川口貴史

大阪市在住・WEBライター / 靴用品アドバイザー。ライティングのご依頼を承るかたわら、靴業界での経験をもとに靴用品の開発にも携わります。旅、山、日々の暮らしを発信します。

川口貴史

大阪市在住・WEBライター / 靴用品アドバイザー。ライティングのご依頼を承るかたわら、靴業界での経験をもとに靴用品の開発にも携わります。旅、山、日々の暮らしを発信します。

    最近の記事

     永平寺の龍門をくぐると、甘茶の香りが漂ってくるかのようだった。  バス停から門前町を抜け、四方を山に囲まれた深山幽谷の地へ向かう。永平寺川が清らかに流れる、巨杉が育つ社寺林の中に、曹洞宗大本山永平寺が静かにたたずむ。  深い山の中でなぜ甘茶を感じたのか。  それには、こんな理由があるからだ。  ぼくが通った保育所は曹洞宗のお寺「慶徳寺」に併設されたものだった。曹洞宗のお寺、いわゆる禅寺である。1928(昭和3)年、農繁期に託児所を、慶徳寺の僧堂に開所したのが始まりだ

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      • 姫路、岡山、フィルムカメラ散策記

         大阪から西へと向かう、列車の窓から眺める空には、うろこ雲が広がっていた。秋を感じる青く澄んだ空と海に、明石海峡大橋がよく映える。ぼくは手にしていた文庫本から目を奪われ、そんな景色をぼんやりと眺めていた。後ろの座席からスマートフォンのシャッター音が聞こえてくる。ええ、分かります、その気持ち。  ぼくにとって、加古川から姫路、そして岡山への道中は通い慣れたものである。  転校前、初めて通った高校は、播磨科学公園都市「テクノ」にあった。姫路から相生へ、そこからバスに乗り替え学

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        • 大阪はミナミ、フィルムカメラ写真散歩

           あべのハルカスから見下ろすミナミの街は新鮮だった。  登山が趣味であるぼくにとって、山上からの山や海の景色は見慣れたものだ。標高1000mを超える山々からの眺めは、それはそれは素晴らしいものである。  しかし、あべのハルカス16階の庭園から眺める街の姿も、悪くないなと思うのだった。  ビルの屋外に設けられた庭園は、木々や植え込みに囲まれた緑の空間である。ベンチがいくつも備えられ、家族連れやカップルが思い思いにくつろいでいる。屋外だからもちろん天井はない。地上よりいくら

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          • 大阪発、青春18きっぷで“名古屋を食べに”出かける旅 #2

             名古屋駅周辺の金券ショップは……あと1軒。ここで手に入らなければ、潔く諦めるしかない。わずかな希望にすがるように、最後の一軒に問い合わせてみる。 「5回分、未使用なら1枚ありますよ」  天はぼくを見放さなかった。 「今夜泊まっていかないか」という誘いにOKをもらったときばりのガッツポーズを素早く心の中で決める。しかし「旅にきっぷを買い忘れた間抜けな客なのでは」と見透かされてはいけない。喜びは胸の奥底にしまい、あくまでポーカーフェイスを装う。5回分、全ては使いきれないが

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            大阪発、青春18きっぷで“名古屋を食べに”出かける旅 #1

             夏休みも終わり、世の中が再び慌ただしく動き出した。  元気に登校する子供たちの声を聞きながら、2020年9月1日、零細フリーランスの気ままな大人が、青春18きっぷでぶらりと旅に出た。  2020年も早、半年が過ぎ、思えばその半分以上がコロナ禍に翻弄されてきた。正月ごろはまだマスクも必要なく、何気兼ねなく外出できたのに——。  そういえば正月休みに出かけた某温泉リゾートの半額券が、引き出しの中に眠っている。引っ張り出してみると、コロナ禍で延長された有効期限が目前に迫って

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            日本三大商人の町、近江八幡をゆく

             旅先で、特別なことは何もしない。  なるべく飛行機や有料特急を使わずに、電車や船を乗り継いで、あとは見知らぬ町や自然の中を、ひたすら自分の足で、ただただ歩く。いわば現代版・膝栗毛がぼくの旅の信条である。 「歩くだけで一体何が楽しいのか」  と問われるかもしれない。  ぼくはちょっとした旅行記として旅を写真とテキストにまとめる。まとめるためには筆記具とカメラを手に、よく観察しながら歩く。町をキョロキョロ、右往左往しているうちに、一見何でもない風景の中にも発見があるから

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            真夏の午後

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            礼讃、機械式フィルムカメラ

             はじめに、日本工学工業(現ニコン)の皆様に謝りたい。  なにせ、手元にあるニコマートやオールドニッコールレンズは約60年も前に設計・生産されたカメラである。もっと周辺像が崩れたり、フレアやゴーストが盛大に出たりして、あるいは露出が大きく外れたりしてトイカメラのように写るのだろうと想像していたのだ。今となってはむしろ、それがフィルムの味なのだろうと。  それが、奈良公園でなんとなくシカを撮影したカットで、体毛やまつげの1本1本を解像しているのを目の当たりにして、ぼくはたま

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            ソウルフードを求めて、青春18きっぷでゆく #2|香川の讃岐うどん編

             加古川から姫路へ、そして相生、岡山へと向かう。  相生を過ぎると線路はすっかり街から離れ、青々と稲が育つ田園風景の中をゆく。岡山の倉敷を訪れ、そこで一夜を過ごした。  さて翌日、今日の予定はどうしたものかと少し悩む。  結果、香川まで足を伸ばしたのであるが、倉敷から帰路につき、姫路のおでんや駅そば、明石の明石焼きなど名物を食べる手もあった。姫路も明石も大阪に帰る途中だから、帰りも楽だ。  が、青春18きっぷの真骨頂は日帰り旅である。  一日あたり2,410円、その

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            ソウルフードを求めて、青春18きっぷでゆく #1|兵庫県加古川市のかつめし編

             青春18きっぷをポケットに、フィルムカメラを肩から下げて、列車の窓から景色を眺める。  なんとアナログな旅だろうか。  いまの時代、旅の手段なんていくらでもあるのに、よりによって時間と労力と手間をかけて旅をしようなんて、ぼくは我ながら酔狂な男である。  持ち物はひと組の着替えと洗面用具、文庫本、水筒、筆記具、36枚撮りフィルム1本。スマートフォンも念のために携帯はするが、出番はない。  新大阪駅の改札をくぐり、東海道本線で西へ向かう。通勤ラッシュもとおに終わり、乗降

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            奈良|若草山と、麓の美味しいカレー屋さん

            若草山のシカ 若草山の麓のゲートで雨が降り出した。  あらかじめ天気予報で雨の覚悟はしていたが、さて、これから山頂へ登るべきか否か——。雨を確認するとき誰もがそうするように、手のひらを天に向け腕を上げてみる。見上げた空はどんよりと暗い。しかしそんなことはおかまいなしに、山の草原では数十頭のシカがせっせと芝をむさぼっていた。  標高342m、面積33万㎡、芝生に覆われた三段重ねの山は、別名「三笠山」とも呼ばれる。奈良公園の山並みの中で、ひときわ美しい稜線を描いている。奈良の

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            15年ぶりのフィルムカメラ

            日本光学のニコマート 大阪の地下街にある、とあるレンタルボックス店の片隅で、鈍い輝きを放つ金属の塊を見つけた。ボックスにところ狭しと並べられたカメラやレンズ群の中から、「Nikomat(ニコマート)」のロゴがキラリと光るのを感じたのだ。  あっ、コンビニじゃありませんよ、念のため。  1965(昭和40)年に、日本光学工業(現・ニコン)から発売された、中級機マニュアルフォーカス一眼レフである。  タグを見ると〈動作○、モルト交換済み、露出計1段アンダー|2,980円〉と

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            緑の稜線

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            京都でサンドイッチにはさまれたい

             兵庫県出身のぼくが大阪へ移り住んでよかったことは、京都が近くなったことである。 「いやそこは大阪の魅力を語らんかい!」  と全大阪府民から盛大なツッコミが飛んできそうだが、まぁとにかく、最寄りの新大阪駅から京都駅まで24分、新幹線ならたったの13分と、アクセスのよさから京都に出かける回数が増えたのは間違いない。  いつもなら京都の山に出かけるのだが、電車を乗り継ぎてくてく歩き、今日は出町柳にやってきた。京都の人気カフェを巡って、好物のサンドイッチにはさまれてみようとい

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            隠岐 #4|中ノ島海士町

             島前内航船「いそかぜ」が、海を飛ぶように走る。  西ノ島別府港から中ノ島(海士町)菱浦港に到着したのは、午後5時前のことだった。港から歩いてすぐ、まるで現代アートの美術館のようなホテルが目の前に現れた。  Entô(遠島)。遠く離れた島、島流しを意味する言葉だ。隠岐は古くから遠流の地でしたね。ここは結婚5周年の旅の、メインの目的地といってよい。ちょっと良いお宿に泊まって美味しい食事を食べて、ささやかなお祝いをしようというものだ。  1971年開業の、国民宿舎「緑水園」

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            隠岐 #3|摩天崖

             国賀海岸への最後の坂道を登り切ると、視界を遮るものがなくなった。  辺り一面の海、そして、隠岐をジオパークたらしめる景観が、どこまでも続いている。巨大な大地が風や波に削られて、荒々しい姿を惜しげもなくさらし出していた。  国賀海岸駐車上に自転車を置く。休憩所がひとつと、お手洗いの横には自動販売機がある。トレッキングコース案内板を確認すると、駐車場から頂上のように見えているのは途中の通天橋で、摩天崖はさらにその奥だ。ここから海抜0mまでいったん下り、標高差約250mを登っ

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