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コーヒー飲んでジャズ聞いてガールフレンドとデートしてるだけじゃない。村上春樹「一人称単数」

だんだんクセになってくる

あるいはそうかもしれない、と僕は言った。やれやれ。

・・・的な村上春樹節、どうしても受け付けない、という人がいるのはよくわかる。ネットでもよくネタにされているし、少し前には村上春樹風に翻訳するサービスまで出た。しかし心のツッコミを引っ込めて、ページをめくっていくとその世界に引き込まれる。

8篇の短編小説が納められた著書の最新作である。

唐突で純粋な悪意

短編小説集ということで、軽い気持ちで読み進めることができるし、そのうち1篇くらいは妙に心に引っかかるものを見つけることができるだろう。

短編「クリーム」では、18歳の「僕」が、ほとんど接点もない女子から悪意に満ちた仕打ちを受ける。女子から架空のピアノ発表会の招待状をもらった「僕」は、花束を抱えて会場に行くが、そこは無人の館で騙されたことを知る。
「僕」がそこで物理的な危害を加えられるわけでもなく、誰かが「僕」を見て笑っているわけでもなく、ただインターフォンを押しても誰も出ないだけだ。「僕」は花束を抱えて引き返し、女子のことを考えるが、どうしても恨みを買うほどの接点は見つからない。

そこにはただ、丁寧な招待状を準備して封筒に入れ、切手を貼って郵送した女子の純粋で唐突な悪意がある。

理由のある恨みは、しかし納得感がある。傷を負っても回復の道筋は見えやすい。しかし唐突で理不尽な悪意を向けられて傷を負うと、なぜ自分が攻撃を受けたかわからずに戸惑う。戸惑っているうちに、傷口を手当てするのが遅れてしまう。
しかし誰しも一度くらいは、突然悪意を向けられ、なんでこの人私を嫌いなんだろう?え、私何かした?と戸惑ったことがあるだろう。
そういう傷を放置しておくと、長い時間をかけて自分が蝕まれていく。
だからきちんと傷口に向き合って、自分を守っていく必要がある。

著者はこういう唐突な悪意と、そこから受けた傷の回復をフラットに描くのがうまい。

村上春樹を好きなやつはめんどくせえやつ

10月のノーベルウィークになると、「今年は村上春樹がノーベル文学賞受賞なるか!?」とハルキストたちが集うカフェがTV中継される。
あれを見て、「うわあ」と思ってしまって、村上春樹が好きです読んでます、と周囲に言いづらい人は多いはずだ。村上春樹は好きでも嫌いでもないけど、ハルキストは苦手、と思っている人もいるだろう。
いや別に、好きだって普通に言えばいいじゃんどれだけ自意識過剰だよ!とも思うのだが、好きな作家は村上春樹です、と口にするのはちょっとハードルがある。

村上春樹、リーダブルかつエンターテイメント性も高い小説だよ、ともっと普通に伝えたい。


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