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エコロジイ-第1章 言語篇

 宇宙人との邂逅。
人類の矛盾に満ちた悲願。
それは唐突に訪れた。

 ブラジル宇宙開発局BAXAが、来の倍の通航距離と通信範囲を実現させた最新無人衛星を宇宙へ放った。その衛星は同一軌道上を5年間周回した後、一つの高度信号をキャッチした。

 一ヶ月後世界トップクラスの物理学者たちは国際会議においてその信号を新たな周波数の宇宙線と結論付けた。しかし、翌月その同一信号が再び観測され、以降衛星に信号が届く頻度は高くなっていった。

 そのころ物理学者たちは、宇宙線という説明が通用しないことに気づき始めていた。毎回の信号で微妙に周波数が異なっているのだ。そこで、宇宙物理学者は「宇宙人」というロマン主義的仮説のもと惑星生態学者と協力して、信号が発生した宇宙座標を特定しそこにある惑星のスキャンを開始した。

 それからその信号の規則性解明のため国際会議には世界有数の数学者数十名も加えて呼ばれるようになった。デジタルモデル、アナログモデル、不均衡順列、あらゆる仮説が考えられたがその信号の規則性について明確な答えは出なかった。数学者たちは気づいていた、言語学徒たちの門を叩かねばならないことを。
 
 21世紀初頭、言語学は革命的な発展を遂げていた。ソシュール以来の数学的モデルの積極的な引用が爆発的に各国学会を盛り上げた。多くの数学者が、言語学に転向し、愚直な数学者たちは言語学を敵対視した。

 言語学ではすでに現在の地球上の言語の分析は下火となっており、イルカやコウモリの高音波言語の解析が進みそこから仮想言語や、人類の認識枠組みの外にある言語の予測にまで踏み込んでいた。

 そこでこの宇宙人のものとされる信号、或いは言語の解読に言語学者たちも名乗りを上げた。もちろん、読者のみなさんも思い浮かんだようにはじめはモールス信号のような規則性が想定された。

(ここからの異言語解析の流れの内容は飛ばします、映画『メッセージ』英題:Arrival、のような宇宙人の異言語の規則を鮮やかに導き出すドラマを書きたかったのですが、言語学・文字解読・数学の規則性などの知識が明らかに足りず、泣く泣くカットしました。)

 結論から言うと、“彼ら”の言語には全く規則性がなかった。いや勿論規則性が無いと言語と解釈することはできないのだが、彼らの言語の規則とは、地球の言語に現れる規則性とは全く似ても似ても似つかないものであった。
 
 単語と単語のつながり、文の要素同士の繋がりである統語関係は見られず、意味のない繰り返しが続く。文の小構造が大構造を内包し、主要な部分に見えた最も繰り返しの多い大構造は殆ど無意味なものにdegradeされている。しかし、記号の列(文章と呼べるのか?)全体を通して、言おうとしていることは言語学者の数ヶ月の格闘によって明らかになった。もちろん、それまでに受信したメッセージは100パターンを超えていた、その数のデータがなければこの解読には至らなかったであろう。

 明らかになった彼らのメッセージとはつまり、「地球に来たい」ということであった。

ーーーーー続くーーーーー

 


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