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友達の舞台を観に行ったよ

先週の日曜日、僕は友達が出演する舞台を観に行った。舞台の会場は下北沢とのことで、僕は遠路はるばる自転車で10分くらいの時間をかけて下北沢へと向かった。

舞台を見るのはめちゃくちゃ久しぶりだった。大学2年生の時に観に行って全然ストーリーが理解できなくて混乱した覚えがある。たしかその時は入場料は無料だったし、会場は大学の学生会館だった。

だから、お金を払って小劇場に行くという行為は人生で初めてだった。

(劇団☆新感線なら2度ほど観たことがある。だが、あれは母親に無理矢理連れられて観に行った舞台だし、途中爆睡したりしてあまり覚えていない)



僕は舞台を真剣に見ようとなぜか家を出る前から意気込み、ロードバイクをぶっ飛ばした。肩に力が入りまくりだった。

劇場の前で友達と合流してからチケットを買い、少し暗い劇場の階段を上って会場の中に足を踏み入れた。

席に着くなり緊張してしまい、全身からどっと汗が流れた。気がつくと、劇場の中で僕だけ半袖になり、それでも暑くて汗をかいていた。

しかも、ケツがピリピリと痺れるように痛かった。腰があまり良くない僕にとって、座席として用意されたソファのクッションの薄さはなかなかに時限爆弾だったのだ。

僕は冷や汗と脂汗の混じった不思議な汗を額に滲ませながら、横に座る友人に聞いた。

「演劇の時間って何分?」
「100分って書いてあるよ」

100分か。

演劇なので、4時間ぐらいを覚悟していた僕にとって、100分はまだ短く感じられた。

よかった。高く見積もっておいてよかった。保険って大事やな、と思った。



入口の扉が閉まると、場内の照明が消え、音楽が流れた。

音楽が止むと、先ほどまではそこにいなかった男女が舞台の上にいて、ベッドでセックスをしていた。

それからヒゲ面の男性が部屋の隅に移動して何かをブツブツと話し始めた。僕はビックリした。なぜか、僕は自分がそのヒゲ面の男性に話しかけられているように勘違いしてしまったのだ。まるで2人がセックスしている部屋に僕もいるようだった。思わず舞台に引き込まれた。


ストーリーは進行していった。だが、開始から數十分が経過してもまだ、友人のT口くんは舞台に姿を現していなかった。

僕は不安になった。このままT口くんが舞台に出てこなかったらどうしようか、このまま物語が終わってしまったらどうしようかとハラハラした。

それに、T口くんの演技を見るのは初めてだった。

僕は自分のラップのダサい曲を友達に聞かせて気まずい思いになったことがある。だから、少し気まずかったのだ。

友達の演技がヘタクソだったら、終わった後にどんな言葉をかければいいのだろうか。

……全然わからへん……。

そんな不安に駆られていると、少し経ってから、T口くんが舞台に姿を見せた。

僕は生唾を飲みながらT口くんの演技を見守ることになると思っていたが、気がつくと意外とすんなりと舞台上にいて、ちょっとびっくりした。

登場から演技が上手いのだ。

僕がもし舞台に立ったら、きっと登場シーンは油断するだろう。それかガチガチに緊張しているかどちらかだ。だから登場から演技がうまいということは、すごいことである。

そこからT口くんは話し始めたが、肝心の演技も上手いではないか。ほー!すごいな!と思いながら僕は舞台に立つT口くんのことを見続けた。(ベタ褒めしちゃう)


舞台が中盤くらいになると、僕の腰がピリピリと本格的に痺れてきた。

長時間このイスに座り続けるのはやはり危険だったのだ。腰が爆発しそうだ!周囲の人々も同じことを考えていたのか、椅子を何度か座り直すために腰を動かし、衣服が擦れる音がチラホラ聞こえ始めた。

それに劇場の中は締め切っているからか、無性に僕は咳き込みたい衝動に駆られた。だが、咳をしてはいけないので必死に我慢した。それなのに、咳をしてはいけない時に限って、咳はめちゃくちゃ出ようとする。胸元をピクピクさせながら僕は必死に我慢した。

一旦水を飲んで落ち着こうと思った。それで、ペットボトルの水を口に含んですぐ、僕は自らの愚行に気がつき、愕然とした。

舞台というのは、基本的には静かだ。役者の声に全員が耳を向けているから、話す人の方が少ない。客席で喋りだす人なんて皆無だ。客席は静かだ。静寂なのだ。だから咳をしてはいけないのだ。

だが、それは咳だけでなく、水を飲み込むという行為にもいえることだった。

このまま水を飲み込んだら、ゴクリ、という音が隣の人たちに聞こえてしまう可能性があった。集中している時にそんな音を聞くのは非常に不愉快な気持ちになるはずである。

僕が水を飲むことによって、他人を傷つけてしまう可能性があったのだ。

だからと言って水を吐き出すこともできない。僕の前に座っているお姉さんは本当に綺麗なお姉さんだった。綺麗すぎた余りに僕が後ろに座った時、テンションが上がったくらい美人なお姉さんだった。席替えで隣じゃなくて斜め前とかでも嬉しいタイプのお姉さんだった。斜めから見る角度も可愛いね!なんつって!

そこで僕はお姉さんの邪魔にならないためにも、あと、右隣に座る上品なオジサンに怒られないためにも、ゆっくりと水を飲み込んでみようと思った。

舞台のストーリーももちろん追いながら、ゆっくり飲んでみようと思ったのだ。

体感的には、ゴクリ、と行きたいところを、ごっくっりっ、ととても静かにゆっくりと水を飲み込んだ。飲み込んですぐ、顔を動かさず目だけをギョロギョロと動かして周囲の反応を伺った。左隣の友人は大丈夫。前の席のお姉さんも大丈夫。右隣に座る上品そうなオジサンはどうだ。

大丈夫だった。

僕は誰かを傷つけることなく、水を飲むことができたのだった。


それからT口くんのベッドシーンになった。T口くんは同性愛者の役なので、ベッド上では2人の男が絡み合っていた。僕は友達のセックスを見ているような不思議な気持ちになりながら、その光景を観ていた。


セックスシーンで気になるのは、やはりちんこである。


T口くんはパンツを脱いでいたので、ちんこが見えるはずなのだ。舞台で観る友達のちんこは、一体どのように見えるのだろうかと、僕は思った。1つ断っておくのは、もちろん舞台のストーリーにも集中していたし、俳優の表情やセリフ、機微にも集中していた。だが、ちんことなると話は別である。

なぜか僕は友達はちんこを出しているのか確認しておきたいと思ったのだ。

二人が交わるとちょうど股間の辺りが影になって、そこだけ暗くなる。

ちんこが見えなかった。

陰で何も見えないから、ありゃ前貼りだな、と僕は思った。流石に舞台といえども、そこは配慮するものなんだなあ、と思いながら僕は観ていたのだが、次の瞬間、一瞬だけ二人の体が離れたことで、ほんの少しだけ隠部の影が薄くなり、その一瞬、僕は友達のちんこを見てしまった。

ちんこを見て、ちんこだ、と僕は思った。

あれはまごうことなき、ちんこ、であった。

その瞬間、僕の横に座る上品なオジサンが小さな声を漏らした。

「おっ」

と。僕はその「おっ」を聞き逃さなかった。紳士そうな風貌のオジサンがちんこを見て「おっ」と言うとは思わなかったのだ。

ストーリーはなかなかにシリアスでイカれていた。ヒリついた雰囲気の中で聞こえたオジサンの「おっ」という言葉は、かえって僕の頭の中にこびりついた。

このオジサン、僕とおんなじこと考えてはる……。絶対、おんなじこと考えてはる……。オジサン、僕もおんなじこと考えてましたよ。オジサン、僕も……!「おっ」て思いましたよ!

顔を動かすことなく目だけを動かしてオジサンを見ると、オジサンはなぜか少し、ほんの少しだけ前屈みになっていた。




ネタバレになるので物語については省略するが、T口くんの演技は素晴らしかった。次回も舞台が決まったとのことで、次回もT口くんのポロリ、ではなく演技を観るためにまた行きたいなと思った。

舞台を見終えてから、友達とあと何人かと合流して、下北沢の中華料理屋へとご飯を食べに行った。

地下のテーブル席に通されて、友達とくだらない会話をしながら紹興酒を飲んでいると急に店の中が静かになった。1階から聞こえた雑多な音が聞こえなくなったように感じたのだ。

何が起きたのかと思って階段を見たら、僕が昔からずっと大好きだった有名俳優が姿を現して、僕の横を通っていった。最高に渋くてかっこよかった。シコふんじゃったもシャルウィーダンスも最高の映画だ。ウォーターボーイズも!

そして、ああいうお方ってやっぱり上座に座るんだ!カッケー!僕も年取ったら上座に座りてえー!と思った。




本当に、東京には色んな人がいるんだなあと感じさせられた夜だった。

何者かになりたくて必死に頑張る人もいれば、何者かになった人もいるし、何者にもなれずに挫折する人もいれば、そんなことはハナからアウトオブ眼中の人もいる。色んな人がいる。この世の中には本当にたくさんの人間がいる。

だから、友達の舞台を見に行って友達のちんこを見たことを嬉々としてネット上で語る人間もいるし、それをデートで話してめちゃくちゃスベって本当に死にたい気分になった人間もいる。誰かは言わない。察してくれよな。

とにかく、友人の舞台での演技を見て、僕ももう少しやりたいことを続けてみようと思った。

いい夜だった。T口くんサンキュ。今度、可愛い女の子3万人くらい紹介して。

生きます。