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(10) 中南米・麻薬密売組織の解体方法


パナマにモリが乗り込み、麻薬流入を自衛隊は直ぐにでも阻止できるが、暫くは周辺国の意見を聞き、暫くは静観する姿勢を見せた事で、コロンビア政府もパナマ政府も安堵していた。
事を荒立てたくないというのがコロンビア政府の本音だった。報復に怯えながらの事なかれ主義。些かおかしな着地点に到達しているようにも見えるが、長年に渡って続けてきた慣習のようになっているのだろう。

この複雑な内政環境下にありながらもコロンビアもパナマも経済成長を続けてきた。両者が、これでいいのだと納得していること自体が、どうしても解せなかった。「中南米特有の問題だ。ほっといてくれないか」と簡単に片づけられても困る。
ベネズエラにとっては隣国の問題、しかもモノは麻薬だ。外野には理解しがたくとも、背景は理解は隈なく分析しなければならない。そして、誰もが納得の行く解決方法を見出す。
事の本質は、麻薬のために生活を脅かされている人達が多数いるという現実だ。事なかれ主義で封印を決め込まれても困る。
・・10年間国連でやっていると、どうしてもこういう心境になってしまう。モリは天井を仰いで溜息をついた。既に身についてしまったので、仕方がないと諦めた。

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コロンビア政府は、一旦は左翼ゲリラとの和解まで行きかけたが、話がこじれたままで、いつ内乱となるか分からない状況にある。ベネズエラよりはマシな状況だったが、ベネズエラが大きく変化した今となっては、ベネズエラの方が断然いいと考える人々が大勢居た。

ベネズエラ政府は、都市の郊外に1階建ての仮設住宅を建設して、コロンビアからやってきた人達を受け入れていた。そして、鉄道路線の工場建設や工場勤務など、仕事を斡旋した。一定の条件に達すれば、ベーシックインカムも適用するという。
このベネズエラ国境へ行けば丁重に迎えてくれると言う話が広がると、優秀な人材がベネズエラに流れ出るケースが散見されようになり、ベネズエラとの国境を閉めろという声も出て来た。
しかし、隣国で国境線も長く、流れを止める事も出来ない。僅か半年余りで状況が完全に逆転してしまった。実務者レベルでの会合が行われ、ある程度の希望者は受け入れる。職も与えるが。貴国から要請されれば、国籍は認めないでおきます、と大統領がネット会談で明言した。
そして驚いた。ベネズエラは代わりにコカの葉とコカの木を要求してきた。ベネズエラ国内で栽培して、研究用途として使いたいと言う。こんなもので難民を受け入れてくれるのなら、お安い御用と2つ返事で請け負った。

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ネブラスカ州、州都リンカーンに初めてやってきた。農業州らしいノンビリした雰囲気に好感を持つ。州知事とはネット会談を既に何度か済ませており、サーストン郡を候補地として要請していた。サーストン郡にはアメリカ・インディアンのオマハ族とウィネベーゴ族の居留地があり、インディアンの人口が7割を超えている。ヒスパニック系の人々が過ごすにはいいだろうと思ったのと、インディアンの支援も視野に入れていた。変なところで事務総長の発想が出てきてしまう。

サーストン郡に視察に行く。知事のヘリを借りて、娘達を乗せる。まずは上空から、今回購入する耕作放棄地を眺めながら娘達に映像を撮ってもらい、着陸して街を散策する流れだった。
サーストンはオハイオ州に隣接する平原で、戸数も2300世帯、7500名程度の郡だ。街以外は殆ど耕作放棄地になってしまっているというので、やりがいがある。メイシー、ウォルトヒル、ウィネベーゴといった街がインディアン居留地になっていて、エマーソン、ロザリー、ペンダー、サーストンが白人たちが住んでいる。当然ながら、インディアン寄りのエリアを選ぶ。続いて「Winnebago Tribe of Nebraska」「Winnebago Tribe Halfway House」
「Winnebago Village Office」この市庁舎を訪れた後は、メイシーにある「Nebraska Indian Community College」を訪れて、アメリカ先住民の若者達と会話し続けた。

夜はミネアポリスに泊まった。翌日はペイズリーパークを訪れて、「PaisleyPark in your heart」と歌いながら、偉大なロック歌手を悼んだ。

この初回訪問の後、暫くの間ネブラスカ州と往復をしていた玲子、樹里、サチ、あゆみ、彩乃、イギリスの3人のエンジニアは、大抵のミッションを終えた。

エンジニア達がアメリカ先住民へのAI教育ツール、お年寄りへのAI介護ツールを配布し、使い方指導を終えると、玲子と樹里の手伝いを始める。残っていたのは農地の住宅作りの建設会社の選定だった。結局、先住民が経営する建設会社に委託して、建ててもらうことになった。どこの企業も、自分たちが扱っている部材で販売したいと主張して、折り合いが付かなかった。
このJ’s Home社は、社員・作業員が全員ウィネベーゴ族で、こちらの要求に柔軟に応じてくれた。更に販売契約を結ばせて欲しいと言ってきたので、全員が驚いた。

「この家屋は凄い。頂いたサンプルの店舗を試しに裏に組み立てて見たが、実に機能的だ。木質パネルなので湿度も丁度いい。先住民に限らず、多くのアメリカ人に喜ばれるだろう。この軽量鉄骨を増やせば2倍くらいの面積の家も出来るはずだ。そう、アメリカンサイズの家で売り出すんだよ。値段は3万ドルとか言わないで、桁を上げることをお勧めする。水回り製品の質も性能もとてもアメリカ製品では敵わない。この材料で作った家を販売させて貰いたいんだ」Johnson社長は頭を下げた。

娘達は頷きあった。「先住民の会社が儲かるのなら父さんも文句言わない。ただ、輸送コストはどうなんだろう」あゆみが問題提起をする。

「それなら大丈夫。これから店舗用の部材や車が運ばれてくるんから。この家、プラモデルでしょ基本的に。1軒あたりの材料数が増えるだけよ」サチが答える。

「それに、設計ツールと称して、AIとは分からないようにしてこちらの会社に提供したらどうだろう」玲子の提案に彩乃が乗った。

「できます。ちょっと数分間、場繋ぎをお願いしていいですか?」ここまで日本語で会話したのでイギリス娘達も分からなかったが、綾乃がPCを操作し始めて理解した。「Nice idea」といって3人もPCを開いて作業を始めた。数分どころではなく、30秒も掛からずに出来上がった・・。

「お待たせしました。これが設計ツールです。土地の面積、方角、欲しい部屋の間取り等の情報を入れると、何パターンかの家の図面が作成できます。原価は別の画面・・ここで見えてしまうので、ここを幾ら利益を取るか考えれば販売価格が弾けます。
幾つかのパターンで気に入らないときは、例えばトイレの数が2つじゃなくて3つにしたいとこのように入れれば出てきます。このベランダを止めて、普通の小窓で良ければ、このように変わります」

「凄い、オーダーメイド住宅ではないですか。これなら我儘なアメリカ人に間違いなく売れるでしょう!」

「このソフトをもう少し改良して、御社のPCにインストールすれば直ぐに商談ができますよ。社長、私共の注文住宅はいかかでしょうか?」彩乃が一気にクロージングモードに入った。皆が「彩、成長したね〜」とからかった。

「是非、扱わせて下さい。売りまくるとお約束します」

「社長、営業も結構ですが、店舗の建設もこれから増えますので宜しくお願い致しますね」樹里が釘を指す。

「勿論ですとも、任せて下さい!」 
この日は仮契約で、原価にどの位載せて販売するか、MacOS用のプログラム改修をこちらで決めてから、本契約となった。

「いや、日本の方は実に機能的な家にお住まいなのですね、羨ましい・・」
樹里がこの家に住んでる日本人は、実は私達だけなんです、と言いそうになってやめた。

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モリはハイチ・ポートフランスで、お隣のドミニカ共和国の大統領と会談していた。親善目的と言いながら、目的が違った。彼らが嘗て労働者の提供をハイチに要請し、30年前に纏まった数のハイチ人がドミニカに渡った。要はその時の人達を今になって返したいと言う。
すっかり嫌になった。ドミニカへの石油供給を直ぐにでも停止してしまいたくなった。
自分の中では、「こいつら管轄外 国家」と認定した。そうは言っても、安価な石油を止めれば人々が困る・・

「今すぐには出来ないとご理解ください。ハイチは改善したとは入っても、最悪期を脱しただけで、経済成長しているとは言えません。受け入れたいのはやまやまですが、その余裕がないのです」

「それは分かります。国家顧問はどの程度まで回復したらと考えますか」

「受け入れる余裕ができたら、とお答えするしかありませんね」

こうして曖昧な状態にしたまま話を進め、大統領と別れた。別れてから策が生まれた。

ハイチの大統領に面会に向かう。報告する為だ。
「いかがでした?」

「今すぐにはムリだと答えました。まだそんな余裕は無いというと帰っていきました」

「そうですか・・ありがとうございます」

「そこで、ベネズエラとしての判断なのですが・・」

「はい、何でしょう?」

「ドミニカにプチ制裁を加えます。他愛もないものですが・・」

「プチ制裁?」

「ええ。ドミニカへの石油提供を止めます。その分の量をハイチに届けるので、隣国へ石油販売をしてください。ガソリンタンク車で運べばいいのです。勿論たっぷり利益を乗せて」

「怒りませんでしょうか?」

「供給を止めたのはベネズエラです。怒りはベネズエラに向かうでしょう。貴国には関係がない。供給が止まって騒ぎになる前に、ガソリンタンク車が闇販売をするのです。「適正な値段」でね。するとガソリンを買ったガススタンドが、割高なガソリンを販売しだすでしょう。市民は仕方なくそこで買います。ガソリンタンク車を随時送り込んで下さい。そして儲けて下さい。そのうちにドミニカ政府は現行価格でメキシコから石油を調達しようと動き出すでしょう。メキシコから供給が開始される前に、ガソリンの闇販売を止めるのです」

「どんどんガソリンの値段が上がりますよね・・」

「ええ、ベネズエラを怒らせるから、こうなった。理由はなんだ?と政府は国民から突き上げを食らうでしょう。そして次の手です」

「安価なEV車と電気スタンド、固体電池の販売を、ドミニカ内で始めるのです。貴国には水素発電所と水素ステーションがあるのですから」

「なるほど・・それでドミニカを助けるように見せかけると」

「そうです。あなたもこういうのです。「国連にはほとほと困っています。国家顧問は殊の外短気で、直ぐに怒る。怒ると何をしでかすか分からない。ご愁傷様です」とね」

「そんな、言えませんよ・・」

「いえ。いい機会です。そう思わせて置くのです。ハイチもいやいや従ってるんだなと、必ずしも全てが上手く行ってる訳ではないのだなと。恐らくハイチが改善し始めたのが恨めしいだけなのです。それでこんな事を言ってきた。その安易な行動が元となって、急にガソリンが高騰した。野党は黙ってないでしょう。そしてハイチとベネズエラに接近してくるでしょう。お隣の国の選挙はいつ頃でしょうかね?」

「ええと・・あぁ、来年3か4月ですね・・」・・それは都合がいい・・ モリは笑った。

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ハイチもそうだが、メキシコ以南コスタリカまでの各国(但しベリーズを除く)にアメリカ、ネブラスカ州で買い付けた備蓄トウモロコシと小麦を、各国政府向けの配給として提供し始めた。配給品が横領されていないか、自衛隊が各市に分散して監視に当たった。
トルティーヤ文化圏なので、大量に買い付けた。

また、ベネズエラ政府として、各国のバナナプランテーションをアメリカ資本や地元資本から買い取っていった。このバナナをAIロボに作業を担わせようと考えた。
バナナプランテーションは過度の農薬使用により、農民達の健康を軽んじ、著しい害を受けた。この農薬まみれの環境にAIロボット投入して、数年をかけて適切な農場に改良していく狙いでいる。バナナ農場で働いていた方々は、ベネズエラの海藻肥料を使ったパイナップル農場や畑に従事し、健康的な食品を接収いただきながら身体の回復に務めて頂く。
AIロボットと、人のローテーションによる、農場保全の一石二鳥作戦とも言える。バナナ農園のバナナは、従来通り北米と、新たにベネズエラに輸出されていく。

中米諸国も治安が改善し、トルティーヤやパンが分段に振る舞われるようになると、前向きに生産活動に従事してゆくようになる。漸くすると、中米にも穏やかな生活が取り戻せたように感じた。

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フロリダ半島に、タンカー型空母3隻が現れると米空軍機F35A 150機が着艦していった。15年落ちの中古戦闘機を、ビルマとラオスの工場で改修して、自衛隊機として利用する。
また、帰りにこの空母3隻が戦車250台を積み、更にカザフスタンからイランまで鉄路で運ばれてきた、多種多様なミサイルを積んでカラカスへ帰ってくる。F35、500機分の費用は一機10億で5000億円。改修費用に5000億円かけても1兆円。まだ77兆円の融資・購入枠がある。

F35が大量入荷出来たので、アジアに展開中のF15JとF16,日本で言うF2や、古いミグ戦闘機は全て南米へ持ってきて、AIのグレードを下げて訓練機として活用することになった。というのも、今の中国とロシアのAI改良機に、十二分な能力があることが証明された為だ。周辺国の軍事的脅威はアメリカ、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドルで、アメリカのF22に中国機もしくはロシア機と、PB-Vのコンビネーションで応対出来、この戦闘機構成で問題ないと司令官達が判断した。興味本位で数台のF35Aを配備する予定だ。そんな話を、首相に伝えると、
「相変わらずのドケチっぷりね。折角予算を確保したんだから、いつまでも古い機種にしがみついていなで、もっと経済に貢献しなさい!」と、ネット越しで煽られる。そうは言っても、まだ十分使えるのだから勿体無い。

F3はM/TSUBISH/が自衛隊に必要台数を製造する契約をしているので、そこには触らず、PB-VとPB-Xは一旦製造を中止して、PB-Air社の戦闘機部門は、このF35Aの改良作業を優先する。こんな采配が出来るのも、航空機部門が好調だからだ。特に中南米のフラッグキャリアが、挙ってPBJシリーズのオーダーを重ねていた。各国からベネズエラ行きの航空便数が軒並み増えており、そこにPBJを使おうとしていた。
AIが搭載されていて、パイロットが一人で済むというのもあるだろう。

そんなこんなで四方八方がうまく行ってるのだから、ケチとか言うなよと憤慨していた。

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コスタリカ政府とのネット会談で、先のパナマ政府との会談内容を伝える。

「元々、パナマはコロンビアの国の一部でしたから、コロンビア政府と麻薬カルテルとパイプが太いのは当然なのです」と頷かれ、パナマ国境を閉鎖することで合意を貰う。一方でコスタリカからパナマへの出国は自由とする、とした。

「とは言っても、一般の人はパナマに行こうとは思わないでしょう。ただ、世情に疎いバックパッカーや旅行者が、パナマに向かいたがるかもしれません。それは、我が国の方で必ず止めましょう」コスタリカ大統領が請け負ってくれた。

合意内容に基づき、円滑に物事を進めてゆく。

パナマ駐留の自衛隊が、コスタリカーパナマ国境に装甲車とAI部隊を展開させ、国境を封じた。AIミサイル艦が半島の両側の海域に展開し、海路からの侵入も阻止できる体制を整えた。
パナマからアメリカまで、コロンビア産の麻薬の輸送が出来なくなると、コスタリカからメキシコまで連なる麻薬密売組織が干上がり始め出した。仕方なく、コスタリカの密売組織がパナマへ入国する。自衛隊はパナマ入国は認めるが、コスタリカ再入国は出来ないが構わないのか?と聞いて来た。パナマまでは麻薬が来ていると情報が届いていたし、パナマの組織とも協議したかったので同意して入国した。その数、自衛隊換算で67グループにも登ったという。コスタリカだけでなくエルサルバドル、ニカラグア、グアテマラ国籍の者達も国境を越えていった。しかも、その移動は以降も留まることが無かったという。

次第にはパナマの治安が悪くなり、麻薬がパナマ内に蔓延しだすと、パナマ政府はコロンビア政府に話が違うではないかと噛みつき始めた。しかし、コスタリカの組織がやっていることまでは、どうしようもない、とコロンビア政府も取り合わなかった。
パナマ政府は急速な環境の変化に、支持率を下げていった。元の木阿弥・・嘗ての荒廃したパナマが目前で再現されようとしていた。
コスタリカだけでなく、中米各国の密売組織が流入し、パナマ内での販売を巡って、抗争を始めてした。ここに至り、AIバギーとAIヘリがゴム弾を使って抗争を鎮圧し、次々と双方を逮捕していく。パナマにある牢屋は直ぐに一杯となり、自衛隊がパナマの諸島部へ新しい牢屋を次々と作っていった。

こうしてコスタリカ以北メキシコまでの麻薬密輸組織が壊滅、弱体化していくと、治安は改善されていった。しかし密売組織の護衛を担った私兵団や、ならず者組織は、食い扶持が無くなったので、市民を標的にヤクザのような動きに出ようとしていた。
自衛隊は、いち早く中米で導入されていたRs Mobile/Pb Mobileの衛星ネットワークをAIに傍受させ、ならず者組織の動向を常に把握しながら、各国の軍隊に情報を伝え、組織の摘発に乗り出していった。

この長年に渡って築き上げてきた麻薬ルート網が次第に無くなりつつある状況に、コロンビア内の麻薬組織が激高した。パナマの自衛隊によって全てが無に帰そうとしていると一斉蜂起した。ベネズエラ国境、パナマ国境に私兵集団を送り込み、両国へ侵入作戦を開始した。しかし、AIバギー・AIヘリの敵では無かった。面白いようにゴム弾の標的となり、打ち負かされた。国境突破が出来ない、自衛隊のロボットには勝てないと悟ると、コロンビア政府とパナマ政府に怒りの矛先が移っていく。幸いにして、私兵集団はゴム弾でアザだらけだったが、死んではおらず武器もあった。パナマ内にいる組織と呼応しながら、政府要人への襲撃を企てていく。そこもAIでしっかり盗聴していた。自衛隊はコロンビア内の米軍に情報を伝え、コロンビア政府、議会関係者の米軍基地への身柄の移動を進言した。米軍は受領し、亡命者としてアメリカが身柄を確保すると返信してきた。
自衛隊はパナマ政府と議会にも、危険が迫っていると伝え、自衛隊基地へ一旦身柄を受け入れ始めた。議員たちが家族もろとも居なくなっていた。必死になって捜索を始めた。

攻撃対象が居なくなった組織の拠点に、自衛隊の新型ドローン小型ジェットが、レーダーをくぐり抜けて侵入し、夜間誰もいない麻薬生成施設だけをピンポイントで破壊していった。朝、作業場に行けば、全てが破壊されていた。この夜間の攻撃によって、次は我が身だと悟る者。叶いっこないとAIバギーとの戦いで懲りた私兵集団や護衛たちは、街を去った。
武力勢力を失なうと、それぞれの麻薬カルテルはこの期に及んで相談し合った。的確にそして確実に生成施設は破壊される。それが、小屋ではなくてジャングルの藁葺き屋根の作業場であったとしてもだ。作るのは簡単だが、作ったそばから破壊されていった。もはや誰かが情報を漏らしているとしか思えないと、相互を疑いの目で見るようになっていた。
そこへコロンビア軍が乗り込んで、銃撃戦となるのだが、カルテルのメンバー達が武器の扱いに精通している筈も無かった。その場で殺害されるか、投獄された。

そして各カルテルの事務所にあったコロンビアとパナマ両国政府の内通者の存在が明らかになると、両国政権の関係者や議員が一斉に逮捕された。両国の大統領は幹部達と結託しており、両国は無政府状態となった。暫定的に、左派を中心とする議会関係者が臨時政府を打ち立てた。

これが、僅か2週間の出来事となる。アメリカ内にいる組織も麻薬そのものが手に入らず、売人との提供も関係も希薄になり、組織自体が干上がっていった。ここで警察によって一斉に摘発されていった。
残された何十万人もの麻薬患者は、医療関係者やボランティアによって今後はケアされていく。2033年になって、コロンビアからの麻薬流入の問題は始めて一掃された。

しかし、より複雑なのがコロンビア、よくこれで成長できたものだと呆れてしまう。左派ゲリラがまだ残っている。停戦合意など取り交わされた10年前は、時の大統領がノーベル平和賞を貰ったが、今では敢え無く破棄され、当時の大統領も失脚した。
しかし、これはコロンビアの内政問題だ。ここまでの支援に感謝するとコロンビア暫定政府から言われて介入は終わった。元々、両国間の関係はいいものでは無かった。左派であってもそこは変わらなかったようだ。
アメリカ軍も麻薬が掃討されたとして、コロンビアを撤退した。この撤退を見て、左派ゲリラが動き出したがコロンビア暫定政府から、手出しは無用ですと丁重に断られ、静観するしかなかった。

(つづく)

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