Takahito Sasaki(佐々木孝仁)
最近の記事
【サイロ化問題】人の心に生じる「サイロ・メンタリティ」の原因や影響とは?(Cilliers & Greyvenstein, 2012)
社会的アイデンティティ理論などを調べていくと、内集団・外集団といった、私たちvs彼ら(彼女ら)、いった分断に行きあたることが多いのですが、その分断の象徴的な問題として、「サイロ化問題」に関する研究を紹介したいと思います。 どんな論文? この論文は、サイロ・メンタリティが、チームに対するアイデンティティにどのような影響を与えるかを、定性的な研究によって示した論文です。 サイロ・メンタリティとは、組織内の部署やチームが他部門と情報を共有せず、孤立した状態で機能することを指しま
【インクルーシブ・リーダーシップ】コーポレート・ガバナンス改革の文脈でダイバーシティ推進・ILS研究を解説した良論文!(牛尾, 2023)②
企業内でダイバーシティ推進を行う際の理論的根拠がふんだんに盛り込まれている論文なので、DEI担当者必読の書の2回目の記事です。 今回は、コーポレート・ガバナンス改革の文脈で、理論的根拠として紹介されているダイバーシティ推進やインクルーシブ・リーダーシップ(ILS)研究を扱います。 主に、コーポレート・ガバナンスとダイバーシティ推進の関連性や背景を扱った、前回の記事はこちらです。 本論文で紹介されている研究 本論文の「ダイバーシティに関する実証研究」の章では、企業のパフ
【インクルーシブ・リーダーシップ】コーポレート・ガバナンス改革の文脈でダイバーシティ推進・ILS研究を解説した良論文!(牛尾, 2023)①
久々にインクルーシブ・リーダーシップ関連の論文をご紹介します。日本経営学会誌という、日本の経営学領域でも上位に位置する学会誌で紹介された比較的新しい論文です。 企業内でダイバーシティ推進を行う際の理論的根拠がふんだんに盛り込まれている論文なので、DEI担当者必読の書かと思います! そのため、2回に分けて詳しく紹介したいと思います。1回目は、コーポレート・ガバナンス・コードと、ダイバーシティ推進のつながりについて記載します。 なぜ、企業の中でダイバーシティが求められるのか、と
【因子分析】心理評価研究における因子分析について、落とし穴と対処法について整理した論文(Sellbom & Tellagen, 2019)
最近、パーセリングという手法についての文献を見ていましたが、もう少し広げて文献調査をしたところ、因子分析における注意点に関する比較的新しい論文を発見しました。(備忘的意味合いでしっかりまとめた結果、長文となってしまいました) どんな論文? この論文は、心理学の評価研究でよく使われる因子分析について、その一般的な問題点や改善策を紹介したものです。 因子分析は、質問項目の関連性を分析し、背後にある隠れた構造(構成概念)を見つけたり、理論的に言われている概念と質問項目の妥当性
【パーセリング】回答者のバイアスを考慮した「バランス化されたアイテム・パーセリング」とは?(Weijters et al., 2022)
今回は、パーセリングの具体的な一手法に関する主張を論じた文献を紹介します。 どんな論文? この論文は、アンケートなどで回答者が内容にかかわらず「同意」しやすい傾向(同意バイアス)を補正するための方法としてのパーセリングを提案するものです。 同意バイアスとは、アンケートや調査で質問に対して、内容に関わらず「同意する」傾向が強い回答パターンを指します。 たとえば、同じ意味を持つ2つの質問「私は社交的です」と「私は内向的です(逆アイテム)」があった場合、どちらにも「同意する」
【パーセリング】手法に関する利点・欠点を整理した、パーセリング利用者の必須文献とも言うべき論文(Little et al., 2002)
今回もパーセリングについて扱います。項目をある程度まとめてしまうのって、問題ないの?ちゃんと見たい概念が図れるの?という疑問が頭に浮かびます。そうした疑問に答えてくれる文献です。 2024年10月5日時点で7679という圧倒的な引用数を誇っており、パーセリングについて押さえておくべき基礎文献と言えそうです。 どんな論文? この論文は、心理学や社会科学で使われる構造方程式モデリング(SEM)において、パーセリングを使用するべきかどうかを、良い面(Pros)と悪い面(Cons
【社会的アイデンティティ】一体感の醸成やグループ間の協力・対立はどのように理論的に説明されるのか?(Ashforth & Mael, 1989)
今回も社会的アイデンティティ理論を扱います。一体感醸成やグループ間の対立や競争を、社会的アイデンティティがどう関連するのかを解説した展望論文です。 どんな論文? 本論文は、社会的アイデンティティ理論(SIT)を使って、組織内での個人とグループの関係を説明したものです。 社会的アイデンティティとは、個人が自分自身を特定のグループの一員として認識し、そのグループの成功や失敗を自分のものと感じることです。 たとえば、自分の会社の成績や評判を自分のことのように喜んだり悲しんだり
【社会的アイデンティティ】個々に異なる存在と認識されると、心理的安全性が高まり、組織への同一性が高まる(Kim, 2020)
社会的アイデンティティ理論、奥深いです。明示的に書かれてはいませんが、ダイバーシティ&インクルージョンの文脈でも活用できそうなプロセスです。 どんな論文? この論文は、組織のメンバーが個々に異なる存在(個別化)として認識されることで、心理的に安全だと感じやすくなり、その結果、組織に対する一体感(組織同一化)が強まる、というメカニズムを実証した研究に関するものです。 この研究では、66人の一般参加者と176人の従業員を対象にデータを収集し、個別化が心理的安全性を高め、さら
【社会的アイデンティティ】グループに女性や外国人といったマイノリティメンバーが多いと一体感が薄れる?!(Chattopadhyay & Lawrence, 2004)
今回も社会的アイデンティティに関する文献を紹介します。ダイバーシティと社会的アイデンティティ理論は関連が深いため、学びが多いです。 どんな論文? この論文は、グループ内での「人口統計学的な違い」、つまり性別や国籍などの違いが、メンバーの自己認識にどのように影響を与えるかを研究したものです。 オーストラリアの大学で行われたこの研究では、MBAプログラムの学生が34のグループに分かれてプロジェクトを行い、そのグループ内での性別や国籍の違いが、集団に対するメンバーの認識にどう
【社会的アイデンティティ】集団間の対立(サイロ)を打破するためのグループ認識とは?(Lipponen et al., 2003)
研究作業に集中しており、発信がご無沙汰になっておりました。少し(本当に少しですが)見通しが立ったので、発信を再開します。今日から「社会的アイデンティティ理論」という、職場に対する帰属やバイアスなどを説明する理論についてみていきます。 どんな論文? この論文は、造船所における下位グループ(下請け企業の従業員)と上位グループ(造船所全体)への同一視(アイデンティフィケーション)が、集団間へのバイアスにどのような影響を与えるかを調査したものです。 下位グループ、つまり「サブグ