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「十歳の時から、山に登って溜め込んできたものが、全部出てしまった」

■感想文『神々の山嶺』 上・下巻/著者・夢枕獏さん


それも、正面から、たたきつけるようにまっとうな山の話を書いた。変化球の山の話ではない。もう、山の話、二度と書けないだろう。直球。力いっぱい根限りのストレート。これが、最初で最後だ。それだけのものを書いてしまったのである(本書あとがきより、一部を抜粋)

読書した、というよりも、この本を登った、というような疲労感のある読後です。私がいつも読むエンターテイメント小説などのような「面白い」という感覚で読みすすめるよりは、エベレスト登山を疑似体験しているような読み味、、、とうか。本格的な山登りをする人を山屋(やまや)というようですが、自分がその山屋となって、山と関わることを生活の軸にして生きたときします。自分は何を思い、何に惹かれ、何を大切にし、何を考えるか。それを疑似体験していくうちに、山屋の彼らの生きる世界に引き込まれた読書体験だったように、読み終えたいま、読んでいた自分を振り返ります。

文庫の下巻では、北上次郎氏が次のような解説をよせています。

夢枕獏は自己を語るのに秀でた作家で、このあとがきに実はほとんどのことが書き尽くされている(北上次郎)

上記は、解説のごく一部を抜粋したものですが、私は本編においても、それが当てはまっているように感じました。実際にエベレストのベースキャンプまで登山し、著者は何度もヒマラヤを訪ねているようです。主要参考文献としては16冊を掲載していますが、おそらく、10倍近くの資料に目を通して本書はできあがっていることでしょう。書き出しから3年以上、話を思いついてから20年近くの時間を経て完成した本です。原稿用紙1,700枚以上。

終わりが見えてからも、あと50枚、あと50枚――(著者)

そうして、心血が注がれた作品なのだろうと、本編と、あとがきを読んだあとでは、とても納得がいきます。実際にエベレスト登山をされているだけあって、登山者の登山中の心境描写にはとても説得力があり、一方で、その過程すべても描かれているので、物語りの展開をまどろっこしく感じる人がいるかもしれません。その辺りは好みだと思います。

ミステリーの要素を巧みに配置している書き出しは、読者を惹きつけるに十分なものでした。上下巻の2冊を読んで、好みの分かれる一冊かなあかと思いした。まずは、立ち読みをおすすめします。


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