旅立つドレス、残されたわたしはちょっと空っぽ
ホッとしてちょっとさみしい、日々そんな気分を味わっています。
わたしはオーダーのウェディングドレス製作と、古いドレスのリメイクを手がけています。
この時期はウェディング業界の繁忙期なのですが、特に今シーズンはこの2年間できなかった分の結婚式ラッシュが到来していて、わたしもありがたくてんてこまいな日々を過ごしているのです。
特にこの5月と6月に集中していて、「ずっとひまだったのになんでよりによってこの月に集中するんだろう」というセリフを、3年ぶりにつぶやいています。
それでもどうにかめどがついて、ドレスもひとつひとつ、それぞれの新しい場所へと旅立っています。
先日は、「お母さまのウェディングドレスをリメイク」したドレスが旅立っていきました。
お母さまのウェディングドレスのリメイク
30年ほど前に、お母さまが結婚式で着られたウェディングドレスです。それを花嫁さま用にリメイクしていくのです。「お母さまのウェディングドレスのリメイク」は、わたしが最も大切にしている仕事のひとつであり、わたしの代名詞であり、わたしのライフワークとも言えるべき仕事です。
あまり変えたくないリメイク?
その花嫁さまに最初にお会いしたのは昨年の秋でした。「ほんとうは、あまり変えたくないんです。でも…」とおっしゃる花嫁さま。リメイクされたいと持ってこられたのに変えたくないって、それはいったいどういうことだろう、とそのわけを聞いてみました。
それはこういうことでした。「父に、母のドレスだと気付いて欲しい。でも鈍感なタイプの父だから、あんまり変えてしまって、気がつかなかったらどうしよう」そんな葛藤を抱えていたようなのです。なんだか微笑ましく、かわいいですよね。
でも本心は、自分に似合うようにリメイクしてほしい。本当はこういうドレスも着てみたかった…。当然ドレスへの夢や憧れもあるのです。花嫁さまはさまざまな思いを抱えて、迷っておられるように見えました。
「デザインや全体の印象をあまり変えずに、でも花嫁さまに似合うように、さらに花嫁さまの憧れも盛り込んでリメイクする」
これはまたなかなかの難題です。むずかしい〜。と言いながら心のなかでニヤつくわたし。(←むずかしいお題ほど燃えるのです)
でもご本人が迷っておられるので、これはちょっとゆっくりと進めたほうが良さそうだなと思い、「まず、ここだけは絶対に変えたいというところがあったら、手始めにそこから手をつけてみて、またいっしょに考えてみませんか? わたしからもアイデアを出しますので」と提案しました。
そうしてすこし時間をかけてリメイクすることになったドレス。花嫁さまの意見を取り入れながら、わたしからも提案しながらゆっくりと進めてきました。
最終的に、全体の印象は大きく変えず、かつ花嫁さまの憧れもぜんぶ盛りで全体のバランスをとり、いい感じに仕上がったのではないかと思います。
夢や憧れをぜんぶ詰め込んだドレスに花嫁さまもおもわず涙。
わたしはホッとしましたが、長くいっしょにいたのでなんだかすこしさみしい気分です。こういうのも「空の巣症候群」っていうのかしら。
⭐︎ドレスのbefore after は、結婚式後にご報告します。ファミリーミートがあるそうですよ。ドキドキ。
ドレスの仕立て屋タケチヒロミです。 日本各地の布をめぐる「いとへんの旅」を、大学院の研究としてすることになりました! 研究にはお金がかかります💦いただいたサポートはありがたく、研究の旅の費用に使わせていただきます!