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(小説)#11 「Re, Life 〜青大将の空の旅」

第2章 北村 わたると志津子の出会い③ 

又々登場、青大将

椿の里とみ爺の家から遙か遠く離れているが、北村家の次男と三男のことをお話しなければ、おいらの空旅は、終わりにならないのだよ。
志津ちゃんが大変なことになったンだ。

わたるの弟は、国立大学の文学部に入学した。
古文研で知り合った今村竜子と付き合い始め、卒業と同時に結婚して竜子は、北村の家に入った。竜子は、そのまま大学院に進学し、博士課程を終えて研究者になる道を突き進んでいた。
明は、在学中から北村製パン業を継ぐ決心をしていた。

 三男の博は、府立大学に入学した。
通学時間がかかりすぎるので、下宿生活になった。
毎週土曜日の午後、北村の家に大量の洗濯物と共に帰宅した。親離れができていない。
大学は、経済学部であるが、博には、授業がまるで面白くない。
みんなが行くからと何となく大学を受験したことをすぐ後悔した。
(この俺に大学の勉強が必要か?)
1年次の単位は、何とか取ったものの、迷い続けた。
やっと決心して、
「退学したい」と両親に申し出た。
「面白くないモンを続けるのは苦痛ヤロナ」と、あっさり了解された。
(入学時の手数料、1年次の授業料、下宿のかかり…….。無駄にしおって)
父親は渋い顔をしている。
(いつも、兄ちゃんの尻ばっかり追いかけて……  )
母親も頼りない次男にうんざり顔である。
「そんで、これからどうするンや」と父親に聞かれた。
[ 一旦、家を出たんや、おめおめと戻ってきてもおまえの居る場所は無い ]と厳しい。
「明がパン製造を継ぐことになっている。大学3年の春から、朝と夕に仕事に入ることになった」と、母親が追い打ちをかける。

博には漠然とした考えしか無かった。
その頃付き合い始めた井川和子に愚痴ると、
「叔父さんが洋菓子店を経営している。会ってみる?」と言う。
和子は、府立大学近くのL洋装店に勤めるマネキン(販売員)である。
学園祭で見かけて声をかけたのがきっかけで交際が始まった。
2つ年上のしっかりものである。

「私も、先々は店を持ちたいから、博もちゃんと勤めてほしい」と、言い渡された。
 早速、親戚の店に行くと、丁度、菓子パンを製造する計画を練っているところでるという。北村パン店のことも知っていた。同じように朝が早い。
ヤワヤワの博に勤まるか。
博の両親も入れて話し合いが持たれた。その結果、北村の家からバス停3つ離れた処にある古家を借りて住み、そこから通勤することになった。
朝6時の出勤である。
意外なことに博は、すぐ順応して、菓子パン作りに励むようになった。
和子は、案じてしばしば博の処に泊まりに来た。
すぐに、和子の親にせっつかれて、1年後に2人は結婚した。


 青大将が何をクダクダと述べ立てるかというと、志津ちゃんが超多忙になったからである。しばらく減っていた昼の弁当作りが増えた。
「お姉さんの弁当は、美味しい」と、義妹の竜子が言い、弁当作りが増えた。
何より大変なことは、明と竜子の間に子供ができたことである。
すこし遅れて、博と和子も子持ちになった。次男のところが海斗、3男のところが翔太と命名された。
志津ちゃんが甥御の世話をすることはないはずであるが、
「お姉さん、お願い、論文追い込み中、助けて」と竜子からのSOSがある。
平素は、保育所に預けていたが、
「37度5分なの!  助けて!」と、なって、志津チャンにお鉢が回ってくるのだ。
和子の勤め先は、土曜日と日曜日が忙しい。日曜日は保育所が休みである。
「母に頼んでいましたが、疲れたと言われて……」と、和子は、北村の家に子供を連れてくるのである。
「あれまー」とフクはあきれ果てた。が、志津ちゃんはニコニコしている。
「北村臨時保育園ネ」と一向に気にしない。
(子供が授からなかったから、こうした支援ができる)と、子供達を抱きしめて乳臭いその匂いを吸い込みうっとりしている有様である。

 しばらくすると更に志津ちゃんは大変なことになった。
1年6ヶ月位して竜子に2番目の子が誕生した。女児で彩果。半年遅れて、和子にも同じく女児・花子が生まれた。志津ちゃんの忙しさは、倍以上に膨れ上がった。
見かねた姑が女衆おなごしさんを通いで雇ってくれた。
和子は、堂々と子供たちをつれてくるようになった。
 
 和子は、マネキンとしての腕が上がり、店舗の上位を占める売り上げを出し続け、期待されるようになった。特に日曜日は、顧客の来店が多い。
そこで、土曜日に子供を保育所から引き取ると、そのまま子供2人を北村の家に連れてくるようになった。
はじめは、りんご病がはやっているとか、微熱があるとかの理由があったが、だんだん毎週連れてくるようになった。
北村家の広い居間は子供たちの物が溢れかえった。
「お母ちゃんだけ帰っていいよ」と、花子は、ケロンと言うようになった。
日曜日の夕方、迎えにいくと、
「志―ママといる」と抵抗するようになった。
志津ちゃんにしがみついて、
「ここにいる」と泣きわめくようになった。
「ここは花子の家ではない、帰れ!」と見かねた祖父の修造が大声をあげた。が、花子は
「ここの家の子になる」と、祖父をにらみつけた。
志津子は、少し困惑するようになった。
花子ちゃんが「志―ママ」と言うと他の3人も一斉に、
「志―ママ」と口を揃えて言うのである。姑のフクは、
「志津子さん、しばらくの間よ、子供たちはあっと言う間に成長して巣立っていくから」と慰めるように言った。
(子供のいない私への神様からの贈り物かしら)
志津ちゃんも真っこと人がいい。



(    #12 第3章 ① へ続く。お楽しみに。)

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