話になるが、拝み屋を営む私のもとに、心霊スポット探索が趣味という人が訪ねてきた。ごく平凡な会社員で、当時は三十代前半ぐらいだった。
 母親に付き添われてきた彼は、牛乳瓶の底みたいに分厚いレンズの眼鏡を掛けていた。
 心霊スポットを回りすぎた結果、祟りで視力が急激に落ちこんでしまったのだという。
 廃旅館を探索中に不穏な声が聞こえて以来だと、肩を落として彼は言った。
 学生時代、こっくりさんに熱をあげすぎ、霊感が強くなってしまったという人もいる。
 彼はしばしば得体の知れない人影を目撃し、月に数度の割合で金縛りに悩まされている。
 中学生になる一人娘も、彼と同じかそれ以上に霊感が強いのだという。
 パワースポット巡りが好きだった、ある女性は、知り合いの占い師に教えてもらった秘密のパワースポット(山中の廃神社)へ足を運んだ際に現地で半日近くも意識を失い、以後は夢の中にたびたび、白いひげたくわえた老人が現れるようになった。
 老人はいつも気味の悪い薄笑いを浮かべ、彼女の首筋を歯のない口で噛み続けている。
 特別変わった行為に及ばずとも、いつもの通いを歩いていただけで、感覚に異変を来たしてしまった人もいた。
 数日前に起きた交通事故。現場に置かれた献花の前に、死んだ少女が立っているのを目にした彼女はそれ以来、同じ現場で同じ少女の姿を認め続けている。
 こうした異様な感覚の変化を表す言葉は、魅入られる、癖がつく、目覚める、などと様々にあるが、前段までに挙げたいずれの事例においても共通するのは、一度来たした変化というのは、なかなか元に戻らないという点である。
 もとい。「基本的には戻らない」という表現のほうが適切かもしれない。戻る場合もあるにはあるが、そうした基準や手段は曖昧で、残念ながら保証の限りではない。
 一度身体に焼きついた「しるし」というのは、そう易々やすやすと消えてくれるものではないのだ。
 事故や好奇心で突発的に生じる「印」であってもこれほど始末に負えない代物である。
 獲得形質によって完成された「印」や、意図せずこの世に生まれ持った「印」であれば、実質的に消し去ることは不可能と言える。
 これらに該当するのは、いわゆる霊感質の人間が多数を占め、私のような霊能関係の仕事を営む者もその多数のうちに含まれる。
「拝み屋備忘録」シリーズ第九作に当たる、本書『赫怒の刻印』は、前述までの述懐と題名が示すとおり、斯様かように不穏な「印」にまつわる奇怪な話を主軸に編んでみた。
 平素は著者である私自身も前書きに引き続き、本編の要所に「怪異の体験者」としてしゃしゃり出るのが慣例なのだが、本書においてはこの前口上をもってお役御免とする。
 敬愛すべき読者諸氏に再びお目に掛かれるのは、おそらく次作の前書きになるだろう。
 代わりに今回は、とある業界経験者に私が本来担うべき役割を委ねてみることにした。
 本書「拝み屋備忘録」シリーズを始め、これまで世に出た過去の「拝み屋」シリーズをご愛読いただいている方々には、きっと喜んでいただける人選だと思う。
 初めて名前を知るという方も心配ご無用。
 彼女の人柄を知り、内に秘めたるものを知り、彼女が体験することになった凄まじい怪異の水端みずばなに触れれば、おそらくその顛末までを知らずにはいられなくなることだろう。
 これも不穏な「印」にまつわる怪異である。それもとびきりおぞましくて恐ろしい。
 さて……前書きの大半を読み終えた親愛なる皆さま方の頭の中にも、視えざる世界を覗き見るために必要な「印」が浮き出てきたことと思う。これで準備は万端である。
 怪奇と恐怖に満ちた非日常の世界を、最後までたっぷりとご堪能していただきたい。

郷内心瞳
本書収録「印が消えることはない」より全文抜粋

試し読み1話

テルコちゃん

 会社員の篠美しのみさんは小学三年生の頃、しゃべるテルテル坊主と友達だった。
 梅雨時になんとなく作った小さなテルテル坊主が、思いのほか可愛らしい仕上がりで、梅雨が明けてからも大事に部屋に飾っていた。
 するとそのうちテルテル坊主は、篠美さんに語りかけるようになってきた。
 当時、篠美さんは学校で仲間外れにされていたので、一緒に楽しい時が過ごせるなら、相手は別に生身の子でなくても構わなかった。
 テルテル坊主は女の子の声で喋ったので、テルコちゃんと名付けた。
 マジックで描いた口はぴくりとも動かず、声は耳にではなく、頭の中に聞こえてくる。
 好きな漫画やアニメのこと、気になる玩具や服のこと。他愛もないことを主に話した。
 時には学校であった嫌なことや辛いことも打ち明けた。
 そのたびにテルコちゃんは、優しい言葉を選んで慰めてくれた。両親は仕事が忙しく、じっくり話を聞いてくれなかったし、時には邪険にされることもあった。
 だから篠美ちゃんは、ますますテルコちゃんとの会話にのめりこんでいった。
 テルコちゃんと話せることは家族を含め、誰にも知られないように気をつけていた。
 けれどもある日の夕暮れ時、部屋で話をしているところを母親に見られてしまう。
「小っちゃい子供じゃないんだから」
 母は呆れた顔で笑い、「空想遊びなんかしていると、頭が変になる」などとも言った。
「つまらないことはやめなさい」と念も押される。
 母が去ったあと、篠美さんは泣きながらテルコちゃんに「悔しい」と言った。
 するとテルコちゃんは、短い沈黙を挟んで「じゃあ、殺そう」と応えた。
 いつもの優しい女の子の声ではなく、大人の女の声だった。
 ぞっとするほど、冷たく鋭い声だった。
 すかさずテルコちゃんを引っ掴み、窓から外へ放り投げる。
 翌日は大雨が降ったので、庭へ投げられたテルコちゃんは泥水でぐずぐずになった。
 以来、篠美さんがテルテル坊主を作ることは二度となかったそうである。

―了―

著者紹介

郷内心瞳 (ごうない・しんどう)

宮城県出身・在住。郷里の先達に師事し、2002年に拝み屋を開業。憑き物落としや魔祓いを主軸に、各種加持祈祷、悩み相談などを手掛けている。2014年『拝み屋郷内 怪談始末』で単著デビュー。「拝み屋備忘録」シリーズ『怪談双子宿』『怪談首なし御殿』『ゆきこの化け物』『怪談腹切り仏』『怪談火だるま乙女』『鬼念の黒巫女』『怪談死人帰り』『人喰い墓場』(小社刊)のほか「拝み屋怪談」「拝み屋異聞」各シリーズなどを執筆。共著に『黄泉つなぎ百物語』『怪談四十九夜 地獄蝶』『予言怪談』『たらちね怪談』など。

シリーズ好評既刊