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なんの話か分からないはなし

赤色のシートにカプセルが12錠。
偏頭痛に効くからと渡されたその薬は19歳の僕には何の効果ももたらさなかった。
ただ硫黄臭い匂いが身体の、それも血液の中から漂ってくるばかりだった。

偏頭痛も色々タイプがあるけれど、あんまり酷い症状になると血液の流れの音さえ煩わしくなる瞬間がある。
その中に流れる脂や不純物にも敏感になる。

背徳感に唆られるという人がいる。
あんまりにも多くいるし、多分これから増える気がする。
まともに生きて育った立派な作物の証拠なような気もする。

けど、背徳の中に居る人間達は決してオススメしないと思う。
背徳を調べると道徳に反することや倫理に背くこと、という言葉が真っ先に出て来る。

ほへぇー、なるほどなぁ!と思うけど、自分の半生を振り返ると背徳に頭のてっぺんまで浸かっているような人生だった。

まず生まれた家が背徳だった。
兄弟は上に兄二人、妹二人がいるが、僕が生まれる頃には両親の愛は冷え切っていた。
父の兄は保険詐欺で全国ニュースのトップを飾り、最期は警察病院で死んだ。
頭がパンチパーマで石を売る仕事をしていた父はカタギじゃない知り合いと仲良くなってからおかしくなった(らしい)。
僕が小学生になる前に色んな大人の人が家に来て注射器を持って腕をパンパンしてた記憶が今でも鮮明に蘇る。

サラリーマン家庭ではないし、親族にも企業勤めをしている人はいなかったのでその時点でもう「普通」が分からない。
父も母も帰って来ない家で兄達とホラー映画やメタルのPVを観ていた小学四年時に両親が離婚した。
父が再婚した相手は僕の友達の母だった。

それから母はちゃっかりスナックで出会っていた男性と再婚することになり、それが今の僕の父となる。

新しい父はガチガチの職人気質の人で、若干どころかだいぶ人に神経を使わせるような人間だ。

家の中に埃ひとつ落ちてるのを許さないし酒を飲まなければ冗談のひとつも言わない。
母が再婚することになり、新しい父が元嫁と暮らしていた家に母と妹二人と共に転がり込むことになった。

家は4LDKの大きな家だったけど、元嫁が暮らしていた部屋には鍵を掛けていた痕跡とそれを破壊した痕跡があった。
再婚した後に訴えられていたことを知った。

僕自身が普通の家で育っていなかったから「そんなもんだろう」と思っていたし、「そんなもんだろう」と斜に構える変な癖がついた。
それはとても良くないことだと今になって思う。
世の中に恒久的な「そんなもん」は存在しないからだ。

それに良いことも悪いことも何でもかんでも受け入れると頭がパンパンになるし、器用貧乏になるし、そのうち狂ってしまう。

あんまりにも狂っていたのか、親友の死や恋人を失くした24歳の僕は何もかもどうでも良くなってしまって自殺することにした。
誰も殺してくれないから自分で自分を殺そうと思ったのだ。
自殺は首の縄が切れて失敗してしまったけれど、生き直そうなんて思えなかった。
次はどうやったら気合いを入れてちゃんと死ねるのだろうと、そればかり思っていた。

その頃に思い返した事がある。
僕は生まれた時から他の兄弟に比べて大人達に眼前に屁でもぶっ掛けられるような扱いを受けていた。

父方の親戚には僕だけあからさまに無視をされたり、両親の離婚の際には親戚から「着てるものも買ったものもお前の金じゃないんだから全部置いていけ」と言われ、当時最先端(!)機能の付いていた学習机も着ていた服も全部置いて家を出た。
写真も持って行けなかったので、僕は幼少期の自分の姿を知らない。
家族でご飯すら食べた記憶がないのでそもそも写真があったのかも知らない。

長男が家を購入するにあたって男兄弟と今の父で手伝いへ行ったことがある。
父は木をプレカットする仕事が残っていると言って先に帰ったので、男兄弟三人で飯を食べることになった。
次男は元の父方の籍に残ったので戸籍の上ではもう兄弟ではないし、長男も婿入りしたので紙面の上に僕の兄はいない。
生まれて初めて男兄弟三人で飯を食ったし、それ以降一度も飯を三人で食ったことはない。
ちなみに今では兄二人の連絡先すら知らない。

その時兄二人にこんな質問をぶつけてみた。

「何で俺だけ兄妹で顔違うん?」

兄妹がいる中で「たけちゃんだけ顔が違う!」それは昔から周りから散々言われて来た。
兄二人は一重だし、妹達も一重。それに鼻も低いし外国の漫画に出て来る「日本人」みたいな風貌をしている。
けど、僕は日系外国人に外国語で話しかけられるくらい彫りが深くて二重だし、兄妹は色が白いけれど僕は地黒だった。

僕の質問に兄二人がラーメンを啜る手を止めて気まずそうに言った。

「たけしの本当の父親は……茨城かなぁ」
「佐川の日系ドライバーだっけ?」
「母ちゃん絶対言わないだろうけど」
「たけしは違うと思うよ」

それ以上は聞けなかった。
ある日、妹二人が「たけしくんは絶対にお父さんが違う!誰の子なの!?」と母に詰めよると、母は

「私の股から生まれたことには間違いないんだよ!」

と取り合ってくれなかったけど、それが答えの気もした。

今更自分の父親がどうとか知りたいと思わないし、そもそもそんな余裕はない。
自分が何者かなんて考えるのは無駄なことだし、自分を決めるのは自分でしかない。

これは余談だけど会社や行政で偉い立場にいる人間が外に出た時にその肩書きが外でも通用すると思い込んで電車の椅子で足全開にして座ってたり居酒屋やキャバクラで偉そうに店員に振る舞うのに反吐が出る。
そういう態度を平気で取るおまえらは外に出たらただの人間だということを忘れすぎだし、うっかり殺されても仕方ないと僕は思うし、殺されても哀れむ気持ちは浮かばない。
組織のルールや常識は一歩外に出たら非常識にもなり得る。知るか馬鹿野郎と言われれば、それでおしまいなのだ。
モテる=女とヤル という単純なスタートとゴールしか持てない人間の弊害だとも思う。

別に何か訴えたい訳でもないのでつらつらと書いているけれど、話はまた元に戻る。

偏頭痛が起きている時の症状というのは何も痛みだけではない。
自律神経が狂うから普段聞こえないような遠くの水滴の音が気になるし、スマホの光が太陽のように感じることさえある。
肌が熱を知覚することすら不快に感じるし、横になっても頭の自重を感じるのでそれがまた不快になってゲロを吐く。ゲロを吐くと動脈が活性化するので神経が圧迫され、脈を打つたびに激痛に襲われる。
けれど血圧は下がるのでのたうち回る元気すら失くして、激痛の中ただただ知覚する全ての感覚が不快になる。
何かを感じることが不快なのに、脳の神経も狂うのか突然小学校の頃のどうでもいい記憶や思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返す。

こんな夜を何百回と繰り返していると、悪いことがしたくなったり現実逃避したくて違法薬物に手を出す人が羨ましいと思えたりする。

重度の偏頭痛持ちになると違法薬物を身体に入れる元気すら湧かなくなる。原因はそれが引き金になって死ぬ可能性があるからだ。

なので自分の人生で胸を張って言えることの一つに違法薬物は一度も摂取したことがない!というのがある。

今は全身麻酔で手術さえした極悪偏頭痛をロキソニン一本だけで抑えることが出来ている。
カップラーメンは食べるけど自炊はしようね!の食生活と、後頭部、首への熱刺激、筋肉を使うことがとっても死ぬほど死なない為に大事なのだ。

何をどうしたらこうなる!は人によってそれぞれなので探してもらうとして、重度の偏頭痛持ちの人はそういうセミナーとか健康法とかに騙されないようにして欲しいと祈るばかり。

何の話か分からないことをぐちゃぐちゃと書いたけれど、偏頭痛の渦中にある時はこれらの記憶や言葉ではない頭の中のイメージとしてのお喋りが1〜2分くらいババババー!っと脳内を駆け巡るのである。

今は中年になったおかげで頻度は減って来ている。

他人にとってはどうでも良いことが素晴らしいなぁと単純に感動したりするのも普通じゃない中で生きて来たからなのかなぁと思うとプラスマイナスゼロくらいにはしてやろうという気持ちにもなる。

当たり前のことがとっても嬉しいし、今は隣にいてくれる人の存在をしっかりと感じている。
その人とどうこうあってほっこりした、というエピソードはnoteっぽいので他の人にお任せする。

今の僕は元の父親以外の誰も恨んだりしていないし、恨むほど暇ではない。
まだまだ、目に映る世界がすべて忙しい。 

明日死にたくないな、とだけ言っておく。

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