竹 雪

広報でweb用の記事を執筆・SNSの企業アカウントを運営していました。いわゆる中の人。…

竹 雪

広報でweb用の記事を執筆・SNSの企業アカウントを運営していました。いわゆる中の人。京都市在住。

最近の記事

女子大って甘くて苦い。「煙たい後輩」柚木麻子

横浜の伝統的なお嬢様女子大が舞台。 体の弱い素直な女子大生・真美子を主人公に、女子アナを目指す親友・美里、中学時代に父親のコネで詩を出版した真美子の憧れの先輩・栞子を軸に、女子大生たちの甘くて苦い4年間を描く。 主人公の勢いと純粋さがこわい。病弱な主人公・真美子は、幼馴染の美里とともに小樽の裕福な実家からフェリシモ女子大に進学する。 そこで出会ったのは、憧れの先輩・栞子だった。 14歳で詩を出版した栞子は真美子の憧れで、とにかく一緒にいられるだけでうれしく、子犬のよ

    • 22歳フリーター、医学部受験をする。「下流の宴」林真理子

      人生の階層を移るベストタイミングは大学受験、という現実。 まさに「宴」な群像劇である本作から浮かび上がる現実だが、同時に希望でもある。 大学受験って青春なんだな沖縄の離島で生まれ育ち、高卒フリーターとして東京で働く22歳の女性が、彼氏の母親に「育ちが悪い。医師の家系の我が家とは違う」とバカにされ、「そんなに医者が偉いのなら、私は医学部に入ってみせる」と啖呵をきる。 ツテも金もない、大学受験もしたことのない彼女が、周囲の助けを借りながら猛勉強をして医学部受験を目指していく

      • 祝!東北勢の甲子園初優勝!「福島の特別な夏」ほぼ日刊イトイ新聞/永田泰大

        「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞。コピーライターの糸井重里氏が立ち上げたウェブサイト)で忘れられないコンテンツがある。 2011年夏の福島で、甲子園の地方予選に密着した名コラムである。 丁寧な描写と豊富な写真で、ボリュームも大きいが大変に読み応えがある。 「出場するからには勝利を」。ああ、野球っていいな。震災の傷跡も生々しい2011年夏の福島の高校野球は、恰好の「ネタ」で、復興や応援の名の下にたくさんの取材があって報道があったはずだ。 たくさんの報道を、私も目にしたはずだけ

        • 宗教二世問題を、今こそ。「1Q84」村上春樹

          宗教二世のストイック女子本作の主人公は、カルト宗教にすべてを捧げる両親の元で宗教二世として育った女性だ。 アラサーになった現在は、両親と絶縁しジムのインストラクターとして堅実な人生を歩んでいるが、夫にDVを受けた親友の死をきっかけに大きな渦の中に飲み込まれていく。 嫌悪していた宗教の、しかしつい口をついて出てしまう祈りの言葉。質素な生活が嫌だったのに、自分の好きなものを自分で買える今になっても、高価なものを手にする罪悪感。 刷り込まれた価値観の呪縛は生活のすべてにある

        女子大って甘くて苦い。「煙たい後輩」柚木麻子

        • 22歳フリーター、医学部受験をする。「下流の宴」林真理子

        • 祝!東北勢の甲子園初優勝!「福島の特別な夏」ほぼ日刊イトイ新聞/永田泰大

        • 宗教二世問題を、今こそ。「1Q84」村上春樹

          夏だ!ビールだ!海外ミステリだ!「スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ」ジョセフ・ノックス

          ギムレットには早すぎる 一匹狼+酒+女+事件=ハードボイルド、の図式にクラブシーンとドラッグをまぶして出来上がったイギリス舞台のミステリ小説。「このミステリーがすごい!2022(海外)」で3位だそう。 海外ミステリは表紙裏の人物一覧が大活躍。登場人物多いから 10年間に起きた一家惨殺事件。 両親と幼い3兄弟のうち、母親と下の子2人は死亡、一番上の長女は行方不明となり、父親は事件当時家にはいなかった。 逮捕されたのは長女を付け狙っていた工事作業員の男で、被害者たちの血を吸った

          夏だ!ビールだ!海外ミステリだ!「スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ」ジョセフ・ノックス

          謎ジャンルエンターテイメント!「この世の春」宮部みゆき

          ジャンルなんて細けーことはいいんだよ!ハズレのない作家、といえば宮部みゆき様です。 「理由」「火車」などの社会派ミステリーで一流作家の名を確立した彼女ですが、その後、ファンタジーや時代物へとジャンルの幅を広げ、令和になっての本作品は、ミステリー+ファンタジー+時代物、というてんこもりの謎ジャンルとなっています。 「いい人」がいる安心感と悲劇性舞台は江戸時代、北関東の小藩。地味な一介の上士で、作時方(現代の土木関係ですね)を務めあげたのちに、田舎に隠居した父のもとでつつましく

          謎ジャンルエンターテイメント!「この世の春」宮部みゆき

          すべての母親にYESと言おう。「スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける~」堀越英美

          育児と介護で最大のタブーは、金も手も出さないのに口だけ出すことネットやSNSには、ありとあらゆる育児情報が溢れている。悩める母親を救う情報もたくさんあれば、もちろん追い詰める類の情報も。 インスタを覗けば、美しく飾られた食卓でバランスの良い食事を家族で囲み、掃除の行き届いた部屋でセンスの良いインテリアが映り込んだ写真にいいね!の嵐。 乳幼児が2、3人いて夫婦共働きでも心に余裕をもって常に愛情深く子どもに接し、休日にはむしろちょっと早起きして豆から挽いたコーヒーを飲んで至福の一

          すべての母親にYESと言おう。「スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける~」堀越英美

          ほっこり感ゼロ。北欧ミステリの傑作・「冬の灯台が語るとき」ヨハン・テリオン

          数年前から北欧ミステリ熱が高まっている。世間的にも個人的にも。 雰囲気、トリック、すべて素晴らしいスウェーデン人作家の作品だ。 スウェーデン推理作家アカデミー賞最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、「ガラスの鍵」賞受賞。 全編を通してほの暗い都市部から郊外の古い一軒家に越してきた4人家族。幼い2人の子を持つ仲の良い夫婦は、歴史ある屋敷を手入れしながら自然の中で豊かに暮らすことを求め、岬のほとりに移住した。しかし突然、妻が遺体となって海で発見される。

          ほっこり感ゼロ。北欧ミステリの傑作・「冬の灯台が語るとき」ヨハン・テリオン

          コーヒー飲んでジャズ聞いてガールフレンドとデートしてるだけじゃない。村上春樹「一人称単数」

          だんだんクセになってくるあるいはそうかもしれない、と僕は言った。やれやれ。 ・・・的な村上春樹節、どうしても受け付けない、という人がいるのはよくわかる。ネットでもよくネタにされているし、少し前には村上春樹風に翻訳するサービスまで出た。しかし心のツッコミを引っ込めて、ページをめくっていくとその世界に引き込まれる。 8篇の短編小説が納められた著書の最新作である。 唐突で純粋な悪意短編小説集ということで、軽い気持ちで読み進めることができるし、そのうち1篇くらいは妙に心に引っか

          コーヒー飲んでジャズ聞いてガールフレンドとデートしてるだけじゃない。村上春樹「一人称単数」

          2020年の今こそ、ママカーストを考える・桐野夏生「ハピネス」

          ママ友地獄、ママカースト。 子を持つ女同士の争いにフォーカスしたドラマや小説が量産された時期がある。2011年頃から2017年くらいまでだろうか。 TVドラマ「名前をなくした女神」(2011年)、「マザー・ゲーム」(2016年)、「砂の塔」(2017年)、そして桐野夏生による小説「ハピネス」(2013年)。 生々しくもたくましい女の業をカウンターパンチで食らわせる、桐野夏生である。 あー2013年てこんなだったな湾岸地域、タワマン、元キャビンアテンダント、一斉メール、と2

          2020年の今こそ、ママカーストを考える・桐野夏生「ハピネス」