【小説】夏の挑戦③
前回は…
結局、図書室で出会ってからおよそ10日の間、”あいつ”は全く学校に来ることはなかった。
”あいつ”が学校に来ない間も、担当の先生が自宅訪問に行ったり、他のクラスメイトたちが冷やかし半分で家に行ってみたものの、”あいつ”の姿を確認することはできなかったらしい。”あいつ”の両親は仕事で忙しいようで、普段から家には誰もいないようであった。
ただクラスメイトたちによる”あいつ”の目撃情報がたびたび報告されていた。やれ学校近くのスーパーで見かけた、隣町の港で見かけたなど、色んなところで”あいつ”は出没しているらしかった。そのおかげでとりあえず生きているということも判明されて、”あいつ”の不登校はそこまで大事として扱われなかった。先生は最初は心配していたものの、最終的には”あいつ”を見放してしまっていたようだった。よく言えば自由にさせてやっているといえるだろうか。”あいつ”が休んでいる間に何をしていたのかまでは知らないが、おそらくは例の地図に書かれている小島にどうやって一人で行くかを調べているに違いないだろう。
そして”あいつ”が古ぼけた紙切れを宝の地図だと思い込んでいて、旅に出るために何やら準備をしていると言う噂話だけが、クラスメイトの中で一人歩きしていたのだった。
「馬鹿馬鹿しい、出鱈目の地図に目が眩んでいるんだ」
「まあ身勝手な奴だとは思っていたよ。くだらない」
「クラスのみんなと仲良くする気はなくて、自分がしたいことするだけのやつだ」
「あいつは自分勝手なんだ」
誰もが口々に彼を罵っていた。以前までは”あいつ”の話題もそう上がることのなかったこの教室だったが、今回の噂話を皮切りに批判が増えていったように思う。今までクラスメイトたちが心の奥で感じていた、”あいつ”に対しての不満が、ここに来て一気に放出されたようだった。
「なんでも、船で小島まで行くらしいんだよ」
「一人でかい?」
「まさか、絶対無理に決まっている」
「先生は知っているのかな」
「きっとバチが当たって、高波の悪魔に呑まれてしまうぞ、いや願わくばクラスのためなら・・・」
しかし、一体誰がこの噂話を広めたのか、それだけは今でもわからない。
あの時、図書室には二人しかいなかったので、他の誰かが聞いていた可能性は低い。誰かが外で聞き耳を立てていたのであれば話は別だが。しかしわざわざそんな噂を垂れ流すようなことをするだろうか。どこかの誰かさんがひっそりと私たちの会話を聞いていて、宝の地図を手にしただとかなんだか面白い話をしていたことを、周りに広めたと。
・・・ばかばかしい。
ただ、これだけは言える。
私は別に、”あいつ”の肩を持つわけでもないが、クラスメイトの味方のつもりもない。しかしいくら普段の”あいつ”が粗暴だったとしても、今のクラスメイトたちが好き勝手に陰口を叩いているのが、気に食わない。”あいつ”のやりたいことまでもを嘲笑う権利はどこにもないはずだろう。私の中でむかむかと彷彿していく感情があるのを見過ごせなかったのだ。
私は内心、こう思っていた。
容易く、人一人を値踏みしやがって・・・と。
そんなこんなで、夏の生活が始まる。
④に続く
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