呼吸機能の生理学
今回は,そもそも呼吸障害って何に介入してるの?と疑問に思っている人がいると思いますので少しまとめていきたいと思います.
【呼吸障害って何?】
酸素の取りこみ障害(肺胞換気)
肺毛細血管を使って肺血流の増やすことができない障害
CO2を運んだり,体の外に出せない障害
この三つが主に呼吸障害に当たります.
身体が欲している酸素需要に答えられないことで,筋肉に十分な酸素を送れないことで活動に制限を生じるものである.
【呼吸理学療法の主な目的】
換気・酸素化の改善
呼吸仕事量の軽減
呼吸困難の軽減
活動性や運動能力の向上
【呼吸と生理学】
主には,延髄に存在する呼吸中枢でコントロールしており,代表的なのは迷走神経反射があります.
簡単に説明すると,息を吸うと肺胞が膨らんで,肺胞にある伸展受容器が興奮します.迷走神経を使い,呼吸中枢(背側呼吸ニューロン群)に連絡が行って息を吐くことができます.
背側呼吸ニューロンは,高容量で肺膨張制限を制限する反射や酸素濃度の低下に対する反応に関わっています.
腹側呼吸ニューロンは,呼吸の運動出力を調整しいています.迷走神経を介して,呼吸筋を支配しています.
息を吐くと,肺胞が縮んで伸展受容器の興奮が減って,迷走神経から連絡が少なくなるので息を吸うことができるようになる仕組みがあります.
その他にも,迷走神経は腹部の内臓情報を連絡すること,咽頭と喉頭の横紋筋を支配しています.
舌咽神経は,頚動脈小体から血液内の酸素や二酸化炭素の情報や頸動脈洞からの脈圧の情報を連絡します.舌咽神経は,咽頭を挙上させ拡張させる茎突咽頭筋のみを支配しています.
これらは両側性に支配を受けています.
まとめてみると,,,
肺胞が伸びる情報,頚動脈小体の血液内の情報を迷走神経や舌咽神経を通して,延髄の呼吸中枢に連絡が送られ,呼吸を調整しているということですね.
【呼吸筋と呼吸補助筋】
呼吸筋:横隔膜,肋間筋腹筋
呼吸補助筋:胸鎖乳突筋,斜角筋,僧帽筋,大胸筋,小胸筋
近年の研究では,斜角筋は呼吸補助筋ではなく呼吸の主動筋として扱われています.
下記は,運動学的方向より呼吸での作用を主に記載しています.
1. 呼吸筋
横隔膜
横隔膜は,安静吸気の70%は横隔膜で行なわれています.横隔膜の収縮により,胸腔内圧陰圧化,腹腔内圧上昇および腹腔内臓器の下方移動,下部胸郭の拡張が起こります.
横隔膜はほとんど筋紡錘がないため,張力を長さとして感知する機構はほとんど働かないとされています.つまり,伸張や振動などでは促通されにくいことを示しています.
肋間筋
外肋間筋と内肋間筋の前部線維(内肋間筋傍胸骨部)は吸気筋であり,内肋間筋の横・後部線維は呼気筋とされています.
外肋間筋は,安静吸気時にわずかに活動するが,深吸気,二酸化炭素負荷,吸気抵抗負荷,麻酔時に働くとされ,下部肋間部よりも上部肋間部が吸気時により働きます.
内肋間筋(横・後部)は,上部肋間筋よりも下部肋間部が呼気時に活動します.
肋間筋群は換気には関係せず,胸腔内圧による胸壁の呼吸性動揺を防ぎ胸郭の固定に働き,換気に貢献していると考えられています.また,肋間筋は四肢筋に比べて筋紡錘に富み,仲張,振動,圧迫などの機械的刺激や電気刺激で促通,抑制が可能です.
腹筋群
腹直筋,内・外腹斜筋,腹横筋
安静呼気時は活動しませんが,収縮により胸腔内圧,腹腔内圧を増加させます.腹直筋は,下部肋骨の前後径・横径を滅少させますが,腹斜筋・腹横筋はその働きがありません.咳,運動時,過換気,Valsalva法,では4筋群は同時に働きます.臥位で働かず,立位で外腹斜筋,腹横筋が緊張性に働きます.
また,吸気補助としての機能は大切です.
その理由に,,,
① FRC(機能的残気量)以下の呼気を行なうと吸気は受動的に行なわれる
② 肺過膨張の肺気腫は,腹腔内圧上昇がないと横隔膜下降は下部胸郭拡大に十分寄与しない
③ 頸髄損傷では,腹部コルセットを使用することにより,長さ一張力関係を改善させる
などがあります.
斜角筋
第L2肋骨を引き上げ,上部胸郭を拡張させる働きがあります.特に,立位・仰臥位で安静吸気時に働き,高肺気領域での活動が重要で,努力姓呼気や咳において胸郭の下方への牽引を防止する働きがあります.
2. 呼吸補助筋
胸鎖乳突筋
胸骨を引き上げ,胸郭の前後径を増大させる働きがあります.安静吸気時は活動しないが,吸気抵抗負荷時に呼吸困難の増大とともに働きが大きくなります.長期高位頸髄損傷患者では筋肥大を認め,胸鎖乳突筋だけの単独な呼吸では15〜30分間持続可能である.この際,上部胸郭は拡張するが,下部胸郭は縮小します.
大胸筋及び小胸筋
大胸筋は,腕を屈曲し深吸気すると,胸郭を挙上し吸気筋として作用します.鎖屑付着部は脊髄損傷において咳の時,呼気筋として働き重要な補助筋です.
小胸筋は,肩甲骨が固定されていると肋骨を引き上げ吸気筋として働きます.
【呼吸困難?】
呼吸困難の定義は,呼吸運動に伴って感じる不快で主観的な感覚で,息切れと同義とされています.
呼吸困難は,先ほど説明した呼吸器の受容器からの連絡と延髄の呼吸中枢から換気筋への連絡のミスマッチを大脳辺縁系が感じ取ったことで起きるとされているのが最も有力なメカニズムとされています.
呼吸困難感と横隔膜に相関性は低いものの,頸部筋の仕事力と呼吸困難感に相関性が認められています.これは横隔膜には息切れ感の受容器である筋紡錘が存在せず,肋間筋や頸部の筋には筋紡錘がたくさん存在することと関連しています.
呼気よりは,吸気筋力低下と呼吸困難感が関係していると報告している論文もあります.
ミスマッチ説から考えると,吸気相には吸気筋の出力を高め,呼気相には呼気筋の出力を高めると呼吸困難感は減少するといわれています.
呼吸困難の評価法としては,直接的評価法はBorg scale,間接的評価法としてⅿMRCの筆問表などがあります.
【慢性閉塞性肺疾患(COPD)の呼吸筋】
COPDの特徴
気道抵抗の増大による呼吸筋の仕事量が増加し,肺を拡張させるために吸気筋はより大きな呼吸努力を強いられます.静的コンプライアンスは高く,呼吸数の増加に伴い動的コンプライアンスは低下します.肺の弾性は低下し,FRCは増加することで過膨張となっています.
過膨張状態では横隔膜は平定化し,Laplaceの法則からその発生圧は低下しています.平定化した横隔膜が収縮すると吸気時に腹部が陥没し奇異呼吸を呈します.
また,傍胸骨筋・斜角筋・胸鎖乳突筋などが関与し,胸壁を拡張させ,横隔膜を引き上げ,胸腔内圧をより陰圧化することにより,腹腔内圧は低下し腹部は陥没します.この状態は横隔膜の大切なピストンの働きよりも,固定筋としての要素が大きくなります.
安静呼気でも腹横筋は緊張性に働きますが,腹直筋や外腹斜筋の活動はありません.COPDでは前傾座位で上肢を支持すると息切れ感が減少しますが,その理由に前傾位は腹部を圧迫し横隔膜筋長を長くし,収縮効率を改善するためとされています.
その他にも,前傾位で上肢を支持すると肩甲帯が碇のように固定され頸部の吸気筋の活動が抑制され,息切れが減少するとしているものもあります.
前傾位で息切れの減少する症例は,胸腹部の奇異呼吸のある症例や腹部の吸気時陥没のある症例のみである.運動時には健常人では腹筋群,胸骨三角筋,内肋間筋横・後部の筋群が働き,FRCが200〜400ml低下するが,COPDでは動的な過膨張となり600ml増加します.このことが頸部の吸気筋や吸気肋間筋の活動を不利にし,息切れを増加させる重要な因子となります.
【呼吸筋疲労とは?】
→負荷に対する仕事により,筋収縮力や収縮速度が低下した状態
呼吸筋疲労には,呼吸筋の休息すなわち人工呼吸器が必要
呼吸筋弱化に対しては,呼吸筋トレーニングが適応
呼吸筋トレーニングで大切なことは吸気圧,吸気流速,吸気容量を加味し呼吸パターンを考慮した訓練を行なわないと効果は得られにくい.
【運動療法・理学療法】
筋肉のところで説明しましたが,横隔膜には筋紡錘が少ないことからも,ストレッチとかはあまり意味ないような気がします.
肋間筋等の筋紡錘が多く存在している筋肉に対しては,ストレッチや振動(マッサージ機?)が有用かもしれません.
呼吸筋ストレッチ体操?
吸気相には吸気筋の出力を高め,呼気相には呼気筋の出力を高めると呼吸困難感は減少すると考えられる.この概念により考えられたのが呼吸筋ストレッチ体操である.吸気時に吸気筋の筋紡鍾をストレッチし,呼気時に呼気筋の筋紡錘をストレッチすると,それぞれの呼吸筋の筋紡錘の発火を高め,呼吸中枢と筋紡錘の情報のミスマッチを改善させるとされています.
呼吸筋ストレッチ体操の効果は?
安静時または運動時の呼吸困難感の減少
6分間歩行距離QOLが改善
肺過膨張(全肺容量,機能的残気量)が低下
努力性肺活量と胸郭の可動性が増加
呼吸筋のトレーニングやストレッチ以外にも,下肢のトレーニングが息切れを軽減させ,運動耐容能を改善させることが報告されています.
【呼吸生理からみた呼吸訓練と呼吸筋トレーニング目標】
① 運動部位を吸気補助筋から横隔膜呼吸へ移動
② 呼吸数を減少し,一回換気量を増加
③ 最大吸気筋力の増大
④ 一回換気量に要する吸気筋力の減少
⑤ 吸気時間を短縮し,吸気流速を増加
⑥ 換気一血流比をマッチングさせること
今後も生理学・運動学・解剖学・心理学を中心に書かせていただこうと思っています。つたない文章ですが、ご容赦ください。
【参考書籍】
特定非営利活動法人NSCAジャパン,ストレングス&コンディショニングⅠ,2003年4月15日
宮川 哲夫,呼吸筋の運動学・生理学とその臨床応用,理学療法学{第21巻8号}, 1994年{553~558ページ}.
宮川 哲夫, 呼吸筋トレーニング, 理学療法{15巻2号}, 1988年月{208~216ページ}.
神津 玲, 呼吸理学療法のスタンダードと新たな展開 理学療法{41巻4号}, 1988年月{222~225ページ}.
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