見出し画像

短編ミステリで夜更かしを。フレドリック・ブラウンの 『真っ白な嘘』

前回のフレドリック・ブラウン短編では、星新一翻訳の『さあ、気ちがいになりなさい』を紹介した。

今回は、同じくフレドリック・ブラウンの短編『真っ白な嘘』を見ていこう。
こちらは2020年の新訳版(越前敏弥翻訳)なので、すごく読みやすくなっている。

思わず夜更かししそうなドキドキの連続。
ミステリ色が強く、驚きと鮮やかなオチがお約束だ。

フレドリック・ブラウンは1940~60年代に活躍したアメリカの作家である。
詳しい紹介記事は下記をどうぞ。



******************

■『真っ白な嘘』の紹介


ドキドキのサスペンスや謎解き、ちょっと不思議な物語など、18篇の短編が楽しめる本書。大体、次のようなジャンルで区分けをしてみた。

▼本格ミステリを楽しむ
▼騙し騙されの小気味よさ
▼ひとあじ違う、しゃれたミステリ
▼翻訳の違いを楽しむ
▼ラスト『後ろを見るな』



▼本格ミステリを楽しむ


 ★オススメ2篇
 ・『笑う肉屋』
 ・『四人の盲目』


『笑う肉屋』
ブラウンをSF作家だと思って読んでいたら度肝を抜かれる。
何しろ「雪の上の足跡もの」、まさかの本格ミステリなのだ。雪上の死体の側、なぜか犯人の足跡が消えている。ひとひねり効いた犯人&犯行に、読み応えは十分。

これで思い出すのは法月倫太郎の『雪密室』だ。派手さはないがスマートな構成とトリックの秀作。こちらもご興味ある方はぜひ。

トリックが明かされた後、深い感慨を覚えるのもブラウンの特徴。ラストのほんの数行で、人間や人生の奥底が垣間見える。


●『四人の盲目』
とにかく上手に騙してくれる語り口が気持ちいい。子守歌を聞くようにスルスル読める。そしてお約束の意外な結末。エドガー・A・ポーの『モルグ街の殺人』的犯人と思いきや……。

この話しがお気に召したら、パトリシア・ハイスミスの『動物好きにささげる殺人読本』もぜひどうぞ。




▼騙し騙されの、小気味よさ

 
 ★オススメ2篇
 ・『世界が終わった夜』
 ・『歴史上最も偉大な詩』

これらもミステリ仕立てだが、それを意識せずに「う〜ん、やられた」的な読み心地が味わえる。


●『世界が終わった夜』

新聞社のサイコでクソ野郎な主任記者が、「土曜の夜に世界が終わる」というでっち上げの記事で酔っ払いを騙すのだが……。


●『歴史上最も偉大な詩』

騙されても騙されなくても楽しめる、ユニークな構成だ。結末を知ると、二度読みして騙しのポイントを探し出したくなるだろう。

ささいなエピソードで最上の娯楽時間を与えてくれるブラウン。しのごの言わず、読んで楽しんでみて。



▼ひと味違う、しゃれたミステリ

 
 ★オススメ2篇
 ・『闇の女』
 ・『真っ白な嘘』

●『闇の女』
秘密を抱えて周りからいぶかしがられる女、味方になる男、そしてあぶり出される背後の事件。まるで古い映画を観るような、サスペンス&ロマンスの雰囲気だ。


●『真っ白な嘘』

殺人の事故物件家屋をめぐり、妻が夫に疑念を抱き始める。高まる恐怖、ついに助けが現れて……。ここでもブラウンは、読者の予想を二転三転と裏切っていく。

原題は『A Little White lye』。lye(苛性ソーダ)とlie(嘘)をかけた洒脱感もいい。

これら2篇は謎解きとロマンスが軽妙にマッチした、ちょっとしゃれたミステリである。


読書のお供に、
お手製ノラネコクッキー(第2弾)をどうぞ。
煎餅じゃありませんニャー



▼翻訳の違いを楽しむ


 ・『叫べ、沈黙よ』
 ・『町を求む』
 ・『危ないやつら』

この3篇は、前回紹介した短編『さあ、気ちがいになりなさい』(星新一訳)の中にも収録されている。

2冊読めば、3つの短編をニュアンス違いの翻訳で楽しめるわけだ。



 ▼1962年・星新一翻訳

 

 ▼2020年新訳版 越前敏弥翻訳


『真っ白な嘘』では、越前敏弥版の新しく読みやすい翻訳(2020年刊行)が、
『さあ、気ちがいになりなさい』では、古いけれど星新一カラーを帯びた翻訳(1962年刊行)が楽しめる。

勿論、各本の翻訳版だけで読んでも全く問題ない

せっかくなので、この3篇は翻訳の違いにも触れていこう。



●『叫べ、沈黙よ』
何気ない「音の存在」議論が、とんでもない事件の真相に結び付く。
ゾッとするラストに、傑作と誉れ高い一作だ。

越前敏弥翻訳は、新訳版だけあって前半のまどろっこしさが解消された。スムーズに核心へと向かえる良さがある。

星新一翻訳は、まるで星新一作品かと思わせるような仕上がりである。作品の質が似ているせいか。



●『町を求む』
町全体をペテンにかけようとするヤクザ者が、標的となる町を物色する話し。ひねりの効いたオチはまさに一級品


●『危ないやつら』

駅で出会った男2人が、お互いを殺人鬼だと疑って恐怖する。そこへ本物の殺人鬼が現れて……。


この2篇に関しては、全体の翻訳は、シンプルな翻訳で緊張を持続する越前敏弥翻訳の新訳版が断然読みやすい。

ところが、オチだけは反対なのだ(あくまで個人的感想)。
2篇とも星新一翻訳の方が味がある。グッとくる

オチの部分なのでここで比較出来ないのが辛いところ。

ただし、これは2冊比較した場合のこと。
1冊だけで見れば、全く問題ない。
どちらか1冊しか読まない方、どうかご安心を。



▼『後ろを見るな』は最後に読むこと

まず、この本の帯を見ていただきたい。
18篇のラスト『後ろを見るな』についての注意書きだ。

『真っ白な嘘』を購入したときの
八重洲ブックセンターのポップ。
これを見て即買いした私。


最後に読めというよりも、最後でないと意味がないのである。本全体の構造に関わっているとだけ、言っておこう。

いやいや気が利いているなあ、ブラウン先生。

「最後の話しが一番面白かった」と評する人は多数いる。それくらい大胆な仕掛けになっているのだ。


さてさて、あなたはどの短編がお気に召すだろうか。