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物語を書く上での「リサイクル」

僕は私小説家ではないけれど、作品を書く上で自身のそれなりの経験や記憶を投影することが多々ある。
大体、超絶スピリチュアルモノカキでもない限りはみんなそうだと思う。
時には「いやいや、こんなシチュエーションねぇわ」と自分の記憶にもないことを書く場合には、該当するモデルの脳内に入り込んでみるフリで、多分こんなことを考えているんじゃないかとその人物を憑依させて書くこともある。

僕の作品は頭のおかしなジジイやババアが出て来るお話しが多々あるが、これがそのパターンに当て嵌まる。

その昔、コンビニでバイトをしている時にあからさまに廃棄に出した弁当がゴミ捨て場から消え去ることが幾度かあった。

僕が犯人と出会ったのは出し忘れていた廃棄のゴミ袋をいつもと異なる時間に出した際のことだった。
弁当を捨て置く物置には鍵は掛けられておらず、盗まれるような環境にあった。

何の警戒心もなくガラガラっと深夜の物置を開けてみると、そこには懐中電灯でゴミ袋を照らす冴えないガリガリのオッサンの姿があった。
その異様な姿に妙な化け物感を覚え、僕は絶叫した。

「ぎゃあー!な、何してんすか!」

オッサンは懐中電灯を放り投げると、拝み手になって僕にこう言った。

「オーナーからここを掃除してくれたら持って行っていいって言われてるんです!ほんとです!聞いてくれたって構いません!許可をもらってるんです!」
「はぁ……そうですか……そういうことなら、これもどうぞ」
「すんません!ほんと、すんません!」

僕が物置にブチ込む予定だったゴミ袋を受け取ったオッサンは、まるで僕を神様でも見るみたいな顔になって何度も何度も頭を下げ続けていた。

それから一時間もしていつもニコニコ顔で大スケベが取り柄のオーナーがやって来たので、念の為と思って報告しておいた。

「オーナー、廃棄取りに来たオッサンに会いましたよ。掃除したら持って行ってイイって、オーナーも優しいトコあるんですね」

ニコニコ大スケベはスン、と笑顔を鎮め、顔の下から徐々に額までが蒼ざめて行った。
そして、握っていた財布をポトリと落とし、こう言った。

「誰それ……知らない……」
「えっ!」

と、まぁそんな具合にオッサンにまんまと僕は騙されたのであった。
それからヤサを変えたのか、オッサンが姿を現すことはなかった。
けど後になってから騙されたことに無性に腹が立ってきた僕は、オッサンに代わって廃棄弁当を盗むようになった。
その時共に働いていた「ワシは一ツ橋に入るんです」と吹いていた四十過ぎのアルバイトは発注ロスをオーナーにキレられることを恐れ、廃棄が出そうになる寸前で弁当を隠し、自腹を切っていた。

テメェがいたら廃棄が盗めないじゃないかとまたまた腹を立てた僕は一ツ橋の行為をオーナーにチクると、一ツ橋は怒り狂ったオーナーに
「どうりで毎度毎度売れ残りがないと思ったんだ!おまえの所為でまともなデータが取れねぇじゃねぇか!!」
とブチ切れられ、土下座までさせられていた。

これは実体験ではあるけれど、視点を変えるとオーナーにも一ツ橋にもオッサンにも、主人公になる機会は与えられる。
こうすると一個の体験で幾つもの創作が出来上がるので、僕はこれを勝手に「体験のリサイクル」と名付けている。

元手の掛からない小説ですが、案外こういうエコな部分もあるんですよ。
地球に貢献して行きましょう。

ではでは。





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