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【インド】23年分の“常識”を10秒で破壊した、7歳の少年。

アジアでいま、最も勢いのある国の一つ、インド。

ムンバイなどではIT産業が急成長し、高層ビルが立ち並ぶ。
2027年には、人口が世界1位になるという。

いったいどんな国なんだろう?
臭くて、汚くて、暑苦しくて、うるさい。

3密を極めたこの地を訪れた日本人は、
2種類に分かれるという。

もう二度と訪れないと決別する人と、
底知れぬ魅力に取り憑かれてしまう人だ。

僕は、圧倒的に後者だった。

ホーチミンでヨンさんと出会い、
少しずつ1人旅にも慣れてきた自分は、
社会人1年目も終わりが見えてきたころ、

多忙を極める平日の合間を縫って
4連休でインドに旅立った。

そして、1人の少年と出会った。
偶然出会った7歳の彼の姿、声は、今でもこの脳裏に焼き付いている。
名も知らない彼の姿は、一生忘れない。


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「バラナシに行って、ガンジス川で日の出を見るぞ!」


そんな当初の計画を早々に断念し
大幅な変更を余儀なくされた僕は、
ジャイプールという場所にいた。

ピンクシティと呼ばれるこの場所は、
おとぎ話に出てきそうなくらい
建物という建物、なにもかもがピンクだ。



なぜか旅を共にすることになった
タクシー運転手おじさんと2人きりの旅も、
はや2日目。

(彼は自称、僕のグランドファーザー。
助手席の自分に話しかけるときは、
いつも、"ハロー, My grandson"から始まる。)

そんなグランドファーザーが、
オススメの場所があるから行くぞ!と誘ってきた。

行くアテも目的地も決めていない自分は、
素直にしたがう。

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街中の車の海を抜け、
色合いがピンクから茶色に変わる。

目の前に現れたこの城。
どうやらアンベール城という世界遺産らしい。

登り始めると、
体中ペイントされた象がやってきた。
顔中ペイントされたおじさんもいる。
片手の無いおじさんもいる。 
野生の猿もいる。

フォト!フォト!といきなり肩を組んでスマホの自撮りをしてくる2人組の兄ちゃんもいる。

なんでもありなこの要塞を探索していると、
数百年前にタイムスリップしたような気分になった。

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ひとしきり城の探索を終え、
グランドファーザーとの待ち合わせ場所である
駐車場に戻った。


近くのレストランで
激辛バターチキンカレーを食べ終える。
(この2時間後にはお腹を壊すのだけれど,,)


駐車場に停まったままのタクシーの中で
ひとやすみしていた。


満腹と心地よい感じでうとうとしかけていた、
そのとき。




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タクシーのボディを
ガン ガン ガン!と叩く音が聞こえた。



チンピラか?!

まずい。タクシーの窓は空いたままだ。
生命防衛本能から、一瞬で目が覚める。

グランドファーザーとぼくの二人だけで
チンピラと戦うのか?

インドはまだまだ治安が良くはない、とも聞く。
すぐに窓を閉めてタクシーを出してもらうのが
ベストでは?

いろいろな可能性を考え、頭が高速フル回転していた。





…杞憂だった。



「Hi. 」




聞こえてきた声は、まだまだ幼い子どもの声。

助手席の窓から身を乗り出すと、
ビー玉のように澄んだ目を持つ少年と、
目が合った。


「プリーズ。チョコ。プリーズ。。」


「ハングリー。ハングリー。。」


ひどくお腹をすかせているようだ。
思わず、自分のリュックに手を伸ばす。


なにか渡せるものはないか?


あいにくチョコはなかった。
けど、空港で買ったクッキーが運良く残っていた。

これなら…!

リュックの底のクッキーに手を伸ばしたとき。






「「「No ! 」」」



鋭い声が右の席から聞こえてきた。


いつになく真剣な目をしたグランドファーザー。
運転席にあるハンドルをぐるぐると回し、
無理やり助手席の窓を閉めはじめた。

「Why?!」


…返ってきた返答によれば、

彼らが幼い頃から、「観光客からモノをもらう」という習慣が身についてしまうと、
いつまでもそれに甘えてしまう。


そしてそのような習慣は長期的に見ると、
「勉強して、ちゃんと働いて、自分でお金を稼ぐ」という自立から遠ざかることとなり、
彼らの将来のためにならない、とのことだった。



正論だ。たしかにそうだ。
わかる。そう思った。
むりやり納得しようとした。

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次の瞬間。



少年が、舐めた。


 












なにを?















グランドファーザーがたった今閉めた、

助手席の窓ガラスを。






ここまでの道中で砂と埃にまみれている
タクシーの窓ガラスを、
少年が縦横無尽に、必死に、なめ回している。


そうすることで、
なんとかして
極度の空腹をごまかすかのように。


少年と出会ってから、

まだ10秒と経っていなかった。


目の前で何が起きているのかを理解するには、
少し時間が必要だった。



少年が、舐めながら同時に、
消え入りそうな声で、叫んでいるのが
窓ガラス越しに聞こえてきた。


「No…!No…!Please…!」


窓ガラスをドン ドンと手で叩いている。


「Hungry,,,,   

Help…Help…お願いだよ、見捨てないでよ。。」







彼は、目にうっすら涙を浮かべていた。



本気だ。少年は、本当に腹をすかせている。


よくよく見てみると、
彼の頬はやせこけ、腕は骨が見えそうなくらいに細い。


「今日という1日を生き抜く」


目の前の彼は、
そのためだけに、こんなにも必死になっていた。

今までの一人旅でも、
新興国を訪れると、
ギブミーマネーと懇願してくる
ストリートチルドレンに出会うことはときどきあった。


でも今回だけは、次元が違った。

彼は、衣食住の中で最も基本である、
食に飢えている。

そして、自分は、彼を目の前にしても
なにも助けてやれない。
そのことが無性にくやしかった。


今まで自分は
チョコたった1つのために、
ここまで必死に懇願したことがあっただろうか?

日本だったら、
ビッグサンダーであれば、
ローソンで30円もあれば買えるだろう。

日本という先進国に生まれた僕らは、
少なくとも衣食住に極端に困ることは少ない。


ここまでの旅路で、
呼吸するように街中で詐欺をかけられたり
高速道路を牛がゆっくりと我が物顔で横断して
そのまま生ゴミやペッドボトルを食べてたり


日本で培ってきた価値観が
少しずつ壊れはじめていた自分だったけれど、
この少年との出会いが、決定打となった。


23年間の人生で積み重なっていた
常識や価値観が崩れ去った瞬間だった。




グランドファーザーは
声を発することなくハンドルを握り、
アクセルを強く踏みこんだ。


涙を浮かべた少年を駐車場に残し、
タクシーはその場を離れていった。


少年の唾液にまみれていた窓ガラスは
荒野を走る中でいつの間にか乾き、

何事もなかったかのように
元通りになっていた。





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帰国してから、
なぜ?が止まらなくなり、
むさぼるように本を読むようになった。




学べば学ぶほど
ヒンドゥー教とよばれる宗教、
古来より続く固定階級社会、
先進国による植民地化、
資本主義による経済成長の仕組み、負の側面。


学校で教わってきた
大学受験突破が目的の暗記勉強では
学ぶことのできなかったリアルが、
世界に広がっているということを実感した。




なんのために生きるのか?
どんな人生にするのか?
幸せってなんなのか?

そのヒントが、この国にはつまっていた。



そして、自分の中での一番の変化は、

幸せの基準が大きく下がったこと。



当時の自分は仕事で逆境にあったけれど、
そんなことは、一瞬でどうでもよくなった。

この日本に生まれて、
衣食住の不自由なく
今を生きていることが


どれだけ幸せなことなのか。
どれだけ奇跡的なことなのか。


そのことに気がついた瞬間、
あらゆる悩みがちっぽけになった。

日本は、比べられやすい社会。
学生時代は、試験の点数や偏差値、学歴。
社会人になると、お金、勤め先、肩書、スペック。

子どものころから周囲と比べられて育てられる社会だからこそ、
他人の目を気にして生きやすい。

物質的にはこの上なく恵まれているはずなのに。
他人と比べ、いつまでも満足できず
嫉妬したり、
もっと、もっと、と
さらなる欲を求めてしまう。


「1人旅は、なぜ1人じゃないのか?」


それは、いろんな人々との出会いを通して、
大切なことに気づけるからかもしれない。 


“足るを知る”


今という一瞬を大事に生きよう。

今の幸せに感謝しよう。 


そして、

恵まれた自分だからこそ、 


世の中のためにできることを精一杯、やり抜こう。



そう思えるきっかけとなった。         (Fin.)


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