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再び、心がなごむひと時

まさか同じ看護師さんに当たるとは!


  約1年前のことだ。
 病院で採血された時のことを
   心がなごむひととき
と銘打って投稿した。


 詳細は上記投稿を見てもらえば分かると思うが、要は
   採血をした女性看護師の下の名前
   に興味が沸いて、何と読むのか尋
   ねてみたところ、とても喜んで将
   棋好きの父が「歩」とつけて「あ
   ゆみ」と読むことを、嬉しそうに
   話してくれたこと
を素材に、採血という緊張する時に味わった
   心がなごんだひと時
を文章にしてみたのだ。

 相変わらずその病院には定期的に通って採血をしてもらっているが、それ以来彼女と顔を合わすことはなかった。
   まあ、大きな病院でもあるし、
   一日に何百人と採血するはずだ
   また同じ看護師さんに採血して
   もらうなんてないだろう
そう思っていた。
 おまけにコロナ以降、今や病院職員はもとより、患者まで全て病院内ではマスクをする時代だ。
 私でさえ、ろくに彼女の顔を覚えていない。
 ただ彼女とのやりとりだけが、爽やかな思い出として残っているだけだった。

 ところが、ところがである。
 数日前その病院に行って名前を呼ばれ、採血台の前に行った私の前に立っていたのは
   「歩」
という下の名前の名札をつけた女性看護師だった。
   まさか・・・
   えっ?あの時の看護師さん?
と思って彼女の顔を見たが、全然覚えていない。
 おそらく彼女もそうだったのだろう。
 前回同様、最初はクールな顔で、採血前のマニュアル通りの質問をする。
   確認のため、名前と生年月日を
            お願いします
   アルコール等のかぶれは
            ないですか?
など、てきぱきと聞いてくる。
   むしろ私の個人情報を知っている
            彼女のほうが覚えているかなあ
と思い名前を告げたが、全く反応はなかった。
 そうであろう
 たとえ一時的にやりとりが記憶に残ったとしても、一日に何百人もの採血をするはずだ。
 いちいち患者の顔と名前など覚えていないだろう・・・
 私が若いイケメンならまだしも・・
 でもこれだけの大病院だ。
 ひよっとしたら、姓は違っても同じ「歩」という名前の看護師が別にいるかもしれない。
 前とは違う「歩」さんかもしれない。
 
 そこで私は考えた。
 彼女が前回と同じ看護師さんであるかどうか確認するために。
 「将棋好きな父がつけてくれた名前」というのをヒントとして話しかけてみようか。
 そう思って、採血されながら声をかけてみた。
「あなたの名前、将棋の「歩」からつけたのかなあ?」
と、さりげなく・・・
その瞬間、彼女の顔が和らぐのが分かった。
   当たり
   同じ人だった
と内心ガッツポーズ。
 ところが、次の瞬間ガックリした。
「よく分かりましたね
 実はもう1年くらい前にも、患者さんから名前の由来を聞かれて嬉しくなり、思わず将棋が好きな父がつけてくれたとプライベートなことまで話したことがあるんですよ」
   えっ
   それって僕ですけど
と内心思ったが、顔には出さずに
「そうだったんですか」
と・・・
 それでも彼女は以前話した相手が私だとは気づかぬらしく、その後のことまで話してくれた。
「やっぱり人から名前の読みまで聞かれるなんて嬉しいですね
 その日は、仕事が終わって帰ってから、その時のやり取りを父に電話したら、とても喜んでいました
 父は久しぶりに娘から電話があったことも嬉しくてたまらなかったようで、その夜はけっこう長電話でしたよ」
と笑いながら話した。

 なんと彼女は、前回私が想像したとおりとの行動を取っていたのだ。
 最後まで彼女が私のことを思い出さなかったのは悲しかったが、私が想像したとおり、その夜彼女は父に電話していたのだ。
 それだけでも嬉しかった。

 二人の親子関係に、少しだけ役にたったような気がした。
 彼女も喜んだだろうが、それ以上に久しぶりに娘から電話をもらった将棋好きの父親の笑顔を想像し、嬉しかった。
 それだけで十分だった。

  話すことって大事だなあ
  そこからいろいろな縁が
  生まれるもんだなあ
とひとりごちて、採血台を離れたその日の私だった。
        二度あることは、三度ある
ともいう。
    さあ、次に「歩」さんに採血してもらうのはいつだろう。
 その時は、どう言って話しかけようか。
 しかし
   三度目の正直
とも言う。
 次は逆に、彼女から
   お久しぶりです
と声をかけられるかもしれない。
 



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