ただの不謹慎なテニス映画だと思うなかれ。 描かれていたのは「エネルギーによる再生」だった。再び生きると書いて再生。 その再生が、ひとりの女性の取り合いという、高尚でもなんでもない理由に依るのがまた面白い。 しかしそれもまた立派なエネルギーだ。 異性愛というひとつのカテゴリーのみならず、全てのシーンが生々しい。 なのに下品じゃない。 それがグァダニーノ。 この映画にしろオッペンハイマーにしろ瞳を閉じてにしろパストライブスにしろ、顔面を必要以上にロックする画面が増えた。 人
あるく小鳥という映画に、音楽を書いた。 僕と同い年でもある監督の岩田くんとは、もう10年以上の付き合いになる。 彼の映画に音楽を乗せたのはこれが二度目で、最初はまだ僕らが20代半ばの頃だった。 まだ何者でもなかったあの頃から(別に今もか?)、10年経った今もお互いが映像と音楽の世界に居座り、またこうして一緒に仕事ができるということがとても嬉しい。 そして当たり前だけど当時よりも納得のいく仕事ができて、この10年、曲がりなりにも自分が積み重ねてきたものは確かにあったんだと知
昨日は久しぶりに26時でライブをした。 いつもMCをする時は、その日の朝から本番までに話したいことをぐるーっと考えて、対バンのMCや曲からも拾えるところを探して、なんとなくまとめた後、本番中の気持ちとぴたっと重なったら言う、って感じでやってる。 思いついても本番で歌ってみた感覚とハマらないと思ったら言わないし、なんなら曲だけやって話さないまま終わってもいいとも思ってる。 でも最終的には落とし所が見つかり何かしら話すことが多い。 でも昨日はなぜか朝から全く気が乗らず、メンバ
最初に本多さんから、ロックンロールの30周年に合わせてTHE CAMPとの再結成ツーマンをやらないかという話をもらった時、僕は、「ダメ元でメンバーに話してみます」と答えた。 もうあのバンドは終わったのだからと、どこか他人事のように僕は捉えていた。 期待するのが怖かったのかもしれない。 ところがメンバーと話してみると思いのほか話は進んでいき、THE CAMPとのツーマンならと、今回のライブの開催が決まった。それが10月の始めのこと。 その時から僕はずっとそわそわしていた。 楽
映画って恐ろしく面白い。 恐ろしく、面白い。 その両面のネタばらしを丁寧にしてくれる。 僕らの脳みそをハックして、感情を自在に揺さぶる監督は、時にその身を引き裂くほどの、その業までも背負ったコンダクターだ。 それをここまで面白く、そしてわかりやすく撮れるのはきっとスピルバーグ以外にはいない。 彼の自伝映画であると同時に、その人生を狂わせた?「映画」についての映画でもある。 その怖さをまざまざと見せつけられてるのに、こんなに幸せな気持ちで満たされてる自分も大概だし、映画は
漫画ブルージャイアントの主人公は大ではない。誰よりも天才で誰よりも努力家で、全然ブレない超人の大ではなく、彼の熱にあてられた周囲の人々である。そこにドラマがあり、バリエーションがあるからこそ、等身大の読者が感情移入できるし、約30巻続いてるのに僕なんかは毎巻泣いてしまう。紙面の奥で鳴ってるはずの音に想像を掻き立てられて。 だけど映画だとその手法は異なってくる。 だって音が聴こえちゃうし、1話ずつ周囲の登場人物にフォーカスを当てられる漫画とは違うから。 だから映画の主人公は
2022/12/16上映,99分,日本 去年観た中でいちばん好きだった映画。 書こう書こうと思って1ヶ月も経ってしまった。 言葉にしようとすればするほど本質が逃げていってしまう気がする。 例えばこの映画の概要を言葉で説明しようと試みるとすると 「聾者の女性プロボクサーの孤独や葛藤を通して、周囲を取り巻く人との暖かい交流を描く」 的な感じになると思うんだけど、これではこの映画の0.1%も説明できてる気がしないのだ。 映画において、いかにストーリーというものが片端の一要素に過
漫画とアニメっていう既に成熟した表現方法の、そのどちらでもない、新しいものを作ろうとしたんだなと思った。 井上雄彦のその挑戦する姿勢はいつもかっこいい。 でも、個人的には成功してるとは思えなかった。 誰も見たことのない新しいものだから評価は難しいし、それがこの先どう定まっていくかはわからないけど。 漫画としてのスラムダンクは極まっていた。 ほぼセリフなしで描き切った最終巻後半(確か60ページ)は、実写にもアニメにも小説にも絵画にもできない、漫画表現の真髄、集大成、到達点だっ
少しモヤるところもあり原作を読んでみたらただただ幸せな世界が広がっていた。 映画だとお兄ちゃんは魚料理を嫌がっていていたけど、原作ではそんなことはなく、むしろ「文句ひとつ言わず食べてくれていた」とあり、あの改変だとお母さんがお兄ちゃんよりさかなクンを優先しているように見えてしまう。 映画ではお兄ちゃんと別居してしまうが、実際は今も一緒に暮らしている。(お父さんとは別居中。) 原作では、TVチャンピオン初登場時に、決勝で負けてしまった(ブイヤベースの出汁に使われてる7種類の魚
光のような映画だった。 言葉にできるわけないってぐらい染み渡ったけどトライしてみる。 プラスになるかマイナスになるか… 主人公であるジョニーは、ある日妹ヴィヴの息子、ジェシーの面倒を見ることになる。 ジェシーの父親で、ヴィヴの夫でもあるポールが、赴任先で持病の双極性障害が悪化し、手助けが必要になったからだ。 ジェシーを連れてはいけないヴィヴが誰かに面倒を頼まなきゃと悩んでいるところに、ジョニーが手を差し伸べる。 簡単に言っちゃえばよくある擬似親子ものなんだけどなんでだろう
5年前のリリースの頃を良く覚えてる。ソロと26時のEPを同時に発売した時だ。 もう二度と曲が作れなくてもいいと思うほどの充実感があった。その年に結婚して、それから子供も2人産まれた。 しかし創作の業というのはそんなに簡単に手放せるものではなく、一年もすると、それを塗り替える曲を作れない自分を責めるようになった。 それから30曲ぐらい作ったと思う。少ないと思う人もいるかも知れない。 何曲かはソロのライブでやったり、バンドに持って行ったりもしたけど、ほとんどが日の目を見ること
坂元裕二の良さが際立つのはやっぱドラマだよねーふんふんとか思いながら見てたら不覚にも最後泣いてしまった。 なんかいっぱい失くしてきたんだな。 恋愛映画のメソッドでもある事件とか病気とか三角関係とかわかりやすい原因がないから、何でダメだったのか、見終わった誰もがやいのやいの言わずにはいられない。 自分は3日くらい、彼らの掛け違えたボタンのどこを直してあげたら違う未来に辿り着けたのかとかずっと引きずってました。 麦くんがわかりやすく地雷を踏むから彼のダメなところに目が行きがち
行き止まりの世界に生まれて / Minding the Gap 2020/9/4上映,93分,アメリカ,ドキュメンタリー こんなドキュメンタリーはもう二度と撮れない。友達目線じゃないと撮れないし、カメラマンがスケボーに乗れないと撮れないし、12年かけないと撮れない。 それでいて、地域格差、人種差別、家庭内暴力、男尊女卑など現代に蔓延るあらゆる課題を抉り出すことに成功してる。 なのにそれを観終えた僕の心を満たすのは、人が生き抜く力の美しさと、果てしない自由なのだ。今も涙が止ま
道徳の教科書に成り代わるべき漫画第一位(俺調べ)のリアルの15巻が出た。(若干ネタバレします。)14巻から6年ぶりの新刊だ。14巻の巻尾の次巻予告を見ると、「リアル15巻、2016年春、発売予定!!」と大きく書いてある。2016年春。……うん。いや、ありがとうございます井上先生。続きを読ませてくれて。 さぞかしいろいろあった事でしょう。 「3ヶ月で歩く」とずいぶん前に作中で白鳥に言わせて、今巻で「大幅にずれてしまったが」とようやく立たせた姿にも、自分を重ねていたのかもしれない
98年に出たジェームス・イハのソロアルバムがアナログ盤として再発されたので、1秒も迷わず、シナプスの反応のみでポチった。ダーツを止めたキルアに肉薄するレベル。 このアルバムが自分に与えた影響はとても大きくて、ソロアルバムのMy Adviceというタイトルも、このアルバムの日本盤CDに収録されていたボーナストラックのタイトルから引用した。 あとはラングストン・ヒューズの助言という詩から。 「みんな、云っとくがな、 生まれるってな、つらいし 死ぬってな、みすぼらしいよ だから
腹の贅肉とビールを天秤にかけて決意したのが半年前。それからほぼ毎日筋トレしてるけど、下っ腹の肉はなかなか落ちないし、一向に好きになれない。 明日にでもやめたい。 でもやめたら今つき始めた筋肉が全て脂肪に変わると思うと、怖くて怖くてやめられない。 巷で騒がれている自己肯定感が上がるという説はデマに違いない。 トレーニングしないと体型を維持できないという悲劇、そもそも肉体的なピークを越えてからの方が人生が長いという現代社会の悲劇に直面し続けて、塞ぎ込んでいくのが関の山です。 た