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スパイス冒険記|神戸・三宮の老舗カレー店「いっとっ亭」

 4ヶ月の間、毎日カレーを食べたことがある。

 それはぼくが25、26歳のころの話で、かれこれ15年ほど前のことだ。

 「スパイスをめぐる冒険へ出よう」とか「スパイスの織り成すブラックホールの深淵はいかに」とか考えていたわけではないのだが、神戸に暮らしていた当時のぼくは、職場近くの神戸・三宮センター街の地下へ、昼休みの度にカレーを求めて旅に出ていたのである。

 それにとどまらず、休日さえも美味なるカレーを探しに神戸・三宮エリアをうろつきつつ、自宅ではスパイスを買い込んでカレーの試作を続けるという熱の入れようだった。

 いったい何がぼくをそこまで突き動かしていたのか、今となってはまったく思い出せないのだが、

 「そろそろ顔がカレー色になるのではないか」
 「体からスパイスが香り始めるのではないか」

 なんてことを危惧していたことは確かである。


神戸・三宮センター街の地下でカレー店をめぐる

 神戸・三宮センター街の地下は、カレー激戦区といっても差し支えないほどカレー店がひしめている。

 その筆頭は「SAVOY(サヴォイ)」だろう。 「Japanese Curry Awards 2020」を受賞し、食べログ「カレーWEST 百名店2020、2022&2023」にも選出されて、ぼくも何度も通った店だ。

Japanese Curry Awards 2020
カレーWEST 百名店2020、2022&2023

 続いて「ガンジ」や「神戸浪漫」。神戸浪漫のカレーから感じる爽やかなトマトの酸味が、こうして筆をとっている間も思い出される。今では移転してしまったが「俺のカレー・グリルピラミッド」の薬膳カレーや、地下街の市場にホワイトカレーを食べさせる店もあったな。

 当時の記憶をたどってみても多くの名店の味がよみがえってくるのだが、その中で、ぼくがもっとも通った店がここに紹介する「いっとっ亭」である。

ビーフカレー一筋|いっとっ亭


 メニューはビーフカレー800円のみ(確か当時は650円だった)。トッピングは卵・温玉50円、ロースカツ400円などに加え、缶ビール350円。もちろん休日はビールとともにカレーを楽しんだものだ。

 昭和の純喫茶のような店内には、年季の入った木のカウンター席が11ある。メニューはビーフカレーのみであるから、入店して席につくと

 「ご飯の量は」

 と尋ねられる。間髪入れずに

 「大盛」

 と答える。

 このあたりのシステムは、前述のSAVOYと同じだ。それもそのはずで、いっとっ亭はSAVOYの元従業員が独立して開いた店なのだ。

 鮮やかなターメリックライスがたっぷりと盛られたお皿に、カレーがなみなみとかけられる。

 ピクルスは席にあるビン詰めから自由にとる。ぼくは必ず、にんじん・きゅうり・らっきょう・福神漬けの4種すべてを少量づつ添える。そうしているうちに、ガラスの小鉢に盛られたサラダが提供される。ドレッシングはフレンチだ。

 一見、とろとろに煮込まれた欧風カレーのように見えるが、ひとくちほおばると、やはりそれはスパイスカレーであるのだ。

 ほのかにただよう甘さよりも、キリリとした辛さが口じゅうに広がり、五感を刺激する。ビーフがとても柔らかい。額に汗がジワり。食べる度に「そうそうこの味だったよな」と思い出され、15年前から、いやそれよりもっと以前からであろうビーフカレー一筋の精神は、今に至るまでまったくブレていないのだ。

 神戸・三宮センター街といえば、神戸一の繁華街である。地下の飲食店街は、お昼どきを少々外したぐらいじゃどこも待ち時間が発生するのが常だ。

 でもなぜか、いっとっ亭はお昼の繁忙期を外せばすいていることが多い気がする。カレー好きなら絶対納得のウマさのはずなのに。

 それは地下街のメイン通りを1本外れた筋に店があるからかもしれないし、もしかしたら、ぼくのようなカレーファンでなければ目立たない店なのかもしれないし、ぼくの思い違いかもしれないのだけれど(ほんとにぼくの気のせいかな。そうであってほしい)。

 いずれにせよ、今でも神戸・三宮を訪れたときは、カレーといえばいっとっ亭が第一候補にあがるのは間違いない。老舗の味を、ぜひお試しあれ。

・いっとっ亭
・兵庫県神戸市中央区三宮町1-8-1 さんプラザ B1F
・11:00~19:00

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