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016:「本物」を体現するエース、ヒロと羽鳥君の活躍|クレイジーで行こう!第2章

革命前夜:いま何を思うか

水処理の世界で革命が起こる。僕たちは、一定程度の確度を持って、この方向性を心から信じていて、株主の栗田工業とともに、虎視眈々とこの革命の旗手になる日を狙っている。前回の記事でも書いたが、水道という公共用水の分野ではなく、産業用水、すなわち半導体産業の主要部材であるシリコンの洗浄に使われるような水の処理プロセス全体を次なる事業ターゲットに据えたのだ。

無数のハードウェアの接続によってのみ説明されてきた、このプロセス全体を、ソフトウェアの力を使ってより緻密に繋ぎ直す。すると、極めて純度が高い水を作り出すために必要だったプロセスの中で、とりわけ問題となっていた消費電力の問題に片がつくと見ている。この技術は、電力消費含め、プロセス全体のコストを2~4割減らすことになるだろうと日経新聞に語った。

普通の人は、水処理を知らない。当たり前だ。だからこそ、この日経新聞に書いてあることの産業上の意義に気づくのが、5~7年遅れるだろう。僕がヒト型ロボットベンチャーの技術と、それが果たす未来の世界観に夢中になり、やがてGoogleに会社を売却した頃、実際に中で何が起こっているのか、世界の最先端では何が起こっているのかを知る人は少なかった。記事になってもよく分からない。世の中とは、実にそういうものだ。

Googleがロボットベンチャーを買収し続けた2013年から、既に7年の歳月が流れている。主要なメディアがロボットだ何だと書き立て、一般の人たちの生活の中に、こうして新しい概念が浸透するにはまだまだ時間がかかる。その過程では、ロボットバブルが起こり、人間が片手間でやったほうが良い作業をロボットにやらせるといって、架空のベンチャー話が持ち上がり、多くの人たちがお金をドブに捨てる。世の中とはそういうものなのだ。

日本における人工知能も、完全にバブルの様相だ。多くの善良な市民たちのお金が、架空のベンチャー話の中に消えていく。それを苦々しい思いを抱えながら、アメリカから見ている。彼らは、技術によって変革が可能な、市場に存在する事業機会を誠実に見つめるのではなく、一般市民、一般消費者の、投資家としてのリテラシーの低さを逆手に取って、金儲けをしようとしているだけだ。価値あるものを生み出し、その一部を報酬として受け取ることによって自らを利するのではなく、斜めの方向からの権威付け、手練手管による相手からの収奪によって自らを利しているという点で、とても受け入れがたい。

だからこそ、僕たちは本物でありたい。僕たちがヒト型ロボットベンチャーでやったように、水道配管の劣化分析に人工知能を適用したように、またこの水処理の世界に焦点を定めたように、本当に意義のあるものは、必ず生き残る。水処理のコストを2~4割減らすことができれば、この分野における競争のルールが大きく変わる。やがて、競争の順位が変わる。水処理で国内首位を維持してきた栗田工業が、ついに世界のリーグで戦える体制が整うのだ。

コインの表と裏のような存在

こうした背景のもと、AIで水処理の業界に革命を起こすべく活動しているのが前回の記事でもご紹介したFracta Leapだ。そのCEOは、僕がかれこれ10年以上も前から一緒に仕事をしているヒロだ。フラクタの元CFOで、超がつくほど優秀。にもかかわらず、鼻の下に無用なプライドをぶら下げていない、本物の戦士だ。

栗田工業とともに水処理分野にイノベーションを起こすため、適任だと思ったのがヒロだった。ヒロには去年までフラクタのCFOとして、ファイナンスや経営企画などを見てもらっていたが、彼の才能をここで止めてはいけないと、少なからず感じていた。M&Aなど、針の穴に糸を通すような難しい仕事が年がら年中あるなら別だが、そうでない限りは、もっと複雑で困難な場所のほうが彼の才能が生きると考えていたのだ。

僕は情熱先行、ヒロはいつも冷戦沈着。僕は超せっかち、ヒロはしかるべき時間軸を受け入れる。僕がトンチの効いたアイデアを思いつけば、ヒロがそれを淡々と塗り固めてくれる。僕たちはコインの表裏のような関係だと、昔から思っている。似たようなところがあるとすれば、それは「ひとたび世に生を受けたなら、普通であってはならない」という思いだ。お互い、ビジネスマンとして、人間として、一流たらんとする気概に溢れている。

Fracta Leapの仕事は、古い産業に新しい技術を持ち込むことなのであり、プロセス全体を理解し、解きほぐし、それを抜本的に変革し、長い時間をかけて試験をするという、実に辛抱強く取り組まねばならない事業だ。すぐに効果を求めていては、イノベーションは起こせない。超優秀で、かつ長期的な視野を持って辛抱強く取り組めるヒロをCEOにすれば、何か面白いことが起こるに違いないと考えたのだ。

才能に恵まれたのなら、世の中のために活かせ

ヒロとの出会いは、10年以上前に僕が事業会社で企業再生の仕事をしていたときのこと。ヒロはもともと戦略コンサルティングの会社にいて、まるで転職活動もしていなかった彼に、僕が勝手に熱烈なラブコールを送り、ある意味では無理やり企業再生の世界に連れ込んだ。僕の人生はいつもそんな感じだ。ある種、人生全体が強烈な巻き込み活動になっている。

初めてヒロに会ったときに、何を話したか、僕はあまり覚えていない。ヒロに聞くと、僕は面接だというのに、シリコンバレーでなぜテクノロジー産業が発展したのか、スティーブ・ジョブズがどうやってアップル・コンピューターを創業したか、そんな話をしたそうだ。一つだけ覚えているのは、ヒロが非常に的確に、僕の質問を返してきたことだ。

ヒロと一緒に仕事をすれば、誰もが気づくことがある。それは「この人には勝てない」ということだ。僕は自分のことをバカだと思っていないけれど、ヒロと一緒に仕事をしたときに、生まれて初めて「この人には勝てないな」と直感した。朝の4時まで仕事をして、9時には会社の座席に座っている。4日間不眠不休になると、ちょっと声が細くなる。しかし、仕事の効率は落ちない。サイボーグのような人。なのに性格が良いし、威張るところがない。

その昔、北野武(ビートたけし)さんが面白いことを言っていた。彼は真剣に受験勉強をしたけれど、結局受験に失敗して、自分は勉強の世界では一番にはなれないと潔く結論した。だからこそ漫才の世界で生きていこうと真剣に思えたのだそうだ。この話に近いところがある。僕は10年前にヒロに会い、緻密なロジックの世界で生きていくことを止めた。それは彼に任せれば良い。自分には、ある種トンチの効いたアイデアがあり、人の間を塗っていく才能がある。これに賭けようと、あの時本当に思えたのだ。

やがて、その企業再生の仕事を終えると、僕たちは別々の道に進んだ。

ヒロがフラクタにジョインしてくれたのは、僕がアメリカから彼にかけた一本の電話がきっかけだ。彼は当時、既に個人で独立しており、経営コンサルティングの仕事をしていた。彼のような素晴らしい能力を、成熟した企業向けの経営コンサルティングに使うのはもったいないな。僕はそう考えた。ヒロは、もっとピュアに、世の中にインパクトを与える仕事をするべきだ。もちろん、ヒロの能力をもってすれば、経営コンサルタントですごい金額を稼ぐことができるだろう。でも、本当にそれでいいのか。

「ノブレス・オブリージュだよ、ヒロ。仕事ができる才能に恵まれたのだから、それを社会のために活かさなきゃいけない」

ノブレス・オブリージュとは、ヨーロッパの貴族社会に伝わる考え方だ。才能に恵まれたならば、そこには同時に責任も付いてまわるということ。類まれなる才能を持つヒロにも、同じことが当てはまると思った。そんなこと、ヒロが決めることだ。なぜならそれは彼の人生なのだから。しかし、僕にはそう思えなかったし、今もそう思っていない。彼ほど有能な人間は世界に何人かしかいない。その彼が、力無き人たちのために、世の中を良くすることのために能力を使わないというのは、どうしても納得がいかなかったのだ。

Fracta LeapのCEOになってから、ヒロは僕がフラクタを創業した頃のような悩みや苦しみに立ち向かっているようだ。それは本当に計画通りなのであり、彼の才能から世の中がより多くの恩恵を受けるため、必要なプロセスだと思っている。どんどん苦労すれば良いし、どんどん傷つけば良い。彼はまだ若く、その全てから学ぶことがあるのだから。僕は定期的にヒロとミーティングをして方向性を確認しているが、僕に似たことをやっていることがあり、危なっかしさも感じる。いずれにしても、全部が正解だ。

ソーシャルグッド(=社会益)への熱情を持つ者

Fracta Leapのもうひとりの立役者は、データサイエンティストでFracta LeapのCTOを務める羽鳥君だ。彼は、自らの仕事でソーシャルグッド(=社会益)を実現しようとする意欲がとても強い。大学院時代にノーマン・ボーローグの「緑の革命」を知り、科学技術を使って多くの人の命を救う仕事がしたいと思ったそうだ(「緑の革命」とは、1900年代の半ば、品種改良や化学肥料といった技術の発展によって、穀物を大量に生産・収穫できるようになったこと)。

羽鳥君は面白い人で、林業の活性化や、砂漠の緑地化など、大規模な環境問題に個人的にも取り組んでいる。昨年は砂漠の緑地化を見るためにオマーンへ、一昨年は森林の減少が進むマダガスカルと、さまざまな場所に視察に行くほどの情熱家だ。昨年彼と仕事の件でビデオ電話をしたときに、「今どこにいるの?」と言ったら、「今はオマーンにいます」と言っていて、本当にびっくりした覚えがある。何しろオマーンという国がどこにあるのか、一瞬分からなかった。うちの会社は、とにかくハチャメチャな人が多い。

彼との出会いは、2014年前後に、僕がある大学の大学院で講演をしたときに遡(さかのぼ)る。一通りの話を終え、質疑応答の時間になると、他の人がヒト型ロボットベンチャーの創業経緯など、ある意味では通り一遍の質問をする中、羽鳥君だけはなぜか、当時の彼の恋人との向き合い方について質問してきた。その話も、グルっと一周回ると、仕事への向き合い方という話に繋がっている。頭が良いし、肝が据わった人だなと思い、僕の記憶に残った。要は、天才、なのだ。

フラクタが初期の人工知能を開発していた頃、「そういえば羽鳥君はどうしているだろう?」と思い出し、連絡を取ってみた。その頃、彼はまだ大学院に在籍しており、学生生活の最後を謳歌していた。話をすると、僕たちがやっていることをすぐさまに理解して、色々と助言をくれた。就職は大企業に行く予定になっているとのことだった。

大企業に就職して活躍している彼に、また連絡した。不思議な人で、どうにもこうにも彼がうちの会社に必要なことは明らかだと思ったのだ。とにかく何度も連絡をして説得した。仕事に社会的な意義を見出したい彼だから、フラクタの事業にマッチするはずだと思った。かくして彼は、フラクタが日本で初めて採用したデータサイエンティストとなったのだ。

その後、フラクタの日本法人ができ、彼が先頭を切ってさまざまなチャレンジを実現してきた。東急電鉄などの水道管ではない仕事も、彼が成功させてきたと言って間違いない(このあたりの話の一部は、東急電鉄で羽鳥君の相手サイドにいた森田創さんが書いた『MaaS戦記』 [講談社刊]にも記載されている)。日本の優秀で志の高いエンジニアチームを形成してきたのも彼の功績だ。

泥臭い仕事を厭わず。本物のベンチャーは、その先にのみ有り

羽鳥君が現在もっぱら苦労していることの一つは、データの整備についてだ。データサイエンティストは輝かしい職業のようで、分析する前のデータを整えることに多くのリソースが注がれている。もともときれいなデータを集積するカルチャー・体制があれば苦労はしないかもしれないが、フラクタが取り組んできたインフラ産業や、今取り組んでいる水処理産業も、決してデータ活用に最適な形でデータが整備されているわけではない。

例えば、桁数が揃っていない、数値かテキストかといった「型」が揃っていない……ならまだしも、数字を入れるべき項目に文字が入っていることもある。また、データを取る頻度もまちまちで、機器も場所によって異なる。さらには、紙のデータをPDFで読み込んで目視で入力することもある。本当に気の遠くなるような、地道な作業なのだ。

ただ、羽鳥君は本当に辛抱強い人で、世の中をよくするためには努力をいとわない人だ。さらに、羽鳥君がリードして技術者を採用してきたから、Fracta Leapには社会課題解決のために奮闘するメンバーばかりが集まることになった。

データサイエンティストのコンペティションなどでありがちなのは、きれいに整備されたデータを使って「こんな解析ができました」と言う人たち。ところが、それにあこがれてデータサイエンティストを目指したら、のちのち痛い目にあうだろう。

整備されたデータを解析するのは、実はさほど難しくはない。実際に大変な作業であり、同時に大きな価値を持つのは、よりよい解析のためにデータの持ち方を再定義していくこと。今まさに取り組んでいる泥臭い作業があってこそ、将来にわたりデータのポテンシャルを存分に引き出していくことができるのだ。

羽鳥君は、そんな仕事に強い熱意をもって取り組んでくれている。非常にガッツがある青年だ。彼は、今日も水処理プラント業界のデータ解析の在り方を変革するために、自分自身とチームを鼓舞し続けている。

長年の付き合いで絶大な信頼を寄せるヒロと、変わり種の天才でありながら、日本での技術展開をリードしてくれた羽鳥君。彼ら二人が率いるFracta Leapで、水処理の世界に革命が起こる。その結果できた新しい技術は、世界中の水資源の不足を解消する一助になると考えている。こうした思いと、情熱と、才能と、絶えざる努力が、僕やヒロ、羽鳥君が目指す「社会益」を生んでいくことは間違いない。

これが、これこそが、本物のベンチャーなのだ。

(記事終わり)

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前編20分:

後編20分:


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