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P6 カルマの種

なぜ人は物事に意味を求めるのだろう。

それが知り得ない、体験したことない、不可思議なものであればあるほど、それらに対してラベルを貼らないと気が済まない。

おそらくそうしないと、心の平穏が保てないのだ。

何事にもおいても、自らの世界に得体の知れない存在がいてはならないのだろう。


だから私達も「母の死」に対してそれぞれ独自のラベルを貼った。


父にとってそれは「愛の欠如」だった。

毎晩のように母の仏壇の前で泣き伏せ、慰み物のような酒を飲んだ。


姉にとってそれは「愛の犠牲者」だった。

母の死は父が齎したものだと信じ、狂気に狩られて叫び続けた。


私にとってそれは「愛の加害者」だった。

床に伏せた母に愛をせがみ続け、母の命を縮めたのは私だと信じた。


その新たな愛を何処かに見いだせれば、その世界が歪む前に誰かが気づいていれば、 その盲信を振り払う勇気があれば

私達の生きた世界はまた、変わっていたかもしれない。

それぞれが独自の世界に、独自のタネを蒔き。

行き場のない愛と悲しみを、その地に注ぎ続けた。

芽が咲いた頃には、もう遅かったのだ。


数年の時を経てようやく、それぞれの世界はそれぞれ秩序をかろうじて保っていた。

かつては同じ世界に生きていた筈なのに、私達の距離は少しずつ、確実に遠くなっていた。

寄り添えば寄り添おうとするほど、空いてしまった穴を塞ごうとすればするほど

その虚しさに嘆き、悲しまずにはいられなかったのだ。



「ふーん、それで、それがどないしたん?」


熱心に説明する彼女達の声を遮り、回想に浸りきっていた意識を再び現在に戻したのはあの独特の響きのある男性の声だった。




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