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虎子奮迅 4-6

虎之介と片山は受付を済ませて警察署の留置係の前の待合所に座っている。
何もやましい事は無いにも関わらず警察署の中という場所なのかこの独特の静けさのせいなのか虎之介はなんだか落ち着かない気分でいた。ほとんどの人間がそうだろうがあまり好きな場所では無い事は確かだ。
かたや片山の方は不機嫌そうな顔を隠そうともせず腕組みをして呼ばれるのを静かに待っている。

『面会でお待ちの方、面会室にどうぞ。』
程なくして目の前の入り口のドアが開き声をかけられる。

『携帯電話お持ちならこちらで預かります。』
と留置係の警察官に言われ二人とも電話を預けて面会室と表示された扉を開け中に入るとすでにアクリル板の向こう側に達也が立って待っていて
『お疲れ様です。忙しい中わざわざ面会ありがとうございます。』
と頭を下げ挨拶をしてくる。

『おう、まあとりあえず座れ』
片山は達也に椅子に座る様に促しながら自分も椅子に座る。

虎之介も頭を下げて
『お疲れ様です。ご無沙汰してます。』
と言い達也が座ったタイミングで片山の隣の椅子に腰を下ろす。

達也は虎之介を見て嬉しそうに
『おお、出所したんやな、そろそろ出てくる頃やろうとは思ってたが俺と入れ違いになってしまったな、もうシャバは慣れたか?』

『はい。もう慣れました。といってもそんなに長い懲役じゃなかったんで仮釈貰ってちょうど1年ぐらいのものでしたから。』

『そしたら今、保護観察中やな、まあ今は大人しくしとった方が良いやろ、それが終わったら片山の兄貴の事、頼んどくぞ。』

『そのつもりで頑張ってます。達也さんも早く帰ってきて下さいよ。示談したら少しは罪も軽くなるんでしょ?』

『それが弁護士が言うには相手が示談に応じんらしいんや、今んとこ。まあ俺としては別に無理に示談にしなくてもいいんやけどな。』
『それとな、虎…』
『俺は出所しても桐竜組には戻らんかもしれんぞ。』

『えっ』

虎之介が面食らっていると片山が
『おい、ちょっと待て、その件で来たんや。』
『虎、ちょっと席外せ。先に出て車で待っててくれ。コイツと二人で話す事がある。』

と言われて虎之介もここにくる前から達也の事で何かあるんじゃないかとは思い多少の心の準備ができていた為
『分かりました。じゃあ達也さん、頑張って下さい。失礼します。』
と速やかに面会室を出て行く。

面会室から出て虎之介は何やら込み入った話があるとは聞いていたがまさか達也が組を抜ける様な話とは思わなかった為、驚きと戸惑いを覚えつつもとりあえずこの建物から出ようと思い足早に車を停めている駐車場の向かう事にした。


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