川口貴史

兵庫県小野市在住・川口製作所代表 / 鍛冶屋見習い / 靴用品アドバイザー / WEB…

川口貴史

兵庫県小野市在住・川口製作所代表 / 鍛冶屋見習い / 靴用品アドバイザー / WEBライター。播州刃物後継者育成事業に参加し、修行の日々を送る 。その他ライティングのご依頼を承るかたわら、靴業界での経験をもとに靴用品の開発にも携わります。旅、山、日々の暮らしを発信します。

マガジン

  • 暮らしの愛用品

    本、カメラ、文具、靴——その他、日々の暮らしを支える、長く使える愛用品を紹介します。

  • 遊歩と野宿

    関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。

最近の記事

ヨモギの薬草茶

 野山を歩いていると色々な香りに出合う。  土や、空気に含まれる湿り気の香り。  獣が残した野生の匂い。  そして木々や野草が発する緑の香り。中でもヨモギの放つ爽やかな香りは、あの草餅をほおばる瞬間の、食欲をそそる清々しい香りとして、多くの人の心に記憶されていることだろう。  そんなヨモギを手軽に利用する方法が、薬草茶である。作り方はとても簡単。  ヨモギの若葉を適量刻む。  刻んだヨモギを急須に入れ、湯を注いで数分待って出来上がり。  薬草茶の淹れ方は様々ある

    • 地元の産業を未来へ紡ぐ。富士山ナイフ青紙リリース

       ぼくが通うワークショプが、クラウドファンディングを開始した。  2018年7月に、兵庫県小野市で刃物職人の育成工場「MUJUN Workshop」を立ち上げた合同会社シーラカンス食堂 (本社:兵庫県小野市/代表社員:小林新也)は、職人をさらに増やすことを目的に、これまで主力商品にしていた富士山ナイフの新バージョンをクラウドファンディング(Makuake)でリリースした。売上を後継者育成に活用する。 *  少し前の時代まで、職人の世界では親方に弟子入りするかわりに、食事

      • 囲炉裏とソロストーブの共通点とは|これからのエネルギーのことを少しだけ考えた

         現代の暮らしの中で、火のありがたさを実感することは、なかなか難しいことなのかもしれない。ぼくは薪での風呂たきも、かまどでの飯炊きも経験がない世代で、ガスコンロのスイッチをひねれば簡単に火が得られる環境で育ってきた。いや、自宅はオール電化で、そもそも暮らしに火が必要ない家庭も今では珍しくないだろう。そんな現代人が、例えばキャンプやバーベキューで火を起こそうとして、なかなか思うようにいかず、そこで初めて火の尊さを思い知るのである。  少し前、仕事の関係で大内正伸先生宅に泊めさ

        • 隠岐

          *2022年の投稿を編集し、再掲したものです。 夕日の沈む先 港町はゆっくりと、夕暮れの光に包まれてゆく。  いつも山ばかり歩いているぼくにとって、海面に降り注ぐ温かな光と、港に漂う潮の香りはとても新鮮だった。波の音色にまじる、時々行き交う車やバイクのエンジン音、それに船の汽笛の他には、何もない。静かなものだ。  八尾川沿いの、汐待ち通りにそって漁船がいくつも並んでいる。漁船の甲板には屋台の骨組みのようなフレームがあり、そこに大きな裸の電球がいくつか備えられている。湾内

        ヨモギの薬草茶

        マガジン

        マガジンをすべて見る すべて見る
        • 暮らしの愛用品
          川口貴史
        • 遊歩と野宿
          川口貴史

        記事

        記事をすべて見る すべて見る

          播州刃物|フリーランスの鍛冶屋(見習い)はじめました

           ワークショップの扉を開くと、ベルトハンマーを打つ大きな音が脳天を貫いた。お花ばさみ職人の宮之原氏——今ではぼくの先輩——が、総火造りのはさみを鍛える真っ最中だったのだ。ワークショップのスペースには、ベルトハンマー他、グラインダーや金床、炉、それにあらゆる工具や鋼材がところ狭しと並べられている。そして赤められた鉄と鋼が、みるみるうちにはさみの姿へと成形されてゆくのだった。  「お花ばさみを総火造りできる職人は、日本にもう5人もいないんじゃないかな」  後日、宮之原氏はそう

          播州刃物|フリーランスの鍛冶屋(見習い)はじめました

          山や旅の記録をとる道具

           スマートフォンのカメラ性能は毎年のように進化する。もはや写真は「スマホのカメラで十分」という人も多いことだろう。  一方で、その手軽さからどんどん撮影を重ねた結果、どこで、何を撮った写真だか分からなくなることはないだろうか。もしかしたら撮影したらそれっきり、二度と開かない写真もあるかもしれない。  写真と同じく、山や旅の記録方法も随分と様変わりした。例えば登山なら、山地図アプリでログをとり、写真を添えてSNSに共有するのが、今どきの登山記録の在り方なのかもしれない。

          山や旅の記録をとる道具

          モンベル・トレールワレット|アウトドアにおすすめの小さな三つ折り財布

           山に出かけるときの、悩みのひとつが財布だった。日常に使うような大きな財布を持っていくわけにはいかないし、コンパクトな財布でも使いづらいとストレスになる。ならばいっそ財布を持たなければどうか。  電子マネーで全ての支払いを済ませられるといいのだが、山の施設ではまだまだ現金が主流だ。あれこれ試行錯誤して、たどり着いたのが「mont-bell (モンベル)トレールワレット」である。コンパクトで軽い財布ながら、紙幣や硬貨を使いやすく収納できる点が気に入った。 小さい 軽い

          モンベル・トレールワレット|アウトドアにおすすめの小さな三つ折り財布

          芭蕉が愛した山中温泉|鶴仙渓の自然と川床を味わう 

           橋桁から、カマキリが川に落ちた。  とたんに川魚が我先にとカマキリに群がってきた。獲物を、待ち構えていたのだ。  カマキリはもがいて逃れようとするが、抵抗むなしくやがて川底へと飲み込まれてしまった。ここでは、自然界の当たり前の営みが繰り返されていた。 *  ある年の夏、青春18きっぷを利用して、石川県加賀市・山中温泉を訪れた。温泉郷のすぐそばには、情緒ある街並みと、心を洗う自然がある。温泉街に沿うように流れる大聖寺川の渓谷は「鶴仙渓」と呼ばれ、それはそれは心の休まる

          芭蕉が愛した山中温泉|鶴仙渓の自然と川床を味わう 

          小野アルプス

           冬の空気に注がれる、日の光が暖かだった。  自転車を鴨池公園駐車場にとめ、男池、女池をぐるりとまわる。獣よけのゲートをくぐり紅山と惣山の谷間をゆくと、その先が登山口だ。休日ながら人の気配は感じない。木々の隙間から光が差し、森が爽やかに照らされていた。  アルプスと名付けられてこそいるが、兵庫県小野市に連なる小野アルプスは、日本一低いアルプスとして知られている。最高峰の惣山、通称”小野富士”でさえ、標高はわずか198.9mだ。白雲谷温泉ゆぴかから福甸峠までの約8kmの間に

          小野アルプス

          手拭い|日本古来の速乾タオルが手放せない

           日本には古来より受け継がれてきた素晴らしい道具がある。漆器、金工、曲げわっぱ、足袋、扇子、日本刀……。ぱっと思いつくだけでもこれだけの道具を挙げられるが、その中から、ぼくが旅や日常で愛用しているのが手拭いだ。  山中でも街中でも、手を拭ったり額の汗を拭ったりするための布巾は欠かせない。多くの人はタオルやハンカチを利用していることだろう。だが手拭いの良さに気がついてからは、ぼくはすっかり虜になってしまった。手拭いは乾くのが速く、薄くかさばらない。魅力はこの点に尽きる。  

          手拭い|日本古来の速乾タオルが手放せない

          ビクトリノックスの小さなポケットナイフ

           10数年ぶりにポケットナイフを新しくした。  長年の使用に耐えてくれた「ビクトリノックス・トラベラー(現・クライマー)」は既に傷だらけだ。まだまだ現役で使えるのだが、そろそろ買い替えてもいい頃合いだろう。  ぼくが新しく選んだのは同じくビクトリノックスの「エクセルシオール」、旧称スーベニアだ。世界で初めて女性によるエベレスト登頂および七大陸最高峰登頂を果たした田部井 淳子さんが愛用したことで知られる、シンプルなポケットナイフである。  アウトドアナイフと聞くとどのよう

          ビクトリノックスの小さなポケットナイフ

          勝尾寺南山

           静かな山の中は、落葉を踏みしめる音と野鳥の鳴き声しか聞こえなかった。  この日、今季一番の寒さを記録し、トレイルもすっかり冬めいてきた。低山のベストシーズンの到来である。肌をなでる風は冷たく、しかし登り坂をゆく体の芯はホカホカと温かかった。  白島から水神社へ、そこから谷山尾根で勝尾寺南山を目指す。観光客がゆきかう箕面大滝周辺と違い、谷山尾根は静かなものだ。地図にはないルートもあり、ちょっとした冒険気分を味わえる、ぼくのお気に入りのトレイルだ。  トレイル標識〈みのお

          勝尾寺南山

          紅葉の京都一周トレイル

           ひんやりとした、秋の爽涼な空気を感じながら、栂ノ尾バス停を出発した。  雨上がりのトレイル。  ぬかるんだ地面にできた水たまりに、1枚の色づいた紅葉が浮かんでいる。昨夜の雨の影響だろうか。清滝川を流れる水が、青白くにごっていた。  栂尾・槙尾・高雄は三尾と呼ばれる、京都を代表する紅葉の名所である。高雄から清滝川沿いに広がる錦雲渓は、清流に映える紅葉が美しい。今日は錦雲渓を伝う京都一周トレイルを、栂ノ尾から嵐山までつなぐ。  水をたっぷりと吸ったコケの緑が目に鮮やかで

          紅葉の京都一周トレイル

          ベルボンの大型三脚「Mark-7DSV」

           とある中古カメラ店の、2階へと続く階段を上がる。ライカ、ハッセル、ローライその他、高級舶来カメラが美しくディスプレイされるケースの奥に、大小さまざまな三脚がところ狭しと並べられていた。その中からひとつ、大型の三脚を選び出し、雲台を操作し足を伸ばし、状態をまじまじと観察した。レジに向かうまで、さして時間はかからなかった。  ベルボンマーク7DSV。今はもう廃盤になった、プロユースの三脚だ。総重量は5㎏に迫る本格的な大型三脚である。  言うまでもないが、三脚はカメラを固定す

          ベルボンの大型三脚「Mark-7DSV」

          ミニマグライト 2AA|ハンディーライトの世界を変えた名品

           航空機と同じ素材で作られたハンディーライト。そう聞いて、ワクワクしない少年など世の中に存在するのだろうか——。というのはぼくのいささか偏った考えかもしれないが、アウトドア、ミリタリー分野に関心のある人が、ハンディーライトと聞いて真っ先に思い浮かべるのがマグライトである。  ぼくが10代だった90年代後半から2000年代初頭、マグライトはタフに使えるハンディーライトの代名詞だった。航空機に使われるアルミ合金を削り出し、特殊コーティングにより耐腐食性を向上させた強靱なボディー

          ミニマグライト 2AA|ハンディーライトの世界を変えた名品

          シャーロック・ホームズ『緋色の研究』

           旅のお供に文庫本を1冊選ぶとするならば——。  この難問に応えうる愛読書をいくつかピックアップしてみると、『旅をする木』/星野道夫、『つむじ風食堂の夜』/吉田篤弘、『思考の整理学』/外山滋比古、『風の歌を聴け』/村上春樹などが思い浮かぶ。いずれも一度だけでは飽き足らず、何度も読み返しているぼくの一軍リストである。  ここにもう一冊加えたいのが、ぼくの読書の原点『緋色の研究』/コナン・ドイル——顧問探偵シャーロック・ホームズとその友人ワトスン博士が主人公の、シャーロック・

          シャーロック・ホームズ『緋色の研究』