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(6) 砂上の楼閣


「独島(竹島)が奪われた!」韓国メディアは速報を流した。直ぐに奪い返せ、と韓国世論は荒れた。しかし、韓国の与党も野党もコメントを控えた。その一方でマスコミに対して「日本のミサイル艦と潜水艦、それに戦闘機10機が独島に待機している。軽率な行動は慎むように」と政府から通達が出て、その状況を韓国の人々も知った。
ヘリや航空機、漁船をチャーターして、乗り込もうと勇んでいたマスコミは、戦闘機10機と聞いて、諦めるしかなかった。

韓国側の世論が急に荒れたので、日本でも竹島で何が起きているのか、遅まきながら知った。同胞には危害は加えないだろうと、韓国メディアからの取材要請も受けて、日本の新聞社や放送局が社機を飛ばし、竹島上空を飛んだ。確かに韓国が建てた建造物に日の丸が上がっていた。大きな滑走路と艦船が1隻。滑走路上には日の丸が翼に付いたファントムとひと周り小さな機体が計7機、ヘリが一機止まっていた。

竹島上空を何度も旋回し、近づき、その映像や写真が報道された。
「竹島、奪還か?」「いつの間に滑走路が?」「竹島にはためく日の丸」「韓国政府は沈黙、世論は一斉に非難」

次々と速報が流れ出したが、当の日本政府は事実関係の確認に追われていた。隠岐の島にあったはずのMOBが、竹島に移動していた。しかも、護衛艦と戦闘機と共に。

「防衛省から、大臣とモリ顧問がこちらに向かっています。後30分程で到着するそうです」
内閣府にハンドルを握っているモリの隣で、防衛大臣が電話をかけた。

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首相官邸前に乗り込み、2人で建物に入ると、待ち構えていた首相、副首相、外相、官房長官の居る部屋に入った。モリが、事後報告になった理由を説明する。

竹島を専有するに至った経緯までを伝える。まず、韓国政府が北朝鮮をけしかけ、ミサイルを日本海へ打ち込んで、日米を交渉の場に誘い込むよう勧めていたエビデンスを見せる。
まず、この内容に驚く。官房長官は激昂した。こんな事を許していいのか!と。 それ故に、アメリカが夏から今まで韓国政府に圧力をかけ続けていて、野党に情報を提供して、政権の転覆を指南していると伝える。

政府には衝撃だったようだ。我が副首相閣下も驚いている。どうして黙ってたの!と後でなじられる事だろう。

次に、北朝鮮の新たなるプルトニウム開発場所の情報をアメリカが掴んだ。そして今朝には北朝鮮の核弾頭の全てがIAEAの管理下となったと説明し、その秘密の開発拠点の情報を提供する。この事実にも驚いている。ここまでは事実で、ここから先は創作劇となる。

隠岐の島の沖合にMOBを移動したのは、この北朝鮮での査察に米軍が即座に対応出来るようにするためだったと歪曲した情報を伝える。実際、米軍はそれも視野に入れていたのかもしれないが。
そのまま「米軍が」竹島沖に移動し、今回の拠点確保に至った。これは韓国政府のペナルティだ、従えと脅した。アメリカ軍保護の兼ね合いもあり、戦闘機を着陸し、護衛艦がアメリカの替わりとして横付けしたと説明する。記者が写した写真や映像は、護衛艦のミサイルポッドはカーボンのカバーで覆われていた。7機の戦闘機に1機のヘリまであるので、竹島がまさか無人島だと、誰も思わないだろう。

「アメリカによる韓国政府への圧力が最初にあって、途中から保護せざるを得なくなった」と説明すれば理解もされる。その口裏合わせのように、米国大使が説明にやってくると言う。「竹島は未来永劫、日本の領土です」と発言することになっていた。

公に出来ない話も多分に含まれているので、お汲み取り下さいと言って報告を終えた。AIファントムがアフガニスタンと韓国空域で活躍した話も伏せていたし、スウェーデンとイギリスと戦闘機トレードをしている話も伏せていた。それにAI護衛艦の存在もまだ極秘だ。さらに、2つ目と3つ目のMOBが西表島沖合で建造が始まっていることも黙っていた。防衛大臣とモリは、完全に確信犯になっていた。
やがてファントムとViggenEは竹島を去って、無人ヘリ5機とAI護衛艦だけが残る。その代わりに、各基地の訓練のコースに竹島上空が加わって、自衛隊機が時折やってきては、滑走路で休んでいくようになる。これが積み重なって日本の実効支配域となってゆく。

韓国政府は自業自得の部分もあるが、中国政府は慌てているだろう。全員が見ている時に、白昼堂々、竹島が収奪されたのだから。
日本の最前線基地が忽然と日本海の真ん中に誕生した。韓国政府は米軍から無人艦だと知らされたが、中国軍から見ればミサイル艦が停泊していて、そして、あのファントムが控えている。こんな厄介な相手は誰だって嫌だ。

とはいえ、無人といえども給油は必要だし、海沿いなので定期的に塩害のメンテナンスをしなければならない。故に航空機も船舶も、ローテーションを前提として考えられていた。塩害によって経年劣化が早まるので、竹島には中古機を優先的に投入してゆく。ローテーションの手間暇、定期的なメンテナンスが掛かるのは仕方がない。しかし、人は島に駐留する必要がない。 これが日本のアドバンテージに繋がる。

中国は、日本が尖閣で仕掛けてくると想定しているはずだ。
勿論、必ず手に入れる。しかし、塞いては事を仕損じる。今はその時ではない。同じ手順を踏めば、恐らく簡単に手に入るだろう。それと同時に政治は荒れる。故に今は相応しい時ではない。
韓国政府のように「何らかのペナルティ、もしくは過失」を中国が引き起こすまで、奪い取るような真似はしない。
また、アフガニスタンと韓国でのファントムの能力を中国は知っているはずで、下手に手を出せば厄介な事になるのは分かっている。故に日本は無関心を装いながら、下準備だけは着々と進めておく必要がある。

そうこうしている内に、北朝鮮を訪問中の核査察団が会見に臨み、新たなプルトニウム開発が近郊の鉱山跡で行なわれていたと報じると、世論はそちらに目を転じた。
写真と映像が出されて、開発者達を検挙する模様が報じられる。英米とIAEAの査察部隊を支援したのは、中国軍だったという箇所が関心を呼んでいた。中国が今回の査察に全面的に協力するに至ったのは、どのような経緯があったのだろうと、憶測を呼んでいた。

北朝鮮はミサイル攻撃をしないだろうか?という意見も目立つが、それを冷静に判断を下せる者もいる。38度線と中国国境に難民のように押し寄せている。北朝鮮の住民が居るのだから、流石に無暗に打てないだろう。といった現実的な話が中心になっていた。そして想定した通り、竹島占拠を忘れさせる情報が、次から次へと湧いて出てきた。

「北朝鮮核査察交渉団、全員、韓国へ亡命か?」

「北朝鮮全核弾頭、IAEAが保護。朝鮮半島非核化に向けて大きく前進」

「北朝鮮のプルトニウム秘密製造拠点、中国軍機により空爆」

「脱北者50万人超え。まだまだ増える2つの国境部」

これで大抵の情報は表に出たようだ。現代版の籠城作戦はどのような結末を迎えるのだろうか。いよいよ予断を許さない状況となってきた。飢えた人間、追い詰められた人間の思考回路ほど、予測できないものはないからだ

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 山下智恵とサミアは種子島に居た。
プルシアンブルーとして、初めて衛星を打ち上げる。航空機や漁船用の気象衛星を上げると一部の情報だけを公にしていたが、同時に他目的の2つも合わせ、3つの衛星をH2ロケットに搭載していた。
他の2つの衛星は通信用途だった。ただ、どこのエリアを包括するのかは衛星を製造した会社も知らなかった。H2ロケットが発射されると、2人共、大はしゃぎで見ていた。これはいいもの見た、来てよかった。これから何発でも打ち上げようと、不穏当な発言をしていた。一体、いくら掛かったと思っているのだろうか。ロケットだけで100億だ。衛星3台分で・・もう止めておこう・・

「北朝鮮もロケットを打上げればいいのに」と真顔でサミアが言うので、「あなた、本気で言ってる?」と智恵が返すと「私達が手伝えば、いいんじゃない?」とまた真顔で言った。そういうものなのかな?と思いながらも、「では、格安ロケット会社でも作ってみますか」と智恵は思った。

打ち上げられた2つの衛星は、中国上空にそれぞれ固定された。上海へ出張して待機していたいたエンジニア達は、早速ネットワーク変更の作業を始めた。中国各地の倉庫の屋上の基地局が、2つの衛星に繋がると、既存のネットワークから順次切り替わっていった。

同時に、中国内で使われている。自動車用AIや個人の端末も、各地の倉庫の基地局に一斉に切り替わった。この作業が行われたのは、現地時間の深夜の事だった。翌朝、誰もネットワークが変更された事に気が付かなかった。

中国と北朝鮮の国境収容施設の掲示板に、広域無料Wifiの案内が貼り付けられた。北朝鮮からやってきた人の中には、スマホを持っている人も居た。早速宿舎エリアのWifiに繋ぐと、今まで知らされていなかった様々な情報を見ることが出来た。
瞬く間に、北朝鮮に1000万人は居ると言われているスマホ所有者に、最新の情報がメールを介して齎されるようになった。「北朝鮮は核を手放した」「国境に来れば韓国と中国が宿舎と食事を提供してくれる」と次から次へと広まっていった。両国の国境付近に近づけばアクセス出来るようになるWifiサービスの存在と、今の北朝鮮政府が隠していた事実と、キム一家が既に追い詰められた状況になっている・・
「国境を目指そう」という意識に、北朝鮮の人々が変化していった。

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ロケットが打ち上がった翌日、羽田空港に与党の議員とマスコミ達が集まっていた。
議員は30人で、松坂外相が代表として束ねていた。
政府専用機が2機用意されていて、中国国境へ行くチームと、板門店に行くチームに別れる。モリは板門店だ。行ったことがないのでそちらを申請した。副外相チームに加わると、櫻田さんが嬉しそうな顔をしている。そういうつもりじゃないよと思ったら、越山厚労副大臣も居た。そうか、3人共、板門店は初めてだったと悟った。
それでソウルへ向かった。マスコミ各社も2手に分かれたようだった。

ここまではアメリカの思惑通りに、概ねうまく行っていた。核弾頭はIAEAの管理下で保護され、然るべきタイミングで処分される。
核弾頭が無くなり、技術者が居なくなっても、北朝鮮は様々なミサイルを所有しているので、威嚇攻撃をする可能性はゼロではなかった。モリがアメリカに提案したのは、韓国内に北朝鮮の人々を移動させることだった。砲弾を韓国に向けて打ち込まないようにするためだ。「ソウルを火の海にする」嘗て、北朝鮮は何度も口にした。しかし、同胞を支援している姿勢を見せれば、北朝鮮も流石に攻撃などできまい。

北朝鮮に慌ただしい動きが見られないので、在韓米軍はデフコン2から3まで落した。将軍様もかなり意気消沈しているらしいと、漏れ聞こえていた。あとは「平壌の食糧備蓄」がどこまで残っているかだが、これが分からないままだった。亡命してきた政府関係者もそれぞれ見解が異なり、1週間程度だろう、いや1ヶ月はもつだろうと、バラバラだった。それでも早晩、行き詰まるのは間違いないだろうという意見が大勢だった。

アメリカは中国、ロシアとネット会談を続けていた。外相にも、議員達にも言えないが、中露に韓国と日本を加えた4カ国で分割統治を考えているという情報も入手していた。
北朝鮮がどうなるかが今後の焦点だが、大国は体制の維持など考えず、北朝鮮の権益を得る事しか考えていないようだ。アメリカが韓国とペアになるはずなので、38度線を大幅に底上げするだろう。中露もそれぞれの国境から押し上げる。一方で日本は国境が無いので、負担だけが伸し掛かってくるし、それに大した土地では無いのも目に見えている。誰が見ても「あの地域」しか残らないだろう。日本海を大いに移動し続けなさいとでも言われるのだろう・・貧乏くじを引かせて体力を削ぐ、外様大名の日本は参勤交代方式を強要される事になるのかもしれない。いっそ「日本の分担は無し」というのが、何よりも助かるのだが・・

北朝鮮の人々にとってどんな国であるべきか、そんな事には誰も関心を持っていないのかもしれない。アメリカが韓国の大統領選挙まで引っ張った思惑が、ここへ来てようやく狙いが分かりかけてきた。

そんな混沌とした状況下でも、日本は拉致被害者のご家族を探し出す方法を見出さねばならないと考えていた。今は韓国も竹島専有で激高しているだろうから、簡単にはいかないかもしれないが。

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基地局などの通信設備自体やスマートフォンは、全て中国製造だが、OSだけは北朝鮮独自のものだった。それ故に全てのメールのやり取りは当局が監視していたが、メールの発信先が国境をにいる人々だったのと、当局の存在が分かっていて隠語や暗号、そしてメモを写真で撮って送信したりと、掌握することが難しくなっていた。
それ以上に、当局の担当者達も、政府の状況を知らなかったのだろう。次の日は出社して来なくなった。次第に、統制も効かなくなりメールが最大の情報源となりつつあった。

何よりも、スマートフォンの所有者の大半は、朝鮮労働党の関係者でもある。システムそのものを遮断したくとも出来なかった。真実が齎されるのが最大の懸念で、その情報を統制することが国体を維持してきたのだが、一気に状況が傾き初めていた。
「砂上の楼閣」今の北朝鮮の体制を比喩するのに、これ以上の的確な表現はあるまい。

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板門店にやってきて、F/refox Padが使えるようになった事に気がついた。「モリさん、こんにちは」とAIが反応したからだ。
今まで、朝鮮半島は対象エリアでは無かった。そもそもプルシアンブルーが事業参入していないからだ。中国向けの衛星を打ち上げたので、北朝鮮まではなんとかカバー出来るようになった。そこで国境の収容施設に基地局を設け、少しづつ国内を走り出している、中国人民解放軍の食糧配給トラックにWif装置を備えていた。トラックに近寄れば、ネットにアクセス出来る。

今まで中国国内専用のネット環境を使っていたため、香港と上海の独立したAIサーバーとしか繋いでいなかった。それが、衛星を介して通常のインターネットと繋がった格好となる。
つまり、中国国内のFir/fox端末を持っているユーザは、他の国のユーザと同じAI環境を使えるようになった。ユーザは「AIが急に賢くなった」と感じているはずだ。
そもそも、Fir/fox端末は独自OSなので、アプリは限られたものしかない。しかし、ブラウザーを介してSNS等に接続出来てしまうので、中国国内ではブラウザ機能に制限を加え、違和感の無い様にしている。ただ、AIと会話する際に、アメリカやイギリスのニュースが知りたいと聞かれれば、今までは「お答えできません」とか言って断っていたが、今後ははっきりと回答してしまう。そこは中国側から指摘されるまで、暫く放置するつもりでいた。

また、聞くところによると北朝鮮では携帯を持っている人々は1000万人位いるらしい。恐らく、朝鮮労働党の関係者が大半を占めるのだろう。彼らがWifiを使う際、今まで見たことのない「Free access net」なるものを目にするだろう。それを選択し繋げると、2種類の北朝鮮専用OS用の F/refoxブラウザーのダウンロード画面が立ち上がるようになっている。それで世界の全て情報にアクセス出来るようになる。これは北朝鮮向けの無償サービスだった。さて、どんな化学反応が起きるだろう・・

北朝鮮の国境の2箇所を、日米の議員団が訪れていた。それぞれミックスして中国側と北朝鮮側、2手に分かれて視察を行っていた。
日本単独では、韓国政府が受け入れないのでは?というアメリカ側の配慮だった。
丹東空港と、ソウルの空港には、ラオスから飛んできた輸送機にアメリカと日本の食料品を積み込んで、援助物資として大量に持ち込んだ。全て日本からの差し入れだと伝えて、印象操作はしていたのだが。

板門店では、北朝鮮の人々は他の都市へと運ばれていった。これからまだまだ増えるので、収容施設を後回しにしようと韓国側が方針を変えたらしい。
時折、顔認証システムで引っ掛ける人が出るというが、まだ遭遇したことはなかった。朝鮮労働党の人々だという。別室に集められてヘリでソウルへ運ばれ、韓国政府に調査される。アメリカは「北朝鮮に戻せ」と言っているが、そこは韓国側の判断に委ねられるようだ。
また、今回の査察団の交渉相手となった北朝鮮側メンバーは、全員が家族を捨てて韓国に亡命していた。韓国で家族がやってくるのを待つという。強制収容所送りになっているかもしれないのに。
既に出国者は60万人を超えた。中国側の国境は、既にキャパを超えつつあり、最初に到着した人々を船で韓国側に輸送し始めたと言う。
彼らは事実上の難民だった。国連では難民認定する手続きに入ったが、北朝鮮は暫定的な移動に過ぎないと認めようとしなかった。

越山厚労副大臣をチーフにした一行は、38度線に設けられた医療施設を訪れていた。脱北者の全員が軽度の栄養失調状態だという。11月には食糧が底をつき、配給は9月以降無くなったと全員が同じことを口にした。
韓国は負担を抱え込みつつあった。何しろ急激に食糧を用意しなければならない。そんな状況に選挙が重なっていた。与党と野党の間では、どっちのプランの方が難民に対して相応しいか、と競い合っていた。アメリカが狡猾なのはこういう所だ。全てを選挙の争点として双方を競わせる。どっちが政権を取ったとしても、後々大変な結果が待っているのは間違いない。しかしアメリカは「これは彼らが決めたこと」と途中で梯子を外してしまうのだろう。日本は食糧援助はやろうと決めていた。あまりにも韓国が不憫に見えていたからだ。

実際、財政負担は日に日に高まり、国の将来を不安視する声も高まっていた。しかし、1000万の人口がもし増えるのならば。それは長い目で見れば特需に繋がるとして、GDPが日本を抜くのではないかという論調まで出るほどだった。今回の北朝鮮人民受け入れを「祭り」と見るのか「危機」と見ていいのか、判断が難しかった。

北朝鮮の食糧が底をついたタイミングでは遅い。その前に大勢の方向性を早く決めなければならないと考えていた。いずれは国境での難民の受け入れにも限界が訪れる。
国連軍のような中立軍を配備して、国境周辺都市の住民を食料と共に返し、北朝鮮の領土を国連統治領として少しづつ北朝鮮内の統治エリアを増やすなりしないと不味いだろう。

「幹事長は新政府はどうなると思います?」
越山さんに聞かれるが、まだ話すわけにもいかないので、一般論を使った。

「アメリカには、クアラルンプール国際空港で殺害した異母兄の息子が居ます。甥っ子を担いで新体制を作るのが無難でしょう。中国は最後まで抵抗するかもしれないけど、核が無い今、抗う材料が無いのだから、受け入れるしかないんじゃないかな」

「幹事長はどうしたいんです?」

「まだ分からないんだ。出来れば、朝鮮半島の人達だけで決められるようにしてあげたい。大国の思惑なんかに縛られずにね。この半島はこれまでずっと、中国と日本に虐げられて来た。今回は、アメリカの意向が勝るんだろうけど・・」

38度線で、そう発言した自分の言葉をノートに書いた。日本も加担した歴史があるのだから、何かをしなければと思う一方で、やはりどうしようもないだろうと、諦めの境地が現れてしまう感情を、残して置かなければいけないと思った。
書き留めた所で、解は生まれないのかもしれないが。


(つづく)


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