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ギックリで腰が爆発した、というおはなし

冬が全国で暴力を振るってますが皆さん無事にお過ごしておりますでしょうか?
僕はコロコロを掛けながら歩き回っているうちに自分の中年脂足が付けた床の足跡が気になり(名探偵コンナン君がいたらきっと何かしらのトリックの何かになりそうな証拠!)、足跡にコロコロをかけてはまた足跡を付け、またコロコロを掛け、を繰り返しているうちにお正月が終わりました。
ええ、ほんのジョークでございます。 

笑えよな!!!!!!

はい、チルでエモな新年の挨拶が終わった所で今日の本題。

少子化対策やベアアップ問題、そして今なお続くウクライナ侵攻。
世界を取り巻く状況は日々移り変わりますが、皆さんギックリ腰になったことはありますか?
あの腰の辺りに電撃を喰らったかのような痛みが走る、アレです。

僕は今から十年ほど前、物流の仕事をしている最中にギックリ腰になった。
メンバーの中でも比較的若かった僕は同僚やドライバー達がギックリするたびに

「年老いると大変だなぁ」

なんてまるで他人事のように日和見をしていた。
毎日広大な倉庫の中を歩きながら50kg〜60kgもあるエアコン室外機を出したり引っ込めたりしていたので足腰は強い方だったし、当時の僕は筋力にはそれなりに自信があった。

みんなが腰をいわしてヒーヒー言う中、ふへへへへ!ふははははははは!と、俺には生涯関係ないばりに静観していたある日、ついにそいつがやって来た。

なんとなく置き方の雑さが気になった「ビーバーエアコン室外機・38kg」を直そうと室外機の箱に巻かれているバンドに指を伸ばし、引っ張り上げたその時である。

コスゥーーーーーン!!

という感覚と共に一気に腰が抜け、その直後に声さえ出せないほどの激痛に襲われた。
例えるなら、そうだなぁ、えっと、うーんと、あのねー、えっどねぇ……

「腰に抜歯必須レベルの極悪虫歯が越して来た」

である。
しかも、なんら予兆もなく突然お引越ししなすって来やがったのである。

おいおい、まさかこの物流たけちゃんがギックリ腰なんて……まさかまさか……。
と、思いながら腰を2cmほど捻った途端、今度は腰で爆弾が破裂した。

うげええええええええええ!!
いたぁぁぁああああああああいん!!
ぎゃああああああいああああああ!!

と叫んだ僕であったが、倉庫がバカ広い割に人員が4〜5人しかいないので誰にも気付かれないのである。
腰を動かせば悲鳴が上がる。しかし、ここから動かないとなるとビーバーエアコンに指を掛けたまま僕はこの場で一生を終えることになる。

その時、ビーバーエアコンに指を掛けたまま老化して行く自分を想像し、おむつを履きながら看護婦さんに
「はーい、お食事ですよー」
と、何やらゲル状の食事を口から伸びたチューブにドロドロと入れられる未来が頭に過った。
こんな時ばかり想像力が無駄に花を咲かすのである。

ごんな所でじにだくないッッッ!!!!

と思った僕は何とかケツポケットの中から社用PHSを取り出し、♯0を押した後、館内アナウンスモードに切り替えた。

「業務連絡です……〇〇部の宮内さん、〇〇部の宮内さん。支給Bエリア4までお越し下さい。業務連絡終了します」

何処に誰がいるかも分からず、おまけに携帯電話はロッカーに置いて来ていた為、僕は信頼のおける同僚・宮内さんを館内放送で呼び出した。
血相を変えながらすっ飛んで来た宮内さんが

「何かやっちゃいましたか!?」

と訊ねて来たので、僕は腰を指さして

「お願いです!俺の腰を親の仇を取る勢いで指圧してもらえませんか!?」

とお願いした所、見事に「は?」とポカンされてしまった。
それはそうである。わざわざ館内放送で呼び出しをした同僚がビーバーエアコンのバンドに指を掛け、腰を屈めた状態で「腰を指圧しろ」と言っているのだから、訳が分からないのも当然だ。

「あのぉ……多分ギックリ腰になったみたいで……」
「ええ!?お、押せばいいんですか?」
「はい、親の仇を取るつもり、または社長を殺すつもりでお願いします……」
「分かりました!いきますよ!ふぬぬぬぬぬ」
「んぐおおおおおお!」
「ふぎぃぃぃぃいいいいい!!」
「ふんげええええ!もうちょい下!もうちょい下!」
「うおおおおおおおおおお!」
「うんぎぃぃぃいいいい!ぎもぢいいげど痛いいいいい!!」
「ふんがああああああああ!!あー!!もうダメです、これ以上は無理です……はぁ……はぁ……」
「…………ありがとうございました。痛いです……」
「ちょっと……人呼んで来ます……」
「お願いします……」

力尽きた宮内さんはフラフラと仲間を呼びに行き、彼らはコロコロ付きの椅子を持って現れた。
ゆっくりゆっくりその上に乗せられた僕はそのまま病院に行くことになったものの、立ち上がることは出来ない。
たまたま事務所に居た営業担当が車を回してくれる事になったものの、トラックバース(倉庫内で荷物を積んだり降ろしたりする為に接岸する部分)に車を回しても僕は椅子に乗ったままそこへ降りるのは困難であった。
スロープはあったけれどストロークが長過ぎるのでブレーキのないコロコロ椅子では加速した大枝君がトラックに撥ねられて死ぬんじゃないか?ともなった。

なので、僕は椅子に乗ったまま退勤することになった。
コロコロ椅子に乗せられて事務所でタイムカードを切れば心配の声よりも笑い声の方が圧倒的に響き、その頃「ちょっと良いな、ぐへへ……」と思っていたいつもは鉄仮面みたいな表情のSさんでさえ、椅子に座りながら「カードが届かないよぉ!痛いよぉ!代わりに押してえええ!」と必死にタイムカードを切ろうとする姿に堪らず噴き出す始末。

盛大な笑い声を浴びながらグスンしつつ、事務所を出ようとすると出口に待ち構えていた警備員があんぐりと口を開けて立ち上がった。

「どおしたんですか!?」
「あの……ギックリ腰で退勤です……」
「それは大変ですね……では、ボディチェックしますんで立ち上がって下さい」
「はぁ!?」

今度はこっちがあんぐりと口を開けた。
それは大変ですねと言っておきながら立ち上がれとは何事だ!斬り捨て御免!と思ったものの、立ち上がることの出来ない僕は抗議した。

「見ての通り、立ち上がることが出来ないんですよ」
「うーん、困りましたねぇ。しかし、このままの姿勢ですと椅子に探知機が反応してしまいますしぃ……」
「うーん……」
「うーん……」

ちなみに何故帰りしなに金属探知機を掛けられるのかと言えば、物流倉庫とは言えど扱うものの中にはゲーム機や高級腕時計などもあった為、不埒な輩が不埒なことを行うことが多々あったからだ。
この退勤時の「金属探知機ボディチェック」の為に帰りには長い長い行列が出来るのが恒例で、後方に並ぶ人が帰りのバスに乗れずに怒り狂うのも良く見る光景と一つと化していた。

さて、問題は金属製の椅子に座ったままの僕にどうやって金属探知機を掛けるのか?である。
答えは簡単だった。

「そうだ!」

と、何やら名案を思いついた様子の宮内さんが事務所へ戻り、中にいる数名に声を掛け始めた。
その数秒後、どかどかドヤドヤとスーツ姿の野郎共が現れるや否や僕を取り囲み始め、野郎共は僕のベルトを掴んで

「せーのっ!」

と掛け声を出したのであった。
宮内さんはこう考えた。
座ったままボディチェック出来ないなら、無理にでも立たせれば良いじゃない、と。

せーのっ!の掛け声の直後、僕は野郎共に無理に立たされ、肩を借りた操り人形のような格好になった。
なんてったって腰を動かせないものだから、足も迂闊に動かせないのである。
僕を前へ前へとグイグイ押し出す野郎共のおかげでボディチェックは無事に開始されたが、またしても問題が起こった。
手持ち型の金属探知機が僕の股間辺りに差し当たった瞬間、辺りにバカでかい警報音が鳴り響いたのである。

ピィーーーーーーーーーッ!!!!!!

「ええ!?」

これには全員、呆気に取られた。
なんと手助けしてもらった挙句、ボディチェックに引っ掛かかってしまったのである。
警備員さんは首を傾げながら何度も僕の股間に金属探知機をかざしピーピーピーピー鳴らしたものの、何度かざしてみても音が鳴り止まない。
ポケットの中のものは何もなく、裏返しにしてもなおピーピーは止まず、ベルトを外すハメになった。
しかし、それでもピーピーは鳴り止まない。繰り返すピーピーに次第に不安げな表情になる面々、そしてピーピー鳴るたびに疑いの目を微かに向け始める宮内さん。

僕はなんにもやってないよう!無実だよう!

そうやってピーピーの中、心でいくら叫んでみても、金属探知機は僕の股間を通るたびに「ピッ!」と小気味よく、そしてテンポよくピッ!ピッ!と警報音を響かせるのであった。
金属探知機を動かす手を止めた警備員さんは、僕にこう告げた。

「ちょっと申し訳ないですけど、ズボン脱いで下さい」

なんという仕打ちだろう。ギックリと腰をいわしてヒーヒー言ってる男に、さらにズボンを抜いで醜態を晒せとは!
しかし、この難問を突破しなければ医者にも行けず、椅子に座ったままここで老後を迎えることになる……と思い込んだ僕は野郎共に協力して頂き、警備室でズボンを下ろしてもらうことになった。

みなさん、夕陽に照らされたこじんまりとした警備室で三十路の男を四十路の男三人が囲みながらチャックを下ろしたりズボンを下ろしたりする光景を思い浮かべてみて欲しい。

なぜか泣きそうになりはしないだろうか。

腰は痛いわ恥ずかしいわで僕は半ベソを掻きながらもみんなのおかげで無事にパンイチになり、金属探知機の羞恥地獄をなんとか乗り越えた。
(原因はズボンのチャックだったのでした)

再びコロコロ椅子に座った僕はそのまま駐車場まで転がしてもらい、晴れて無事に病院へ運んでもらい、ブロック注射を六か所打たれて痛みからの逃避行を果たしたのである。
病院の帰りは痛みから解放された嬉しさのあまり

「あとは歩いて帰るから大丈夫です!」

なんて調子付いて答えてみたものの、家に着く頃には早くも注射の効果が切れ掛けてしまい、痛みでうっかりウンコを漏らしそうになりながらもなんとか歩いて帰った。
次の日、そしてその次の日も休んで三日目に職場へ行くと、僕専用の移動用コロコロ椅子とPHS、そして歩けなくなった僕の為のお仕事(山積みの書類)が置かれていたのは言うまでもない。

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