KPI設定におけるさまざまなワナを知らないと、恥をかく。そしてPRに導入すべきなのか、という議題へ
PR401にもうひと押しまとめたものを上げたいと思いますが、ひとまずの中間アーティクル。「KPI!」ってうるさい人が多くいるので、それをいじってやろうと思っていろいろ調べていました。パブリックリレーションズにおける効果測定という点でこれをどうのこうの言う人が多いのも、フォーラムとかで確認してたし。しかし、違和感しかなくて、これって本当に必要なのかな?とも思っていました。
なんとなくのモヤモヤポイントです。
ひとまず、ヘッドラインとして検討すべき項目をならべます。これはPRフォーラムで自分が壁打ちの感じで独り言を書いていたものをもとにネタ化しました。
◆経営者が設定しないと、目標設定がとんでもない方向に行くような気がした
◆KPI設定にはKFSの設定が欠かせないということを発見した
◆今後うるさくなるOKRを見ていて感じた「目標」という翻訳の違和感
◆経営上俯瞰してみると、PRにおけるKPI設定は正しいのか?というそもそもの疑問点
例を挙げた方が早いので、壁打ちであげた例を改めてまとめなおします。
客単価1000円。月間利用者2000人、売上高200万円の小売りサイトがあったとする
ということで、
売上高200万円/月これを売上高300万円/月に伸ばす!」と
従業員がKGIを設定したとする。
あ、KGIとは、Key Goal Indicatorで、重要目標指標。経営上のいろいろな目標設定としては「キーとなる目標」なので、「ほぼ最終目標」みたいなかんじです。
ここで、議論している「KPI」の設定は、
「あと1000人利用者増やそう!」
になったとする。
(よくある改善策ですよね、これって)
しかし経営的にはこの選択肢が成功する確率は33%と、計算できてしまう。
なぜか?
経営上の真のゴールは、売上高伸長ではなく、利益の伸長だから。
たとえばこの商品の原価率25%だったとする。
売上高200万円の営業利益は、150万円。
これを、従業員がいう、売上高300万円にする場合、利益目標は225万円。
利益目標はそもそも設定されていなかったので、この視点で見ると目標設定ってなに?となりませんか????
一方で、この設定は正しいともいえる。
利益目標を得るために売り上げ目標はどのくらい目指せばいいか、という中間指標である点で、正しいと言えば、正しい。
無意識の「真の目的の見まちがい」
という危険性もあるのね、KPI設定って。
さっきのハナシに戻して、
利益を伸ばす手段は(簡単に考えて)3つある。
1)客単価を伸ばす 1000円から1500円になれば達成できる
2)原価率を減らす 原価率を20%まで落とした場合、売り上げ目標は282万円でよい
3)そして、最初に言った、購入者を増やす
*厳密に3)を実行した場合、新規顧客獲得コストも計算に入れなければいけないので、売上高300万円ではすまないはず(400万円くらいでないとだめかも)。つまり、手段が3通りあるのに、この従業員はどういうわけかいちばん難しい目標をKPIにしてしまった、というオチ。
ここで効いてくるのがKFS(Key Factor of Success)「重要成功要因」
それぞれの手段におけるKFSは、たぶん、以下の通り
1)客単価を伸ばす
2)原価率を減らす
3)購入者を増やす
たとえば当初のように(3)をKFSにした場合、KPIはコスト計算などをアクションプランで実施して修正値がかなり正確に出るのではないか??
それか、3通りの可能性をまず調べるな、ふつうは。
みたいな。
例題に潜んでいたKPI設定におけるミス3つ
A)最終目的を無視してKPI設定をする
「従業員」が、売上高を伸ばせばいいという目標設定自体は間違っていませんが、経営上の最終ゴールが利益の伸長だった場合、売り上げ目標の設定は間違い、ということになりました。
ここでキモになるのが、KFSです。
どの要因が目的達成に重要な要素となるのか?を決めることで、この間違いを防げるよね、という見立てが立てられます。
KPIではなく、KFSから考えたとすると。
「売上高200万円から300万円に伸ばす」という核心は、「利益150万円をどのくらい伸ばすか?」という要素分析がまず必要で、業績を伸ばす先の3つのルート、
1)客単価を伸ばす
2)原価率を減らす
3)購入者を増やす
で、何がいちばん取りやすい策かをまず検討することになりますよね?これは経営者マインドで考えないと、そもそも「利益を伸ばす」という前提で売ることができないよね、という隠れたワナもあります。
B)KFSありきでKPIを考えないと、成果獲得のための裏道を発見することができない
この「従業員」は、来場者を増やせば売上高を伸ばせる、というひとつの視点でKPI設定に突っ走りました。これ自体は間違っていないですが、成果を上げる方法はどんなものでもひとつのルートしかない、というのは間違いであることを示唆しています。
となると、「KPI!、ケーピーアイ!けーぴーあい!」と軽々しく口にする人たちは、「KFS!、ケーエフエス!けーえふえす!」と口うるさくするべきであり、それがフォーカスされて初めて「じゃあ、この成果はどのあたりでくみとろうか?(=KPI設定)」にならなければおかしい。
KPIを口にする人たちから感じる違和感は、KFSも語らないところにあるのかもしれません。ていうか、KPIだけしか口にしないのは、理論上、おかしい。
3)ゴールとは、なんなのか?
KPIにおけるゴールは、例題においては少なくとも2つ出てきました。
a)従業員目線である、売上高の伸長
b)経営者目線である、利益の伸長
そして困ったことに、どちらを最終目標においても、KPI設定は「いちおう」成立してしまいます。
a)の場合、
ゴール=売上高の伸長
KPI=来場者数の増加
*そこに至るコストやめんどくささがどうであれ(どれだけ経費が掛かっていても)売上高を達成すればいいわけです。
b)の場合、
ゴール=利益の伸長
KPI=売上高の伸長
*原価率との兼ね合いを考えると、新しい導入コストも込みで売上高目標を設定することになるので、「来場者数を増やす」設定以上に売上高を稼がないといけなくなります。が、コストを含めた設定なので、最初より確実で納得いく成果を出せそう。
ゴール設定が、設定する人の立場により左右されるわけです。
これは、ここではあまり触れませんが、KPIの先にある最終目標として設定されるKGIをどのように扱うか、という課題にも通じていくよな。
今後もてはやされるであろうOKRを見ていて感じた「目標」という翻訳の違和感
OKRにおけるO(Objective)と、KPIのおおもとであるKGIのG(Goal)は、用語の定義がまったくちがいます。
これは、すでにPR401に研究記事をあげました。
Objective(オブジェクティブ)とGoal(ゴール)の違い
http://pr401.com/archives/647
OKRは、経営ビジョンの実現のような、ややファジーな設定に対して、KGIは経営計画のような具体的な設定に対して使われる指標である事実があります。
となると、
経営上俯瞰してみると、PRにおけるKPI設定は正しいのか?というそもそもの疑問点がわいてくるわけです。
パブリックリレーションズの定義は、「組織とそのパブリックたちの間に相互に有益な関係を構築する戦略的なコミュニケーションプロセスである」わけなので、この達成は「OKR寄り」なはずなのです。
ところが、「広報」の現場では、効果測定にKPIを導入(要はKGIにつながるのだが、どういうわけかKPIと口にしている!=KFSは何か、を論じなければいけない)しようとしています。
ここまで読んでピンときた人は、カンがいいですね。
###