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ユーザが消費者から生産者になるとき持続的なWell-beingが生まれる

今月のDIGITAL Xでのコラムは、『偏愛』が感性価値の高いプロダクト/サービスを生むということで、書かせて頂きました。

今週のNoteはこのコラムの補足的な記事を書いてみたいと思います。コラムの中では、偏愛からプロダクト/サービスの開発のプロセスとして、

(1)偏愛マップの作成
(2)偏愛マップの共有・対話
(3)偏愛情報の拡張

というのを紹介しました。この中で、一番難しいのは、(3)の【偏愛情報の拡張】です。この偏愛情報の拡張に関して、コラムでは、

偏愛に関する情報をより見えるようにするというプラス側への拡張、あるいは、より伝わらないように情報を削るというマイナス側の拡張とがある。・・・(中略)・・・情報を意図的に拡張(見える化や削る化など)することで、より偏愛対象のことを知りたくなる。つまり、偏愛の気持ちが刺激され、情報を拡張してくるプロダクト/サービスと、その利用者の間に関係が構築されていく。

と表現しました。これを違う言葉で表現すると、

『余白』を作る

ということだと思います。ユーザとプロダクト/サービスの間に意図的に「余白」をデザインしてあげることで、ユーザが関係性を自ら築き上げていくことができるようになります。育て上げるということで、ある意味では、ユーザを単にプロダクトを消費する消費者とするのではなく、一緒に価値を作り上げていく生産者になってもらうと言えるのかもしれません。

このあたりの考え方は、ほぼほぼ『コンテクストデザイン』の考え方に近いのかなぁという気がします。まだ本を読めていないのですが、もしかしたらそのものなのかもです。

コンテクスト(context)の語源を調べてみると、「一緒に(con-)編んだ(texus)」ということですし、更に遡ると、編んだ(texus)は、tek-(作り出す)に辿り着くようなので、まさに価値を一緒に作り出していく「余白」ということに繋がります。

デザインの視点ではなく、ビジネスの視点で捉えると、尾原和啓さんが紹介されている「プロセスエコノミー」の1つの形態とも言えるかもです。プロセスエコミーは、どちからというとプロダクト/サービスが手元に届くまでのストーリの方に重きを置いている印象はありますが、この「余白」を作り、ユーザが埋めるというのは、手元に届いてからというのが、ちょっと違うのかもしれません。

そして、考えてみると、ロボットの分野では、『弱いロボット』で有名な岡田美智男先生が同様のことを指摘されていました。

コミュニケーションロボットには使い手が解釈できる余白、不完結さが必要

というようなことを仰っていた気がします。それにより、関係性ができ、愛着に繋がると思いますし、弱いロボットという文脈でいうと、『バルネラビリティ (vulnerability)』という表現をされていました。

IT系の人が、バルネラビリティと聞くと、脆弱性という意味で考えるかも知れませんが、心理系、福祉系などでは、「自分の弱さを人に見せること」「自分の弱さと向き合って認めること」「人の弱さを受け入れること」という意味合いで使われます。

Brené Brownさんの人気TED TALK「The Power of Vulnerability」でご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

ロボット側がすべてを提供せずに、ロボットの弱さをさらけ出すことで、逆に人の強さを引き出すことができるということです。岡田先生は、確か「unbuild」とか「unfilled」という言葉を使われていた気もしますが、まさに意図的に関係に余白を作り、それを人側が埋めていくことで愛着に繋がっていく事例かと思います。

また、今週行われたロボット学会のオープンフォーラムの1つで、Doog社の大島さんが、以下のようなことも言われていました。

ベースユニットの哲学として、50%ではダメ、99%はやりすぎ 70%か90%か。

Doogはコミュニケーションロボットではなく、搬送ロボットを作っているので、顧客との感性的な関係性とか余白の観点ではなく、モジュール設計の考え方としての哲学を話されたのだと思います。もちろん、モジュールとしての考え方がある前提で、作り込みすぎないことが、ユーザもしくはインテグレータが自ら手を入れ、使い込む中で、自分のモノとしての関係性がより深くなっていくのではないかと思います。(違っていたら、スイマセン)

ロボットの事例なんかも交えながら、消費者を生産者にする「余白」の考え方について書いてみました。最後に、Well-beingの視点からも考えてみたいと思います。

Well-beingは、身体的、精神的、社会的に健康な状態とも言われたりしますが、違う切り口としては、いわゆる心身が健康である「医学的」Well-being、快とか不快という瞬間的な「快楽的」Well-being、長いスパンで良好な関係を築くことで生まれる「持続的」Well-beingというような分類をすることもできます。

ホルモン的に考えると、医学的が「セロトニン」、快楽的が達成報酬とも関連する「ドーパミン」、持続的が愛情とか繋がりと絡んでくる「オキシトシン」と近い関係になります。

意図的に作られた「余白」を埋める作業は、この3つの中でいうと、愛着とか関係性の構築という言葉が表すように、「持続的なWell-being」に関係してくるはずです。


というわけで、ユーザーが消費者ではなく生産者になることで、持続的なウェルビーイングが生まれるという話を書いてみました。もともとは偏愛から始まるプロダクト/サービスという発想法のコラムから始まりましたが、結果的に持続的なWell-beingに繋がるというのは、この発想法が持つ「圧倒的な当事者意識」を生みやすいなどのメリットと並ぶメリットになりそうですね。

では、また来週~~

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安藤健(@takecando)

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