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夏だ!ビールだ!海外ミステリだ!「スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ」ジョセフ・ノックス

ギムレットには早すぎる


一匹狼+酒+女+事件=ハードボイルド、の図式にクラブシーンとドラッグをまぶして出来上がったイギリス舞台のミステリ小説。「このミステリーがすごい!2022(海外)」で3位だそう。

海外ミステリは表紙裏の人物一覧が大活躍。登場人物多いから


10年間に起きた一家惨殺事件。
両親と幼い3兄弟のうち、母親と下の子2人は死亡、一番上の長女は行方不明となり、父親は事件当時家にはいなかった。
逮捕されたのは長女を付け狙っていた工事作業員の男で、被害者たちの血を吸った服を着て街をさまよっていた。
事件はマスコミによって大々的に報道され、逮捕された男は国中から憎悪の目を向けられ、自白後は何も語らずに服役したが、事件後10年たって「俺じゃない」と言い残し何者かに殺される。

刑事なのにアウトローでシュッとしてる孤独な主人公(多分)


証拠品のドラッグをくすねて処分され、夜勤に回されたマンチェスター市警の刑事、エイダン・ウェイツが主人公。
ドラッグキメて飲酒してから出勤するハードボイルドさだが、女性には紳士的でモテる(施設で育ち、生き別れた妹アリ)。
夜勤でコンビを組む同僚刑事が一家惨殺事件の犯人と共に殺されかけて意識不明になったことから、10年前の一家惨殺事件を追うことになり、自身の過去とともに真相に迫っていく。
事件で生き残った一家の父親、行方不明の長女、生き別れた妹、エイダンを脅す同僚刑事、
因縁あるギャング、と読み手の推理をかきたてる人物設定がてんこ盛り。

工業地帯って舞台として魅力的


マンチェスターは古くから工業都市として栄えたイギリスの地方都市だが、90年代以降の不況からの脱却には時間を要し、失業率も高い地域だ。
労働者の街はサッカーが栄える、とはよく言われることだが、マンチェスターユナイテッドとマンチェスターシティという2つのビッグクラブを有している。
 
かつての勢いを失った工業都市の昏さ、低温多湿の風土がアンダーグラウンドな小説の雰囲気を盛り上げる。
マンチェスターってこんなドラッグはびこる夜の街なん!?と誤解しそうだが、登場人物たちのやり取りがイギリスっぽくて(※イメージ)、荒廃しているだけではないウィットの効いた雰囲気を楽しめる。

とりあえずビールとフィッシュ&チップス


雰囲気だけではなく、ミステリーの本場イギリスで生まれた作品とあって、ちりばめられた伏線を鮮やかに回収していく構成力と、練られたトリックを楽しめる大人の小説だ。
 
この「スリープウォーカー」は、マンチェスター市警 エイダン・ウェイツシリーズの3作目だが、1作目と比較するとドラッグ感が薄まってトリックの質が上がり、より読みやすくなった。
1作目と2作目を未読でも問題なく読めるので、ぜひおススメ。
イギリスのパブ文化にならって酒飲みながら読むと雰囲気出ていい。


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