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祝!東北勢の甲子園初優勝!「福島の特別な夏」ほぼ日刊イトイ新聞/永田泰大

「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞。コピーライターの糸井重里氏が立ち上げたウェブサイト)で忘れられないコンテンツがある。

2011年夏の福島で、甲子園の地方予選に密着した名コラムである。
丁寧な描写と豊富な写真で、ボリュームも大きいが大変に読み応えがある。

「出場するからには勝利を」。ああ、野球っていいな。

震災の傷跡も生々しい2011年夏の福島の高校野球は、恰好の「ネタ」で、復興や応援の名の下にたくさんの取材があって報道があったはずだ。
たくさんの報道を、私も目にしたはずだけれど、今も強く記憶にあるのはこのコラムだ。
それはたぶんこのコラムが、福島や震災に収斂されない、全国的な普遍性をもつからだ。

仙台育英や大阪桐蔭のような強豪なんてごく一部で、ふつうの人がふつうに過ごした高校野球のすべてがここに詰まっている。

記事にある南会津高校のように、部員が足りずにスキー部から人を集めるような弱小チームには、映画のようなミラクルなんて起きないし、だから普通に負ける。でも、野球が好きな気持ちや悔しい気持ちは、全国すべての高校球児と同じ。負けて当然じゃなくて、負けて悔しいと涙を流す球児に、読み手ももらい泣きしてしまう。
(他方で、聖光学院のような強豪校もきっちり押さえている)

ふつうの高校生たちの、ふつうじゃない日常

丁寧な丁寧な取材によって、時間的にも全国的にも普遍性をもつコラムだけれど、「これまでの日常と違う」当時の福島の様子も描写されている。
福島原発に近い高校を含めた3校が合同チーム「相双連合(そうそうれんごう)」となって参加した。
しかしその1校である富岡高校は、試合のときに掲げる校旗がない。
校内に残したまま避難せざるを得ず、その後の立ち入りが禁止されていたからだ。
勝ったときに歌うのは、校歌ではなく「栄冠は君に輝く」だ。
雨で試合が中断したら、グラウンドの放射線量を確認して試合再開の可否を決める。
そんな状況と、白球を追いかける「ふつうの」高校球児たちのコントラストが胸に迫る。

あれから11年。記事にあるこの子たちも29歳か。

富岡高校は、記事から6年後に原発事故の影響により休校となった。聖光学院は今年2022年、福島県で初の甲子園ベスト4となった。3年生部員3人だった南会津高校は、なんと2022年春のセンバツ地方大会で、会津地区で優勝していた。部員増えとるやん(感涙)。

そして2022年夏の甲子園、仙台育英が東北勢として初の甲子園優勝を飾った。
「福島の特別な夏」から11年、彼らもまた、コロナという普通じゃない日常を過ごさざるを得なかった、普通の高校生たちだ。

心から、優勝おめでとう。


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