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7章 雇用がロボットに奪われる?(1)すみません、エコ贔屓中です。

3月になると予算審議が大詰を迎え、衆院参院で議論が交わされ、着々と予算案が固まりつつあった。日本の予算案だけでなく、今年が最後となる、北朝鮮統治領分の予算案も確定してゆく。国内、各州政府も予算審議の大詰めを迎えていた。各州政府に共通するトピックスは、原発解体撤去後の跡地のアンモニア火力発電所の建設だ。全国54基あった原発が全てアンモニア燃焼の発電所に置き換わる。現在稼働中のアンモニア・LNG混合燃焼の火力発電所がバックアップ発電所に位置づけられ、休眠している間に発電タービンを交換し、アンモニア燃焼に置き換える。2045年を目安に、電力供給量が1.5倍となり、バックアップ発電所が同じ規模で配置され、発電施設のメンテナンスが随時行われる様になる。

各産業界、各家庭の太陽光発電パネルが生産する電力で、各企業、各団体、各家庭が電力消費を行い、余剰となった電力を各州の電力会社に売電すると、電力会社の蓄電設備に蓄えられ、送電されてゆく。日本列島は電力余剰状態となり、電力価格の低減をし続ける稀有な国家となる。余剰電力をストックできる蓄電技術の進化と、電力消費に向けた、EV,IT,家電等の製品開発が一層求められる時代へと転ずる。             
ガソリン・ディーゼルエンジン駆動の車両が、アンモニア駆動、水素駆動に随時移行すると、日本の二酸化炭素排出量は更に減少すると見込まれるようになる。すでに2040年の予算が年初より始まっている各国政府は、日本のエネルギー政策が本格稼働に転じたと理解する。電力消費、電力ストックの為の蓄電技術は世界一で、原料となるリチウムもモンゴルとボリビアの塩湖地帯だけでなく、火星からも採掘し、世界のリチウム価格の高騰を日本連合が抑制している。       
世界ではエネルギー政策のトップランナーとして認定されており、電力発電用のタービン、バス、トラック、自動車に加えて、建機、農機、人型ロボット、家電、各種部品、半導体等の生産台数、出荷数も世界一となり、製造業が日本の輸出品の7割を占める。    
労働人口の減少には、ロボットが産業構造を下支えし、一定の効果を及ぼしている。  
昭和期の劣化した公共設備、施設の改修事業がほぼ完了し、税収の大半は福祉政策・公共サービスに向けられている。国民の収入額も世界一を更新し続けて降り、1%で横ばいだった出生率も、プラスに転ずると目されている。       

そこに、北朝鮮独立・統治終了による負荷から逃れて、ベネズエラ・北朝鮮・旧満州経済のプラス成長が下支えするので、名実共に世界経済を支える国家になると、半ば断定されている。嘗て世界最弱と呼ばれた日銀が、「最強」の看板を掲げるまでになり、世界経済への影響度を増した。ほぼ固まりつつある予算案が、上がり続ける株式市場を更に活性化にさせており、公定歩合を再度上げるのは確実と見なされている。     
日本とベネズエラの市場金利が5%を超えるのが状態化している中で、円が買われ、各国の通貨が下がり、円の一人勝ちの様相が長年に渡り続いている。金融機関は預金増、活況にある株式を元にした投資信託や保険等の金融商品販売は好調でも、市場金利の上昇で、融資やローンの金利も高く頭打ちとなる。そこで政府が民間企業と結託して打ち出したのが、「中国元による融資とローン商品の提供」だった。          
日本と台湾の主要銀行が出資しあって、旧満州でpacific bank社を立ち上げた。通貨は中国元なので平成時のゼロ金利政策の円と同じ、史上最低金利での提供となる。しかし顧客は通貨を気にする必要が無い。アジア地域両替支払いシステムの「飛鳥」を用いて、毎月の両替手数料を「数円」で抑えながら、所有する円でローン返済を行う。10周年を迎えるアスカ・ペイを使うことで、低金利融資、ローン商品の提供を可能としている。商品は全て固定金利なので、中国元の金利が上昇しても影響が出ない。パシフィック銀行内では円を定期預金管理しているので、支障は出ない。日本の金融機関にこの融資とローンを提携販売する事で、低金利融資制度を実現させている。日本や北朝鮮は住宅とマンション価格が安く、住宅も既に所有する人が多数を占めるので住宅ローンを組むケースも限られているのだが、自動車は税金対策でローンやリース販売が主流となっているので、元払い、低金利融資が伸びつつある。自動車会社だけでなく建機や農機具等の製造メーカーの売上にも大きく寄与している。            

パシフィック銀行は、ドルやユーロを元にした低金利融資商品を画策していると言う。今まで各国政府間の収支や企業間取引で持ち入れられ、個人と言えば海外旅行や海外のネット商品購入時に円払いする際に使う位の「飛鳥」だったが、日台政府が設立に関与した銀行のサービス商品と言う事もあって、安心して受け入れられたようだ。

打ち出す政策が尽く成功し、内外の主要な諸問題を解消した阪本政権は、まさに我が世の春を迎えていた。将来的に日本を脅かす存在は、ベネズエラか、それとも北朝鮮か?とまでマスコミに書かれるような状況にある。

ここで、嘗ての与党のように党内での権力闘争でもあれば、衆院解散だ、内閣改造だとなるのだろうが、それこそ税金の無駄だと鼻でせせら笑う与党だ。仮に選挙をした所で、野党や無所属の議員が両手に満たない状態なので、議員がよりALL与党になるのが関の山だとも言われている。
北前社会党と袂を分けて、新党を設立しようとする動きも・・皆無だったりする。    
阪本首相も、内閣の大臣達も政府内、与党内に慢心や緩みが生じかねないと、贅沢なまでの懸念をしている。経済的にはベネズエラ資本企業、北朝鮮資本企業に押される状況で、適度な競争原理が働いているのだが、政治や行政に緩みが見られないでもない。ならば、州政府間、北朝鮮・ベネズエラの各州との競争を促し、もっとも生活し易い地域作りに注力するのはどうだろう?といった提言が党内から言われるようになってきた。
言わば「身内同士に競争軸を置き、他所の国はさて置き、内需拡大」という、何時ぞやに流行った中華思想、アメリカンファーストが進化した、日本版とでも言おうか。

通常ならば「更なる国際貢献を!」と世界各国から求められるのだろうが、現在、日本とベネズエラが手がけている協力支援内容を見て、文句を付けたり、更なる要求をする国は、タカリ依存症に病み続けている韓国を除けば、皆無だ。
内容も質も高い支援を続けているので「パックス・ジャポニカは完成の粋に達しつつある」と想定外の評価をされ、政府関係者は安堵する。議員、官僚が対外政策は十分と理解し、内需拡大に目を向けるのも、自然な流れとも言える。  

政権を担って20年、世界でも確固たる地位を固めた北前社会党が?首相周辺のみならず、政府顧問の爺さんの動きに注目が集まっていた。   

ーーー 
3月からフィリピン・マニラとダバオの2都市から、ベトナム・ハノイ、ホーチミンの2都市と、南太平洋のパラオ、フィジー、ソロモン諸島、ニューカレドニア、バヌアツに向かう高速ホバークラフト路線が就航した。

搭乗費が航空費の2/3に設定され、フィリピン、ベトナムの富裕層の人気を博してゆく。 護衛役を務める、モビルスーツが帯同するので子供達、メカ好きな人々の受けも良かった。      
同時に輸送機が搬送するベトナム・フィリピン製の家電品や衣料や日用品が南太平洋諸国に輸送されるようになり、南太平洋の諸島国に潤いを与えてゆく。
ベトナムとフィリピン製と言っても、日本・台湾・ベネズエラ資本の企業の製品なので売れてゆく。既に店舗展開している企業まで有った。勢い、押し出されるのは中国製品となる。製品ばかりではない、.同じ中華料理でも台湾資本のチェーン店が進出し、同時に日本のスーパーが進出し、同資本のファストフードや様々な飲食チェーン店も付いてゆく。中国以外では人気店ばかりが進出するので、中国資本の飲食店やスーパーの店舗は閑古鳥状態となり、撤退が囁かれている。  
日台、そしてベネズエラ3カ国資本の南太平洋進出が、中国資本の店舗や企業の撤退を促すかのようにも見え、中国人からの評判は芳しいものではなかった。

中南米軍が駐留していない、グアム、サイパン、ハワイ等のアメリカ準州であり統治されている諸島国にも3カ国資本の企業が進出し、中国資本、米国資本の企業の経営を圧迫してゆく。中南米軍が駐留している国には、ホバークラフトが就航し、各国間の横のつながりも強化されると期待されていた。中南米軍は軍隊や艦船だけでなく、最先端の設備を整えた病院まで持ってくる。現在、病院はパラオとバヌアツにしかないので、中南米軍が救急用シャトルで病人を搬送しているが、病院の建設が始まっており、各国内でサービスが受けられる。
経営を圧迫されて怒りつつも、抗いようもなく惨敗を喫した中国人は、本国への帰国の決断を迫られている。アメリカ統治領でも同様の動きが散見され、中国資本だけでなく、米国資本が撤退も検討を迫られている。飲食店に限らない、同胞の旅行者をターゲットに日台の旅行業者が進出してくると、日台の旅行者は身内を使い、中国人の経営する店舗を敬遠する。 唯一の金蔓となる中国人旅行者が減少する傾向が続き、中国資本の旅行業も撤退の方向で動き出す。        

トドメとなりつつあるのが、ITとAIの登場だ。日本資本のホテルに宿泊する客は、ホテルが宿泊向けにサービスとして提供する「お出かけ時、ドローン警備」で保護され、日台資本の旅行代理店では、護衛と通訳、カバン持ちを兼務するロボットガイドが登場し、安全面で敵わなくなり、多少割高でも客が流れる傾向が顕著となっている。  

ロボットがガイドを担うと、土産店とガイドが結託して、ガイドがバックマージンをせしめる芸当は出来なくなる。観光客は明朗会計になる。ロボットが過去の商品購入額のデータを知っているので、観光客にさり気なく情報提供し、場合によっては根切り交渉も引き受ける。歴史や文化に対する知識量も多く、人間の添乗員より詳しいと喜ばれる。諸々の点から、勝る要素が見当たらなかった。最初の皺寄せはアメリカ統治領に一次避難してきた中国人留学生に向かった。臨時的にツアーコンダクターやガイド、通訳として雇用されたが、付け焼き刃なのでロボットに勝てない。肝心の雇用先である、中国資本の旅行業者の経営が閑古鳥状態になると、真っ先に雇用カットの憂き目に合う。            
また、日本人旅行者をカモとしてきた犯罪集団や個人は、商売上がったりの状況となってゆく。ハワイ、グアム、サイパンにやってくる旅行者はパックツアーが大半なので、ITとAIで保護される。個人旅行者やバックパッカーは極めて少なく、ワイキキのあるオワフ島ではなく、マウイ等の自然環境豊かな島へ向かい、長期滞在する傾向にある。カモにしてきた旅行者が保護されるようになると、犯罪者集団には極めて厳しい環境になりつつあった。   
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プレアデス社のロボットレンタル事業は、飲食店向けから、旅行業界の需要が急に高まった。プレアデス社の会長職のアユミは、台湾・台北の本社社員達から報告を受けて、想定外の急成長ぶりに目を細める。父親に感化されてパックツアーに参加した経験が無いので、想像すら出来なかった。3月で日本の卒業旅行シーズンに重なった事もある。10年前に製造されて、自衛隊や中南米軍で活躍したロボットをリペアして、レンタル提供する事業が急拡大している。          
ロボットの軍事目的以外の用途は、開発元の企業内で作業補助員としてスタートしたが、父であるモリがベネズエラに転じてからは漁船や運搬船の船員や農業、工場、流通業の労働者として対象範囲が広がった。レンタルを始めたのは、日本連合以外の国での運用が始まろうとしていた時と重なった。アユミの弟の圭吾が、ドイツのクラブチームに移籍して、ドイツの食文化事情に適合できないという懸念が生じて、調理用にロボットを送った。
これが、クラブの同僚選手の知るところとなり、サッカー選手向け、クラブチーム向けのレンタル事業開始のきっかけとなった。旧満州に台湾料理のチェーン店が進出するのに合わせて、「政治判断で」ロボットの貸与が決まると、既存の中華店の経営を圧迫していった。同じ政治判断で南太平洋諸国で展開する日台資本の旅行業者に、通訳ガイドとして提供されるようになった。

父が長男の嫁であるヴェロニカには甘々で、イタリアでは農業、漁業労働者、店舗の販売員向けにベネズエラ製のロボットを提供し、嫁が経営するイタル社でのレンタル事業としてイタリア国内限定では先行して始まっている。       
イタリアには最新のロボットを提供してしまったが、レンタル事業は基本的に退役したロボットを修復して当てようと方針が変更された。   

今は、10年前から恒例となっている、北朝鮮農地の整地、種蒔き、苗植えの準備を、ベネズエラで取り掛かっている。5年前から旧満州とウクライナの黒土地帯の日本農場の作業も全て、ロボットに置き換わり、兄のアユムが指揮を取った各国自衛隊の人海戦術は過去のものとなった。当時は自衛隊の兵站能力の高さを周辺国に知らしめる効果を狙ったが、今では人型ロボットの身体能力の高さの方が警戒されるようになっている。   
オーストラリア、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ブラジルの南半球の農場で秋の収穫作業を終えたロボットが、北朝鮮、旧満州、黒土地帯、日本の農場へ移動して、春の作付作業に取り掛かる段取りを終えたばかりだ。   
自身も木曜から日本に移動して、モリ家の農地を耕し、家族の受け入れ準備に取り掛かる。  

大統領府の離れのモリの執務室は来年で築10年となる。重量鉄骨と木質パネルのプレハブ住宅を、平屋の店舗のように設計して専用執務室として、大統領職を離れていた時期も使い続けてきた。モリが改修工事を拒んでいるのも、まだ何処にも故障が見当たらないのだから、必要ないと表向きは発言しているが、本音は思い出に満ちた小屋なので、変えたくないのだ。見栄えを気にする大臣が多いので、仕方がなく、外壁を太陽光発電パネルに変えて、蓄電器も最新のものに交換する位に留めて、内装は手付かずにすると子供のように意地を張っている。              
アユミはそれとなく察しており、日本から持ち込んだ5本の檜の柱には、子供達の誕生日ごとの背丈が記されている。1歳用の柱、2歳用、3歳用と、合計5年分の背丈の印が付けられている。スザンヌ姉妹の子達が母親共々フィリピンに移住し、日本人母の子達も日本とフィリピンに拠点を移したので、この部屋での記録は廃れてしまったが、父が嬉しそうに、定規で印を付ける光景が目に焼き付いている。            
上の子供達が使った、2つのベビーベッドで寝ている昴と、サチの子の佐智子が泣き出すと、アユミよりも先にロボットがベッドに移動して、赤子達をあやし始める。授乳とミルクを欲する声を発し始めたのだが、2体のアンナが「お腹が空いたようですね」と言うので、驚く。まだ2日しか経っていないのに鳴き声で分かってしまうのか・・と。  
アユミが昴を受け取って授乳を始めると、手の空いたアンナが母乳を飲まない佐智子の為にミルクを作り出す。佐智子は昴が母親の乳首に食らいついて押し黙ったので、ワンワン泣き始める。私にも頂戴というシグナルだろうか、2人はいつも一緒なので毎度の光景になってしまった。最初は泣かれて面食らっていたアンナも、佐智子をあやすのに慣れたようだ。
今でも母親達と相談しているのが、アンナがここまで赤子や幼児の面倒を見れるのだから、親の居ない幼児を預かっている孤児院の支援に、人型ロボットを提供してはどうだろうと議論していた。しかし、その情報を聞きつけた保育園や働く両親が子供を預ける施設が、手を上げるのは間違いなく、すると保育士さんや保母さんの仕事を奪い、中にはロボットだけに任せて、大量の幼児を集う悪徳業者も増えてしまうかもしれないと懸念しあっていた。
人の欲や悪知恵が絡むと、当初の目的から逸脱しかねない。全ての業務をがロボットで置き換えられるはずもないのだが、そんなマイナス思考の発想も想定しなければならないもどかしさを、アユミは感じていた。人類が進化してゆく過程で、共存できる環境が自然と作られていくのだろうが、今は数社にしか出来ない事業なので、あらゆる事象を想定せざるを得なかった・・。

閣僚会議から帰ってきた父が、ミルクを飲み始めようとした佐智子に近づいて、アンナに譲って欲しいと目で訴えている。
「なんか言わなくちゃ、分からないでしょ」と言おうとしたら、アンナが佐智子を託したので驚いた。2体のアンナがそれぞれの護衛対象の赤子の方に分かれて、食事光景の観察を始める。毎度のように思うが、さすが、動物飼育、植物栽培のエキスパートなのだと感心する。本当に良いAIに育ってくれたなと、アユミは心から感謝していた。
 ーーーー
世界中からやってきた新型輸送機C4が北朝鮮内の各基地に着陸してゆく。最も遠いアルゼンチンからでも大気圏外を経由して1時間で到着する。大型輸送機サンダーバードの半分の25mの全長で、人員や人型ロボットの輸送を主目的に開発された機種で、自衛隊のC1から始まる空挺降下部隊 輸送の流れを汲んでいる。

今回は農地の整地や種蒔き作業がメインなので、フライングユニットを使っての地上への降下はしない。格納庫にクッション材で互いをカバーしあいながら立ち並んだ状態で積載されたロボットが、1機あたり300体格納されている。ロシア、ウクライナの日本農場からは従来通りシベリア鉄道経由で、オーストラリアの農場からは輸送船で新浦港や平壌港に到着し、陸軍のトラックや鉄路、貨物列車に積載されて北朝鮮各地の農地へ向かっていった。 北韓総督府はロボット数を公開しなかったが、昨年、一昨年と集計した各国の諜報員が2万体程度と推定いるが、今年も人員を港や基地、駅に配備して、中南米軍のロボット兵の投入数の把握に努めていた。総督府の櫻田防衛大臣は、実数を悟られないように数日前からサンダーバード輸送機をピストン輸送して、事前に3万体のロボットを送り込み、極秘裏に北朝鮮各地に配送していた。プロジェクトが始まった際の15万人の自衛隊員を投入した規模に準じて5万体のロボットを投入していた。ロボットは休みを必要とせず、夜間も作業するので8時間x3で、人員数15万人に匹敵する数量となる。     

2万体ものロボットを動員する能力がある・・この数値は5年前の推定値から変わっていない。しかも今年は北朝鮮の5万体だけでなく、旧満洲へも5万体派遣し、日本でも2万体送り込み、12万体の農作業用ロボットが北半球の日本が関連する農地で任務に臨もうとしている。
春先の一大イベントとして取り上げて来た経緯があるので、北朝鮮ばかりがクローズアップされているが、政府は平等に取り組もうとしている。 この12万体のロボットが日本が関わる各農場を流動的に移動する様を、ネーション紙とangle社が共同取材しようと各支局と各拠点で講じている。
日本列島で言えば、南部では3月末から田植えの準備に取り掛かり、6月中旬まで田植えが続く。この南から北海道までの田植え支援の流れの中で、春先の野菜栽培準備が全国的に進んでゆく。北陸、北海道での本格的な作業に準じて、同緯度にある北朝鮮、旧満洲、ウクライナの黒土地帯での作業が本格的に始まる。また漁業労働者、漁師達のサポートも年間を通じて対応している旨、さり気なく盛り込む。

人的作業にロボットが加わることで、作業を軽減するロボットのシフト表を各国、各地域別に作成し、流動的にロボットが配置されてゆく様をドキュメンタリーとして記録しようというプランだ。第三者に委ねて記録に残すことで、次年度以降の修正点を見出すのが狙いだった。

北朝鮮だけでなく、黒竜江省の綿花畑にロボットが多数配置され、吉林省の小麦畑を掘り起こすトラクターをロボットが操縦しているといった、旧満州での目撃情報が伝わると、全人代が始まり、北京に集まった中国各地の代表者や委員たちの話題となる。会期の休憩時間になると黒竜江省と吉林省の日本人知事の元へ知事達が集まり、質問責めにする。

「経済特区であるが故に、北朝鮮の農場を参考にして実験的に始めた」と吉林省の前田知事が発言すると、北韓総督府に依頼できる立場のない知事たちは、羨むしかなかった。
幹部席に居る主席や首相等の大臣は、日本人知事の周囲に群がっている様が心配で仕方がない。全人代開催前に、時間枠がさほど取れないとして、吉林省と黒竜江省の知事の発言時間を減らさせてほしい、国内他省への影響を勘案して、刺激的な内容を発表するのは避けてほしいと要請して了承された所で、旧満州で北朝鮮農場の一大イベントに準じた動きが行われているのが露呈すれば、日本人知事が殊更アピールせずとも全国的に知られる所となる。
中国での発行部数が最も多いという、日本のメディアの旧満州支局が記事として取り上げ、
Angle社が映像として伝えると、全人代関係者どころか、全国的に知られる話となる。
日本のメディアの浸透で情報統制が蓋然化した中国では、SNS内で盛んに取り上げられるようになる。ハワイやグアムに居た留学生達が、ロボットの旅行ガイドに職を奪われて本国に泣く泣く帰ってきた話や、中国資本の旅行会社や飲食店が南太平洋から撤退を始めたと書き込みをされると、「ロボットの進出により、労働が奪われるそんな近未来が到来する」と将来を憂いたような書き込みが盛んになる。
ここで、香港や上海などの大都市の市長や副市長辺りの政治家が「日本も老舗企業が淘汰されて、人々はロボットに職を追われたのだ」と書き込みすると、ロボットは害悪だとする短絡的な意見も散見されるようになる。中国政府としては、時間稼ぎが出来たと安堵する。

ロボットに対するネガティブキャンペーンをさり気なく盛り込むことで、日本と北朝鮮の社会も決してバラ色とは言えないのだと、実態を知らされずに歪曲する向きも生まれ、賛否両論状態で議論が交わされる展開となりつつあった。
日本側としては、事実が伝わる様に策を講じる。ロボットが時系列的に各農場を移動して、作業を行うことで農業従事者や農場経営者や企業に対して、収穫増や利益向上などの相応の益を齎した事実が報告されるようになれば・・ロボットを導入した方がプラスに作用する、という結果論をドキュメンタリーに纏めて、補足するかのように日本政府がレポートを作成し、数値を公表してトドメを指す・・という回りくどい展開を想定していた。つまり、半年程度は中国政府の顔を立てて上げますが、結果を公表する責務が日本政府にはあるので、公表後は中国でどのような反響が起き、中国政府に巨大なブーメランが飛んでこようが知りませんからね・・というスタンスだ。
ーーーー
 
大統領再任後、初の帰国となり羽田に降り立つ。マスコミは「夫人のモリ・ホタル官房長官が出迎えた」と報じるが、義母であるのを知るのは日本には僅かしかいない。     
「ベネズエラ大統領の公式訪問」だが、日本人同士なので空港での式典をせず、直ぐに首相官邸へ向かう。ベネズエラからやってきた政府専用機に搭乗したままのアユミと2人の赤子は、護衛役のロボットと共に富山へ向かった。モリも、建前上の夫人と共に、週末に富山へ移動する。年末に帰国した際はお忍びだったので、ん年ぶりの帰国だと報じられていた。
3月になったとは言え、最高気温が20℃に満たない気候に適応出来ずにいる自分に戸惑う。先週までの毎週の北朝鮮滞在は真冬でも至る所で暖房が効いており、寒さを感じるのはほんの一瞬だった。しかし、日中20度近くまでになると、流石に暖房は掛かっていない。

「股引きが欲しいですね。足元がスースーします」実は義母の金森元首相に申告すると、バシッと腿を叩かれて怒った顔をする。年寄りくさい話をしだしたので怒っているのだろう、公称年齢的にはすっかり爺さんなのだが・・。     

「それより、決まって無かった あなた様の明日の予定をお伝えします。明朝は私と夫婦として、皇居に行きます。陛下が南米巡幸の御礼をあなたに伝えたいそうです。そこで陛下と皇后様と昼食をして、午後は首脳会談になります。その後で衆院で演説をしてもらったあとで、社会党に立ち寄って貰います。夕方は陛下夫妻、内親王さまも合流されて、歓迎晩餐会・・」

「ちょっと待って下さい。御一家とは南米で散々一緒だったでしょう?今更何を話せば言いんです?」   
「閣下、宜しいですか?あなたは来賓なんですよ。最初はね、国賓待遇で出迎えようって話だったのを、なんとか止めたの。国が日本人を国賓待遇でもてなすって、いくらなんでもオカシイでしょうってね」
その判断はあっている。国賓であればちゃんとした宿泊施設を用意するが、宿泊するのは大森にある金森邸だ。国賓待遇と、誰が言い出したのか気になるが、当然 却下だ。    

「でもね、海外から要人が来なくなったのも事実なの。その分の予算が使われていないの。だから、出来るだけ使いたいのも事実・・」   

「新任の大使が着任して、陛下が謁見するのは宮内庁の予算でしたっけ?」    

「まぁ、そうね。御所で謁見するだけだし・・」

「じゃあ、予算が繰越できるように法改正したらどうです? いっその事、外務省の予算から撤廃して、内閣官房費扱いにしてもいい。どうせ何れかの大臣が会うんでしょうから」 

「そうね・・でも、改定すると訪日する国が増えたりするから・・次年度へ繰越っていうのが無難かな・・」 
ベネズエラには些細な事でしかなく、関心を失いつつも、日本人として反応してしまう。マスコミもだ、日本人の一時帰国に過ぎないのに、必要以上に集まってくる。何か、特別な議題があるわけでもない。本来の目的は半年間不在にしていた富山の家の風通しと、受け入れ準備なのだが、そこは伏せている。寒村にマスコミが押し寄せてきてもただの迷惑にしかならない。
相も変わらず、直すに直せない陳腐な首都高をグネグネ走りながら、千代田区にやって来た。政権を取った20年間で、最も変化が無いのが千代田区ではないだろうか。古い官庁街が一掃された後で新しいビルに変わったくらいだ・・。    

鮎が手鏡を見ている。娘のメイクがすっかり板に付いたが、それでも僅かな綻びがないか、確認しているのだろうか。自分の娘に成り切るというのは、いかなる労力が伴うのか、俄に想像できないが、官房長官になって人前に出続けていても今までボロが出ていないのだから、拍手するしかないだろう。家族中が違和感を感じないというのも、物凄いものがある。今まで半信半疑だった影武者という職種が、鮎の化けっぷりを傍で見て、信じそうになっている。ベットでも蛍と間違えるのは度々だし・・              
「羽田からは久しぶりでしょ?」      

「そうですね・・事務総長の時以来かな? 殆ど横田を使ってますからね・・」    
マスコミの為には仕方が無い。外タレは日本政府に従うしかないのだ・・。      

「官邸の前で、デモ隊が居るからね。アナタが来るのをお待ちかねよ」        

「デモって、僕、なんか悪い事しましたっけ?」

「中国と韓国籍の方々ね、中華とコリアン料理のお店の人達みたい。商売上がったりだから、大統領、ロボットを提供してくれって要求を掲げてるわ」
「なるほど・・」・・そっちか。「排斥運動めいた事をするな」ではないのだ・・。   
「で、官房長官殿の、公式コメントはどのようなものになるのですか?」          

「それは教科書通りよ。残念ながら先進技術漏洩に抵触するので、提供する事が出来ません。そこはベネズエラであっても、同じなのです。申し訳ございません、って感じ」   

「なるほどね・・あ、ホントだ。集まってる」
警官が何人かロープを持ってそれ以上の侵入を拒んでいる。中国語で書かれているのは、モリが読めるのを知っているからだろう。ハングル文字が全く意味が分からない。中国文と同じだったら良いのだが、「お前の母ちゃんデベソ」的な内容だったら車から出て、中指でも立てないないと、官房長官に失礼だろうか・・ スマホを取り出して、写真に収めるだけにする。写しているのが見えれば、「伝わった」と理解してくれるだろう。

(つづく) 

スリランカ
ウクライナ
ヒロシマ 原爆投下 1年後


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