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【短編小説】 気狂い小径 

 小学五年時。友達、百人。
 クラスのみーんな、みーんなが私の話しに食いついて、目を見開いて、息を飲んでいたの。何度思い出してみても、たまらないの。あの空間、そして、あの快感。

「つまり、みんなも、お母さんもお父さんも、おじいちゃんおばあちゃんも……一九九九年の七の月に、滅亡してしまうの!!」

 当時私だけが知っていた「ゴクヒ」情報に、みんなは恐怖していたわ!

 それからしばらくして、テレビのスペシャル番組でノストラダムスの大予言が放送されてからというものの、私の人気は神秘性を帯びながらウナギ昇りになっていったの。。。ううん、違う。ウナギどころなんかじゃない。

 そう、ウサギ。ウサギのぴょんぴょん昇り! って感じなくらい、私は大人気者になったの。

 中学一年時。友達、軽く二百人。
 ノストラダムスの予言のことは、地元の関真堂っていう本屋さんでノートを買った時に、お店のおじちゃんが私を怖がらせるために言ったの。

 でも、今度その予言が書かれた本が出るって教えてもらったから、私はみんなにテレビより先に予言を教えてあげた。
 だから、中学校では入学早々こんな噂が広まっていたの。

「七瀬ってヤツ、小学校の時にノストラダムスより先に人類滅亡のこと言ってたって、知ってる?」
「聞いた聞いた。どうやら本当らしいぞ、スゲーよな」
「うん……そういうのって、やっぱ占いなのかな?」
「占いとか……出来るのかな?」

 そこでヒソヒソ噺なんかして、怯えているお坊ちゃんたち。
 私がた~っぷり、占ってあげちゃう。
 なんて頭の中でおしゃべりしてたんだけど、「占いとかできるの?」って声を掛けられて、ほんとに占うことになったの。

「私が出来る唯一の占いってクトゥルフ占いだけど、いいわよね?」
「クトウフ? 何それ?」
「エジプト式の神秘術なんだけど、キミ達に言っても分からないか……まぁ、いいわ。右手を私の左手の上においてみて」
「うん、わかった」

 それって、行き当りバッタリのデタラメなんかじゃないの。その場にピーンって、直感で私に霊性が降りて来ただけ。
 初めて占った馳川君って男子はサッカーをしているって知ってたから、右脚の骨がバキバキに砕けて、膝から骨が飛び出して、その骨が焼け焦げてしまう恐ろしいイメージが湧いたの。だから、「怪我に気を付けて」って、それだけ伝えたの。

 そしたらその二週間後に、馳川君は学校帰りに背中をアシナガ蜂に刺されてしまったらしいの。
 次の日は、もう大変。興奮気味の彼がみんなに「七瀬の占いが当たった!」って言いふらすものだから、私は望んでもないのにすっかり大人気者になってしまいましたとさ。

 もう、自分が大人気になることくらい占えないなんて、あの頃の自分は本当ドジッ子だったなぁって、大反省。

 先輩たちまで占って欲しいって教室にやって来るもんだから、もう大変。
 学校で知らない人はいなかったし、他の学校にも友達が増えたの。 
 だから、友達は軽く五百人は越えていました。事実です。

 時は変わって高校三年時。友達、五十人。
 段々大人に近付くにつれて、表面上みんな私とまともにお喋りをしてくれなくなったけれど、ぜーんぜん、違う。

 霊性の高い子たちばかりが残ったから、心の中でみんなとお喋りするようになったの。
 テレパシーに距離は関係ないから、中には兵庫の方にお引越ししたお友達が話し掛けて来ることもあったの。
 それも、授業中、、、ありえない、、、よね?

「ちょっとー! マイったら授業中はヤメてって言ったじゃん! 次ワガママ言ったらルシファー飛ばすからね!」

 なーんて、うっかり授業中に叫んじゃうことも何度もあったの。
 でも、クラスのみんなは冷静そのもの。だって、中学校から私の霊力を知っている子もいるし、心の中でいっつもみんなとお話ししてたから、誰も驚きなんてしなかったの。

 でも、先生だけは違った。黒板にチョークで意味不明な教義を書いてる手を止めて、わざわざ声を掛けて来てたの。

「七瀬、おまえ大丈夫か」
「はい。ご心配なく」
「おまえ、これで何度目だ。みんなの迷惑になるから、おとなしく授業を聞いてられないなら出て行ってくれて構わないんだぞ? みんな受験だって控えてるんだ」
「そんなこと思っているの、先生だけだと思います」
「なんだと?」

 先生はびっくりしてたっけなぁ。
 それで因縁をつけられてしまって、進路相談の時なんかはこっぴどく当たられてしまったの。先生は、私の才能が怖かったみたい。

「七瀬、おまえこれからどうするんだ。進学なり、就職なり考えないと……」
「あはは。私には関係ありませんからぁ。だって、一九九九年の七の月には、みーんなキレイさっぱり……死んでしまうんですもの」
「いつまでも子供みたいな言い訳してないで、本気で考えたらどうなんだ!? その女みたいな喋り方もヤメろ! 男ならな、シャキッとしろよ!」
「いいえ? 私は神の申し子ですから。中性、とでもいいましょうか」
「バカかおまえは! 股にでっかい金玉ふたつ、ついてんだろ! 男らしくあれよ!」
「いいえ? これは性的エネルギーを溜めておく変換」

 その直後に、ブン殴られたの。周りの先生たちは止めるどころか

「おまえなぁ、男だろ? いい加減責任ってものを感じろよ。そんなんだと、大人になれないぞ」

 なーんて、私への嫉妬で気が狂ってしまってるからそんな負け犬みたいな言葉しか私に掛けられないでいたの。ほーんと、おかしな大人ばかりの学校だった。

 二十歳。友達、三人。
 成人式に行こうとしたら、母に止められた。

「なんでよ?」
「おめぇな。働きもしねぇでフラフラしてるって噂になってんの、わかんねぇか?」
「それが成人式と、どう関係あるのよ」
「七瀬んトコのオカマは気が狂ってるって、みーんなで噂してんだど? 悪いこと言わね。家にいろ」
「残念だけど、関係ないわね」

 母はその二年後に脳卒中で天国へ行ってしまったけれど、今思えば母の言うことを聞いておくべきだったかもしれないわね。
 だって、あの日から私を脅かす「あの存在」に直面してしまったんですもの。

 成人式の会場に着くと、私は同級生たちから散々ひどい言葉の数々を浴びせられたの。  
 嘘つき、プー太郎、オカマ、キチガイ、バケモノ……。
 みんなから「よく顔出せたな」なんて言われた挙句、ヤンキー上がりの集団に会場の裏へ連れて行かれたの。
 レイプされる! って思ったけれど、もっとひどいことをされたの。

「七瀬。今すぐに街を出るか、今からここでヤキ入れられるか、好きな方選べ」
「なによそれ。私が何をしたっていうのよ」
「こっちゃあよ、朝から晩まで身体使って働いてんだ。おめぇみてぇにフラフラしてるオカマ見てるとな、ムカつくんだよ」
「関係ないじゃない、そんなの」
「関係あんだろ。誰の街だと思ってんだ、コラ。男の癖に振袖なんか着やがって、気持ち悪ぃんだよ!」
「なによ!」

 密かにレンタルしていた振袖はビリビリに破かれて、リンチされて全身が痣だらけになったわ。男の子も、女の子も、ズタボロの私が会場の裏から姿を現すと手を叩きながらこう叫んでいたの。

「かーえーれー! かーえーれー!」

 その声はヤンキー上がりたちが囃し立ててから、すぐにこんな風に変わったの。

「でーてーけー! でーてーけー!」

 初めて占ってあげた馳川君まで、同じ風にして楽しそうに手を叩いていた。
 私は悔しくて悔しくてたまらなかったけれど、その時にまたピーンと神様の霊性が私に降りて来たの!

『その者らの名は、サタンである』

 そう、そうだったの! 実は、あの街は魂そのものをとっくの昔にサタンに捕らわれてしまっていたの。
 だから、私はサタンに染められる前に会場を逃げ出したの。
 ボロボロになった振袖の料金は母に払ってもらって、お金も拝借して、私はすぐにあの忌まわしい街を出たの。

 三十五歳。友達、なし。
 一九九九年の七の、最後の日。
 私はようやく出店した占いバーのカウンターの中で、売り上げと何度も何度も睨めっこしていた。
 どう計算しても、来月やって行くことが出来そうになかった。

 それもこれも、私の道を邪魔しようとするサタンの所為だっていうことは分かっていたけれど、私の想像以上にサタンはしつこくて邪悪だった。

 来る客来る客、みーんな初回で私を見るなりげんなりした様な顔を浮かべて、サービスで占いまでしてあげてるのに、会計になると苦虫を潰したような顔で暴言を吐きながら帰っていっちゃうんだから、本当サタンの勢力ってトコトン嫌になる。

 だって、占い込みのテーブルチャージ料金、たった二万円よ? たったの二万円でノストラダムスより先に滅亡を世の人間に知らしめたこの私の占いを受けられるっていうのに、みーんなシケたツラ浮かべて……それに、やさしかった街の人もみんな私がお店を出した途端に嫉妬が原因で冷たくなった。

「ねぇ、ナナちゃん。悪いこと言わないから、いい加減ボッタクリやめたら?」
「何よ、うちはボッタクリなんかじゃないわよ」
「シンちゃんの店で働いている時は「素直でいい子だわぁ」ってみんな言ってたのにねぇ……呆れた」
「ふん。勝手言ってな!」

 ほ〜ら、出た。また、嫉妬。
 私に対する嫉妬は、サタンが相手の心にそうさせているから必ず起こるの。
 あーあ、嫌~なこと思い出しちゃった。やだやだ……なんて思っていると、いつの間にか七の月が八の月に変わっていたわ。

 私は、この目を疑った。テレビは普通に深夜放送を続けていたし、ラジオだって普通に流れてた。
 あれだけ予言されていたのに、世界には滅亡の「め」の字さえ、やって来なかったの。
 もうビックリし過ぎちゃって、それで、お店を閉めることにしたの。

 五十九歳。友達、ナシ。医者一名、看護士、複数名。
 酒で壊れ掛けた身体に、サタンが漬け込んで来たの。腹水が溜まって、何度抜いても抜いてもこの身体は私の言うことなんか聞かなくなり始めている。

 でも、最近嬉しい真実が判明したから私はルンルン。へっちゃらへの字で、大丈夫なの。
 一九九九年の七の月。ほんとのこと教えてあげるけど、、、実はみんな死んだの。可視出来ないレプテリアン製のステルス性巨大隕石の衝突が、原因だったの。。。

 今みんなが生きている世界は滅亡しなかった外宇宙の世界で、元々暮らしていた真実の世界じゃないの。
 お日様も、お星さまも、みーんな、嘘なの。
 あれは地球上の魂を一時的に外宇宙へ逃がしてくれたケンタウルス星人が見せているプロジェクター映像なの。

 最近、すごく色んな映像技術が進化してるでしょ? あれは、みんなケンタウルス星人から人間が「ゴクヒ」で入手したからなの。
 UFOの目撃情報が各地で増えているのも、UFOが沢山やって来ているんじゃないの。
 私たちがUFOの飛び回る世界に連れて来られてしまっただけなの。
 でも、、、ほんと、どこまで逃げても、人類は外宇宙にまで来たっていうのに、サタンったらしつこいったらありゃしないの。

 今は毎日毎日、病院のベッドから同級生たちを片っ端からSNSで探しまわって、見つけると一九九九年七の月の「真実」を教えてあげる活動をしているの。
 だって、ほんとのこと教えてあげないと可哀想だし、何よりも私がカンチガイされっぱなしって、シャクにさわる、、、じゃない、、、?
 私を嘘つき呼ばわりしていたこと、みんなだって今この瞬間も、大きな罪の意識を感じて苦しんでいるはずだもの。
 だから、私はもう何も気になんかしてないから早くこの世界の真実に気付いてねって、そんな赦しを与えてあげているの。

 百人近くにメッセージを送ったの。
 でも、まだ一度も誰からもアクションがないのはサタンが最新の電波技術で妨害工作を行っているからで、メッセージを送る時はいつもこの病院の住所と病室番号を伝えているの。
 まだ誰もお見舞いに来てないんじゃなくて、みんな来たくても来れないだけなの。かわいそう。

 だって、この病院に来ようとすると時空が歪んでワープされてしまうし、初めて占ってあげた馳川君はメッセージを見て「あ!」って気付いて恩返しをするためにここに向かったんだって、その動きを確実に見ていたって私の霊性が教えてくれたんだもの。
 それに、テレパシーで馳川君が私に「会いたい! 会いたい!」って叫んでる声が、ちゃんと聞こえたんだから間違いないの。

 でも、看護士に聞いたらお見舞いはダメだって言うの。ほんと、ここの人間は嘘つきばかりで謎。
「面会できるようにがんばりましょう」って、いったい、私が何をがんばるっていうの? 

 私しか世界の真実を知らないのに、あんたたちは所詮サタンに唆されてる悪魔の餓鬼共だっていうのに、一体私の何が分かるっていうんだよクソったれのアバズレ共がよどうせ朝になってダラダラ起きてテキトーにクスリ打ってヘラヘラダラダラくっちゃべって家に帰ればどうせ暇だから男漁りしたり韓国ドラマ観たりするくらいしかやることがないっていうのに私の才能と霊性に嫉妬しか出来ないから現実逃避して徒党を組んで私の悪口ばかり言ってんだろうがよ! この前だって私のマグカップがなくなったって、てめーら無能が「七瀬さんがマグカップがないって大騒ぎしてた」って医者に告げ口したせいでクスリ増やされたんだから覚えてろよクソガキ共がよあの医者には絶対にエンジェルの加護がついててカッコイイからちょっといいなぁって思ってたのにてめーらが私の評判を貶めようとするからあの医者にサタンがのりうつって私を見る目が変わったんだ! それをぜーんぶ私のせい! 私のせい! どうせ私の人生が狂ってるって、私のせいにするんだろ! 神を信じない共産主義の豚野郎が死ね! なんで私が命の危機にさらされなきゃいけないんだ! おかしいのはあんたたちだ! 私はいつだって私が正しいと思ったことをただやり遂げてきただけなのに全て無視して霊性を失ってサタンに捕らわれ続けているのはてめーらの方じゃないか! それを私のせいにする! サタンの電波ばかり飛ばしていつも裏で工作して私を貶める! その事実を言っても誰も聞いてくれないのはあの看護士たちも医者もこの病院もグルだから電波を秘密裏に操っている裏政府の犬同然の連中なんだ! 電波を止めてくれって私が真剣に困って言ってるのにいつも言うことを聞かない!!!! 笑いながらナースステーションの陰に設置した発信機から電波を飛ばし続けてるから、わざと看護士同士のお喋り、それも私の悪口を言って笑っているのを一時間に三回も四回も脳内に飛ばしてくる! 悪魔の病院だ! サタンの手先だらけの人間廃病院だ!!!!!!!!! レクレーションルームで日向ぼっこのフリをしてる三〇五号室の今川のジジイはジジイのフリをしたレプテリアン監視員で看護士と協力していつもいつも私のことを監視している!! 私の歯ブラシにマクロ盗聴器が仕掛けられてることをこっちは気付いてるんだからな!!!! だから二週間も歯磨きしないでこっちは我慢を強いられてる!! あの連中は毎日毎日私が話したことをヒソヒソ話してる! 心の中も読まれてる!! この前三枚あったはずのテレビカードも私が嫌がらせされているから、知らない間に二枚に減っていた。私が大変な身体をなんとか動かして探したら冷蔵庫の上のほんとに小さなスペースに移動していた。嫌がらせしたのは検診のときに心の中に悪口を飛ばして来た看護士の石井ってことは分かってる!! こっちはぜんぶお見通しで知ってるんだからね!! テレビカードをサタンテレポーテーションさせた看護士の石井が死ねばいいのに私に心の中で「早く死ぬように呪ってます」なんて言って来た!! こんな場所デタラメ病院だ!!
お酒をずっと飲んでたから、ほんとに少しだけ進む道を間違えただけなのにこんなに外れた場所に来るなんておかしい! こんな目に遭うなんておかしい! サタンにやられた真実を伝えてもみんなサタンだから言うことを聞いていないふりをしてる!!

 クスリが効いて来た(効かされて来た)。 

 もうすぐ、私の沢山の友達数百人がが光の戦士の衣をまとって、この病院に大挙してやって来るイメージが出来ている。
 光り輝く精神の剣と、聡明の盾を装備しているから、サタンが怯えて逃げて行くのもハッキリと見えている!
 だから今だけ、この病院のサタン共には好きなようにやらせているだけなんだけどね、、、。
 それも私の霊性が高いから、耐えられているに過ぎないんだけど、、、。

 あ、高校の時の世知子ちゃん見つけた。

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