民間企業からNPO業界に転職したい方へ(子ども関連・福祉系・まちづくり・環境等)
はじめに
久々にnoteを書きます(書くことが好きなくせに筆不精…)
なぜ唐突に書こうと思ったかというと書くべきことが見つかったからです。
「民間からNPOへの転身」について。
このところキャリアカウンセリングを担当した方たちから立て続けにこの手の話題が出てきたので、ちょっくらここでまとめておこうと思います。
実は以前、業界地図に載っていない非営利分野に就職したい学生さんへ(環境・国際・地域活性・まちづくり等)という記事を書きました。タイトル通り就活中の学生向けに書いたものですが、もし社会人の方で同様に非営利分野に就職したい方はぜひ参考に読んでいただけたらと思います。
その上で、今回は社会人として民間を経験して来られた方がNPOに行くとなるといろいろなギャップに驚かれると思うので、そのあたりも念頭に書いていきます。
なおこの記事を書いている私自身についてですが、公益財団法人に新卒で入り、その後他の公益財団法人も経験し計9年ほどその界隈にいました。また、ここ7年ほどはNPO支援に携わっており縁っぺりからをNPO業界の垣間見ているような感じです。民間企業も経験し、ここ2〜3年は社会人学生双方のキャリア支援にも携わっています。いわゆるパラレルワーカー。得意なキャリア相談は、起業/副業/NPO/社会人大学院関連です。
1)30代以降、なぜ非営利分野への転職がよぎるのか
誰もがそうとは限りませんが、学生時代に普通に就活をして民間企業に新卒で入り、しばらくして非営利分野への関心が高まる方が一定数いらっしゃるようです。いわゆるZ世代は社会問題や社会貢献などに関心が高い傾向にあるといわれますが、一方で世代が上がるほどその手のテーマに関心のない人はないままだし、関心を持ち始める人と二分される印象があります。関心を持ち始める人は早いと30代から。20代で関心を持っている人は元々興味があったり学生時代に何かしらボランタリーな活動経験があるようです。
さて、関心を持ち始める方には大抵何かしらの“きっかけ”があります。話を伺う限りでは大まかに以下の2つかなと。
現職でやり甲斐を感じられない
ライフステージが変わって仕事観が変化した
皆さんはどちらでしょう?
まずはこの2つについて簡単に説明しますね。
1-1)きっかけ:現職でやり甲斐を感じられない
20代まではがむしゃらに仕事に向き合うことも多いはず。多くの方が家庭を持たず仕事に打ち込みやすい時期でもあります。入社後3年で3割が辞めてしまうといわれるご時世とはいえ、転職をしている方であってもそれはとにかく20代が仕事というものを自分のものにしていく大事なプロセスの最中なのだと思います。若い頃に出会った職場や最初の上司から学んだことは、やはり自身の大事な礎となり、その先の仕事人生の指針となっていきます。
その後、20代後半や30代、40代などで、ふと自身が携わる仕事にやり甲斐を見出せなくなる方が出てきます。仕事に慣れてきたこともあるでしょうし、仕事なんてこんなもんと割り切れるようになってくる部分もありつつ、何かの拍子に「もうこんなことやりたいくない」「誰かの役に立つ仕事がしたい」という気持ちに駆られることがあるようです。そんな時に社会のためになる活動をしている団体や仕事を探したりして、その存在に心惹かれ始める。これまで考えたこともなかったけれど、NPO法人への転職もありなのかもしれない、と。
◎ちょっと余談:「誰かの役に立つ」「社会貢献」とは?
そもそもですが、「役に立つ仕事」とか「社会貢献できる仕事」とか一体なんなのか?
これは社会人のみならず学生でも同様なのですが、転職軸や就活軸で「社会貢献」を挙げられるケースがありまして、そうすると決まってまず私はこうお伝えします。
「誰かの役に立ってない仕事なんてありません」
皆さんが今従事している仕事もちゃんと社会貢献になっています、ということは大前提でお伝えするようにしています。でも別にだからそのままそのお仕事を続けてくださいね、と意地悪なことを言いたいわけではありません。「役に立っていることを感じられない」という場合、業務内容としては他の人なら役立っていると感じられるものなのに、どうも自分はそう感じられないということだったりします。
そこで、どのような仕事も誰かの役に立っているとしたら、「あなたの考える社会貢献とはどのようなものなのか」もっと具体的に教えてください!ということになります。
例えば、「直接お客さまからありがとうと言われたい」「顧客の役に立っていることを直接見たり聞いたりして実感したい」ということであれば、部署異動や、職種や業種を変えることで取扱うサービスが変わり、その願いを叶えられることもあります。必ずしもNPO分野である必要はありません。
もし「困っている人のために仕事がしたい」「未来を担う子どものためになる仕事」ということであれば、その困り事は民間の既存のサービスではダメなのか考えてみる必要がありますし、民間ではカバーできない社会的弱者のためのサポートがしたいということであれば、それを転職して本業とすべきか一旦踏みとどまって考えていただくことも必要だと考えます。
今一度、ご自身にとって「人の役に立つとは?」「社会貢献とは?」を再考、熟考いただけたら幸いです。
1-2)きっかけ:ライフステージが変わって仕事観が変化した
人は生まれてこのかた仕事観が変わらない、なんてことはないはず。それは仕事だけを眺めていてもそうですし、そこにライフステージの変化が絡んでくれば尚のことだと思います。昨今20代30代であれば男性の育休も珍しいことではなくなりました(取得している取得できているかはまだ課題ありですが)。育休を通して仕事への向き合い方が変わる可能性は大いにあります。どんどん社会情勢が変わる中で、ご自身の仕事観が変わるのも当然です。
ライフステージの変化が仕事に影響した例としてはこんなのがあります。
・子どもが生まれて仕事一辺倒ではなくなった
・子どもが生まれてローカルに目が向き始めた
・仕事も中堅どころ、子どももそれほど手がかからなくなった
・定年が間近になり、地域との関わり方に関心を持った
・定年まで10年ほどになり、今の職場では先が見えてしまった
・望まぬ解雇によって、競争ばかりの世界に疑問を持った
これら以外にもいろいろありますが、「子ども・育児」と「定年退職」はやはり鍵になるようです。
多かれ少なかれ家庭や子どもという存在は、暮らすまちに意識を向けさせるきっかけになります。また、定年退職は今まで生活の中心だった職場から次の居場所を探し始めるきっかけになります。定年手前50代の方々のお話を伺うことも多いのですが、まだ定年ではないものの人生100年の折り返し地点で再出発をイメージする方も多いようです(いわゆるセカンドキャリア)
今後、「子ども・育児」「定年退職」に加えて「介護」も入ってくるはずです。もちろんすでに介護離職なども現実として起きているのですが、今はまだ元気な団塊世代が一気に介護に突入した時に、自身のキャリアと自分事としての社会や地域への目線がクロスする方が増えていくのではないかと推測しています。
2)民間からNPO業界に転職するには
前段が長くなってしまいましたが、ここから本題に入ります。ご自身がどのようなきっかけで非営利分野への転職を意識し始めたのかを振り返り、やはりこの分野に転職してみたいと思われた方はぜひ読み進めてください。
さぁ転職活動するぞ!と意気込んだとしても、エージェントや各種求人情報サイトではなかなか求人が見つからないのではないでしょうか。そこで、そのような情報を専門的に扱うサイトをいくつかご紹介します。
何故見つからないのか・・・単純に求人が少ないということはあります。計画的に採用を行なっている団体も一握りだからとも言えます。非営利分野といった際に、医療・福祉まで範囲を広げれば法人も大きめになり、それこそ専門職の採用は定期的に行われているものと思います。一方で、非営利活動を行うNPO法人においては、元々人数も多くなくて欠員が出たら随時採用を行なっているケースが多いものです(稀に新卒採用を行なっていることもある)。
非営利分野、非営利組織といった時には、NPO法人や一般社団法人、任意団体などが該当します。時に公益社団法人、公益財団法人などもあります。また最近ではソーシャルビジネスという括りにおいて株式会社も存在します。必ずしも株式会社だからといってゴリゴリの営利企業とは限りません。ちなみに、NPO法人だって稼いでもいいんです。NPOは稼いではダメだと思われる節がありますが、利益を構成員に配分してはいけないというだけで、事業や活動に注ぎ込んでいけばいいだけです。
では、そのような組織がどうやって人材確保をしているかといえば、ボランティアが一つ大きなリソースとなっています。ここが営利企業との大きな大きな違い。時に学生向けにインターンという呼び方をしていることもあります。そして職員の採用となると、関係者のネットワークだったりボランティアとして関わってくださった方の中から採用というルートがあります。
3)まずは何かしら関わってみよう!
普通の転職なら、求人募集を見つけて、エントリーして履歴書・職歴書送って、面接してみたいな流れを想像しますよね。でもNPO分野ではその流れを経験している人ばかりではないんです(私もです)。まずはその組織に何かしら関わってみる、そこからスタートすることをお勧めします。できることならまず今の仕事を辞めずにボランティアなどで関わってみていただきたいと思います。
このあたり民間にいらっしゃるとイメージしずらいところかもしれません。でも、これが結構有効だったりします。
NPOというものは「理念共感/mission-driven」なところがあります。必ずじも給料が高いわけではありません。大幅な昇給も退職金も残念ながら期待薄です。待遇や福利厚生ではなく、その団体が掲げる理念に共感するからこそ働いているといっても過言ではありません。NPOとはその団体が目指していることに共感、解決したい課題に関心を持つ人が集まる場なんです。
もちろん組織が大きくなれば、理念に強く共感する人ばかりでなく一般感覚を持つ人なども必要になるものですが、多かれ少なかれ理念共感がない人は長続きしません。
例えば、「子どもの貧困問題に関わってみたい」というだけで入職してしまうと、転職後苦労してしまう可能性があります。というのも、子どもの貧困問題にどれくらい精通しているのか、子どもの貧困問題へのアプローチにもいろいろある中で何故その団体なのか、そのあたり知識と自身の考えがないとどこかでミスマッチを起こす可能性があります。何より即戦力を求められるNPOの世界で、その知識や考えを元に自分が寄与できる部分を認識しておくことがさらに重要であるともいえます。転職するには、団体の理念や代表の想いに共感し、団体の課題へのアプローチの仕方を知り、自分にできることは何であるかも分かっている状態になっておく、それがとても大切です。
実際、HPなどを見て理念に共感できるかどうか、自分が役に立てる部分は何かなど少しは測れるかもしれませんが、実際に中に入ってみることほど有効なことはありません。これこそ民間では難しいことだと思います。民間で例えるならば、新卒でインターンをするような感覚かもしれません。ボランティア募集にエントリーしてみる。ボランティアを募集していないときは、一参加者としてイベントなどに行ってみる、会員になってみるなど、何かしら関われることはあるはずです。転職に焦る気持ちがあるかもしれませんが、急がば回れ。NPOだからこそできる転職前の“職場体験”をぜひお勧めします。もしそこで入りたい気持ちが強まったなら働きたい旨を団体のスタッフに徐々に伝えていってもいいでしょうし、もし合わないと思えば転職に失敗しなくてよかったというだけのことですので。
◎またまた余談:ボランティアのままでいいこともある
個人的にですが、NPOに関わりたいという方にはまず本業を辞めずに副業・複業として関わることをお勧めしています。どうしても本業がうまくいかないと、マルッと総入れ替えで仕事や会社を変えるイメージが一般的だと思います。ですが、実際に実態を知るためのボランティアをしてみると、結構それで気持ちが落ち着いたりするんです。やり甲斐のある仕事に関われたことによって、本業に対する嫌悪感が薄まったりするんです(これを私は「副業・複業の効用」と呼んでます)
会社によっては副業禁止というところもありますが、ボランティアを禁止する企業はそうそう無いと思われます。私が専門的に従事&研究してきた「プロボノ」というボランティア活動の一種があるのですが、イベントなどの単発ボランティアや単純作業系ではなく、より団体運営や広報などに関われるものです。そういった関わりだとより満足できる方も多いと思っています。本業で収入を得つつ(ライスワーク)、副業でやり甲斐のある仕事をする(ライフワーク)。こんな形の働き方もあるということをぜひ頭の片隅に置いておいていただけたら幸いです。
4)NPOの仕事は甘くない
これはNPOだけではなく中小企業への転職でも同様なのですが、特に大手にいらっしゃる方への助言となります。NPOの仕事は簡単ではありません。一般的に大は小を兼ねるといいますが、個人の転職においては大企業での業務経験が中小企業の業務経験を網羅するのは難しいと思っています。大手であれば分業・縦割りや外注などで、自らが関わらなくても全体的に仕事が回っています。マニュアルがあったり引継ぎもあったり諸々整っていることも多いと思います。
かたやNPOでは一人が本当になんでもやります。企画、広報、運営、事務、なんでもやる可能性が高いと思っていてください。決して多くない人手を各人の行動力でカバーしているといってもよいかもしれません。また、デジタルリテラシーも求められることが多いと思います。リソースが乏しいからこそさまざまなデジタルツールを使いこなしています(老舗の法人だと例外もあるかもしれませんが)。100人超の部を率いていた能力は数人規模の職場ではなかなか発揮されず、むしろ足枷になることさえあります。
小規模だから簡単なのではない。売上が大きくなくても仕事のレベルが小さいわけではない。当然なのですが、見誤りがちなポイントかもしれませんので、あえてここに記しておきます。
5)民間経験者がNPOの世界に行く意味
ここまでお読みいただいて、NPOの世界はかなり特殊と感じてらっしゃるかもしれません(実際そうですが)。異世界に踏み込むようで不安に思われるかと思います。ただ、その世界の中も民間出身の方がたくさんいます。皆さんと同じように民間にいて何かしらのきっかけでNPOで働くようになった人が多くいらっしゃいます。
団体を立ち上げた代表自身は、その課題の当事者となったことで民間から転身しているなんてこともよくあります。だからこそ熱い想いをもって精力的に活動ができているともいえます。NPOが扱うテーマは「民間企業は利益が出にくいため進出しない」&「行政ではカバーしきれない」部分ともいわれています。その隙間を埋めていくのがNPOの事業や活動ということになります。熱い想いがなければ到底やれないです。でも、その熱い思いを持つ人はどこか遠い人ではないんです。
そして、民間の方がメンバーに加わることは、客観性をもたらすという点で団体にもメリットがあります。報酬度外視だったり熱い想いで精力的に活動する人ばかりでは、結局のところ団体としての持続可能性がありません。また、NPOが提供するサービスが一般向けであったり民間企業との取引がある場合にNPOのロジックが通用しないこともあります。そんな時は、民間出身者が団体と企業との架け橋となり調整役になることも重要な役目です。また、団体内に民間の感覚とのギャップを伝えることで改善が図られる場面も多々あるはずです。
おわりに
NPOという世界はやはり特殊です。課題の解決のためなら採算を度外視することもあります。売上が基準にならない、報酬がモチベーションではない、初めて接すると違和感だらけの世界かもしれません。でも、皆さんが関心をもった「社会のため」や「地域のため」といった目的のために働く、皆が同じ方向を向いて力と知恵を出し合う、そんなところでもあります。
正直なところ人によって向き・不向きはあります。慣れもあるはずです。なので個人的には、この業界に関心を持った方すべてに転職してきていただきたいとは到底言えません。その代わり関わりにも濃淡があってよいと思っています。なんせNPOの扱うテーマは多かれ少なかれ一人一人の生活に関与するものなので、むしろ0か100かではなく、ある人は15の関わり、別の人は90の関わりでもいいんです。それが結果的にボランティアであったり、職員だったりの違いになります。NPOの世界に興味を持ってくださった、さらにその先にご自身が具体的にどのように関わっていきたいのかを探ることを一人でも多くの方が考えてくださったならうれしい限りです。
補足
以上は、大半の中小規模のNPO法人や非営利型一般社団法人、一部の公益法人を想定して書いています。
他方、安定的に経営をしていて新卒採用を行なっている団体もちらほら見られるようになりました。そのような団体では、むしろ一般的なボランティアを受け入れていないこともあるようです。規模がある程度大きくなって経営も安定すると、かなり一般企業に近づいていくのかなと思っています。
転職をする場合もちろんそのような団体なら安心ですが、やはりご自身の関心と合致しないと長くは続けられないでしょう。また、地方だとまだまだそこまでの規模を保つNPOは多くないように思います。
最近では民間でも社会課題に取り組む企業が出てきました。営利と非営利の大きな壁は崩れつつあるようにも思います。「社会に貢献したい」という想いを叶える方法として、NPO分野への転身は一つの選択肢でしかありません。ご自身の家庭の状況なども踏まえ、どのようにその想いを叶えていくのかいろいろ模索していただけたらと願っています。
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