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【DE&I】DE&IのEとは何か?いつ頃から、なぜ加わったのか?

最近、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という2語のセットが、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)の3語のセットで目にすることが増えています。

個人的には、いつ頃から、なぜ、ダイバーシティ&インクルージョンに「エクイティ」が加わったのか気になっていました。今日はそのあたりを、いくつかの文献を紐解きながら考えたいと思います。
(少し長いです)


そもそも「エクイティ」(Equity)とは?

まずは簡単に、言葉の意味を押さえます。Goo辞書では、以下のように紹介されています。

衡平公正の意》
英国で、一般法コモンロー)とは別に発達し、その欠陥を道徳律に従って補正した法。衡平法。
《「エクイティーキャピタル」の略》株式資本。自己資本。
エクイティーファイナンス」の略。

出典:Goo辞書

衡平・公正という言葉通り、エクイティとは、一人ひとりに対して、さまざまな情報、機会へのアクセスを、公平に保証していくべきという考え方として用いられます。

日本の人事部では、以下のように定義されています。

「エクイティ(Equity)」とは、一人ひとりがパフォーマンスを出せるよう、個々に合わせて支援内容を調整し、公平な土台をつくり上げることをいいます。日本語では「公平性」「公正性」などと訳されます。近年、「DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)」を掲げる企業が増えています。社会構造の不均衡がある中では、すべての人に同じ支援を行っても、不均衡はそのまま持続します。社会構造格差を是正するための考え方として、個人のスタート地点の違いに着目したDE&Iの概念が広がりを見せています。

出典:日本の人事部HP


社会構造における不均衡が原因で、すべての人が同じ場所からスタートするわけではなく、社会には不平等なスタートラインが存在する前提に立つ考え方です。

エクイティと、似たような概念である平等(Equality)の違いを象徴的に表現する1枚のイラストがあります。近いものは、どこかで目にされた方も多いのではないでしょうか。

出典:Interaction Institute for Social Change | Artist: Angus Maguire.

つまり、エクイティは、社会構造による格差によって生まれた「マイノリティ」が、パフォーマンス発揮できるよう、土台としての支援や情報へのアクセス・機会提供を行うといった「公正さ」、と言えそうです。


なぜD&Iに「E=エクイティ」が加わった?

続いての疑問は、なぜD&Iから「DE&I」と発信する企業が増えたのか、という点です。色々見ましたが、このサイトの解説が最もわかりやすかったです。

ここから、示唆深いメッセージを引用します。

「努力すれば報われる」以前に、家庭環境や社会経済状況により、そもそも努力できる環境が整えられているか否かのスタートラインに違いがあること。

そして、「努力すれば報われる」成功を得た人々は、しばしばその前提を忘れ、この成功は自分の努力と実力によるもので、成功できない人々は、努力を怠り、実力が足りないだけに過ぎない。ゆえにいま得ているものは、当然自分が享受して然るべきものなのだと考えてしまい、これがいまの格差の拡大や社会的分断につながっていると指摘している。

トランプ政権時のポピュリズムの台頭やBLM(Black Lives Matter)運動など、社会構造的格差から生まれたひずみはさまざまな問題として顕在化してきている。そしてコロナ禍で、以前から存在していた格差はさらに広がり、露呈していった。社会の分断から噴出し続けるさまざまな問題からもう目をそらすことができない状態にまできている。

それが昨今エクイティという概念が叫ばれるようになった理由である。

Alterna『D&IからDE&Iへ、「エクイティ」とは何か』2022年3月29日

成功者ほど「この成功は自分の努力と実力による」「成功できないのは努力と実力が足りない」と考えがちですが、実は、家庭環境や社会経済状況で既に格差が存在する、という話です。例えば、塾に毎日通って志望校に合格できた、これは立派な努力と実力です。しかし、経済的理由や家庭の事情で、塾にさえ通えない生徒もいます。

いわゆる正常性バイアス(自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価すること)や情報不足から、経済格差や家庭環境による不公平を受け止められない人もいます。「今の地位は実力で得たものだ!」と。これを、東京大学・星加教授らは「マジョリティの無自覚な特権性」と指摘します。

こうした無自覚の特権性をもったマジョリティが、自分たちにとって便利な(マイノリティにとって時に不便な)社会構造を作り上げることで、社会的分断が拡大するとのこと。(例えば、自動販売機のボタンは我々の目線くらいの高さにあることが多いです。車いす、子供からすると押しにくい・・・最近でこそタッチパネル式も増えてきましたが)

こうした、マジョリティとマイノリティの社会的分断が、トランプ政権時代に加速した、と言われているようです。Black Lives Matter運動のように、格差による問題が大きくなることで、公正性に対する意識が高まり、Diversity & Inclusionに加えて、Equityの概念も加わった、と考えられるようです。


「エクイティ」が加わった時期

かなり探したのですが、誰が言い出したのか、いつ頃からなのか、という情報が見つかりませんでした(ご存じでしたら、どなたか教えてください・・・!)。

Chat GPTにも聞いてみましたが、つれない返事です。

これらの概念が結びついた「ダイバーシティ&インクルージョンにエクイティ」のフレーズが最初に使用された特定の人物を特定するのは難しいです。しかし、これらの概念は社会科学、組織開発、人権、人事、教育、公共政策などの領域で長い間議論されてきました。

By Chat GPT

唯一、大学教育の文脈で、Google Trendsを子細に調査した最近の文献が見つかりました!

NAGAI, S. (2022). アメリカの大学のダイバーシティ: 社会的関心の変化と研究動向の変遷. 東京大学大学院教育学研究科紀要, 62.

この論文は、大学のダイバーシティにおける社会的関心の変化や研究の動向把握するため,「全米大学新聞の関連ニュース記事」および「Google Trendsによる関連キーワード検索」などをもとに、調査・分析したものです。

全米大学新聞の記事を分析した筆者によると、
「2016年から2020年にかけては,「race」や「racist」,「racial」から人種差別の問題が根強いことを印象付ける一方,「inclusion」と「equity」の概念が表出。 (中略) 2021年以降は,「inclusion」と「equity」,「DEI」から,これらが中心的な概念として位置付けられていることが確認」できたと述べています。

さらに筆者は、Google Trends(検索ワードの件数をグラフ化してくれるツール)のキーワード検索を行いました。その結果「University Equity」という言葉が2022年に急増していることが、以下のグラフから見て取れます。

自分も、Google Trendsで「DE&I」の検索数を調べてみました(すべての国、サービスが始まった2011年以降でソート)。

By Google Trends


2020年6月頃から言葉としては使われ始めたことがわかります。こうした、DE&Iの流れが、University Equityの検索数上昇に寄与したことが想像されます。(なお、「Equity」でも調べましたが、2011年から同じくらいの頻度で使われていました)

つまり、どこの誰が言いだしたかはわかりませんが、少なくとも、2020年頃から盛り上がってきた言葉、と言えそうです。2020年5月の白人警官による殺害事件を契機とした、Black Lives Matter運動の再燃時期とも整合しますし、全米大学新聞で「Race」といったワードが増えてきたこととも関連してそうです。


感じたこと

以上のことから、Diversity, 「Equity」 & Inclusionは、2020年頃に言われるようになったワードであり、「Equity」は、社会的分断を背景とした公正性の必要から新たに付け加えられた言葉のようです。

つまり、DE&Iは、多様な人たち(Diversity)、特に格差に苦しむマイノリティには公正な考え方で支援し(Equity)、その上で全員が帰属感や自分らしさの発揮が満たされ、尊重されている状態(Inclusion)、という整理になります。

全員がInclusionされるためには、Equityの考え方をもって特別な支援をするべき人たちがいる、という読み解き方も出来るかもしれません。

ただし、上に述べた通り、マジョリティは自らの特権性に気付きにくいようです。以前のNHKの番組にも取り上げられたようです。

また、仕事上お付き合いのある東京大学・星加教授、飯野准教授、藤原研究員らが関わっているこちらの団体も、マジョリティの無自覚の特権性に対して様々な取り組みを行っておられます。

自分が無自覚の内に、特権性をもってマイノリティに不利となる行動をしていないか?マジョリティ有利な社会を拡大しようとしていないか?今一度、自分の振る舞いを点検したい、と思いました。


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