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小野アルプス

 冬の空気に注がれる、日の光が暖かだった。

 自転車を鴨池公園駐車場にとめ、男池、女池をぐるりとまわる。獣よけのゲートをくぐり紅山べにやま惣山そうやまの谷間をゆくと、その先が登山口だ。休日ながら人の気配は感じない。木々の隙間から光が差し、森が爽やかに照らされていた。

 アルプスと名付けられてこそいるが、兵庫県小野市に連なる小野アルプスは、日本一低いアルプスとして知られている。最高峰の惣山、通称”小野富士”でさえ、標高はわずか198.9mだ。白雲谷温泉ゆぴかから福甸峠までの約8kmの間に、100〜200mの山々が連なっている。

 低山だからと侮るなかれ。

 縦走すると累積標高は登り下りとも約700mと、六甲山や摩耶山への登山に匹敵するのである。

 登山口をさらに進み再びゲートをくぐる。ゲートの先を東に折れ、しばらく登ると展望デッキだ。

 デッキからは小野市の街並みを一望できる。

 ここからの景色が、ぼくは大好きだ。

 3年前、小野アルプスを縦走したときにも同じ景色を眺めた。そして「我がふるさとも、なかなか悪くないな」と思ったのだった。そう、ぼくは小野市の出身である。2023年に故郷へUターンしてきた。その決めてのひとつが、小野アルプスから眺めるふるさとの景色である。

 展望デッキの先の岩場で、老ハイカーのお二人が休憩なさっていた。多分ご夫婦だろう。

 と、ご主人がおもむろにハーモニカを構える。

 穏やかな冬の午後が、里山の豊かな緑と懐かしいハーモニカのメロディーに包まれながら過ぎていった。

惣山の北東にある展望デッキ。
デッキからの眺め。なんてことのない風景なのだが、ぼくにとっては特別である。

 200m足らずの標高にもかからわず、小野アルプスになかなかの登りがいを感じるのは、紅山の岩場の存在が大きいのではないか。難易度は優しく比較的安全な岩場とされるが、なかなか高度感がありスリルを味わえる。

 たしか、小学4年生の遠足で登った記憶があるが、足がすくんで泣いてしまう子もいたっけ。紅山を遠くから見ても岩場が急であることはひとめで分かる。が、いざ岩の目の前にくると、それは急坂どころではなく、壁のように立ちはだかるのである。

 岩場も中盤あたりまでくると、3点支持をまじえて登る。ひたいの汗を拭いつつ、慎重に山頂へと立った。

 紅山を下り、再び鴨池公園に戻ってきた。秋から冬にかけての時期、池にはシベリアからカモ類やコハクチョウが飛来する。鴨池は、コハクチョウが飛来する最南端の池なのだ。

 カメラや望遠鏡を構える愛好家にまじり、ぼくも野鳥を観察する。上空を、トビが旋回していた。

紅山の岩場。オレンジ色の正体は「ダイダイゴケ」の一種だ。
写真では伝わりづらいが、岩場を上から見下ろすとなかなかの傾斜である。
鴨池は地元民のオアシスだ。
ジョウビタキの雄が、運良く近くにとまってくれた。

データ

小野アルプスのハイキングマップは「小野市観光協会」からダウンロードできます。
  • 距離:約5km

  • コースタイム:約2時間

  • コース:鴨池公園→岩倉入口(登山口)→展望デッキ→惣山→紅山→岩倉入口→鴨池公園

  • アクセス:JR加古川線小野町駅より徒歩約30分

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