南米回想#4【浜が見つかるまでは、漕ぐしかないのだ】
5月20日に南米にたつまでに、前回の南米旅行を整理しておきたいと思って始めたマガジン。すっかり更新を忘れていた。
前回も書いたように、パタゴニアはフィヨルドを形成している。海岸ぎりぎりまで森が迫っているので、テン場になるような浜が少ない。強風に見舞われるといったことがなければ、大抵毎日カヤックを出した。少なくとも10km程度は漕ぐことになるが、テントを張れる浜がなければ、漕ぎ続けなければならない。快適なサイトにはそれなりの楽しみがあり、やっと見つけたなんとか寝られる程度の浜にも、それなりの魅力がある。天気は晴れ時々曇時々雨。何にしたって「まあいいか」と思えるところが、自由度の高い旅行の良いところ。
チロエ島では、大抵10kmも漕げば気持ちの良いサイトが見つかった。観光名所・カストロを出て二日目に泊まったAytui(アイトゥイ)は、砂浜を一段上がったところにコケでふかふかのキャンプサイトがあり、東屋まで整備されていた。車椅子のセサールと、ロサというおばあちゃん、そのほか4人が暮らしながらキャンプ場を管理している。1泊5000ペソ(1000円弱)と有料だったが快適、言う事なしのテン場だった。せっかく東屋があったので、市場で手に入れたウニやチーズを使って料理をした。スーパーで買った安いワインもたらふく飲んだ。チリワインは、安くてもうまい。
3日目に泊まったPaildad湾の小さな砂浜の裏には、ザクロのような果物の畑が広がっていた。どこから来たのか、ブタが畑を訪れた。テントで休みながら本を読んでいると、ブヒブヒと声がする。そこでテントから一気に這い出してみると、ブヒー!と鳴きながら前足を弾ませて逃げた。湾内はイルカ、トド、ペンギンが行き交った。海藻の群生ポイントから岸側の海は、特に静か。野生生物の休息場所にもなっているようだ。
チロエ島は、海も風も穏やかで、のどかな気持ちで旅行ができた。ただ、フェリーで移動したあと、チャカブコを出てからは、いきなり頼りない砂利場にテントを張らざるを得なくなった。これまでの、のんびりモードが薄らいだ。それと同時に、「いよいよパタゴニアに突入したな」という感覚の湧出も感じていた。そろそろ2016年も終わろうとしていた。
チャカブコを出て二日目の12月28日、朝起きると急斜なフィヨルド沿いに、帯状の雲が這っていた。海抜10m程度の高さだっただろうか。うねる帯雲は白蛇みたいだった。今日も静かだ。
その日はテン場近くに注いでいた川をできるだけ遡上した。トドが後ろからついてきていた。川は紅茶色。ほどなくすると遡上が難しくなるくらい流れが早くなったので撤退した。川も海岸と同じく、陸の際まで森が迫っているので、野営は難しそうだった。その分魚が好みそうな地形が多かった。この辺りではトラウトが釣れるのだろうか。
風が強まった。風は海面にしわを寄せる。どこを吹いているかが一目瞭然なので、こちらも構えながらカヤックを進めた。数キロ漕いだところに、眠れそうな砂浜を発見した。前日はテン場が海に沈む恐怖であまり眠れなかった。砂浜にカヤックをあげ、更地を作りブルーシートを強いた上に首尾よくテントを設営した。今度はいつ快適な浜にで会えるかわからない。止まれるようなら止まっておく。休めるときに、休んでおくために。パタゴニアのカヤック旅行は、そんな感じだ。
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