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(6)国の力量、能力を見せつける。

カラカスの郊外にある、小高い丘陵地に大統領の私邸がある。RedStar Homeで販売している2階建てのプレハブ住宅が10棟建ち、その隣に2アール程の農地が広がっている。丘の下部に広がる森林公園の一角であるかのように、丘の存在を捉えている市民も少なくなかった。モリがベネズエラにやって来た8年前、雑草の生い茂っていた、丘の上部に広がる土地を手に入れ、当初は週末に孤児達と共に少しづつ整地し、途中からロボットが作業を進めてここまでになった。住居10棟は昨年まで日本人家族が居住化していたが、1棟が大統領の住まいで、9棟は当時の孤児達の何人かが家族と共に住んでいる。            
昨夜の遅い時間に、ワシントンでの会談を終えた日本の外相と官房長官がベネズエラにやって来た。6年近く住んだ土地なので、空港から直接私邸までやって来て、そのまま大統領の住まいに泊まっていった。今日の夕刻、モリが北朝鮮に向かう政府のシャトルに同乗して極東方面へ帰る。
パメラとアマンダが朝食用のトマトとオクラを畑取りに行って驚いた。目前の官房長官はモリ・ホタル本人ではなく、前前任のカナモリ大統領だと言うのだ。2人共、本物の蛍が衆院の補欠選挙で議員となった、官房長官なのだと思っていたら、私はカリブ海で遭難した金森鮎だと言うので、朝から畑で大泣きして抱き合っていた。
パメラとアマンダの子供達が「何事?」と畑で抱擁しあっている母親達を、ベランダで呆然とした顔で眺めていた。
2人の妹のカーヴィーとヴァーディは、庭で腰を伸ばしてストレッチするモリを眺めていた。走らずにあのストレッチ体操をする日は「昨夜はかなり頑張った証拠」なのだと、その相手となっている姉達から聞いていた。昨夜、モリの相手を努めた2人は、畑に出て収穫している。里子さんは若返ったように見える。蛍さんも8年前から変わらない・・。

「来週こそ頑張ろうね・・」2人が居間で外を見ながら手を握り合ってる。その姿を見て、寝癖だらけの頭で起きてきた、スーザン・スザンヌ姉妹の姪のアベルが「あんた達、なに手なんか握り合ってるの?」と声を掛けると、2人は握り合っていた手を慌てて引っ込めた。

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特使として来米した外相と官房長官が帰った直後の閣議で、今回の主役と想定していたサトコ外相が、実は主役ではなかった事が国務長官から報告されていた。今回の訪問団・・と言っても、官僚も秘書も居ない2人だけなのだが・・モリ・ホタル官房長官の独壇場に終わった。日々の会見の様子から、只ならぬ能力は散見されていたが、体外的に見えるのは日本政府のスポークスマンとしての一面だけであり、個人の意見や持論は反映されないので、個人の資質や能力的なものは目立たずに覆い隠されていた。寧ろ、外相は不要だったのではないかと思える程、会談全てをリードして、国務長官、国防長官、そして大統領を手玉に取り続けた。    
モリの妻という、イロモノ的な位置づけではなく、強いて言うなれば母親のカナモリ元首相に極めて似通っていた印象を国務長官は感じていた。 
会談相手を立てる繊細な対応の中にも、幾つもの強力な刃を隠し持っていて、議論内容に応じて変幻自在の矢を放ち、主導権を明け渡そうとしない。国際交渉の場は極めて少ない筈なのだが、この手慣れた対応から、日本に新たな首長候補が現れたと認めざるを得なかった。モリが妻に迎えた理由が実感できる、そんな人物だった。
次期首相はベネズエラから北朝鮮に転じた、コシヤマ、サクラダの若いコンビだと思っていたが、ヤナイ、サカモトと続いた首相経験者以上の能力を、アメリカ側はモリ・ホタルに感じ取った。後任首相となる可能性を考慮しなければならないと国務長官は断じて、日本連合の分析班に日本政府の最重要人物に格上げだと指示を出した。

サカモト首相が、2人を送り込んできた理由が良く分かった。日本だけでなく、ベネズエラと北朝鮮の代表でもあるかのような発言が散見されていたからだ。日本政府内の順列見直しも去ることながら、短時間の会談でこのような合意が得られた事実を分析する必要がある。明らかとなったのは、彼女の日本連合内でのポジションが最上位に有るという事だ。頓に説明が出来ない結果ばかりが得られた事実から、そう判断するしかなかった。

「メキシコに接する国境開放で合意」 
マスコミに伝えられたのは、断片的な内容でしかない。本来なら、国境が隣接するメキシコ政府か、中南米諸国を束ねるベネズエラ政府の判断が伴う提言が続いた。何故、地理的な関与が無い日本の閣僚達が発言できるのか、会談当初は誰もが面食らった。この2閣僚は中南米諸国から委任を受けた特使でもある、として考えるように切り替えて、応じたが、想定外の提言に後手に回ったのは事実だ。マスコミ内ではモリ・サトコ外相の株が急上昇する。少なくともベネズエラの意向を一心に背負って送り込まれた傑物だとする評価に繋がっていた。

「難民」と定義していた要求を中南米諸国は取り下げ、米国、カナダが求める「避難民」としての呼称を受け入れる、用意があると言う。避難民の収容先は、ベネズエラ、コロンビア、パナマの3カ国に限定される。但し、犯罪者は強制送還し、白人は審査を行い、貧困層以外の人々は米国側に送還する。希望としては、米国側で出国者の事前審査をした上で越境させて欲しい。富裕層が出国の自由を求めて、船舶や自家用機でカリブ海諸国に入国しているが、旅行者として扱い、二週間のビザなし期間を過ぎれば、即座に送還する。長期滞在ビザの発行も認可しない、と言う。

難民の用語を使わないのは、アメリカがIMFや欧州からの再建支援を得るのが目的だと明かした。これ以上、米国の国家の格付け評価(CCC−)をこれ以上、下げてはならない、と言う。
流石に公表しなかったが、ヒスパニック系、アフリカ系、台湾人を除く 中国人だけは米国に送還するが、それ以外のアジア系の人々は須らく「元移民」として捉えて、中南米諸国は難民扱いではなく、避難民として受け入れる。米国出国審査の段階で、白人と中国人だけは念入りに精査する事になるだろう。本内容は、人種差別、民族差別的な要素が含まれる為、備考であっても双方の記録に残さないよう徹底する事になった。
また、避難民を際限なく受け入れる用意があるので、米国、加国に対する金銭的な支援は行わない。その代わりに、ベネズエラ企業を除く、中南米諸国、アフリカ企業の北アメリカ進出を認めるのが対価としたいと要求してきた。各企業進出の受け入れの謝礼として、中南米軍が所有するF35を500機提供し、故障機のエンジン換装作業も請け負う用意があると提案してきた。但し、水素エンジン機となるので、中南米軍の整備兵を機体の配備先に据える必要が有る、と末尾に加えて。       
企業進出、物資搬入を受け入れてくれるのであれば、中南米鉄道車両を米国鉄道網に乗り入れる為のレール建設作業を来月3月から中南米軍が着手する・・と行った提案だった。。
ーーーー                       ベネズエラからやって来た一行が平壌に到着すると、エジプト滞在を終えた孫娘3人が、空港で祖父たちを待ち構えていた。どこで聞きつけたのか、大勢のマスコミが待機している。大勢のカメラマンが構える 前で、モリ・ホタル官房長官が孫の茜と遥を抱きしめ、フラウがモリの胸に飛び込んでくる。遠慮ない孫の勢いに呼吸ができなかったのか、苦悶の表情を浮かべたモリの映像が世界中に発信される。 別行動していた、中国・北京へ向かったもう一組の首相特使、前首相の柳井純子幹事長も鉄路で平壌入りし、総督府でベネズエラ組の到着を待っているとも報じられる。  
マスコミに連絡したのは北朝鮮総督府の判断で、この後の「冬季栽培施設棟」の視察にマスコミも同行するらしい。モリはそれを聞いて「オイラはパスします」と移動中のミニバスで宣言すると、孫娘3人が「ダメえ!」と声を揃えて言うので、仕方なく従うことにした。

日本の国土面積の1/3に 3000万人の人々が居住する北朝鮮には、国内に余剰地が幾らでもある。全てを農地化するにしても、冬季ばかりは耕作に適さない。そこでモリが考えたのが、サハラ砂漠で試行が始まった栽培棟の活用だ。平地であれば草刈りして平坦な土地に均して室内プールサイズのチタン製の建屋の中に土壌を敷いて、栽培を始める。冬季は開閉式の屋根を閉めて、有り余る余剰電力を惜しみなく使って、室内温度を20-22度に保ち、24時間室内灯を照らして春野菜の栽培を行う。24時間照射するので、生育、収穫までの時間が短くなる。従来のビニールハウス栽培では、ハウス自体の耐久性が無く、コスト安でありながらも定期的に立て直す必要があった。過去に電力や燃料代が高騰すると、栽培コストが跳ね上がる問題が生じたが、電力料金が下がった今は商品作物に価格転嫁する費用もたかが知れたものとなる。チタン製の施設の耐久性についても半永久的なもので、月面のチタンを利用しているので建設コストもたかが知れている。          

春になればモビルスーツが屋根を取り外して、通常の外気温と直射日光でもって夏秋に収穫する野菜栽培を行う。秋の収穫が終われば、室内の土壌を入れ換えて再び屋根を取付け、室内温度を上げて、照明を照らして厳冬期に収穫するトマト、ナス、キャベツ、レタス等の短縮栽培を行う。また、床のないタイプの栽培棟も建設して、こちらは地面を耕して大根、イモ類などの根菜類を育てる・・そんな栽培棟が45棟建っている場所が平壌郊外に作られていた。夏野菜のトマト、ナス、きゅうり、カボチャ等の野菜が収穫期を迎えたので、日本の大臣達に見学して貰って、日本海側や北海道でも、冬季に栽培棟を同じように建てて、ロボットに栽培を任せて夏野菜を収穫するのはどうだろう?という提案だ。
茜と遥、そしてフラウが、記者たちの質問に答えながら、補足説明をしていた。

会見自体はアルジェリアでのマスコミへの説明は姉の茜が担当したので、セミロングの双子姉から、今回はボブカットの遥がバトンを引き継いだ。従姉妹のフラウと同じ髪型だが、方や金髪碧眼に対して、遥は漆黒の髪にブラウンアイの瞳をしていた。

「・・このように余剰電力を使って、厳冬期でも短期間で夏野菜の収穫が可能となります。北韓総督府の夏目農水大臣が先日の会見で述べたように、北朝鮮と旧満州経済特区の各所に栽培棟を建設し、冬季に於ける安価な生鮮食品の供給を目指して参ります。それぞれの都市の市長や省長のご判断になるかと思いますが、地域毎で栽培する野菜を決めて、各都市間で融通し合う方が、生産効率が上がり、物流、流通業界にもプラスになるので良いかもしれません。北朝鮮と旧満州の栽培棟で効果が出るのは、ほぼ間違いないでしょうが、冬季の食料調達で同じような悩みを抱える、北欧、ロシア、カナダ、アイスランド、グリーンランドでも、この栽培棟が活用できるのではないかと考えております。
寒い季節がある地域ばかりに留まりません。常夏の国、フィリピンでもこの栽培棟を建設し、実証事件を始めようとしています。サハラ砂漠の栽培棟に近いですが、空調で日中の気温を下げて、夜間でも室内照明を当てて24時間体制で栽培促進を図ろうとしています」

日本のモリ・ホタル官房長官が孫の遥からマイクを引継ぐ。本当の孫でもあり、外面的な繋がりでも孫となる。茜と遥の双子姉妹の父親・火垂を産んだのは、表向き、蛍になっているので。 

「日本の山間部の農村や過疎地でも、この栽培棟を建設して参ります。この子が申し上げたように、各州の州知事の判断で栽培棟ごとに生育する野菜類の種別を決めて、バランス良く栽培していきます。トマト栽培ばかりに集中してもいけませんからね。日本連合が余剰電力を増やし続けている理由の一つが、この24時間体制の栽培棟を稼働させるためです。他にもも工業品を製造する工場も、ロボットを投入して24時間製造し続ける拡大方針へと転じます。野菜は収穫量が3倍にはなりませんが、工場生産品は8時間労働が、24時間操業へ転じますので単純に生産数が3倍になります。新たに工場を建設することなく、生産数を引き上げる。これが学者の皆さんが仰る、日本連合のネオ産業革命の実態となってゆくのでしょう」

モリと里子外相は記者席の後方で、会見の内容を見ていた。金森鮎が孫達に囲まれて調子に乗っているのが分かる。「ネオ産業革命」という言い方を日本の閣僚、しかもスポークスマンである官房長官が初めて口にしてしまった。   

「余剰電力など、日本連合には存在しません。更なる経済成長を図るための必須なものとして電力を位置づけて、電力需要とのバランスを常にIT分析しながら、国のエネルギー政策を測っていきたいと考えております。
次に考えているのが、海上での・・・」    

鮎の説明の勢いは止まらない。なまじ原稿を使わないスポークスマンなので、得意な分野での話題では勢いが増す傾向にある。これでは要らぬ情報までマスコミに与えてしまい兼ねない。里子がイタリア政界に転じたら、外相職専門にして、官房長官は新任した方がいいかもしれない・・外相になっても、原稿を見ずに会見に臨むのだろうが・・。 モリは里子と顔を見合わせて、終始笑い続けていた。   
ーーー                 

 北半球の冬の需要を見込んで、OPEC加盟国が石油出荷量を増やし、LNG資源国も出荷量を増やしていた。エネルギー価格が一貫して安定していたので、市場的には安心材料となっていた。人口の多い国ほど、化石燃料への依存度が高い傾向があり、新エネルギーが台頭しても、それなりの需要は残されていた。
ガソリン等の燃料用途は20年前は需要の半数を占めていたが、ガソリン車のシェア低下に伴って、全体の35%まで落ち込んだ。逆に、食品に代表される商品の包装技術が進化して、プラスチック類の需要がアジアと中南米・アフリカの好景気もあって、産油量自体は横ばいが続いていた。ガソリン車が何れは無くなり、アンモニアがプラ製品の原料に置き換わってゆくと、エネルギーとしての石油の役割も次第に終焉を迎えると見込まれていた。人類は脱石油に向けた、一つの解を得ようとしている。
そこに農業品、酪農品を育てる「栽培棟」なる施設を建造し、工場を24時間体制にして、生産能力を3倍に引き上げる構想を、日本が初めて公言したので各国は驚いた。     

「世界の工場」の座を確立して、世界経済の中枢を日本連合が占めようと考えているのかもしれない・・そんな未来予想を各メディアは伝え始めた。 

ーーー                 
軍の中間報告で事は決した。中南米軍から貸与されたF35C 3機で検証作業をしていた軍の技術部隊の映像とレポートは、ホワイトハウスに居る面々を驚かせていた。20年前の主力機が、現行主力機のF40をすべての面で上回るという暫定的な内容だった。 
AI等の中南米軍のコア技術が外されているとは言え、この圧倒的なまでの性能を有する機体を500機、しかも無償で提供されるという日本側の提案に、軍部は小躍りして喜んでいる。     
ベネズエラが米軍の所有する、エンジンがサビで故障した戦闘機、F35 計417機のエンジンを水素エンジンに換装するという内容だ。軍の補給部隊と、メンテナンス部隊だけがこの提案に対して難色を示している。保守パーツはベネズエラから全て取り寄せる必要があるし、日々メンテナンスを請け負う要員も、中南米軍の整備員の各基地駐留が必要となる。とてもではないが、部品も整備員も、今の米軍のスタッフでは用意できないと断定していた。

「今はベネズエラに依存するしかないにせよ、何れは水素エンジンの技術を習得して、部品は作れる。それに、整備マニュアルを精読すれば米軍のエンジニアでもメンテナンスが出来るようになるのだろう?」
国務長官が国防長官を見据えながら言う。

「部品製造できるまでに何年かかるのか、水素エンジンの技術を我軍がモノにするまで何年かかるのか、今はまだ精査中です。ペンタゴンの博士達の一次回答は10年後になるとの話でしたので、時間を縮める為の策を練ってくれと突き返しました。どうも、簡単には行かない代物だそうです。エンジンだけではありません。あらゆる部品がオリジナルのF35とは異なります。中南米軍、自衛隊の主力機のA-1やV-1との部品共用がされているのかもしれませんが、その大半の部品が今のアメリカ企業では製造が出来ないレベルにあります。しかも、中南米軍では機体の整備はロボットがやっているんだそうです。我々がキャッチアップするのが難しい理由が、部品すべてが微細で難解な構造をしているので、特殊な工具を使う必要があります。特にエンジン周りは人手では補えない難解な構造になっています。その為に、アームの部分がその工具になっている整備用のロボットが居るんだそうですが、当然ながら、この整備用のロボットは・・提供不可なのです・・」

「10年! 目の前に対象の機械があるというのに?」国務長官は背中に寒気を感じつつも、何か言わねばならないと思いながら吐き出すと、国防長官が瞬きもせずに、目を大きく見開いたまま頷いた。国務長官はアンモニア駆動のエンジンを分解した国内の自動車企業が、白旗を揚げたという話を思い出した。まさか、戦闘機でもそれだけの技術の隔たりがある、UFOだとでも言うのだろうか・・

「宇宙空間を飛び回っている戦闘機や輸送機の技術レベルは、更にその先の段階にあります。つまり、このF35で使われているテクノロジーはベネズエラにとっては旧世代のものに該当するのかもしれません。これだけの製品を無償で提供するのも、我々のレベルを認識しているからこそ、承認したとしか思えないのです。個人的には屈辱的な印象を強く抱いております」
主任研究員の この断定的な物言いが、微かな希望すら抱けない効果を周囲に齎す。     
それも仕方がないのかもしれない。中南米軍は新型のモビルスーツの製造を始めている。これまでのモビルスーツは、建設現場や工事現場での細かな作業には向かないという声を受けて、アトラスガンダムのボディ形状をシャープな形に変えて、アトラス比で重量と製造費用を2/3に抑えた、エアリアル・ガンダムを模倣したモビルスーツの量産化を始めた。水陸両用に加えて、宇宙空間でも使える万能機らしい。宇宙から降下している可能性もあって、製造元の特定には至っていないが、塗装工程も火星か月の工場で可能になった。チタンの鋼色をしていた戦艦やモビルスーツが全て塗装されているからだ。流石に宇宙空間に人類が進出するので、視認し易いように配慮したようだ。 

戦闘だけでなく宇宙開発や地球上でのあらゆる作業にモビルスーツと人型ロボットが用いられる国に、日本連合は向かおうとしている。減少し、何れ国家として消滅する可能性があるとされた日本人は、半数か、2/3の減少に至ったレベルで下げ止まるのではないかとする、分析結果が出てきたのも、人員減少をロボットが補える社会に変革しつつある。就業が敬遠される職種に、率先してロボットが投入され、移民を必要とせずとも事足りるようになっている。個人の所得も世界標準から逸脱した高さで、一方で物価は地価からしても総じて抑えられており、個人資産も世界最高レベルにある。正に勝ち組と言ってもいい状況に、排他的な日本ではなく、北朝鮮、旧満州、そしてベネズエラを目指す人々が増加しているのもここ数年の傾向となっている。

「ジャパニーズ・ドリーム」誰が言い出したのか分からないが、ニワカ成金が排出するようになり、日本での成功事例を得て、海外進出するパターンが増えている。日本の与党が事業として始めた、海外へ事業進出する姿勢を、政府も金融機関も支えている面もある。   
我が国が嘗て育みつつあったものが、今や日本連合の十八番となり、取って代わられたのは否めない。5年前にチベット米軍撤退の不手際に伴って、日本資本の一斉引き上げが北米全体で進んだが、今度は軍の保守請負と言う形で、我が国土に再上陸しようとしている。軍事産業だけに留まらなくなる可能性を国務長官は感じていた。5年前のチベットでの一件があったが為に、相手が進出を敬遠していただけの話だ。一旦、軍が容認すれば、雪崩のように日本連合の大企業が押し寄せて来るかもしれない。今のアメリカには無い、テクノロジーと資金力を掲げて・・       

国務長官は目眩を感じた。
「そう、我が国が鎖国していた訳ではない。日本連合側の自主規制に幸か不幸か、これまで助けられていただけの話だ。しかし、我々はこの5年間で技術のキャッチアップに失敗しただけではなく、更に差をつけられてしまった・・」

国務長官が一人下を向いて項垂れて泣いているので、閣僚達は声を発する事が出来なかった。部屋の中では、国務長官が鼻を啜る音だけが、響いていた。
ーーー                   

「中国人民解放軍と米軍の力を削ぎ、両国の国際政治力を一時的に低下させる」       

誰も考えもしなかったプランが目前で展開されており、2つの特使を送り込んだ阪本首相は、目頭を押さえていた。最近は特に涙もろくなったなと思いながらも、計画通りに物事が運ばれているのが、半ば信じられずに居た。        

グアム沖の漁船転覆事故という、想定外の事件が生じたのは残念だったが、ここまで策がハマるとは思わなかった。今回の米国の特使に関しても、モノの見事に嵌り、フロントマンとしての里子外相の株がメディアの中で上がり、イタリア政界進出にプラスに作用した筈だ。また、会談を通して米国政府はホタル官房長官の力量を思い知った筈だ。日本政府のエースである、歴代最高峰の首相経験者を送り込んだのだから 当然とも言える。

ベネズエラが槍となり前線で活動して、盾役の日本が後方でどっしりと陣を構える。その両陣営に、モリと金森 鮎が居る・・こんな強力な布陣は世界の歴史を紐解いても、探し出すことは出来ないだろう。

「パックス・ジャポニカ・・」阪本は、世界の頂点の八合目まで到達した、と思いながら一人呟き、右の頬に一筋の涙を流した。      

(つづく) 

Aerial GUNDAM
RicDOM


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