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ハラジュク・Kawaii・あまのじゃく2

私はひとりで沖縄にいた。
道の植え込みに同じ高さのヤシの木が並んでいて綺麗だ。東京は冬になる頃だったのに、長袖じゃ暑いや。

ヤードバーズ

駅までは母親に送ってもらった。「あんたがいなくなったら、パパはきっと大騒ぎするよ。」
私は相槌しか打たなかった。お別れの日に、まだ必死にパパの悪口を吹き込む母親。

ワクワクするというより、あの家から抜け出せるという興奮の方が強かったかも知れない。
そう、これは私が母親に騙されて借金地獄に落ちる前の話。


出発前日に、併設するテナントで働く仲の良かったケイちゃんの誘いで男友達のジゲンと呼ばれている人の家で送別会をしてくれるというので行くことにした。1人で家にいてもすることは無いし。

ジゲンくんの家は、実家の敷地にある離れといった感じ。初めて会う人の家で送別会…。いつか遊んだことのあるコウヘイくんも来ていた。
ジゲンくんは、もちろん本名ではない。ただ、信じられないくらい似ている。チューリップハットを目深に被っている。室内なのに。
絶対に目を見てやる。と、この日の目標にした。

ケイちゃんと男性2人で手料理を作っている傍ら、私は卓の前でひとり。レコードでレゲエを流し、お香の香りの染みついた異空間のジゲン宅。

ジゲンくんのお母さんが、お新香美味しいから食べてね〜。と室内を見渡して私を見つけると「あら、彼女ちゃん?」とにっこりした。
はいはいはいはいと言いながらジゲンくんは扉を閉めた。

先にコウヘイくんが話し相手にと座った。彼は人当たりがよく話しやすい。首から下はステッカーみたいに沢山タトゥがあることを除けばごく普通の青年。
「○○ちゃん見て、またモンモン増えちゃった♪」そう言って見せてくれたのはタイに一人旅をした時に道端で靴磨いてもらう感覚で彫ってもらったというタトゥ。
「かわいいっしょ?フリーハンドでさ、消毒してんのかな?って怪しかったけど、まじドキドキしたァ、おっちゃん上手いんだもん。」

私「う、うん。」

「で、さ。これ自分でできんじゃないかなって、ほら反対の腕に自分で入れちゃった♪♪♪」

私「お、おおう。イラスト上手いね!プロの彫り師さんみたいだよ。痛くないの?」

「いたいよー?タオル口にくわえながら刺したよ笑 もう俺プライベートビーチでしか水着になれないや笑」
「で?明日、沖縄に行くんだって?」
「なんでまた笑 俺、海外はよく行くけど沖縄は無いんだよな。向こう行ったら案内してよ。」

私「うん。いいよ。」
ノープランのくせに、イキッた。

次にケイちゃんが座って全然ひそひそ話じゃないボリュームで、私の耳元で「○○ちゃんとジゲンくっつかないかな?って思ったりして…あー紹介するの遅かったぁ。」

「はーい、でっきまっしたぁっと!」すかさずジゲンくんがハニカミながら大盛りの焼きそばをどんと置いた。
「やめてよー、くっついたとして。くっついたとしてだよ?○○ちゃん行っちゃうじゃん?交際0日で遠距離は無いよね〜。」とキッチンで飲んですでにほろ酔いになっていた。

自己紹介や友人関係の説明をし終えたあたりから、コウヘイくんはエリック・クラプトンのライブビデオをつける。「この人、酔うといつもクラプトンを観だすのよ、何回見たかわかんねぇ」ティアーズインヘブンに差し掛かって、曲の由来を聞き急にしんみりした。みんなであーでもないこーでもない言いながら一晩中飲んでいた。ケイちゃんは音楽にうといもんだから質問攻めで、3人でかわるがわるに知識のひけらかし合いをした。

気づけば外が明るくなっていた。
別れ際にコウヘイくんからCDをいくつか貰った。その中にはエリック・クラプトンのベストも。
コウヘイくんが両手を広げるのでハグをした。
ふざけた流れでジゲンくんがバタバタしながらハグをねだった。
「んんん〜、○○ちゃんまた会おうね〜。なんで?沖縄に行かないで〜!」
出来上がっていた。その日1番はしゃぐジゲンに爆笑

しおらしくもならず、なんだか面白ヘンテコなこの日があって良かった。

嗚呼、結局ジゲンくんの目を見ることは無かったな。

そんなことを思い出しながら、飛行機で泣いていた。ねえ、ジゲン…私何してるんだろう…

離陸直前にドラマチックな泣いている私。ガヤガヤ賑やかな修学旅行生、ムードが台無しだ。機内はほとんど学生。前を向くとCAさんが目の前で座っているのにギョッとした。
シートベルトを外していいタイミングでCAさんがハンカチを貸してくれた。
どうみても、女一人旅、泣いてるんだもん。座席がそこしか空いてなかった。せめて窓際だったなら…



家の中はいつしか不穏な空気。専門学校に行くはずの順調だった頃に、珍しく父親が私の部屋に入ってきた。

ベッドに腰をかけ「○○よ、進学を諦めてくれ」涙目の父親が言った。足元が崩れていく感じがした。その頃既に母親は父親の親戚周辺にお金を借りまくっていたそうだ。
払わなくちゃいけないものも払わずで一気に父親に押し寄せてきたと。

父親も私も、母は営業で駆けずり回っているとばかり思っていた。ギャンブルが原因らしい。羽振りもよく、部下から慕われる人間だと認識していたけど。

ちょうどこの時期にライブハウスでイサくんに出会っていた。
仕事終わりに待ち合わせ、イサくんの車でご飯屋さんまでドライブしながらいつもおすすめの曲を教えてもらっていた。そんなことが週一で続いた。

いつか、音楽を教えてくれるお兄さんからちょっと気になる人になってしまっていた。
自分の中に閉まっておけない私は、ある日告ってしまった。
イサくん「はー?いつ?どこで?笑」

私「うーん、いつからか…」

イサくん「そっかぁ…で、どうしたいん?」

私「えー?!どーするといいましても…どうしましょう」頭ん中が真っ白に。

そこから、4時間。朝まで車の中で話をしていた。
イサくんは、私が傷つかないようにフォローし、夢や一人旅した話をしてくれた。いつも持ち歩いているというその旅の写真を見せてくれた。
一人旅した沖縄はすごく良かったという話、私が古着が好きだから行ったら興奮しちゃうだろうなって。一度は行くべきだね。と力説してくれた。

そして、自分の店を持つまで彼女とか作らないって決めているのだと。

「だから、みんなで遊んだり、またこうして2人で飯いこうぜ。」とポンと肩を叩いた。

爽やかに振られた。
振られたのに、4時間も話したから未練もへったくりもなかった。

それから、入り浸っていた古着屋に就職し、お金を貯めていわば壮大な家出、いや自立の旅という運びとなった。

私の進学をダメにした母の尻拭いがとても嫌で、わずかな給与をあてにする父にもウンザリしていたから。


デイドリーム

沖縄の地に降り立った私は、観光客多めの国際通りにいた。自立の旅は沖縄と決めていた。こだわりはなかったのが正直なところ。行くならとことん遠くへ。

道でミサンガを売っていたお姉さんに話しかけると本州から来たいわゆるナイチーだった。ワゴンのカフェでもご飯がてら話をきくとナイチー。集まってくるお客さんもナイチー。会う人会う人がナイチー。

なんじゃこれ!

フラフラとまた歩いていると、果物屋さんで恐ろしい果物を発見した。ドラゴンフルーツ。20年前のドラゴンフルーツはまだ東京には浸透仕切ってなかったはず。そこで買い物していたお姉さんに声をかけられ、ドラゴンフルーツにはちみつをかけて食べると美味しいよ。と教えてくれた。話をしていると短いラリーで「うちに来ない?」と言われた。すんごくビックリした。とっても気さくな人で、私に声をかけずにいられなかったと言う。死に場所を探しているように見えたのだろうか。よほど不憫に見えたのか。

住まいがある宜野湾までバスに乗ってついて行くことにした。古着の話やここに来るまでの話など包み隠さずいっぱい話した。そして、部屋にお邪魔するとドラゴンフルーツにはちみつをかけて振舞ってくれた。ひとしきり話し、お姉さんは送るよ。と言ってくれたけど、この後何も決まっていなかったので恐縮してここからまた探索します。と、別れた。
宜野湾の大きな道の脇にある輸入家具店をハシゴしたり古着屋を見てまわった。ため息が出てしまうくらいにすごく魅力的だった。身の回り全てを買い揃えたい。帰る家もないのに。

また国際通りに戻ってフラフラしていると、スリーピースバンドをやっているという男の子と知り合い、意気投合した。あてなく旅をしている私にメンバーを紹介したいと言ってくれて、さっそく4人でカラオケに行くことにした。私が十八番のWINTER SONGを歌うと、しみじみと、雪を見たことがないなぁ…と感慨深く聞いていた一人が呟いた。どんな感じだろう、触ってみたいよ。と。とても純粋な言葉だった。
するともう一人「亡くなった友達が好きだった歌がMonkeysのデイドリームなんだけど、是非歌って欲しい」とのリクエストに応えるとみんな泣いてしまった。

ちゃんと聞いてもらっているのが新鮮で、なんとも忘れられないカラオケだった。そのまま飲みに連れていかれ、おとおりをした。飲めない私は背後で空いた器に流していた。下戸の私には意味がわからない!おとおり恐るべし!

そのあとも女の子の友達を紹介してもらい、泊めてもらいながらアルバイトをしてしばらく悠々自適な暮らしをしていた。


そんな時ふと、イサくんと同じ景色を見たかったはずなのに、特段夢も希望もなかった私は、ただなぞってみただけだったんだと気づいた。
イサくんはひとり、東京で夢に向かって働いているのだろうな。そう思ったら、ここにいてはいけないと思えてきた。そしてここは逃げ込むところじゃないって。

つづく

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