見出し画像

22歳フリーター、医学部受験をする。「下流の宴」林真理子

人生の階層を移るベストタイミングは大学受験、という現実。

まさに「宴」な群像劇である本作から浮かび上がる現実だが、同時に希望でもある。

大学受験って青春なんだな

沖縄の離島で生まれ育ち、高卒フリーターとして東京で働く22歳の女性が、彼氏の母親に「育ちが悪い。医師の家系の我が家とは違う」とバカにされ、「そんなに医者が偉いのなら、私は医学部に入ってみせる」と啖呵をきる。

ツテも金もない、大学受験もしたことのない彼女が、周囲の助けを借りながら猛勉強をして医学部受験を目指していく。

素直な人は、いくつになっても伸びる

苦手科目の克服方法や得意科目の伸ばし方、時間の管理やモチベーションの保ち方など、(2010年当時の)受験ノウハウをふんだんに詰め込んだリアリティのある内容が随所に盛り込まれる。

時間捻出のためにアルバイトは辞めざるを得ないし、高校卒業からブランクもありすぐに点数は上がらない。
仕事もなく将来の不安を抱える中で、メンタルも追い込まれていく。

 しかし物語らしく彼女を支えるさまざまな人が現れる。
友人の元カレの美容外科医、その知人の通信制予備校塾長、通っている図書館で出会う元商社マンのおじさん、郷里の家族や親せきたち。

 こんな都合がいいこと起こるわけない、と読者に思わせないのは、つい手を差し伸べたくなる彼女の素直さと反骨心の描写が優れているためだ。

 受験も仕事も、素直な人はとにかく伸びることを、みんな知っている。

 最初は彼氏との結婚のために始めた受験でも、学ぶうちに「理解する」楽しさに気づき、医師になりたいと努力を重ねる姿にもらい泣きしそう。
終盤の受験論文と面接シーンは必見!

でも彼氏はぽっきり折れたまま

彼女と対照的に屈折した思いを抱えているのが、医学部受験をするきっかけとなった彼氏だ。彼は中学受験で燃え尽きてしまい、中高一貫校を途中退学しフリーターをしている。

教育熱心な母親と医学部を目指す彼女はどちらも「がんばる人」で、彼にはそれが息苦しい。
とても優しく、彼女の金の工面をしたり(でも甲斐性はない)、サポートもするが母親からも自立できずに時間だけが過ぎていく。

 君は君自身のためにがんばっているんだよ、と彼女に穏やかに諭すクライマックスは、挫折し諦めてしまった彼と、努力して道を切り開いていく彼女の道が分かれてしまったことを鮮やかに描く。

ドラゴン桜よりリアリティあると思うの

林真理子ってエッセイは面白いけど小説ってどうなん?と思っている人にもおススメ。
恋愛のドロドロではなく、これまで何かに打ち込んできた人には懐かしく、これからがんばろうとしている人には勇気をくれる爽やかな本だ。

資格取得や受験のモチベーションアップにも適している。

 嫌味な母親、学歴主義、上昇志向、下流や上流、といった著者得意のあるあるネタもちりばめられ、長編でもさくさく読み進めることができる。
さすがマリコは読ませるわ。

窪田正孝の演技力、光ってる

NHKドラマ10でドラマ化もされた本作。
教育ママ役の黒木瞳と覇気のない息子役の窪田正孝が特にハマっていた。

素晴らしいドラマだったけれど、今なら東大ブームだし、医学部→東大に変えてリメイクしてもヒットしそう。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?