地元の山伏、郷土史研究家らが紡ぐ越後・佐渡のご当地怪談!『新潟怪談』試し読み(収録話「呪詛」全文掲載)
上越、中越、下越、佐渡!
新潟県の怪談、怪スポット、怪異伝承を徹底調査!
あらすじ・内容
【新潟市中央区】
新潟駅近隣のビルの女子トイレに置かれた呪いの化粧ポーチ
【新潟市西蒲区】
スマホに保存された謎の写真と間瀬銅山跡の山道に出る女の霊
【新潟市東区】
じゅんさい池公園の池に浮かぶ女の顔を見てしまったあとに起こる怪
【新潟市秋葉区】
肝試しの廃墟ホテルから憑いてきた自殺霊
【上越市】
雪のほくほく街道を歩く老母。車に乗せると墓地に連れて行かれ…
【長岡市】
中学校の廊下の大鏡の前を男女で歩いてはならない。その理由は…
川の水面から上半身を出して立ち尽くす空襲の犠牲者たちの霊
【燕市】
寺の賽銭箱の裏で見つけた藁人形の入った木箱。なぜか無性に欲しくなり…
【胎内市】
死者の言葉をつたえる巫女どん、はっけおきの風習
【柏崎市】
海水浴場の駐車場に現れる溺死した男性の車と死んだ時刻になるクラクション
【南魚沼市】
上の原公園のお松の池で何者かに憑依された女性に纏わる怪異…
坂戸城跡の銭淵公園で撮られた不気味な結婚写真
【五泉市】
阿賀野川から聞こえる声と川に引きずり込もうとする白い手首
【佐渡島】
狸に化かされ、視界が上下さかさまになってしまった男の話
【東蒲原群阿賀町】
通称黒い森と呼ばれる廃鉱山に棲みつく子ども霊
【十日町】
真夜中の駐車場で遊ぶ白く輝く座敷童子
他、40話収録!
試し読み
「呪詛」(燕市) 湯本泰隆
読者の皆様は「丑の刻参り」と聞いて、どんな印象を持つだろうか。昔の習俗? はたまた、迷信? 丑の刻参り発祥の地とされる、京都にある某神社では、二〇〇〇年代になっても未だに丑の刻参りに遭遇する人がいるという。
一九七四年五月四日付の朝日新聞新潟版。新潟県の某神社近くにある大欅に藁人形が五寸釘で打ちつけられていたという記事が掲載されている。今からほんの五十年ほど前のことである。「呪い」は決して、〈過去の迷信〉なんかではない。
これは、筆者が友人のMさんから聞いた話だ。今から十九年前のことというから、二〇〇五年のことである。当時、心霊スポット巡りが趣味だったMさんは、仲間とちょくちょく新潟県内の心霊スポットを巡っていた。そのときはちょうど、訪れる心霊スポットもなくなって退屈していたという。ふと、燕市にある自宅のすぐ近くに、小さな寺があることを思い出した。特に変わった噂があるわけではない。近くを何度通っても、目に留まることもないような、到って普通の寺であった。Mさんは仲間たちに訊いてみた。
「そういえば、すぐ近くにお寺があるから、行ってみる?」
「いいね、行ってみよう!」
仲間たちの賛同を得て、Mさんは皆をその寺へ連れて行った。寺の裏は墓地になっていて、そこから二グループに分かれて散策する。Mさんのグループは墓地を過ぎ、寺の前方にやってきた。そこでMさんは、何故か寺の賽銭箱の裏が気になり、ライトで照らして何気なく覗いてみたという。そこには黒いティッシュボックスくらいの箱が置いてあった。
「おい、なんかあるぞ。来てみろよ」
Mさんは、仲間を集めた。仲間の一人が、
「なんだこれ? 何が入ってんだろ? 開けてみようぜ!」
とけしかける。
箱は黒いビニールテープで乱雑にぐるぐる巻きにされていた。その場は暗かったので、寺の近くのコンビニの駐車場に持って行き、明るい場所で開けてみることにしたという。
なんとかビニールテープを剥いでみると、現れたのは古い木箱だった。恐る恐るゆっくりとフタを開け、中身を見た瞬間、Mさんたちは凍りついた。
中身はなんと藁人形であった。髪の毛が藁人形の身体中に絡みつき、こめかみとみぞおちの辺りには、錆びた釘を打ちつけた痕のような、周りに錆がついた穴が開いていた。お腹の辺りには紙が貼られていて、判読不明な文字が縦に三行ほど書いてあった。
「おい! コレなんだよ!? ぜってーやべーよ! 戻そうぜ!」
仲間の一人が叫ぶ。
コンビニで黒いビニールテープを買い、箱に巻き直して急いで寺に引き返し、賽銭箱の裏に戻してすぐに帰った。
ところが、翌朝になると、Mさんはやたらとあの寺のことが気になり、木箱と藁人形をどうしても持ち帰りたくなってきた。昂る感情を抑えられず、一人でまた行くことにした。
だが、寺へ行ってみると、境内に奇妙な風体の男がいた。髪が長くぼさぼさで、冬でもないのに黒いコートを着て、黒い帽子を目深に被っている。そんな男がこちらに歩いてきて、擦れ違い際に、黒い箱を手にしているように見えたので、Mさんは慌てて振り返った。
しかし、男の姿はどこにもなかった。近くに隠れられる場所はなく、消えたとしか思えない状況であった。賽銭箱の裏へ行ってみると、もう例の木箱はなくなっていたという。
その後、Mさんたちに何か障りがあったということはないのだが、
「あの男が何者だったのか、未だにわからないんだ。でも、それで助かったのかもしれない。あのとき、普段は全く意識していなかった寺が突然、頭に浮かんだんだ。それに木箱がまだあったら、俺は家に持ち帰っていたと思う。藁人形に呼ばれていたのだろうな……」
Mさんは、当時を振り返り、そう語っている。
―了―
著者紹介
石動充徳(いするぎ・じゅうとく)
新潟県南魚沼市在住。山伏の家系に生まれ、実家が修験道の寺院を営んでいる。19歳で本山修験宗総本山、京都の聖護院門跡にて2年間修行。修行後は実家の石動山三寳院にて副住職となる。
樋口雅夫(ひぐち・まさお)
1982年7月15日生まれ。GOSEN動画工房代表。2021年にはTeNY(テレビ新潟)にて株式会社バッドテイストと業務提携し、ホラードラマ『シン・夜怪談』を制作。
湯本泰隆(ゆもと・やすたか)
新潟県長岡市出身。郷土史研究家。ながおか史遊会塾頭。実家は代々続く占い師の家系。人々の記憶から消えた過去の歴史を調べ、先人たちの思いを現代人へと伝えることを生業としている。
堀川八雲(ほりかわ・やくも)
新潟県新潟市出身。幼少期より怪奇な体験をよくしているが、怖さを感じないため不思議なこととしか思っていない。
堀内圭(ほりうち・けい)
群馬県前橋市出身。人生初の就職先は三条市の店舗内装業の会社で、県内各地を飛び回っていたほど新潟県とは縁が深い。
共著に『群馬怪談 怨ノ城』。
撞木(しゅもく)
群馬県出身在住。母方の親族が佐渡出身であり、何度か島を訪れている。共著に『群馬怪談 怨ノ城』『実話怪談 怪奇島』。
戸神重明(とがみ・しげあき)
群馬県高崎市出身在住。怪談作家。イベント「高崎怪談会」を主催。著書に『幽山鬼談』『いきもの怪談 呪鳴』『上毛鬼談 群魔』「怪談標本箱」シリーズなど多数。