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★我楽多だらけの製哲書(69)★~バンコクでの「伝言ゲーム」とゴルギアス~

バンコクに住み始めてそろそろ3カ月になる。私が住んでいる地域は中心部からけっこう離れているため、近くにスターバックスはあまりない。だから普段利用するのはローカルのカフェである。

ただ、先週はバンコク中心部に用事があって、頻繁に出かけていたので、スタバを利用する機会があった。海外でスタバを利用するとき、私にとって大きなハードルになるのは、注文した品が出来上がったとき、呼ばれる名前をどうするかである。

日本では難なく伝わる「SAITO(サイトウ)」や「TAKESHI(タケシ)」であるが、私の発問にも原因があるのだろう、どちらも上手く伝わらないのである。そのため、海外で名前を聞かれたときはだいたい「KEN(ケン)」と答えるようにしている。

しかしそんなシンプルな発音の「KEN(ケン)」であっても、私の発音にやはり問題があるのかもしれないのだが、上手く伝わらず、カップに書かれる文字は「KEN(ケン)」ではないことが結構ある。

画像のように、「KAN(カン)」「CHAN(チェン、チャン)」はまだ微妙なズレという気もする。しかし、シンガポールで「CAT(キャット)」と書かれたことがある。また同じくシンガポールで、頑張って「TAKESHI(タケシ)」と発音してみたとき、明らかに発音した音の長さと合っていないと思うのだが、「TAKO(タコ)」と書かれていたときは少し悲しくなってしまった。

このように音というものは、自分の中で確かにこう聞こえたと思ったとしても、それはあくまで自分の感覚器官が外部刺激を受け取ったあと、自分の内部で認識した結果に過ぎないし、さらにその認識を再び文字として外化するとき、受け取った音とピッタリ当てはまる文字を自分としては選択したつもりでも、それが本当に聞こえてきていた音と一致していたのかは誰も証明できない。

そのような実際の音と、それを受け取って再び外化したときの音のズレが起こりうる事実は、各国で動物の鳴き声がどのように表現されているのかを見てみると明らかである。

ニワトリは日本だと「コケコッコー」が一般的である。これに対して、アメリカでは「Cock-a-doodle-doo(クックドゥードゥルドゥー)」と表記されることが多い。また犬は日本だと「ワンワン」であるのに対して、アメリカでは「bow wow(バウワウ)」と表記されることが多い。

現在、我が家で居候中のカエルの場合は、カエルの種類によって鳴き方は変わってくるのだが、日本で一般的に表記されるときは「ケロケロ」だろう。これに対して、タイでは「OP-OP(オプ・オプ)」なのである。我が家のカエルはヒキガエルなので、そもそも「ケロケロ」のカエルではないと思うが、参考までに動画で鳴き声を紹介しておきたい。

このような人間の認識について、そもそも自分の外側で実際に起こっている現象を正しく受け取ることができるものかどうか疑問を持った古代ギリシアの哲学者がゴルギアスである。彼の思想は「不可知論」と呼ばれ、三段構えで人間の認識の不確かさを主張している。

「第一に何も有らぬということであり、第二は、たとえ有るとしても人間には把握されないということであり、第三はたとえ把握されたとしても隣人には決して伝えることも理解させることもできないということである。」

ここから、私が自分で「KEN(ケン)」という音をどこかで聞き、それと同じ響きを利用して、自分の名前をスタバの店員に伝えているつもりであっても、そもそも「KEN(ケン)」という音ではないかもしれないし、仮に「KEN(ケン)」に相当する音が響いているとしてもそれを私が正しく認識・把握できていないかもしれない。さらには、仮に認識・把握できていたとして、その響きを自分の声帯や舌などを使って正しく再現することができているかというと、それは疑わしいのである。

そのような「不可知論×スタバの注文」という戦いは、今の所、バンコクでは1勝1敗である。しかし、バンコクでの負けは、ゴルギアス的な高尚な負けではなかった。

バンコク中心部のスタバの店員の中には日本語を上手に使うことができる店員もいる。その日は、私が日本人だと分かったようで、「名前は?」と日本語で聞かれたため、私は完全に日本語モードになって「『KEN』でお願いします」と答えたわけである。

すると渡されたカップには「Kende(ケンデ)」と記されていた。確かに私は「『KEN』でお願いします」と言っていた。それを店員さんは『『KEN』で』までが名前であると受け取ったわけである。「助詞」は日本語では当たり前のものだが、タイの人からすると、そもそも「助詞」というものを使う機会は多くないだろう。それゆえ、どこまでが「名詞」なのか分からなかったわけである。

私のバンコクにおける「伝言ゲーム」は続く。

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(以下で、様々に書かれた『KEN』の響きの結果や、ヒキガエルの音を紹介)

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