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(9)史上最強の抑止力は、一体 何でしょう?

中国丹東市と北朝鮮平安北道を繋ぐ国境の川、鴨緑江にかかる中朝友諫橋は、両国間の輸出入量が殆どなくなった事を幸いに 暫定政府となった高麗政府が古い橋を撤去し、新たな橋を再建中だった。モビルスーツが複数で橋梁パーツを運び、多数の人型ロボットが接合部を溶接し、ナットを締めてゆくまで持ち抱えたままの状態を保っている。人と同じサイズの人型ロボット達が、作業現場で効率的に作業している様が物珍しいのか、対岸の中国側には作業を見学する人々が日々集まり、観光スポットのようになっていた。
北朝鮮側の人々は中国産の物資を必要としなくなったが、中国側の人々にとっては北朝鮮産の食糧や北朝鮮に集まる輸入食糧品は死活問題となる。規模は知れているとは言え、丹東市の人々が北朝鮮からの物資で生計を立てている事もあり、橋の再建中の輸送はモビルスーツがトラックを抱えて対岸に運ぶ。 
日に国境を往来するトラックの交通量も限られたものでしかないので、力技で渡河する様にしたのも、北朝鮮からの供給物資の量に制限をおこない、中国側の商店や業者が、他市に物資を出荷して過度に利益を得ないように手心を加えているからだ。

嘗て独裁国家だった北朝鮮は食料すら満足に無く、物資不足に喘いでいた。計画経済は根性論に基づいた机上の空論でしかなく、国際的に孤立状態にあった北朝鮮にとって、隣国中国とロシアは唯一の生命線とも言えた。

当時、最大の味方だった中国からの物資搬入路として使われていた橋が建て替えられ、真新しいものに変わろうとしている。
上下で鉄道用と道路用の一体化していた重厚な橋はもはや不要、過去の産物と判断された。北朝鮮とチベットを繋ぐ鉄路は、旧満州経由での路線になり変わり、中国国内の路線に頼る必要が無くなった。
中国が未だに自治領として統括している、内モンゴルーウイグル自治区経由でチベットのラサまで日本の技術による高速鉄道路線の建設が 2034年のチベット独立を機に始まり、旧満州経済特区の設立で新路線が日本とベネズエラの援助で完成した。 

余談だが、鉄路の管理は旧満州内の管理と同じ、JR北海道に委託している。北朝鮮内はJR四国に委託し、日本では慢性的に赤字に苦しんでいたJR2社がドル箱路線を手に入れて、経営が安定する。大陸半島で得た利益を、北海道と四国の赤字廃止路線に投じて路線復活を実現した。      

平壌、長春、モンゴル、ウイグルを経由してチベットに到達する、遠廻り国際路線の登場は、路線周辺に居住する市民に取っては各自治区における独立の機運を掻き立てる鉄道となり、海外の人々には観光路線として人気を博す迄になった。中国領内を経由してチベットに至る国際路線は新路線の開通とともに廃線となる。それ故に新たに建設中の橋も車両だけが往来出来る形状で、事足りる。              

国境周辺に住まう人々には橋の開通が待ち遠しいのかもしれない。しかし、両国間の往来が貿易から、交易のレベルまで物資搬送量が減少したので、普通の橋の建設で十分と判断された。双方間の物量が減少し、人々の往来が減少した理由は、旧満州と北朝鮮の取引量が、対中国向けと比較して絶対量が異なるからでもある。
また、台湾独立を北朝鮮が支援し、台湾企業が北朝鮮、旧満州に進出し、経済的な結びつきを強化している側面が多分に影響している。
更に、中南米軍と台湾、ベトナム、マレーシア、フィリピンの5軍による合同演習が南沙諸島周辺で定期的に行われようとしているので、中国が一方的に北朝鮮に腹を立てている状況にある。  

5軍による共同演習が行われる前に、韓国軍と北朝鮮に駐留する中南米軍との春の合同演習が行われたのも中国にはプレッシャーとなったようだ。
訓練の域を逸脱する模擬戦もどきの演習内容に、
「人民解放軍の演習など、ママゴトでしかない」と評論家達が様々な方向から比較して論じた。
「ままごと」と評された中国は一念発起する。中国は周辺国に対してもミサイルの発射訓練をしたいと周辺国へ申し入れをした上で発射訓練を重ねてきた経緯がある。2034年までチベットが配下にあった頃はタクラマカン砂漠周辺に向けてミサイルを打ち込めたが、チベット独立後は国境周辺がナーバスな土地となり、今までのように砂漠でのテストが出来なくなった。その為に、日本海や東シナ海に着弾点と時刻を宣告して、弾道を打ち込むようになっている。   
新型の発射訓練と言いながら、過去のタイプとの違いが微々たるものでしかないミサイルを、嘗ての北朝鮮のように日本の経済水域外に向けて発射する。海中に没したミサイルは深夜に中南米軍にこっそりと回収され、分解され、使われている部品の特定と確認が都度行われる。日本製、台湾製、北朝鮮製の、正規品として輸出をしていない部品が多数使われているのが確認される。

それぞれの部品の供給ルートを製造番号から調査すると、中国に供給した それぞれの企業を特定し、ペナルティを課す。同時に今まで通りに該当国に部品供給を続けるように密かに伝える。提供される部品は指定部品に限られる。この部品には標準品とは異なる細工が施してある。 

細工された部品を組み込んだロケットやミサイルが、発射の事前段階でエンジンが燃焼を始める。エンジン燃焼開始と同時に、何故か回路や配線が切断される。
部品を個別対応品として、設定しておくと、十分な燃焼が始まる前にエンジン自体が稼働を停止してしまう。もし、ミサイルが一旦飛び立ってしまい、飛んでゆく方向が急に転じたり、ミサイル自体が爆発したりすると非常に危険だ。飛翔する前にエンジンが停止するのが最も好ましい。

日本連合は米中等が所有するミサイル、ロケットを無力化するために、重要製造部品のサプライチェーン網を把握し、「正規品」を各国に供給しない手段を確立していた。中国のように面積の広い国家が自国領土内でテストを出来ない状態に持ち込み、「海に投棄すれば分からない」とされた従来の定説を逆手に取る。
海底探査を容易に行えるようになった中南米軍には、深海であろうが部品回収はお手の物だ。嘗てイラン、イスラエル、独裁国家の頃の北朝鮮等の国が開発製造した兵器に大量の日本製の部品が知らぬ間に用いられていたが、情報が手に入るようになった現在は、部品供給が出来ないように部品横流し業者を断罪し、もしくは小細工を施した部品をテスト用のサンプルと完成品とでワザと仕様を変えて供給し、本番では役に立たない様に仕組んでゆく。      
日本連合の高性能部品を用いなければ、相応の性能が発揮できないと各国が理解している状況を逆手に取った戦略で、最強の抑止力になると日本連合のトップ達は捉えていた。
何らかの紛争が勃発して、いざ核を放とうと核保有国が判断したり、人工衛星打ち上げの為にロケットを飛ばそうとし試みても、ミサイルやロケットは飛び上がりもせずに、故障原因の究明さえ出来ない状況に追いやられる。頓に真似て製造出来ない部品や半導体ばかりであるのと、取引の無い非正規なルートで調達した部品なので、日本連合の開発メーカーに技術的な問い合わせすら出来ない。
日本連合の部品の一つーつが、ブラックボックスになっていると捉えると分かりやすいかもしれない。 
日本とベネズエラの部品メーカーが半官半民、国営企業という側面も国際政治にプラスに作用する。政策の一環として、メーカーを如何様にでも対応できるようにする。令和以降の日本連合の各政府が重要部品、戦略製品を民間企業に委託せず、息の掛かった企業に開発製造を委託し続けた理由がここにある。           

国が資本を所有する企業が圧倒的なまでの工業力、製造開発力を持つ裏の意義を、理解どころか想像している経済学者や評論家は一人も居ない。中国、ソ連の頃の計画経済下の国営企業を想定してしまうからかもしれない。しかし、その国営企業や半官半民の企業は世界有数のIT企業とAIをグループ会社が有しており、計画経済下の社会主義国とは大きく異なる。      
先端技術を生まず、品質管理の徹底していない粗悪品しか製造・生産できない、ヒトの曖昧な評価とノルマが介在している旧共産圏の計画経済と、AIが効率を求めて開発し、先端のITが、常に無駄を省き続ける計画経済は完全な別物だ。

日本連合の各政府を社会主義、コミュニストの集まりだと揶揄する向きもあるが、あながち間違いとも言えなくもない。
経済成長率は国営企業だけで年率3%以上を維持するように1次産業、2次産業、エネルギー産業の関連国営企業に生産計画を立てさせる。国に提示された計画を達成するように各国営企業が運営されてゆく。国営企業以外の、大小様々な民間企業と3次産業には、お好きな様に稼いでもらう。
これで国営、民間で合わせて、年率5-6%の経済成長が20年間持続している状況だ。
円や北朝鮮ウォン、ベネズエラペソが、ドル以降の国際主要通貨を争っている格好となっている。ベネズエラのGrayEquipment社のAIはシンギュラリティの段階を経由し、同社の核技術は核融合をモノにしたと巷では囁かれているが、ベネズエラ国営企業である同社は技術内容を一切公表していない。モビルスーツや宇宙戦艦、戦闘機、人型ロボットなどの性能から、技術臨界点に至ったのではないかと確証も無いまま、勝手に推定されている。
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中国・海南省の軍事基地では今週、南シナ海 南沙諸島周辺海域で行われる中南米軍を始めとする各国の合同演習への牽制として、中距離弾道ミサイルの発射訓練を行う準備が進められていた。着弾地点は南沙諸島沖で、時刻は深夜とし、万が一のために航行中の船舶や漁船が少ない時間帯を選択し、各国の海運会社・漁協に連絡を徹底していた。準備は徹底された・・筈だった。    ーーー

ベネズエラ軍が中核となった中南米諸国の連合軍、中南米軍が成立すると、令和以降の自衛隊が各国と締結した防衛協定を、中南米軍が引き継いだ。アジアではフィリピン、ビルマ、タイ、北朝鮮の順に中南米軍の駐屯地を兼ねた巨大基地を持ち、アジア圏に於ける最大勢力へ拡大している。この新興軍が規模だけでなく、攻撃力だけでなく、防衛能力にも長けているので、周辺国・・と言っても中国人民解放軍だけだが・・には脅威となっている。   
演習が公開される度に、中南米軍の戦力分析がされるが、ロボットが用いる盾や弓、刀までもが毎度のように評判になる。盾は硬度の高いタングステンで製造され、人の力では持ち歩けない。弓もボーガンタイプと洋弓タイプの2種に大きく分類されるが、ヒトが弓を放てる代物では無い。ヒトや兵士と交戦する際は、大小の日本刀を用いるが、たたら製鉄から鍛冶ロボットが仕上げるカタナは芸術の域に達し、その鋭敏な切り口は日本の古の名刀を遥かに凌ぐと言われている。人型ロボットがモビルスーツや戦車と交戦する際の兵器だという、マンガのような大剣や薙刀と、破壊用途の大型の槌には、モビルスーツの斧と同じ工業素材、ハイパーダイヤモンドが分段に使われている。このような芸術的にも評価の高い「逸品」を都度公開するので、他国の軍隊は脱力してしまう。「こんな異世界漫画のような武器で、殺されたくはない」と公開される度に頭を抱えていた。

                   
山東省、黒竜江省の旧満州経済特別区でも、北朝鮮軍の軍属希望者の公募が始まっていた。旧満州がモンゴル、ウイグルに近いエリアであること、気性の荒い中国東北人の特性も影響したのか、様々な民族が集まってくる。国防相も兼務する櫻田外相の判断が良かった。
ロボット鍛冶職人達に嘗ての蒙古人が持っていた大型の山刀を製造させて、入隊した兵士に携行銃の代わりに配布するとした。旧満州に配属される兵士は男性のみなので、軍服も北朝鮮内で従事する女性スタッフのデザインとは異なる、蒙古兵を彷彿させる配色をカーキ色の生地に施した。厳冬期用には牛革の羊毛ボア付きのハーフコートを用意する。そんなユニフォームをRs社がデザインしたものをモデルが着用した映像と写真で募集したので、殺到する。世界一カッコいい軍服だとネット上でも評判になる。           

「銃ではなく、刀を常備する伝統的な様式の兵士」といったイメージの刷り込みに成功する。そもそも射撃能力でサンドバギーや人型ロボットにヒトが勝てないので、銃の扱いはロボットに主に任せる。携行する山刀自体、ファッションのようなモノだと櫻田は捉えていた。

国境を接する中国人民解放軍や自衛隊の軍服が安っぽくみえてしまうのも、北朝鮮軍はアウトドア服メーカーの登山服とマリン服の機能性を採り入れており、1着あたりのコストも惜しまないものとなっている。人民服や作業着から派生したような綿やナイロンのペラペラの軍服と明らかに差が出るのも当然だった。
軍人の給与体系も中南米軍に準じたものとなり、人民解放軍や自衛隊よりも高給となる。 
「見た目も懐も、共に温かなレベルになる北朝鮮軍」そんな軍が出来、しかも前線と主力部隊はロボット達が務めるので、強く、負けない部隊だというのも、最近行われた韓国との合同演習でも立証されている。「人民解放軍とは明らかに異なる」となれば募集に殺到するのも当然かもしれない。     
ーーー                     人民解放軍の総務に当たる部門で兵の福利厚生を担当しているメンバーは、北朝鮮軍の募集内容をHPで見て、愕然とする。兵士が着用する軍服だけではなく、支給されるアンダーウェアも登山服メーカーの高機能タイプのものであり、オフ時のウエアもRs社のスポーツウエアが流用されている。何よりも驚いたのが、長春やハルビンに建設中の兵士達の官舎だった。 緑に囲まれた低層階のマンション区画の中に簡易スタジアムと体育館、トレーニング施設に食堂と、プロのサッカークラブの施設と同じ様なものが出来上がろうとしている。兵士の負担金は自身の電話料金だけで、光熱費も食費も一切掛からない。     
「下手な企業に就職するより、いい条件だ・・」   人民解放軍の環境より、かなり恵まれていると総務担当の隊員たちは思いながら、これは旧満州を目指そうとする兵士が一定数出て来るかもしれないと考えざるを得なかった。   
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共闘している訳ではないのだが、中国軍がアジア圏に駐留している中南米軍の牽制に動き始めたのは、南太平洋に海軍の主力部隊を移転させていたフランスにとって、歓迎すべき事態だった。圧倒的な軍事力を有し、世界中に部隊を展開していれば莫大なコストがかかる。ロボットを多用して、通常の軍隊よりも経費を減らしているとは言え、最盛期の米軍を上回るエリアに軍を派遣し、駐屯しているので相当なコストが掛っている筈だ。 

地上部隊だけでなく、宇宙方面部隊も増強する節操の無さに加えて、中南米軍の軍事費の大半をベネズエラが負担していると言われている。アジアや南太平洋、そしてイギリス軍とカナダ軍が動き始めれば、さすがの中南米軍に対して脅威となる・・と仏軍参謀部のレポートに目を通して、微笑んだ。

「中国の動きに、流石のベネズエラも慌てているのではないか?」秘書官に向かって得意気な顔をして話を振る。南太平洋へ海軍を派遣した出費は決して安いものでは無かったが、中国が軍を動かした事で、一定の効果を齎しているのは明らかだ・・。大統領は自分の判断が間違っていなかった事に安堵する。歴代の大統領が海軍の派遣をしてこなかったが為に仏領ポリネシアの独立騒動が起こったとサリュート大統領は考えていた。自分の代で、自国旧植民地領が無くなるやもしれない、そんな不名誉な歴史の大統領だったと背負いたくはなかった。
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「中国、軍事演習内容を急遽変更」突然、そんなニュースが飛び込んで来る。     
サリュート大統領がネット記事のタイトルに気を取られて、書かれた記事をスクロールしてゆく。中距離タイプのミサイル発射をする予定だったが、「航行の自由を守る為」として、主力艦隊を南シナ海へ展開させて、中南米軍を主力とする各国による合同演習内容を注視する、とある。
後に、仏軍情報局から齎される「ミサイル発射テスト失敗」の情報から演習内容の方向転換の理由を知るのだが、大統領は艦隊を動かした方が効果は高いと、中国の判断を心の中で讃えた。   
ーーー                     燃焼を始めたエンジンが直ぐに停止してしまう状態が3度も続くと、この日のミサイル発射訓練は中止が決定した。急遽、最新鋭機・殲41 35機による航空訓練に切替えたのだが、殲41が倉庫から出て滑走路脇でエンジンテストを行うと、35機全機がエンジンが停止する。何度もテスト飛行した際には問題なかったのだが。ミサイル同様にエンジン不具合の原因究明が始まるのだが回路や配線は繋がっており、不具合のある該当部品は検出されない。燃焼がピークを迎えるうちに一定の電力や熱量を感知すると切断されるように巧妙に細工されていた。            

中国は原因究明の為に時間を費やすことになる。正規の購入調達ルートであれば、製造 メーカーの支援も受けられるが、非正規ルートなのでそうもいかない。
そこで航空部隊の演習も取りやめて、急遽海軍による演習を企てる。中国人民解放軍が、海軍の派遣をするに違いないと事前に想定していた中南米軍は、対戦相手を中国の主力艦隊の布陣内容と同じような艦隊を編成して、各国との合同演習に臨もうとしていた。中国海軍に一泡吹かせるのが目的、とも言える。
(つづく)

 

中国共産党、執行部はいつまでも全員男性・・

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