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小説「ユメノミライ」⑤ 最終話

俺は北海道のテレビ局や新聞社に何度も電話をかけた。ハガキを書いて何度も郵便で出した。

まるで取り合ってはくれなかったが、それでも諦めなかった。

ユリも同じように何度も手紙を出した。ヤスオはわざわざ、テレビ局本社まで出向き、頭を下げた。

しかし、その努力も実を結ぶことはなかった。

日本海上、北海道の近くまで台風は来ていた。

窓から外を見遣ると、庭の草木についた滴がポタポタと一定のリズムで落ちていた。分厚い灰色の雲が空を覆っている。

俺はテレビのニュース番組を見る。

「それでは、明日の天気予報です。」

男性アナウンサーがそう言い、気象予報の画面に切り替わる。

「日本海上を通過中の台風19号はかなり勢力が弱まり、既に温帯低気圧に変化しました。」

驚いた。夢と現実が一致していない。

地震も来ないのではないか、もしかしたら停電にも見舞われないのではないか、と頭の片隅で思い始めた。

「俺はまだ、ヒロシの予想を信じているよ」

ヤスオからのLINEのメッセージが入っている。

俺はヤスオに電話をした。

地震なんて来ないのかもしれない、と伝えるとヤスオは言った。

「それが一番良いことじゃないか。もしものために俺らがとった行動は間違ってなんかない。」

そして予想された日には案の定、地震は起こらなかった。台風での被害も一切なかった。

「結局、いたずらになってしまったわね。」

ユリはニヤニヤしながらそう言った。

あれから二週間ほどが経ち、俺たちは別れ話を切り出されそうになった、あの喫茶店に来ていた。

「もう俺の夢は、正夢になんかならないのかな。」

俺はすっかり自分を信じられなくなっていた。

夢なんて見なくとも、と言ってユリはミルクティーのカップをテーブルに置き、こちらを見た。

「あなたといれば、幸せになれる気がする。」

俺は照れながら、左に目を逸らした。

左隣の席では、金髪の男が美味しそうにコーヒーを飲み、タバコを吸っている。その正面には、同じく金髪で派手な服を着た女がいた。

俺はコーヒーを一口飲み、ユリを見つめた。

「もう夢なんて見なくていいかもね。ユリがいてくれればなんだって大丈夫な気がする。」

二人は見つめ合い、時間が止まったかのように感じられていた。

ヒロシ、と左側から声がした。俺はドキッとしてそちらを振り向く。

「相変わらず仲良いなあ、もう別れてるもんだと思ったよ。」

彼は前回会った時と同じことを笑顔で言った。

「あー、タカユキか。そちらの女性は?」

「俺の彼女だよ。つい最近、北海道からこっちに引っ越して来たんだ。」

へー、とユリは言った。

「素敵な方ね、お似合いよ。」

タカユキの彼女はこちらを向き少しだけ頭を下げた。

トンボが飛び交う中、若い主婦が子供を連れて歩いている。ベビーカーにはシャカシャカと音の鳴るおもちゃを持った赤ん坊が楽しそうにそれを振り回している。

俺たちはユリが涙を流したであろう公園に来ていた。ユリはベンチに座り、俺はしゃがんで先ほどコンビニで買った缶ビールに手を伸ばした。

実はね、とユリは俯きながら話し出した。

俺は缶ビールをゴクリと飲む。

「あなたと私はとても似ているのよ。だから、ヒロシに会ったとき、この人しかいないって思った。」

俺はどういうこと、とすかさず聞いた。

ユリは遠くの空を眺め、黙っている。

そしてベンチから立ち上がった。

やっぱり、と彼女は言い、俺の正面でしゃがんだ。

「知らない方が良いかもしれない。」

そう言って笑った。



私は小学三年生のとき、初めてブランコに乗った。

そして、思い切りブランコを漕ぐと勢いが余り落下した。

頭を打った衝撃で、小さな体中に電気が走るようだった。

その瞬間、私が見た夢は全て現実に起こるようになった。

夢で見た私の人生が嫌になって、

夢とは違うように生きてきた。

見たことのない景色が広がって

想像つかない未来が私を待っていた。

#創作大賞2022

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