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謎ジャンルエンターテイメント!「この世の春」宮部みゆき

ジャンルなんて細けーことはいいんだよ!

ハズレのない作家、といえば宮部みゆき様です。
「理由」「火車」などの社会派ミステリーで一流作家の名を確立した彼女ですが、その後、ファンタジーや時代物へとジャンルの幅を広げ、令和になっての本作品は、ミステリー+ファンタジー+時代物、というてんこもりの謎ジャンルとなっています。

「いい人」がいる安心感と悲劇性

舞台は江戸時代、北関東の小藩。地味な一介の上士で、作時方(現代の土木関係ですね)を務めあげたのちに、田舎に隠居した父のもとでつつましく暮らす出戻り娘、多紀が主人公。
藩内のヒエラルキーの上の方では、不穏な権力争いがあることを耳にしつつ、自分たちには遠い話、と過ごしていたそんな日々、失脚した伊東家の嫡男を抱えた乳母が多紀の家の門をたたき、多紀は大きな渦に巻き込まれていきます。

宮部みゆき作品には、きっぷがよくて魅力的な登場人物(主に主人公)がいるからこそ、展開の悲劇性・残虐性、やるせなさが引き立ちます。これから活躍するであろうと読者に予感させる人、さくっと死ぬ。

キャラの濃さよ

多重人格イケメンお殿様、謎のくノ一、苦労人じいや、トラウマ持ち出戻り娘、体育会系従者、猿老人などなど、キャラの濃い登場人物たちが、湖を望む美しい別邸を舞台に過去と現在を織り交ぜながら躍動していきます。
普通ならちょっと無理があるのでは?と思ってしまいそうな設定も、テンポの良い文章と散りばめられた伏線をクライマックスに向かって見事に回収していく構成力で、読者を物語に引き込んでいきます。読み切ったあとの爽快感よ。

ほら貝を吹け!みゆき様のお通りだ!

宮部みゆきはなー好きなんだけど、「悲嘆の門」とかファンタジーはちょっと合わなかったな、と思っている人でも、ファンタジー要素が弱め(あることはある)で、おすすめいたします。そして、時代物は独特の語彙だしちょっと年配向けのイメージでとっつきづらい、という方にもみゆき様のテンポの良いさすがの文章力と構成力で、どうするどうなる!?と展開に引き込まれます。文庫で上中下巻というボリュームもスピードを落とすことなく読み切ることができます。

普通に展開したらちょっと無理ある設定も、グイグイ世界観に引き込んでくるのはさすが一流作家。作家生活三十周年記念作品だそう。

中高生の教科書には「火車」を、大人の読み物には「この世の春」を

多重債務の恐ろしさにびびり、クレジットカードとは魔のカード、と心に刻む「火車」のような教訓を得る作品、というより、素晴らしいエンターテイメント作品としての仕上がりです。久しぶりに宮部みゆき、いかがでしょう。

#読書感想文 #宮部みゆき #この世の春 #新潮文庫 #新潮社 #ミステリー


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