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スランプ中に書いた三題噺『ホスト』『微生物』『論述』

 前回の記事で『スランプ中は1時間以内にムリヤリ三題噺を書こう!』という話を書きました。
↓前回の記事↓
https://note.com/takeharu_story/n/nc842a3ef8a37?sub_rt=share_pw

 方法だけ書いて具体例が何も無いのは少し不格好なので、今回は私が実際に書いた三題噺ショートショートを投稿しようと思います。
 スランプ中の荒治療で書いた物語です。それではどうぞ♪


 

前書き


 三題噺のお題は『ホスト』『微生物』『論述する』でした。(お題メーカーから頂きました)
 正確には1時間ではありません。確か20分ぐらいオーバーしてます……。それでもがむしゃらに書いた事には変わらないので、読んでくださると嬉しいです。

本編

『マジ微生物リスペクト☆ホスト』


 私の人生って、いったい何だったのだろう。
 ニ十歳になってからホストクラブに魅了されて、親に言えない仕事をして稼いで、推しホストに貢ぐ。大学をやめてでも、この生活にしがみついていた。彼に会えるだけで幸せだったのだ。それなのに、突然裏切られた。彼女がいるとか聞いてない。店に訊いたらもうやめていて、どこかに引っ越したなんて。私とずっと一緒にいてくれるって言ってたのは嘘だったの?
 彼に怒りを抱くというよりも、何かが抜けてぼうっとしている方が近かった。私の生きがいが無くなったのだから、放心しているだろう。
 それでも私は、あの通りを歩いていた。何度も通った汚い大人がはびこる道。もう彼はいないのに、私はゾンビのように徘徊していた。
「お姉さん一人? ちょっとこっちで遊んでかない?」
 定型文のキャッチが、私を呼び止める。その人はホストの宣伝をしているのだろう。安そうなスーツに頭が悪そうなピアス。彼には到底及ばない。だが、仕事のおかげで金だけはある。憂さ晴らしにパーッと金を使えばマシになるかもしれない。
「遊びます。誰でも良いんで一人付けてください」
 その人は私と目を合わせると、一瞬怯えたような顔をした。すぐに愛想笑いに変わったが……私はそんなにも生気の無い風体をしているだろうか。
 店に入ると、見慣れた光景が広がっていた。店は違うが、結局はどこも同じような内装なのだ。私は店の人に初めて来たと言い、空いているホストを付けてもらった。そのホストは顔が良く、身長も高いため人気がありそうだ。だがそんな人が暇しているのには違和感があった。
「指名、ありがとうございまーす!」
 指名ではないんだけどな。
「俺は拓也って言います。譲の名は?」
「佐久美です」
 拓也は席に着く前に、黒服から「今度はうまくやれよ」とはっぱをかけていた。その忠告のような言葉に、もしかしたらハズレをひいたのではないかと思ってしまう。
 席について、拓也に一番値段が高い酒をきく。それをとりあえず二杯注文した。
「佐久美さん凄いっすね! 本当にどこかのお嬢さんなんすか?」
「お嬢さんがここに通うわけないでしょ。汚い仕事で金があるだけ」
 言い捨てて、酒をあおった。拓也は私が何か言うのを待っていたらしいが、私は黙っていたので沈黙が訪れる。彼だったらこんな時間なかったな。また彼の事を思い出してしまい、溜息を吐く。
 拓也は私に少し近づき、口を開く。
「微生物って凄くないっすか? あんなに小さいのに一生懸命に生きてるんすよ!」
 ……微生物?
「はい?」
 素で聞き返した。急に何を言い出しているのだろう。
「佐久美さんって微生物に興味ないですか?」
「微生物って……そもそもどういうものなのか分からないんだけど」
 私は文系に進んだ人間の為、理科の分野はさっぱりだ。
「微生物はとにかく目に見えない程小さい生物の事っす! 肉眼じゃ見えないぐらいちっちぇのに動いてるすげぇ奴らなんすよ!」
 拓也はそう熱弁する。そこにはリスペクトすらも感じる程の熱量だった。私は微生物なんかに思い入れはないので、微塵も共感出来ないのだが。
 こんな話をいきなりしてくるなんて、そりゃ人気も無いはずだ。とんでもない変わり種と出会ってしまった。
「はぁ、拓海さんって理系出身なの?」
「いえ、高校中退です。だから俺頭悪いっすよ」
「中退って。それなのになんで微生物?」
「自分で色々と調べたんすよ。ネット記事でふらっと読んでみたら、微生物の事書いてたから、読んでみたらすげぇってなって! そっからもうドハマりっす。自分の部屋が微生物の本で散らかってます」
 拓海は笑いながらそう語る。そこまで微生物を称えるネット記事があったのだろうか。だがそれから微生物を独学で調べる行動力は凄まじい。自分はそんな一直線になれるだろうか。
「熱中しているんですね、そんな小さい生き物に。凄いな」
 素直に感想を述べたつもりなのだが、嫌味とも取れる言い方をしてしまった気がする。彼がいたらこんな捻くれた事もなかったのに。
「俺は凄くないですよ。好きな事の為なら、どんな辛い事だって耐えられるもんっしょ?」
 屈託のない笑顔で、拓海はそう言い切る。
 私の好きな事は、彼に会う事だったのかな。彼に貢ぐためなら、どれだけ嫌な仕事でも耐えていた。彼の為だって、彼を支える為だって。
 だけど拓也と比べたら、そこまで純粋なものではなかったように思える。拓也は目を輝かせているが、私はどうだっただろう。どんな目をしているだろう。
「拓也は、なんで微生物をそんなにも好きになったの?」
 訊かれた本人は目をパチクリとさせる。それから良い顔で笑った。
「とにかくスゲェって思うからっすね。俺らよりはるかに小さいのに、それでもちゃんと生きてるって所が。そんな奴らを見ちゃったら、俺も頑張らねぇとって思えるんすよ。あいつらに負けてらんねぇって」
 拓也は本当に少年のようだった。運動部でライバルに燃えているような、そんな純情さを感じる。
 私は彼に、色んなものを費やしてきた。それを失った今、生きる意味を見出せずにいる。だけど、拓也は微生物と自分を比べて頑張ろうとしている。
 なんて……馬鹿らしいのだろう。
「フフッ、あははっ」
 私は笑いをこぼしていた。本当に馬鹿らしくて、あほらしくて。どんどん笑いがこみあげてくる。
「えっ、どうしたすか佐久美さん! なんで笑ってるんすか?」
 拓也は戸惑っているようだったが、声は嬉しそうだった。恐らく、この話で客にウケた事がないのだろう。
「だって、なんだか馬鹿らしくて」
 笑い涙を浮かべながら理由を話すと、拓也は心外そうだった。
「えっバカにしてたんすか?! 俺はこんなにも真剣なのに!」
「真剣だから馬鹿らしいんだって」
 私は拓也をぺしっと叩く。笑い過ぎてお腹が痛い。こんなに笑ったのはいつぶりだろう?
 私が彼にすがっていたのも、拓也が微生物に真剣なのも、私の人生っていったい何だったんだろうと思い詰めていたのも、全部もう笑い話だ。
「俺の真剣さをバカにしないでくださいー!」
 そう抗議している拓也の横で、私は残ったお酒を飲み切る。
「拓也、君ってサイコーなホストだね。気分良いからシャンパンいれてあげるよ!」
 怒っていた拓也は、ぱぁっと明るい顔になる。
「俺シャンパンいれてくれたの初めてっす!」
 あの不人気ぶりであればそうだろう。よく今までホストをやってきたものだ。
「シャ、シャンパン入りましたー!」
 ぎこちないシャンパンコールに、私はまた吹き出してしまう。
 あぁ、本当に真っ直ぐだ。私は胸の辺りがスッと軽くなっていくのを感じた。
 微生物も頑張って生きているんだから、私ももうちょっと生きてみようかな。
 彼の初々しいシャンパンコールを聞きながら、私はそう思ったのだ。
(了)

後書き


 お題で良い物を引いたなぁと思います。『ホスト』『微生物』『論述』と来ましたからね。
 これはもう微生物に対して論述するホストを書くっきゃねぇ!
 となった為こんな話になりました。お題から真っ先に話が出来上がったので助かりましたね……。
 ホストクラブという場所に行った事がないので、完全に想像で書きました。1時間なので調べる時間も無いですよ……。

 この物語はフィクションですので、そこのところご了承ください。
 ここまで読んでくださり、ありがとうございました♪


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