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読書感想文: 牛腸茂雄写真 こども

牛腸茂雄写真 こども(著:牛腸茂雄、白水社、2013)


何度か図書館で読んでいたがまた見たくなりまた借りた。

幼少期に胸椎カリエスを患い、体に重い障害を抱えながら写真家として活動していた、牛腸茂雄による子どもたちの写真を選集した写真集である。

この本の子どもたちの写真の多くはアップが控えめで離れた距離から撮っているものが多い。

勿論クローズアップの写真もあるのだが、牛腸はあくまでもあえて子どもたちを遠くから見つめている、その距離を大事にしている気がした。

収録作品一覧を読むと、顔のアップを撮っている写真のほとんどは『日本カメラ』(1983年6月号)に掲載された『幼年の「時間とき」』からのものである。これが牛腸の生前最後の作品発表となった。

牛腸茂雄は1983年に心不全で亡くなる。その死のひと月半から二ヶ月前に書かれた文章が『日本カメラ』に「口絵ノート」としてこのように残っている。

「時間の厚み」体験について探索することはなかなか興味深い。生まれたばかりの赤子から、臨終の際を彷徨さまよう老いたる人の身の上にまでも、「時間」は等しく刻まれ、刻々流れていく。だが、我々の「私の時間」は有限である。有限かつ固有な「時間」を生きるということは、「いのち」そのものへと連なる。我々のかけがえのない「いのち」を、より個性的に輝いたものとして活性化するためには、主体的な「時間の厚み」体験を、より豊かにすることからしか始まりはない。子どもの「時間」体験は「いのち」そのものだから、その拡がりや脹らみや深さにおいて、目を見張るものがある。

牛腸の、「時間」を生きるとは即ち「いのち」そのものであり、子どもにその「いのち」の力を見出した写真たち。
単なるスナップ写真ではない、かといってアートに走りきっていない子どもたちの写真。
「いのち」のほとばしる瞬間に牛腸は精一杯シャッターを切ったのだ。

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