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【小説】 月逃 【#第二回絵から小説】

 私は自ら犯した過ちから目を背けておきながら、焼け野原となった庭先から一台の車が出て行くのを見届けている。いや、これは過ちではない。自らこの結末を選んだのだから、これは罪なのだ。神は見ておられるだろう。いつか私に罰が下され、この身は地獄の業火に焼かれた後、魂をも滅ばされるだろう。それでこの罪を清算出来るのなら、それで良い。その時にはアイリーン、君も一緒だ。それならば、地獄の入口に立つ私には何の後悔も無くなるだろう。

 農園を営む私達夫婦は、一人息子のライアンを遠いベトナムの地で失った。街の人々は彼を英雄だと称えていたが、その声が大きくなるたびに悲しみは雪のように降り積もり、私達の心は凍え切ってしまった。神に祈りを捧げるたび、この魂と引き換えに息子を返して欲しいと神に縋った。しかし、神はこちらに目を向けるどころか、たったひとつの言葉すら私達には与えてくれなかった。
 ある日、私の母が教会を通じて孤児を引き取る活動に参加してみてはどうかと提案して来た。我が子を失い、生きる希望を見失っていた私達夫婦は、例え偽者の光でも良いからと、その希望に縋ることにした。

 我が家にやって来たのはまだ十ニ歳になったばかりの、やや背の高い少女だった。 
 その子の名は「アイリーン」だと、孤児院の職員から事前に知らされていた。面談の日、孤児院の玄関から職員と共に私達の前に現れたアイリーンは、とても美しい顔立ちをしていた。透き通るような白い肌、天人のようにバランスの取れた肢体、そして、意思の強さと信念を感じさせる意志的な美しい瞳。初めてその姿をこの目に焼き付けた瞬間、私は彼女こそが神の最高傑作だろうと明確に感じた。その思いは私だけでは無かったことを、後に強い衝撃を伴い知ることになった。

 うちにやって来たばかりの頃のアイリーンは、とにかく口数の少ない子だった。初めて我が家へアイリーンを連れて来た日、私達夫妻が自宅の玄関へ先に入っても彼女はすぐに家の中へ入ろうとしなかった。口を一文字に固く結び、鞄を持ったまま玄関の前で突っ立っていた。

「どうしたんだい、アイリーン。今日からここが君の家だ、安心して入りなさい」
「ここが、私の家なのでしょうか?」
「そうとも」

 私が微笑むと、妻のエヴァも彼女に小さな微笑を投げた。

「大丈夫よ、アイリーン。入ってらっしゃい」

 すると彼女は真っ直ぐにエヴァを見つめながら、口元だけを動かした。

「なぜですか?」

 彼女と見詰め合ったままのエヴァの表情が、ほんの一瞬震えた。エヴァはわざとらしく額に手を置き、アイリーンに向かってわざとらしく明るい声でこう言った。

「なぜかって? それはあなたが私達の愛する大切な娘だからよ! さぁ、アイリーン! 入って!」

 特に反応を見せなかったアイリーンだったが、足を一歩踏み出すと、ベッドの下へ逃げた猫が這い出てくる時のように辺りを警戒しながら、家の中へと静かに足を踏み入れた。後で聞いた話だが、エヴァは彼女と目が合った途端に底知れぬ恐ろしい気持ちになったのだという。そのせいで、身体が震えたと言っていた。その頃の私には、まだ何も分からなかったが。

 ベッドで靴を脱ぐにも、食事をするのにも、トイレへ立つ時でさえも、アイリーンは私達に許可を求めた。

「アーノルドさん、ソファに座ってもよろしいでしょうか?」
「アイリーン、その呼び方はやめてくれ。私は君の父親なんだ、どうか愛を込めて「パパ」と呼んでみてくれないか。それと、君はもうヒル家の一員なんだ」
「分かりました。パパ、ソファに座ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、いいとも。だけど君はそんなに丁寧な言葉遣いをしなくてもいい。私達は家族なんだから」
「家族……それは、血で結ばれないとそうと呼んではいけないのでは?」
「そんなことはない。例えば……神は私達の大いなる父だ。けれど、神が持つ子はキリストのみ。それでも、私達は大いなる神の家族の一員だろう? 違うのかい?」
「その通りです。意味は分かりました」
「なら、リラックスして」

 彼女はソファに腰掛けると、小さな声で「うん」と言った。固く、窮屈な返事だと感じた。
 私達夫婦、それから私の母のハンナはアイリーンが眠りに就くと三人で話し合った。それは子供の成長を心配する悩みというより、近所で起きた厄介な問題を解決する時の感情に近しいものだった。例えば、畑を食い荒らすイナゴが大量発生した時のような、そんな感情に近かった。
 母は紅茶を飲みながら、年老いた溜息を漏らした。

「あの子はきっと、自分の気持ちを出してはいけないと感じているんだね」
「それはそうに違いないだろうけど、どうしたらあんな機械のような人間が出来てしまうのだろう」

 寝つきの悪いエヴァは就寝前のワインを飲みながら、静かに呟いた。

「アイリーンは想像し難いほどの酷い思いをしながら生きて来たのかもしれないわ」
「それは、あの孤児院の中がひどかったってことか?」
「そうとは言い切れない。その前がもっとひどかったのかもしれないし、あの子が孤児になった頃から……きっと酷い目に遭って来たのだと思うの。だから、自分の気持ちに気付けていないんじゃないのかしら」
「そうなると、感情まで一々手取り足取り教えてやらなきゃいけないのか……なんだか、手が掛かるな」
「そんな言い方良くないわよ。あの子を引き取ったのは私達よ? 彼女の心を育てるのは私達親の義務よ」
「確かに、そうだ。うん、悪かった」

 それきり、私達は黙りこくった。話すべきことが山積みになっているのにも関わらず、それを切り出す糸口がどこにも見つからなかった。
 ふと窓の外に目を向けてみると、五番目の月がかろうじて夜を照らしていた。実に、頼りない灯りだった。

 学校へ通うようになるとアイリーンの規律正しさを身を持って知るようになった。学校での暮らしぶりが心配になって何度が学校へ話を聞きに行ったが、これ以上ないほどの模範生徒だと眼鏡の女教師はすこぶる興奮しながら彼女に太鼓判を押していた。

「アイリーンはとにかく凄いんです。この土地に住むに相応しい敬虔なクリスチャンであることはもちろんですが、授業中の発言においても他の子達より抜きん出ています。それに、彼女の探究心には素晴らしいものを感じています」
「探究心?」
「ある日、海の生物についての授業がありました。他の子達は昼休みになると自由気ままに遊びに出て行ってしまったのですが、彼女は一人図書室へ行って海に関する本を読み続けていました。他にも、サイエンスの実験の後にも同じことがありました。成績ももちろん、申し分ないです」
「あの子が、何かに熱心になっていたと?」
「ええ。ご家庭でもそうなのでは?」

 家の中のアイリーンは私達に従順なあまり、自発的に何かを見せたり行動する姿を見せてはくれていなかった。

「いや……家庭では、とても静かな子なので」
「そうですか。どうか彼女の探究心を認めてあげて下さい。褒めてあげるのも愛のひとつです」
「ええ……それなら、そうしてみます。わかりました」

 私はかつて、息子のライアンとのコミュニケーションに難があった。農園を継いで欲しいがあまり、まだ幼いうちから口うるさいことを言い続けた。それに反発するようにライアンは都会に憧れ、十六になるとこの田舎町を出ると言って聞かなかった。
 私はそんなライアンと向き合うどころか、突き放してしまった。外で痛い目に遭えば、きっと嫌になって戻って来るだろうと考えていた。
 結局、ライアンはより遠くへ行ってしまい、この国からも出て行った挙句、見知らぬ土地のジャングルの奥で撃たれ、この世を去ってしまった。

 父親失格だという念が、どうしても拭えなかった。私に果たして父としての資格がまだ残されているのだろうか? 
 悩みながらも、私はアイリーンと向き合って過ごしてみることにした。

 土曜の朝だった。朝食を終えたアイリーンを馬小屋へ連れ出し、私は彼女に餌をくれる為のフォークを持たせた。

「これで藁を刺して、馬にあげてごらん。彼の名はマーベリックというんだ。優しく呼んであげれば何も怖いことはないよ」
「マーベリック。分かりました」

 恐らく生まれて初めての体験になるだろうと思って見守っていると、彼女は非常に慣れた手つきにフォークを藁に刺し、マーベリックの名を呼びながらその口元へと見事に運んでみせた。
 マーベリックは彼女を警戒することもなく、差し出された藁を旨そうに食べ始めた。

「アイリーン、やったことがあるのかい?」
「はい。孤児院の活動で何度かお手伝いさせて頂きました」
「見事なもんだ。マーベリックも君の存在に安心しているようだ」
「それは良かったです」

 フォークを片手に、アイリーンは藁を食べるマーベリックをじっと見詰め始めた。これだけ間近で馬をじっくりと眺める機会も中々ないのだろう。熱心に観察するようにマーベリックを眺めるアイリーンの姿に、私はその時になってようやく小さな愛しさを感じ始めた。
 ところが、異変が起きた。アイリーンに見詰められていたマーベリックは顔を上げて彼女と目を合わせた途端、尻尾に火でも点けられたように突然暴れ出したのだ。いくら鎖で繋っているとは言え、大きな躯体で蹴られたりでもしたら命に関わる出来事になる。私はアイリーンにマーベリックからすぐに離れるように言いつけ、肩を抱きながら馬小屋を後にした。何かの間違いだと信じたかったが、馬小屋を出て行く時にアイリーンが微かに笑っているように私には見えた。

 いくら言葉で伝えても頑なにかしこまった態度であり続けようとしていたアイリーンだったが、その理由が少しずつ私なりに理解出来たつもりでいた。きっと孤児院での生活は常に規律を求められるもので、そこに順応し過ぎていたのだろうと、そう考えるようになった。
 しかし、それはある晩にとんでもなく検討違いだったことを思い知らされた。
 私とエヴァは夕飯を終えるとアイリーンと三人で彼女が安心して心を開いてもらえるよう、話し合うことにした。
 エヴァはアイリーンの頭を静かに撫でながら、母親らしい優しげな笑みを浮かべている。

「アイリーン、あなたは私達の大切な娘よ。だから、あなたにもっと自由でいて欲しいの」
「自由でいても、いいのですか?」
「そうよ。ここにはあなたを叱り付ける怖い人など誰もいないわ。街の人達もみんな優しいのよ。だから、もっと心のドアを開いて見せて? お願い」
「自由をひとつ願うと、ひとつ差し出さなければならないのでは?」
「差し出す……それは、一体何を?」

 エヴァが訊ねると、アイリーンはパジャマのボタンを外し、私達の前にその背中を露にして見せた。
 まだ幼いアイリーンの背中には、鞭で出来たような無数の傷跡が刻まれていた。紅茶を淹れにリビングへやって来た母が、偶然それを目にすると口を覆って「まぁ!」と叫んだまま固まってしまった。
 悲しく惨たらしい傷跡に、彼女の痛みの記憶がこれでもかと刻まれていた。中には抉れたものや、皮膚が引きつってケロイド状になっているものまであった。私は思わず、目を背けたくなった。

「それは、何処の誰にやられたんだ?」
「やられたのではありません。私が何かを欲しがるたびに、鞭を打たせて欲しいとお願いされました。だから、了承しました」
「それは……誰が打ったんだ?」
「知らない人達です。孤児院から、週末の夜に連れて行かれる場所です。その集会ではたくさんのお金持ちの人達がいて、私だけではなくて、そこでは他の子達も同じことをしています」
「こんなことは聞きたくないが……それは、鞭で打たれるだけなのか?」
「いいえ。それだけではありません。痛いのを嫌がる子もいるので、写真を撮られたり、身体を奉仕することもあります。私はもう慣れているので、平気です」

 私はその集会の様子を想像して、たちまち気分が悪くなり吐き気を覚えた。何の罪もない子供達に一体何をさせているのだろうと、激しい憤りを感じた。怒りの感情が湧き上がり、もっと突き詰めて聞いてやろうとさえ思った。しかし、窓に映ったアイリーンが声もなく涙を流していることに気が付いて、私は彼女を後ろから抱きしめた。エヴァも、母も、三人で彼女を抱きしめた。私達は彼女の負った傷を隠すかのように、泣きながら抱きしめ続けた。
 私達はアイリーンをとにかく好きなように過ごさせることにした。開け放った心で話す言葉に不安を抱いて欲しくなかった。彼女は日毎に柔らかな笑顔を見せるようになり、次第に私達の前で自由奔放に振舞う様子を見せ始めるようになった。

「パパ、マーベリックを借りてもいいでしょ?」
「アイリーン、気をつけて行くんだぞ。ブーツはしっかり履いて行くんだ」
「分かってるわ。大丈夫」

 そう言って玄関を勢い良く飛び出すアイリーンを、私達は微笑ましく眺めていた。金色に輝く稲穂の中を、アイリーンとマーベリックが駆けて行く。
 夕焼けた陽の光を受けながら悠然と走っていたマーベリックが死んだのは、それからわずか二日後のことだった。 
 馬小屋へ行くと、大きな躯体が横になって倒れていた。あまりに突然訪れたマーベリックの死よりも、それをアイリーンにどう伝えようか私は頭を悩ませた。きっと悲しむに違いないし、私は彼女に悲しみを与えたくなかった。しかし、彼女にマーベリックの死を伝えると、彼女は大きな目で真っ直ぐ私を見詰めたまま、こう言ったのだ。

「そうなんだ」

 特に悪びれる様子もなく、アイリーンはそう言った。玩具で遊んでいた子供が特に興味もない玩具が壊れてしまった時のような、そんな軽い印象を受けた。

「君に伝えるのは、本当に心苦しかったんだが……残念だがマーベリックは亡くなってしまったんだ」
「残念? なんで?」
「君はマーベリックと仲が良かったじゃないか。だから、心配していたんだ」
「仲良かった? マーベリックはただの馬よ。それよりもパパ、どうやったら美味しい牛乳って出来るのかしら? 餌の違い?」

 私は言葉を失った。彼女が本当に悪気もなくあっけらかんと言っていたからだ。
 この頃のことを思い出すたび、私はこの時彼女を殴ってでも躾をしなければならなかったのだと、若干の後悔を覚える。何故、そうしなかったのか。彼女が過去に負った傷は身体だけではない。心を壊されるほどの傷を負わされていた事実から、私は目を背けていたのかもしれない。

 学校生活は順調に行っているようだったが、担任の眼鏡の女教師が近々変わるのだと、アイリーンから聞かされた。

「妊娠したからエバンス先生は来月からお休みになるんだって。赤ちゃんが生まれるってとっても嬉しそうにしているわ」

 その話を聞きながら、母が嬉しそうな顔を浮かべる。

「エバンス先生はジョーンズさんの所のお嫁さんだったわね。今度またパイを焼いて持っていってあげないとね」
「お婆ちゃん、その必要ないわ」
「おや、なんでだい?」

 アイリーンは食器の上に置かれた付け合わせの人参をフォークで何度も何度も突き刺しながら、明るい声でこう言った。

「エバンス先生がヒルの婆さんのパイはマズイって、廊下で他の先生と話していたの。だから、もう焼かなくて大丈夫よ」

 私は驚いて食事を止め、フォークを置いた。ひとこと言ってやろうと思ったが、エヴァが私よりも先に鋭い言葉を発した。 

「アイリーン! なんていうことを言うの!」
「あの婆さんの味覚はブッ壊れてるって、旦那も言ってるわって。一々捨てるのも面倒だし、焼くたびに持って来られるのはいい加減迷惑だって言ってたわ。ねぇお婆ちゃん、「迷惑」ってどんな時に使う言葉なの?」
「やめなさい! 怒るわよ!」

 怒ったエヴァが立ち上がり、手を振り上げるとアイリーンはエヴァの顔を見上げながら微笑んだ。

「叩くんでしょ? いいよ」

 エヴァはゆっくりと振り上げた手を下ろし、「少しは言葉を考えなさい」と溜息をついて椅子に座ると、再び食事に手をつけ始めた。母はよほどショックだったのだろう。項垂れたまま何も言わず、食事も残したまま寝室に引きこもってしまった。食後のティーもその日は摂っていなかった。私はいたたまれない気持ちになり、アイリーンを諭そうとした。

「アイリーン、あとでお婆ちゃんに謝りなさい」
「なんで? 私は別にお婆ちゃんのことを何も悪く言ってないわ」
「お婆ちゃんはさっきの話を聞いて、落ち込んでしまったんだ。パイを焼いて配るのが楽しみなんだよ」
「知ってるわよ。私、お婆ちゃんの焼くパイが大好き!」
「それでも、謝りなさい」
「なんで? 悪いのはエバンス先生でしょ?」
「いいから謝るんだ! わからないのか!」
「わかった。エバンス先生を怒ればいいのね」
「違う! そうじゃないんだ。君がお婆ちゃんに謝れば済む話なんだ」
「自由でいていいって、パパとママが言ったんじゃない。なんで私が思ったことを私が言っちゃダメなの?」
「人を傷つけたからだ」
「変なの。私は平気よ」

 それ以上、私は何も言えなかった。エヴァは額に手を置いたまま、食事を止めていた。何を食べているのかさえ分からないほど、その日の食卓は冷め切っていた。

 それから半月ほど穏やかな日が続いた。結局アイリーンは母に謝罪することは無かったが、彼女なりに気を遣ったのか彼女は母にしきりにパイをねだるようになった。自信を失くしていた母だったが、再びキッチンに立つ姿を見て私もひとりきり安堵した。
 教会の慈善活動で街の清掃をしていると、あの女教師の父のジョーンズさんが肩をいからせながら私を目掛けてやって来た。

「どうも、ご機嫌いかがですか?」

 そう言って微笑み掛けた次の瞬間、私は張り飛ばされて地面に転がった。

「機嫌も糞もあるか! おまえの娘のせいだぞ!」

 私は訳が分からず、尻餅をついたまま訊ねた。

「待って下さい、アイリーンがどうしたんです?」
「どうしたもこうしたもあるか! おまえの娘のせいでうちの娘が流産したんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「何を言ってるんです? なんでアイリーンと流産が何の関係があるんです? 変な冗談は止めて下さい」
「惚けやがって! 近いうちに出るとこ出てやるからな! 今後あんたの家とは絶交だ! いいか!? あの胸糞悪い不味いパイも要らないからな! 今後うちに一歩でも足を踏み入れたらその狂った脳味噌ぶち抜いてやるから覚悟しておけ!」

 そう言ってジョーンズさんは怒り狂ったまま、私の前から遠ざかって行った。きっと何かの勘違いだろうと思い、私はエヴァがいない間にアイリーンに訊ねてみることにした。

「アイリーン、ジョーンズさんが……エバンス先生が流産してしまったことは知っているかな?」

 そう訊ねてみると、彼女は目を輝かせながらソファから立ち上がり、両手を大きく広げ、くるくると回ってはしゃいだ声を上げ始めた。

「大成功したの! パパ、褒めて!」
「大成功……褒めるって、何をだい?」
「ねぇパパ、セックスをして赤ちゃんが出来て、生まれてくるのはとても普通のことだわ。私はもしも赤ちゃんが生まれて来なかったらどうなるのかなって思ったの」
「何を言っているんだ……そんなこと、一体どこの誰が望むというんだい?」
「私よ! エバンス先生、出産の予定が外れたからとても青褪めた顔になっていたわ。この前まであんなに楽しそうだったのに! それが凄く楽しかったから、エバンス先生にこっそり薬を飲ませたことをちゃんと教えてあげたの!」
「薬……? 堕胎薬か? どうして君がそんなものを……第一、持てるはずがないだろう。いい加減な嘘はやめなさい!」
「嘘ではないわ。集会に来ていた人の中にはお医者様もいて、私が頼んで薬をもらったの。それを使ったら本当に流産したの! ねぇ、すごいでしょ!?」
「あの集会に来ていた人に……君は会ったのか?」
「だって何でもくれるんだもの。大丈夫よ、身体を少し奉仕しただけだわ」
「君は一体何をしているんだ! どうしてそんなことをしてしまうんだ!」

 穢れを知らない無垢は美しいものだとばかり、私は思い込んでいた。
 この娘は間違いなく、狂っている。人の痛みを感じることのない無垢に私は腹を立てた。怒りを感じた。それがまだ小さな身体だとしても、宿された狂気はとてつもなく膨大で恐ろしいものだった。
 彼女は自身の狂気を知ることもなく、楽しげな声を立て続けた。

「お婆ちゃんが悲しかった分、しっかりお返しも出来たんじゃないかしら。このことを知ったらお婆ちゃん、きっと喜んでくれるに違いないわ」
「そんなことを母さんが喜ぶ訳がないだろう! 何を考えているんだ! こっちへ来なさい!」
「何をするの? ねぇねぇ、楽しいこと?」
「いいから来なさい!」

 私は怒りのまま、彼女の小さな腕を引っ張って地下室へ連れて行った。彼女はそれが折檻の一種だとも気が付かない様子で、目を輝かせていた。目を輝かせる彼女をそのまま地下室の中へ置き去りにして、私は扉を閉めて外から鍵を掛けた。
 鍵を掛けて振り返ると、エヴァが腕組みをして立っていた。

「もう限界よ。この子、これからどうするの?」
「先生のこと、聞いたのか?」
「ええ。それに……それだけじゃないわ。あなた、あの子の部屋へ行きましょう」

 エヴァの後を着いて行き、アイリーンの部屋を入ってみると私は思わず息を呑んだ。彼女の部屋の本棚には買い与えた覚えのない高価な古書や図鑑がたくさん並んでいたのだ。

「これは、一体……どこで手に入れたんだ」
「あの子が自分で買ったのよ。あの子、学校でお金を稼いでいるの」
「学校で金を稼いでいる? どうやって?」
「クラスメイトを唆して、金持ち連中の集会に紹介しているのよ。お小遣いが入るからってね。日に日に本が増えるから気になって聞いてみたの。そしたらあの子、悪びれることもなくそう言っていたわ」
「まさか……そんなの、君の妄想じゃないのか?」
「私が嘘を吐いているっていうの!?」
「いや、嘘であって欲しいとは思っているが……真実なんだな」
「それだけじゃない。あなたには信じられないかもしれないけど、あの子は普通じゃないの」
「あぁ。異常なのは分かってる……分かってはいるが」
「違うの。お願い、今から私が言うことを信じて」

 何を言うつもりなのだろう。私は不安げなエヴァの肩を抱き寄せようとしたが、その手を払われた。

「お願い、真剣に聞いて」
「分かった。ちゃんと聞こう」
「あの子の目を見ていると、あの子に操られるような感覚になるの。私、自分でもおかしなことを言ってるって思うわ」
「それは、催眠術みたいなものなのか?」
「わからない……けれど、まともじゃない」

 部屋の中は至って清潔に保たれていて、ただ見回しただけではアイリーンの狂気の片鱗すら感じられない。棚に置かれている本は生物や化学に纏わる本が多く、探究熱心だという彼女の思考が見てとれた。ただ、それだけでは異常とは判断がつかない。そう思っていたが、ベッドの枕元に置かれていた女の子の人形を見て、一気に背筋が冷えた。
 セルロイドで出来たその人形は髪の毛がバラバラに切られ、顔だけが熱で焼かれたのかドロドロに溶けていて、おまけに額には鉛筆が突き刺さっていた。近寄って手に取ってみると切り落とされた右腕が左腕の脇の下につけられていて、人形は異形の姿と化していた。こんなものと毎晩枕を共にしているのかと思うと、アイリーンが何を考えているのかますます分からなくなった。
 半日経ってから地下室から彼女を出したのだが、彼女は反省するどころか心を踊らせている様子で「またやってね!」と喜んでいた。

 私は数人の医者に相談した結果、街中の大きな脳病院で彼女を診てもらうことにした。エヴァも彼女を疑いながら暮らすことに疲れ果てている様子だった。初めて訪れる病院で、彼女は精神がおかしくなった様子の患者を見ながら楽しげに微笑んでいた。順番が来て彼女のカウンセリングが始まると、アイリーンはスキップをしながら診察室へ入って行った。彼女の闇は深い。カウンセリングは長いものになるだろうと思っていた。しかし、十分もしないうちにアイリーンは意気揚々と診察室から出て来たのだ。

「アイリーン、もう終わったのかい?」
「いいえ。先生が死んでしまったから退屈して出て来ただけよ」
「まさか、何を言っているんだ。ここは病院だぞ? そういう変な冗談は言ってはいけないよ」
「本当のことよ。見てくればいいじゃない」

 冗談ではなさそうなその口ぶりに、私は妙な胸騒ぎを覚えた。診察室をの扉を開けると、ベッドカーテンの枠にまだ若そうな医者がぶら下がっていた。ゆらゆらと揺れながら、ゆっくりと回転し出した身体がこちらへ向くと、医者は長い舌を出しながら青褪めた顔で死んでいたのだ。
 私はすぐに助けを呼んだ。その間、アイリーンは他の患者達に楽しげに声を掛けて笑っていた。

 警察が来たものの、まだ若かった脳病院の医者は自殺ということで片付けられた。しかし、その原因に見当たるものが彼の生活からはまるで見つけられなかったという。結婚を来月に控え、仕事も順風満帆だったというのだ。趣味でゴルフを始めたばかりだとも。診察室という密室で何があったのか気になって訊ねてみたかったが、アイリーンにそれを聞くことが恐怖で仕方がなかった。エヴァの言うように、彼女には本当に人を操る力があるのだろうか。
 恐怖心を隠しながら、私は食事中にアイリーンに訊ねてみた。

「アイリーン。君はもしも人を自由に操れる力があったとしたら、どうしたい?」

 その途端、エヴァから刺すような目が飛んで来た。しかし、私は怯まなかった。いい加減アイリーンを疑いながら暮らすのことには限界を感じていたし、彼女に恐怖しながら生活することは親子の破綻を意味していた。もしその力があるのならば、彼女は答えるだろう。私は彼女の無垢に懸けたのだ。
 アイリーンは不思議そうな顔を浮かべると、フォークを置いて窓の外を見た。

「そんな面白いことが出来るのだったら、私は月へ連れて行ってもらいたい」
「月へ? どうしてだい?」
「何年か前に宇宙飛行士が月へ行ったって、ニュースでやっていたじゃない?」
「あぁ。彼らは英雄だね」
「あの人達、月に国旗の忘れ物をしていたから取りに行ってあげたいの」

 子供らしいとも思えるその答えに、私とエヴァは目を見合わせて微笑んだ。果たして、それが本心からの答えなのか、それとも私達をはぐらかそうとしているのか、楽しげに窓の外を眺めるアイリーンの瞳からは何の答えも見えては来なかった。

 冬の時期が訪れると、この辺り一体には厳しい寒波が押し寄せた。暖を取るために家族揃ってリビングで過ごす時間が多くなると、自然と会話も生まれ易くなった。アイリーンは本を読みながら、時々私達に質問をした。なぜ海は出来たのか? なぜ宇宙は存在するのか? なぜ人は水がなければ生きていけないのか? そして、なぜ人は神を信じるようになったのか?
 彼女の問いは科学的なものもあれば哲学的な要素も多く含まれていて、越冬中の暇つぶしには持って来いだった。しかし、神を疑うような発言を私の母は決して許そうとはしなかった。

「アイリーン、あなたは教会と共にある孤児院から来たのでしょう?」
「そうよ。でも、神はなんで私達を作ったのか、誰も証明は出来ていないわ」
「なんてことを言うの! あなた、まさか神を信じていないとでも言う気なの!?」
「多くの人が信じているんだもの、否定はしないわ。肯定するだけの根拠が乏しいの。でも聖書は好きよ、創作としての物語性がとても面白いもの」
「創作! 神を侮辱したわね! あなたには悪魔が憑いているのよ!」

 編んでいた服を足元に落とし、取り乱し始めた母に私は落ち着くように諭そうとした。

「母さん、アイリーンはただ探究熱心なだけなんだ。神の存在の根元を知りたがっているだけなんだよ」
「いいえ! この子は聖書を「創作」だと言った! 私はハッキリと聞いたわよ!」
「落ち着いてくれよ、話をすればちゃんと分かるはずだよ」
「アイリーンは悪魔よ! 私達を今の今まで騙してたのよ! 孤児院に棲みついて、引き取った私達を唆す気だったんだわ! 何があってもあんたなんかにこの魂は譲らないわよ!」

 取り乱す母にエヴァは困惑した表情を浮かべたまま、アイリーンに目を向けた。アイリーンは微笑みながら、母をじっと眺めた。

「私はただ知りたいだけなの。お婆ちゃん、安心して」
「うるさい! 大体あんたのせいで私の愉しみがひとつ奪われたんだからね! あんたがジョーンズさんを唆して私のパイを不味いと言わせたんだ! あーそうだ、これでハッキリと分かったわ!」
「それは違うわ。私はただ立ち話を聞いていただけよ」
「黙れ悪魔! おまえのおぞましい心で私を見るな! エバンス先生を流産させた不気味な悪魔の癖に! 私はずっと前からおかしいと思っていたんだ! 最初から気味が悪くて仕方なかったんだよ!」

 その瞬間、私とエヴァはまさかと思った。流産の原因がアイリーンであることを母には黙っていたのだ。ジョーンズさんとは絶縁されているし、その話が漏れることはないと思っていた。しかし、母はそれを知っていたのだ。思えば狭い街だから噂が広まるのも無理はない。心無い誰かが母にこう言ったのだろうか。

「あんたの孫がエバンス先生を流産させたらしいよ」

 と。そう考えると、一体誰が悪魔なのかも良く分からなくなって来る。
 母は散々取り乱した挙句、胸元で十字を切り聖句を読み上げ始めた。
 アイリーンはそんな母の前に立つと、静かな声で言った。

「私、お婆ちゃんに嫌われちゃったの?」
「近付くな! 汚らわしい悪魔め!」
「どうしてみんな、私のことをそんな風に言うの? みんな、私のことが嫌いなの?」
「あんたが悪魔だから大嫌いなんだよ! この街の人はみんな気味が悪いあんたが大っ嫌いなんだ! 物欲しさで出来た卑しい傷だらけのみすぼらしい孤児で、仕方がないから話してやってるだけなんだ! 誰だってあんたと話してやらないと、周りから人間性を疑われるからね! みんなあんたの存在にうんざりしてるんだよ!」

 その言葉にエヴァが「言い過ぎよ!」と叫ぶ。言い過ぎているとは確かに感じたが、母は熱心を通り越した熱狂的なクリスチャンなのだ。ライアンもかつて「悪魔が憑いている」と言われ、思春期を迎えたばかりの彼は家を飛び出して行ってしまったこともあった。家には帰って来たものの、それから二度とライアンと母が言葉を交わすことはなかった。そんな諍いがあったことを私もエヴァも覚えていただけに、こうなった母を止めるのは至難の業だと感じていた。
 こちらに背を向けているアイリーンは力なく肩を落とした様子で、子供らしい甘えた声を出した。

「私、お婆ちゃんの焼いたパイをもう食べられないの?」
「パイなんか焼いてたまるか! あんたみたいな悪魔は地獄の業火に焼かれて死ねばいいんだ!」
「お婆ちゃんは私よりも神様を信じるの?」
「何言ってるんだい!? 当たり前だろう!?」
「お婆ちゃん、神様に会いたい?」
「会いたいだぁ? 私はあんたと違って清い人間なんだよ! 神の元に召されるに決まってるだろう! あんたはどうせ永遠の地獄に落ちるだろうけどね!」
「パイ……また食べたかったな……」
「うるさい! 誰が食わせるか!」
「でもね……私はお婆ちゃんが大好きだよ」
「黙れ! あんたに好かれる理由はない!」
「お婆ちゃんが編んでくれた手袋、とってもあったかいの」
「こっちを見るな!」
「お婆ちゃんと教会に行くのも楽しいし、大好き」
「見るなぁ!」
「お婆ちゃんは魔法みたいにキッチンを使いこなせるから、すごいなぁって思ってるよ」
「その薄汚いサタンの目で、私を見るな!」
「お婆ちゃんと一緒に眠ると、安心するよ」
「やめろ! やめろぉ!」
「お婆ちゃんが、大好きだったよ」
「汚いサタンの目で、そんな目で、私を見るんじゃない!」

 頑なに母の前から動こうとしないアイリーンを、私とエヴァは引き離した。母は聖句を絶叫しながら、アイリーンから目を背けている。

「アイリーン、落ち着いたらまたお婆ちゃんと話そう」
「話しはもう、出来ないと思うわ」
「大丈夫だから、今日はもう休んだほうがいい」
「私は大丈夫よ。でも」
「無理しなくていいんだ。大丈夫だから」

 暖炉の炎に照らされながら、母は皺の深い顔に影を作りながら聖句を絶叫し続けている。このままリビングにアイリーンを残していたら母の気がとうとう狂ってしまうと感じ、私とエヴァはアイリーンの肩を抱き寄せながら廊下へ出るドアまで連れて行き、彼女に眠るように促した。
 それでもアイリーンはリビングから出ようとはしなかった。狂った様に聖句を叫ぶ母を、じっと見詰めていた。エヴァと共にアイリーンを励ましながら、彼女の肩を抱いて二階の部屋へと歩き出す。いくら母とはいえ、酷い言葉を吐いていた。アイリーンの心が一層傷ついてしまったかもしれない。そう思いながらアイリーンを部屋へと連れて行き、ベッドにしっかりとその身体を横たえるまで見守った。扉を閉めてエヴァと溜息を漏らしながらリビングへ戻ると、そこに母の姿は無かった。玄関が開け放たれ、廊下には吹雪が吹き込んでいた。
 開け放たれた扉。闇夜のずっと向こうに、何処かへ走って行く母の後姿が見えた。
 こんな吹雪の中ではきっと死んでしまう。私はすぐに車で追い掛け、エヴァが警察に連絡をした。しかし、猛吹雪の為に警察の捜索は難航していた。その晩、母はとうとう帰っては来なかったし、見つかりもしなかった。朝になって雪がすっかり晴れると、街で一番大きな橋の下で川ごと氷漬けになった母の遺体が発見された。
 とても人には見せられない姿だった。安かな表情とはほど遠く、氷漬けの母は目を見開き、地獄で焼かれているような苦悶に満ちた表情で死んでいたのだ。

 クリスチャンが多いこの街で、布教活動を誰よりも熱心にしていた母の死を悼むものは多くあった。そして、その大半の者がアイリーンを怨み、憎んだ。
 葬儀の間中、彼らは終始憎しみのこもった眼差しをまだ小さな身体に向け続けていた。母の死後、エヴァは精神的に体調を崩してしまい入院することになった。家の中での疲れが母の死をきっかけに限界を越えてしまったのだ。葬儀が終わるとエヴァは気が触れたように誰もいない家の中で同じ場所をぐるぐると徘徊し続け、母と話しているつもりなのか、会話のような独り言を眠ることなく終始呟き続けていた。
 私と二人きりになったアイリーンだったが、彼女の様子はいつもと何ら変わらないものだった。それどころか、私に献身的であろうとさえしてくれた。

「パパ、ママがいなくなったからその分私がお手伝いするわ。キッチンは任せてね」
「ありがとう。お婆ちゃんもママもいなくなってしまったね。一人きりで寂しくはないかい?」
「ううん、全然平気。それよりも本がゆっくり読めるから、嬉しい」
「そうか。ママが早く帰って来られるように、お祈りしよう」
「ママは嫌いじゃないけど、別に帰って来なくたって構わないわ。その方が静かだもの。それに、パパだけが私の味方でしょ?」

 そう言って私を見詰めるアイリーンの眼差しに、妙に艶かしいものを感じ取った。それは少女の目ではなく、紛れもない女の目だった。それも、欲しがっている時の女の目だった。途端に湧き上がった欲求に、無意識のうちに心が動いたのをハッキリと感じ取った。その瞬間に、私は恐ろしくも例の集会に集まっていた連中の気持ちが分かってしまったのだ。
 滑らかな白い肌。春のような柔らかな唇。まだ衰えすら知らない、艶やかな髪。吸い込まれ、身体ごと飲み込まれてしまいそうなほどに美しい瞳。

 私は、抗うことを止めた。

「アイリーン、また地下室へ行こうか」

 その晩、私は自ら選んで過ちを犯した。彼女の傷跡を再び目にすると、痛ましい気持ちよりも興奮と嫉妬を覚えた。私が一番新しい傷をつけたいとさえ感じた。
 その間中、アイリーンが窓の外を眺めながら流していた涙を忘れていた。いや、思い出したかもしれないが忘れたフリを続けていたかった。
 この唇が彼女の肌に触れると、その卑屈な願いは見事に叶えられた。
 脳が振るえ、身体中に悦びが湧き上がった。
 そして、私の身体と心は十三歳になったばかりのアイリーンの肌のひとつに、支配されていった。

 地下室での行いが日常化すると、私はエヴァが帰って来てしまうことを恐れるようになった。日に日に病状は快復しているという報告を受け、早く帰りたいと言っていると知らされた時、私は絶望した。
 アイリーンはきっとこの行いのことをあっさりと話してしまうかもしれない。しかし、それ以上にエヴァが帰って来ることによって行いが出来なくなることを私は恐れた。
 そんなある日、私はストアで買い物をしていると見知らぬ男性から突然声を掛けられた。

「失礼。アーノルド・ヒルさんですか?」

 男は仕立ての良さそうなスーツを着ていて、見た目はは私とそう変わらなそうな四十男だった。しかし、どう見てもこの街の人間ではなさそうだ。私の名前を何故知っているのだろうと思っていると、先に名刺を差し出された。名刺にはある大きな自動車メーカーの名前が載っており、彼はそのトップに近しい人物だというのが見て分かった。

「リチャードさん? どこかで会って……いるはずがないですね」
「もちろん。あなたとは生きている世界が違います」
「私の名を、何故知っているんです?」
「アイリーンです。彼女、元気にしてますか?」
「ええ、それはまぁ……」
「あなたが彼女の里親になったと聞きましてね。わざわざ調べてこの街まで来たんですよ」
「アイリーンとはどんな関係で……?」
「彼女が集会に来なくなってしまって久しい。だからこうして足を運びました。理由は分かりますよね? 何人もの人間が彼女を欲しています。それなりの金額はお支払いしましょう」
「そうですか。失礼します」
「待って下さい! いくらならいいんです!? アーノルドさん!」

 ふざけるのも大概にしろと、私は男を罵りたくなった。アイリーンに今さら何の用事かと思えばそんなことだったか。残念だがその権利は今の私にある。今の私だけが彼女に触れることが出来る。今の私だけが彼女のすべてを曝け出し、堪能することが出来るのだ。冗談じゃない。
 男はストアの中でしつこく声を掛け続けて来た。私はその声を無視し続け、買い物を済ませると車へと急いだ。
 駐車場へ出ても、男はしつこく声を掛け続けて来た。

「お願いです! 考え直したらどうか名刺の番号に連絡して下さい!」
「失礼。田舎者の私からあなたに用事は何もないんでね」

 そう言って私は名刺を丸めて駐車場の隅へ向かって投げ捨てた。すると、嘲笑混じりの声で男はこう言った。

「アーノルドさん、あなたはもう抱いたんですか!?」

 その声に無意識に足を止めてしまう。我ながら何て愚かなのだろうと思っていると、男は間髪入れずに続けた。

「だったら僕の気持ちもわかるでしょう!? 連絡ください! 弾みますよ!」

 声を無視して車に乗り込み、アクセルを踏んで急発進させると、何かを叫び続ける男をすれすれの所で轢きかけた。どうせなら轢いてしまえば良かったと思いながら、私は車を急がせた。

「アイリーン、痛くはないかい?」
「ええ。大丈夫よ」

 地下室での行いも回数を重ねてくると、私はアイリーンの身体で見知らぬ場所がないほどになっていた。黒子の位置も、背中のケロイドの形も、場所によってかさつく肌の模様も、汗を掻く場所によって変わる皮膚や粘膜の味も匂いも、私は目を瞑ってでも思い出せるようになっていた。それでも、私は飽きることなくアイリーンを求め続けた。街中へ行けば悪魔だと噂されるアイリーンは買い物すら満足にさせてはもらえなかった。多くの者に忌み嫌われ、存在そのものを無視され続けていた。学校へ行っても友人のひとつすら出来ず、やはりそこにも彼女の居場所は無かった。
 正直な話だが、その方がかえって都合が良かった。彼女の居場所がなくなれば、その分私に依存して生きて行くしか道はなくなる。やがて帰って来るであろうエヴァの存在を私は亡き者にして、狂信者の母が死んだことさえも都合が良かったと思うほどになっていた。
 こうして必死に身体を駆使して彼女を独占し続けることで、私は生きる希望を見出せるようになった。ライアンが死んでから、人生は暗いままだった。
 新月から満月に変わったこの世界で、たった一つの灯りに私は照らされている。それは実に心地が良く、柔らかで美しい光なのだ。希望は見るまでもなく、光としてこの手の中で輝いていた。

 地下室でアイリーンを舐っていると、背後から微かに音がして光が差し込んで来た。扉の建付けがおかしくなったのかと思い振り返ってみると、そこには真っ青な顔を浮かべるエヴァが立っていた。その姿に、私は意図的な微笑を浮かべてみせた。私に舐られたまま肢体を広げているアイリーンも、まるで挑発するかのように私と同じ微笑を浮かべてエヴァを向いていた。
 エヴァは声を発することもなく、後ずさって家を出て行った。
 何かを落とした音がしたので見に行くと、装飾されたケーキが箱ごと床に落ちていた。
 無遠慮に退院し、勝手に帰って来たエヴァが無事に出て行ってくれた祝いに、私はそれをアイリーンに食べさせた。

 その晩、眠り続けていると焦げ臭い匂いがして私は目を覚ました。
 外で灯りがついていると思い、窓を開けてみると家の外のとうもろこし畑が燃え上がっていた。火の手は既にかなり拡がっていて、自分の手では消化は無理だと判断した。急いで消防に連絡をしようとしたが電話が繋がっていなかった。電話線が焼かれたのだと思い、家の外へ出てみると私はこの目を疑った。
 燃え上がるとうもろこし畑を背に、街の多くの者がこの家を取り囲んでいたのだ。その中にはエヴァの姿もあった。ジョーンズさんや、保安官の姿まであった。
 空には夜を壊すほどの十三番目の月が、煌々と輝いていた。
 牧師が私の前へ出ると、彼はしゃがれた声で怒鳴り始めた。

「神と共に生きる人達をあなた方はひどく愚弄した! もうこれ以上の穢れは到底赦すことは出来ない!」
「何を言っているんだ!? それよりも火の手を止めないと!」
「この火はあなたと、アイリーンがこの先見ることになる地獄の炎です!」
「私とアイリーンの何に不満があるというんだ!?」
「彼女はまだ生れ落ちてもない命を殺し、若き医師を死へと誘い、わずかに残された寿命を必死に全うしようと神と共に生きておられた、あなたの母ハンスの命までもを奪った! そしてあなたを淫魔の誘惑により、その魂に穢れをもたらした! 悪魔の力を使い、様々な者を惑わせた! その罰は下されなければならない!」

 街の人々は本気で私とアイリーンを怨んでいるようだった。家を取り囲んで並ぶ人々のその目に、怒りや憎しみが込められているのを肌で感じ、底知れぬ恐怖のために鳥肌が立った。

「アーノルド! 今すぐここへアイリーンを差し出しなさい!」
「それは……」
「あなたまで悪魔になるつもりですか!? そうなったらあなたはこの街では生きていけなくなりますよ! 早くなさい!」
「しかし、アイリーンは……彼女は、ただ純粋無垢なだけなのです! 私が欲に負けただけなのです!」
「黙りなさい! あなたは悪魔に穢された被害者です! 清めの為にも早くここへアイリーンを連れて来なさい!」

 私が躊躇いを見せていると、保安官が腰から拳銃を抜いた。仕方なく家を振り返ると、玄関からアイリーンが姿を現した。燃え盛る炎を目にすると、彼女は微笑を浮かべて「綺麗」と楽しげな声を上げた。
 その姿を見て、私は無常の愛しさを感じざるを得なかった。胸の奥が締め付けられ、心に痛みが走った。これほど純粋無垢な天使がいるだろうか。
 そう感じていると、牧師が突然走り出してアイリーンの髪を掴んだ。

「痛い!」
「こっちへ来なさい!」
「何するの!?」
「アーノルド! あなたが罪を清算しなさい!」

 牧師は私の前にアイリーンを突き出すと、怒りを滲ませた声でこう告げた。

「この悪魔を、あなたが殺しなさい」

 私がアイリーンを殺す? 何の冗談かと思い、周りに目を配ると誰も彼もが憎しみのこもった目を私に向けて来た。街の人々は首元に自らの手を置き、「絞めろ」というジェスチャーを私に送り始めた。

「さぁ、早く殺しなさい。あなたの穢れを救うためです」
「そんな……牧師さん、待って下さい」
「ダメです。猶予はありません」

 アイリーンを殺すだなんて、私には出来るはずがない。この世界でたった一つの愛しい光を、私の手で断つ必要が何処にあるというのだろう。手を掛けられるはずもなく、目の前に立つアイリーンの瞳を呆然と眺めていると保安官が苛立った声で私に銃を向け始めた。

「アーノルドさん、あなたは捕まりません。街の人々もこの秘密を堅く守ることをお約束してくれています。だから、早くして下さい。もしも躊躇い続けるなら、ここであなた達二人を、私が始末することになります」
「そうは言っても……そんな……」

 アイリーンは私を見詰めたまま、穏やかに微笑んだ。全てを悟っていたのだろう。彼女は怯える様子も見せずに小さな声で「いいよ」と言って笑った。狂おしいほど、愛しく感じた。

「自殺をしたら地獄へ行ってしまうけれど、神が本当にいるのかどうか、これで目で確かめることが出来るんだもの。だから、いいよ」
「アイリーン、ダメだ。君はせっかく自由になったんだ……それなのに」
「ううん、自由なんて生まれてから今日までずっとなかったよ。私が本当に望む自由は、この世界にはないの。私がいると、みんなの自由がなくなるの。それが邪魔で、悲しくて仕方ないの」
「悲しい? 君はずっと……悲しかったのか?」  

 アイリーンは私を見詰めたまま、何の前触れもなく突然大粒の涙を流した。絹のように柔らかく滑らかな頬を、音も立てずに光の粒が這い落ちて行く。

「悲しかった。ずっとずっと、悲しかった。身体よりもずっと心が痛かった。何度も慣れようとして、いっぱい勉強もしたんだよ? でも、悲しいことはどこにも逃げて行ってはくれなかった。私が自由にするたびに、悲しいがやって来たの。だから、もういいの。私が望む世界を叶えるには、この世界にはあまりにも誰かが多すぎるもの。だから、私は本当に月へ行きたかった」
「アイリーン……君は……君は本当に悪魔なのか?」
「そんな訳あるはずないって思ってた。まさか、そんなはずないって。今はもう自分でも分からない」

 その答えに、周りの人間達は剥き出した猜疑心を震わせたように一斉にどよめき始める。「やはり悪魔だ」そんな声があちこちから聞こえて来る。そのどよめきはやがて一つの塊となって行き、整理された後に声を揃えた「殺せ」という言葉に変わって行った。誰も彼もが血の気を孕んだ目をしていた。人を殺すことに勝利を確信していた。アイリーンが肩を震わせながら泣いていることは、私だけにしか感じられていなかったのだろう。

「殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ」

 押し寄せるその声に私は情けなくも、この身を震わせた。例えアイリーンが本物の悪魔だったとしても、今の私が心から恐怖するのは目の前で「殺せ」と声を揃える人間達だった。目の前で涙を落とす彼女の存在を胎児に戻し、隠してしまいたいとさえ願っているのに、私は身体を震わせながら「殺せ」という声に従うことしか考えられなくなって行った。死にたくないという無意識に絶望しながら細く小さな首に両手を添えると、牧師が小さな声で「いいぞ」と呟くのが聞こえた。
 燃え盛る炎は次から次へと飛び火して行き、やがて私の家に激しく燃え移った。火の手が回ると古い家屋は一気に燃え上がり、ライアンを含めた家族の記憶が炎に包まれて行った。背中に熱を感じながら、私はついにアイリーンの首に力を込めた。白く小さな首筋に血管が浮き上がり、彼女は震え始める。たまらなくなり力を抜こうとするが、すぐ横では私のこめかみに向けて保安官が銃を突きつけている。そして、「殺せ」という声も次第に大きなものとなって行く。エヴァは燃え盛る自分の棲家に目を移すこともなく、首を絞める私を見詰めながら「殺せ!」と叫んでいる。
 どうしてこうなってしまったのだろう。一体、アイリーンが何をしたと言うのだ? 流産は仕方ないにしても、他のことに関しては何の証拠もないはずだ。それなのに、何故私にアイリーンを殺させようとするのだろう。
 それは彼女が悪魔だからか? それだけで、殺せというのだろうか。
 私は神の存在が分からなくなり始めていた。家の中の聖書もきっと今頃燃えてるはずだ。そう思うと、何故か少しだけ気分が良くなりそうだった。

 アイリーンを殺さなければ、きっと二人揃って殺されてしまう。私だけが助かるために、この小さく愛しい命を奪えと言うのだろうか。そう思い続けている癖に、私の手には力がどんどん込められて行く。唇の端から涎を垂らし、苦しそうに喘ぎ始めるアイリーンを見て、私はたまらなく興奮を覚え始める。私のような、こんな生き物が生きていてはきっといけない。私は愛しい彼女の首を絞めながら生殖器に熱を抱き、自分の声が聞こえて気が付いた。私は笑っていたのだ。
 
「殺せ」という声を背に、牧師がアイリーンに聖水を振りかけながら悪魔祓いの聖句を絶叫し始める。私の中指と薬指の指先はアイリーンの皮膚の奥へと薄い肉を掻き分けて進んで行き、ついに首の骨を捉えた。捉えた骨に私は一気に力を込めようとしている。先ほどまで苦しげに歪んでいた顔はゆっくりと穏やかなものとなり、生きることを諦めたように安らかにそっと目を閉じ始める。アイリーン。愛しいアイリーン。どうか、私の記憶の中で生き続けておくれ。いつか残された魂と共に、私と死んで行こう。

 骨を捉えた指先に一気に力を込めると、数台の車が駆け込んで来る音が聞こえて来た。その音に「殺せ」の合唱は静まり返り、牧師も聖句を絶叫するのを止めた。私もアイリーンから手を離すと、彼女はその場に倒れて吐瀉物を撒き散らしながら咳き込んだ。足元にふと目線を下ろすと、地面に吐き出されたコーンが目に飛び込んで来た。コーンは白濁した粘液に濡れ、炎の灯りに染められていた。それを拾って食べてしまいたいと、私は感じていた。
 車からスーツ姿の男が数人降りて来ると、ストアで会ったあのリチャードとかいう男が牧師に駆け寄った。彼は少し離れた暗がりに牧師を連れて行くと、身振り手振りを交えながら牧師の耳元で何かを囁き始めた。神妙な面持ちの牧師が何度か頷くと、二人がやけに晴れ晴れした顔を浮かべながら肩を並べ、暗がりから戻って来た。すると、牧師は声高々にこう宣言した。

「アーノルドに宿った神の力により、アイリーンに取り憑いていた悪魔は無事に出て行きました! これにより、この街の穢れは全て祓われました!」

 牧師による突然の宣言にどよめき始めた街の人々だったが、牧師がそれ以上何も言わなかったのでやがて散り散りになって帰り始めて行った。
 帰りしな、人々は倒れたままのアイリーンを振り返って呪いの言葉を口にしていた。
 ストアで会った男は私に今後の手続きがどうとか言っていたが、私には全く聞こえていなかった。吐き疲れ、横たわるアイリーンを愛しく眺めていたからだ。
 こうして、アイリーンは私の夢うつつのうちに里親という名の次の場所へと売られて行った。

 私は自ら犯した過ちから目を背けておきながら、焼け野原となった庭先から一台の車が出て行くのを見届けている。いや、これは過ちではない。自らこの結末を選んだのだから、これは罪なのだ。神は見ておられるだろうか。いつか私に罰が下され、この身は地獄の業火に焼かれた後、魂をも滅ばされるのだろうか。それでこの罪を清算出来るのなら、それで良い。その時にはアイリーン、君も一緒だ。それならば、地獄の入口に立つ私には何の後悔も無くなるだろう。
 彼女は男の車に乗り込むと、ただの一度も私を振り返ることはなかった。

 私はその後、たった一人で老いを重ねることとなった。アイリーンの代わりに今度は私が嫌われ者となり、街で買い物をするだけでもだいぶ苦労をした。もうそろそろ寿命がやって来るが、行き先はどうせろくなもんじゃないと分かっている。あれから私は数十年間もの長い歳月をかけてアイリーンを探し続けたが、とうとう見つかることもないまま時を重ねるだけ重ねてしまった。いつかここへ帰って来るかもしれないと思い、あの男から受け取った金で家を建て直した。しかし、私の他の誰かが住み着くことすらなかった。
 窓の外に目を向けてみると、今日は新月だった。月が何処にあるのかさえ、分からなかった。まるで今の私を現しているようだ。
 彼女はもしかしたら、本当に月へ行ってしまったのかもしれない。そんなことを時々考えていた。彼女ならば有り得なくはない話だと、君達もそうは思わないか?

 全てが灰になってしまったために写真の一枚も残されていなかったが、私はとある画家を頼りに、ありし日の彼女の姿を残しておくことにした。記憶がまだあるうちに描いてもらったこの少女こそ、あの日のアイリーンに違いない。何かを無垢に知りたがる時、彼女はいつもこの表情を浮かべていた。
 画家は私の要望に合わせ、無表情で彼女を描き続けていた。その姿が紙の上に浮かび上がると、私は画家を分かりやすく褒め称えた。しかし、画家は何の反応も見せずに一心不乱に描き続けていた。
 記憶の中の彼女に似ているかどうかなど、もはや問題ではない。私はアイリーンの神に選ばれた容姿のみを愛していた訳ではないのだから。
 目を閉じると今でも思い出す。あの日、彼女が流していた涙は私だけが見ていたのだと。私だけが知っているのだ。それなのに、私はとうとう彼女をこの目に触れることさえ叶わなくなってしまった。

 あまりに歳を重ね過ぎた。そろそろ永い眠りが近付いて来たようだ。ライアン、おまえはどんな顔をして私を待ち受けているのだろう。いや、きっとおまえとは会えそうにない。それは到底、無理な願いだった。
 次に目覚めた頃に私が立っている場所は、きっと――。



【あとがき】

お楽しみ頂けましたでしょうか。
今回の舞台は海外となりました。読んでいて気付く人もいらっしゃるかと思いますが、舞台はアメリカの熱心なキリスト系信者の多い田舎町となっております。※具体的にどの街とか言えるほど、私、アメリカに詳しくはありませんのことよ(海外へ行ったことすらない)。

今回も無事、前回に引き続き三作品コンプリできやんした!いやー、どの作品も本気で打ち返そうと思うあまり頭がパンパンに詰まりました。
しかし、これだけ書くと書き手として本気で打ち返せたという実感があります。

今回はこの企画のルール決めなどの監修をしていた立場なので、ここで大枝が三作書かないと

「大枝とかいうあのボンクラ一体どうなってんだ💢ゴタク並べないでさっさと書けっつーの💢つーのつーののつのだひろー💢ずっこけボンバー💢ズコーッ💢」

という事態になりかねないので、本気も本気で三作品書かせて頂きました。
とは言っても元々は清世さんから投げられたものを全力で打ち返すのが趣旨ではあるので、今頃ガッツリ届いて殴られてくれていると良いなぁと思っています。

読了ありがとうございました!


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